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NOSIRP  作者: まるっち
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今宵、満月の下

「ねぇ、お願いがあるの」

それは夜のこと

ルッツが仕事に出掛けようと共有スペースへ出て来た時だ

椅子に座っていたリゼットは、彼の姿を認めるとその前へ立ち塞がり

そんな事を言ってきたのだった

「何だよ、まだ俺の命狙ってんの?

レベルは低くても流石にそこまで馬鹿じゃないぜ」

リゼットには、出会ったその日に殺されかけている

彼女のどんなお願いも怪しく思えても仕方がない

「今日のお願いは特別なお願いよ

私のこと、信じられないのは仕方ないわ

でも…私一人じゃ無理なことなの

あなたはシーフでしょう?

鍵開けとか、トラップ看破のスキルはあるんじゃない?

どうか力を貸して欲しいの」

確かに、低レベルとは言え

ルッツはシーフ特有のスキルは持っている

墓場で暮らして居た頃は

様々な扉をこじ開け、故人の金品を持ち出し恋人に叱られたり

幾重にもはられたトラップを掻い潜り感心させたりした事はあった

「肝心の内容も分かんねーし

タダ働きなんてするわけ無いじゃん

つか、俺よりもずっと高レベルの人間が居るんだから

そっちに頼めばいいじゃん」

「ちゃんと報酬は用意してるわ

…私の大好きな人が酷い目にあってるの

だから、手を貸して欲しいの

あなたじゃないとダメなのよ」

瞳を潤ませ懇願するリゼットだがルッツは渋った

「いやいやいやww遠慮しとくわ

俺忙しいし、これから気前のいいスケベ探さないとだからさwww」

「一生のお願いよ

…ここでは話せないから

私の部屋に来て、話だけでも聞いて!

それでもダメなら諦めるわ!」

彼女は駄目押しに袖を掴み引っ張ってくる

その表情に、初めて会った日の余裕は無い

仕方なく「聞くだけだぜ」とリゼットの後に続こうとしたルッツの肩をジクスが掴んだ


「俺にも聞かせてくれるかな?」


穏やかな口調とは裏腹に、エメラルド色の眼光が鋭くリゼットを見据える

彼女は一瞬戸惑ったが、観念したようにうなづくと

2人を連れ自室への扉を開いたのだった

彼女の部屋は薄暗く不気味な重たい空気で満たされていた

棚には沢山の瓶詰めされたモンスターの一部や薬草

ベッドの上に置かれた数体の人形からは気のせいか気配すら感じる

更に、本棚に並んだ本は凡そその年齢の少女が読むような物には見えない高等魔術が並び

耳を澄ませるとそれらからヒソヒソ声が聞こえた

「私室に他人を入れるのは初めてだから、みんな驚いてるのよ

少し騒がしいけど、共有スペースよりもずっと秘密が守られる場所だから」

そう彼女が話すと部屋の中のザワつきがピタリと治った

「ジクスさんが来ちゃったのは想定外だったけど

遅かれ早かれ分かっちゃう事だから

…あのね、セシルさんが今、危険な状況にいるの

場所は森の中の大きな木の下にある小屋

報酬は特製の回復薬を用意してあるわ」

「セシル?あ、おっさん?

危険な状況って何だよ、どうしてそんな事知ってるんだ」

リゼットは彼女を無言で見つめるジクスを一瞥してから

目に涙を溜めて弱々しく答える

「少し特別な召喚をすると自分の分身みたいなのを造る事が出来るのだけど

小さなダニを造ってセシルさんに付けてたの

丁度、1時間前くらいにダニは絶命した

ダニは、彼の命が危険になった段階で

そこから10分前の周囲の映像と

彼の状態を私に伝えて絶命するように命令してあるの」

「ダニ死んだらその後の状況が分からねーじゃん」

「遠くにある状態で常に状況を受信するのにはかなりのコストが掛かるはずだよ

況してや、分身と言うのだから疲れも二倍だろうしね

だからこそ、本当に重要な情報だけを受け取るための命令なんじゃないかな」

「ジクスさんは物知りね

だからこそ急いでる

一生のお願いだから手を貸して!」

必死で訴えるリゼット

だが、ルッツにとっては一度命を狙って来た相手だ

見た目が華奢な少女でも「YES」の言葉は直ぐには出てこなかった

「俺でよれければセシルを助けに行っていいかな?」

リゼットの依頼に応じたのは

彼女の求めるルッツではなくジクスの方だった

勿論、誘いたい相手では無かったので彼女は戸惑った

「でも…」

「鍵開け、罠抜けは確かに出来ないね

だけど、俺にも出来ることはあると思うな

光魔法や補助役も必要じゃない?

ルッツも行くよね?」

ジクスが名乗りを上げたのだから

自身は行かなくてもいいと思ったルッツは、は?っと素っ頓狂な声を上げた


エルカトルの門をくぐり3人は危険な外へと足を踏み入れた

門番が少女の姿に慌てたのは一瞬で

ジクスの存在に気がつくと、ホッと胸を撫で下ろし持ち場へ戻って行く

その様子を見て

夜間の総レベル50以下のパーティー及び子供だけでの外出禁止命令を思い出したルッツ

自分以外に本当は誰を誘う気だったのかとふと疑問に思ったが

考えている間も無く、2人が道を外れて行くのを急いで追い掛けた

道を逸れると直ぐに魔物の気配が3人を囲む

「急がないといけないから無用な争いは避けよう」

首に下げたロザリオを握りしめ

ジクスが光魔法の呪文を詠唱した

すると、まばゆい光の玉が宙に出現し辺りを照らし出す

途端に照らし出された魔物達はギャッ!っと悲鳴をあげ

光の届かない遠くへと逃げて行った

「“祝福”はあくまで俺のレベル以下の魔物しか追い払わないから気を抜かないでね

それと、“祝福”が届かないと襲われるから離れないでね」

「ありがとう…こっちよ

セシルさんの所へ急ぎましょう」

「これ、俺必要?www」

何だか腑に落ちないルッツだが

モンスターの気配は遠のいただけで此方の様子を伺っているのが分かる

もう後戻りは出来ないと悟り

2人と光の玉から離れないように歩を進める

リゼットの先導の元、辿り着いたのは

事前に聞かされていた通りの巨木とその足元に家が建っていた

「あそこ…

あの中にセシルさんが捕まってる」

建物の目の前に広がる池を迂回し

玄関へたどり着くと、躊躇わずにノブを回した

が、ガチャガチャと音が立つだけで扉は開かない

「で、俺の出番ってわけ?」

ルッツはポケットから針金を何本か取り出し鍵穴を弄る

5分程かけいじり倒した所で、カチャリ…軽い音がして扉が開かれた

「流石だわ!あなたに頼んで正解ね

この中に居るはずなんだけど

…最後に送られてきた映像だと

薄暗くて湿っぽい、苔生した石壁が見える

灯…カンテラが揺れてる…

それと…これは木の根?蔓?」

「この建物は木で作られてるね

石壁だとすると、恐らく地下だろう

地下へ続く階段を探そうか」

ジクスはそう言いながら建物内へ足を踏み入れた

「あ、そこトラップだ!」

ルッツが言うが早いか

ジクスの踏み締めた板に魔法陣が浮かび上がり毒霧が発生した

慌ててリゼットとルッツは建物から離れる

「大変!どうしましょう!」

「俺は見破るだけだぜ

特に物理じゃないトラップには手が出せない」

暫く建物から離れ様子を見て居るとジクスが扉を開いた

毒霧も魔法陣も既に消えている

「ビックリしたね、もう大丈夫だよ

状態異常なら治せるけど、怪我はそう簡単にはいかないからね

ルッツ、ここから見てまだトラップの痕跡はありそう?」

言われたように外から建物内を覗き込む

板張りの廊下と幾つかの扉、棚が見える

「左奥の扉、棚、右の扉前の床

見える範囲ならその3つに違和感を感じる」

よし、とジクスは手当たり次第に解呪の祝福を授かる

「扉のトラップだけ手ごたえがないね

物理トラップは俺じゃ無理だよ」

やれやれとルッツは慎重に建物内へ足を踏み入れ

扉のトラップ解除にかかる

その間に、リゼットは棚を調べ始めた

「コカトリスの足、マンドラゴラの根、コレは…?何かの干からびた肉?

持主は居ないみたい、貰ってもいいよね」

彼女がアイテムをポケットにしまい込む間にトラップが解除され

各部屋の中もざっと見通し2人は解除と解呪に勤しんだ

とある、1つの壁に仕掛けられた魔法陣を解呪した際にジクスは違和感を覚えた

「魔法陣は取り除いたんだけど

何かおかしな感じがしない?」

「は?…物理トラップも掛けてあるじゃん

でも、罠って感じじゃ…」

違和感のある板を幾つか触る

すると、壁の真下の床がガコンッと音を立て外れた

「地下だ!」

「やったのね!」

木造の建物の床にポッカリと地下へと続く通路が現れた

数メートル奥の階段は既に闇に飲み込まれ中を伺い知ることは容易ではない

下からは血生臭いドロリとした空気が這い上がってくる

ジクスがここへ来るまでに使用したのと同じ光の玉を地下へと投げた

すると、ギャッ!と言う叫びと共に

黒い霧のような物がサッと晴れ地下への階段が露わになった

「純粋に明かりがなくて真っ暗って訳じゃ無かったみたいだね」

注意深く中を見渡し、彼が先導を切って下へと降りて行き、その後に2人も続く

階段の一番下には木製の扉があった

鍵がかかっていたがルッツが解錠する


「…よし、開いたぜ」


建て付けが悪いのか、扉は不気味な音を立てて開かれた

カンテラが天井から吊るされ

ぼんやりとした明かりが部屋の中を照らし出していた

苔生した石壁は湿り気を帯びてぬらぬらと光り

むせ返るような濃厚なカビ臭さと血生臭い空気が3人の肺に雪崩れ込む

そして、一番奥の壁に

茨の蔦に覆われ、ぐったりと項垂れるセシルの姿を見つけた


「セシルさん!」


悲鳴にも似た叫びを上げリゼットが駆け出す

その呼び掛けに反応し、ゆっくりと上げられたセシルの顔は邪悪な気配に満ちていた


殺気を帯びた赤い視線


2人が彼女を引き止めようと地下へ足を踏み込んだ瞬間

壁や地面、天井の四方から茨の蔦が3人に襲い掛かった

「ー!しまった!」

ルッツの錆びたダガーで防げるわけもなく、ジクスの祝福も間に合わない

瞬く間に3人の自由を奪い、首や胴体を締め上げ

そのまま締め潰そうと力を加えてくる

首を絞められ、パニックを起こしたルッツは首元の蔦を引き剥がそうと暴れる事しか出来ない

「…ぐ…我が…せ…霊の…ぅゔ…」

蔦に締め上げられ気絶したリゼットと暴れるだけのルッツを何とか助けようにも

首を絞められた事で詠唱もままならず

ジクスの意識も混濁し始めた


意識を手放しかけた時だ

全身にかけられていた圧力が途端に消え失せ

ジクスの体はその場に崩れた

「ここの自治体は草刈りをサボったようですよ

草刈り鎌を持ってくるべきでしたね!」

首を締めていた蔦が外れたとこでゲエゲエとえずくジクスの頭上から

聞いたことのない男の声が降って来た

「焼き払ってしまいましょうか」

更にもう1人分の声が降る

「市民を守るの事が最優先です

二人は救出を優先しなさい」

ジクスは3人目の男の声にハッと顔を上げた

「マ…ルクス…?」

騎士の装束に身を包んだ3人の男の中に

彼は、確かに聞き覚えのある声色と

姿を目の当たりにするだった

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