真打ち
「扉が消えた…!」
魔力の部屋に居たジクスが叫ぶ
扉どころか、窓まで消え
魔力の部屋は完全な密室となってしまった
「マジかw…まさか兄ちゃんが死んだとか?」
魔力の部屋は術者が死ぬと消えると聞いている
扉や窓が無くなったこの状態がどういう意味を持つのか分からないルッツは最悪な想像をした
「分からない…分からないけど
何かが起こってる…」
世界から切り離された空間であるため
エルコライルホルンが崩れた事は勿論
巨大な地震が起こったこと、高濃度の魔素が噴き出していることも、2人は知る由がなかった
「…いや、スクロール使えばノーシルプに戻れるはずw」
ルッツは試しに転移用のスクロールを開いたが反応しなかった
「閉じ込められた…?」
「あ、でも7日経てば俺ら強制送還されるだろ?w」
「それはノーシルプが無事ならの話だ
スクロールが機能しないは
使徒によって破壊されたからかも知れない…」
ジクスが暗い顔をした
「こんな所に居た」
急にルッツ達とは別の声が部屋に響き
2人は部屋の中を見渡した
ルッツの影が伸び、彼ではない別の人型を形作ると
それは立体的になり、1人の女になった
「使徒に邪魔されない国を作るんじゃ無かったの?」
「…お前…あの時の魔女か?」
魔力の部屋に急に現れた謎の女は、ルッツの前まで来ると見下ろした
「魔女…?魔女だって!?」
ジクスは魔女と呼ばれた女に対して剣を向けたが、女は動じず彼の存在自体を無視した
「そういえば、俺にいいものをくれるって言ってたじゃん
何も貰ってないんだけど?」
恐れを知らないルッツが、親しげに魔女に接するのにジクスは終始肝が冷えっぱなしである
「確かにお前にあげたよ」
魔女はそういうとスッと部屋の何の変哲ない壁に指を刺した
「ほら…おいき」
魔女が指差す壁に扉が現れ
彼女は怪しく笑うとその扉から外へ出て行ってしまった
「いや…!ルッツ危険だ!
相手は魔女だやめた方がいい!!」
魔女の作った扉から出て行こうとするルッツの腕をジクスが掴み首を振った
「けど、この部屋に閉じ込められたままってのも困るじゃん?w」
「それは…そうだけど…それに本当に外だったとしてもニゲラは?」
「ニゲラっつても一瞬で死ぬ事は流石に無いだろ?
ヤバかったら戻ってくるしwww
とにかく俺は行ってみるわw」
ルッツはジクスの忠告を聞かずに扉の外へ出る
外は真っ暗であった
そこは崩れたエルコライルホルンの付近ではなく、地面の割れ目から黒々とした魔素が噴き出す場所であった
「…え?…何k…ぐっ…!」
魔族にさえ影響を与えるほどの濃厚な魔素に晒された人間がマトモで居られるわけはない
ルッツはその場に膝を着き、瞬時に多種多様で強烈な症状に襲われた
(…あ…コレ本当にダメなやつかも…)
何とか魔力の部屋に戻ろうと顔を上げたが
今出てきた扉はもう何処にも無く
少し離れた所にあの魔女が不気味に微笑んで立っていた
「お前達の余興はなかなか面白かったよ
さぁ…始めよう、最高に狂った宴を」
ードクン、とルッツの心臓が弾けるように脈打った
喉の奥から迫り上がってくるモノを止められず、ルッツは体の中の物を全て吐き出す勢いで嘔吐した
いつかの時の様に、黒くドロドロとした物が
口から溢れて止まらない
ソレはルッツの身体の体積を越えても尚おさまらず
彼の身体は自分の吐き出した黒い液体に沈んでいった
「…何だあれは…」
魔素によりウェアウルフの特徴を隠しきれなくなったセシルが、使徒を斬りつけ地面に蹴り落とした時に
いつの間にか出来ている、真っ暗な池に気が付いた
しかもそれは、急速にどんどんと大きく広がっていく様にも見える
いつしか街一つを飲み込めそうな程広がったその黒い池は、奇妙に波打ち始め
生き物のようにうねり、盛り上がって巨大な黒い人形になった
「…はぁ!?使徒か!?魔族か!?」
この状況なので敵味方の判別がつかず、セシルが狼狽えていると
十数の使徒がソレに向かって飛び攻撃を仕掛けた
使徒の攻撃に人形のあちこちに穴が空いたが、その数秒後には穴は修復されて元通りになっていく
そして、それまで立ち尽くしていたソレが
急に使徒の群れに手を伸ばし何人か握った
握られた使徒は逃れるために
小さなパラフェトイに姿を変え手から這い出そうとしたが
次々と歪に膨れ上がり、どれも最後は破裂してしまった
その一連の様子を見て、セシルは巨大な黒い人形は少なくとも使徒の敵であると解釈した
この謎の敵の出現に使徒達は色めきだった
それまでモンロルナラを囲んでいた者も
マルクスにトドメを刺そうと襲いかかっていた者も、全ての使徒が一斉に飛び立ち
巨大な黒い人形に向かっていった
流石に使徒の群れに襲われてはひとたまりもないだろうと思われたが
全ての攻撃が一瞬で修復されてしまうので、どれだけ使徒が集まり攻撃してもびくともせず
更に、その人形に触れられた使徒は
その箇所を歪に膨らませ弾けて失ってしまう
何人か犠牲になって、無理だと悟ったのか
使徒は急に巨大な黒い人形から離れ
一斉に同じ方向へ向かって進み出した
「一体何処へ」
傷を治し戦線に復帰しようとしたマルクスは離れていく使徒を訝しげに目で追った
「逃げた…のでは?」
「いや、そんな筈は」
使徒の飛び去った方にはクリスタルレイの城下街がある
外壁は巨大地震と度重なるその余震により、ほぼ全て倒壊し
瓦礫の山と化した街の中に使徒達は降立ち、そして道路で無惨な姿で亡くなっていた人間の死体を取り込んだ
使徒達はそうやって次々に人間を取り込み、群体を増やし大きくなっていき
黒い人形も使徒を追ってゆっくりと城下街へ向けて歩き始めた
城下街の上にあった使徒が降りてきた巨大な積乱雲から
大きな蠢く白い塊が降りていくのが見えた
それはニゲラの夜の中にありながら
自ら眩く発光しているので、エルコライルホルンの上空に居たモンロルナラにも視認できた
「…あれは…」
「ポロニアだ」
しつこく追ってきていた使徒から解放されたアルバートが静かに言う
「ポロニアが勝つために、エドリック王のギフトを取り込みに行った」
王は特異点であると彼はいう
人間の特殊個体は通常1つの特異体質を持つものだが、王はそれを複数持ち
更にその能力も極めて稀なものであった
「王は人間でありながら魔素が効かない」
彼の身体はエーテルの様な働きをするのだという
更には取り込み分解した魔素は
王の体内で彼の力に変換され、彼に強力なバフを授けるのだという
「ポロニアが王を得たら、せっかく覆った戦局がまた此方側の不利に傾く
…止めないといけない」
「止める?どうやって?何か算段があるのか?」
「…無い、が俺はポロニアの場所を追跡できる」
そういうと、アルバートはニゲラの夜に光の筋を残しながら
真っ直ぐ城下街へ向けて羽ばたいた




