剥がれた化けの皮
「…ああ!うるせぇな!」
ダスカに潜伏していたセシルは、頭の中で繰り返される
マルクスからの呼び出しに吠えた
この声は無視すればする程、大きくなり
今では頭痛を伴うほどの爆音で聞こえていた
流石に絶えられなくなったセシルは、渋々スクロールを開く
「あ、おっさんw」
エルコライルホルンの魔力の部屋に飛ぶと
そこにはルッツとジクスが居て、セシルは変な顔をした
「…いや、お前は分かるが
何でソイツがここにいるんだ」
ジクスが居ることが腑に落ちないのだろう
訝しげに彼を睨んでセシルは唸り声を上げた
「ジクスも使徒を殺したいんだとw」
「…また…!お前はそうやって!
てか、あの使徒は何処に行った」
あの使徒とはアルバートの事を言っているのだろう
「アルバートなら外で兄ちゃん達と一緒に使徒と戦ってるぜw」
指差す方にある真っ黒な窓にセシルは眉を顰める
「…どうなってる…?」
状況が飲み込めないセシルに、ルッツはこれまでの経緯を掻い摘んで話した
最後まで話を聞いた彼は、難しい顔をした後
純エーテルのナイフを抜き、ドアノブに手を掛けた
「セシル…!外はニゲラが…!」
ジクスの制止も聞かず、セシルは外へ足を踏み出した
外の空気は酷く重い
水の中を進む時の様な妙な抵抗を空気に感じるのは
それだけ魔素が濃い証拠でもある
アルバートはエーテルの弾を生成しては、延々と使徒の群れに向けて放ち
モンロルナラは潤沢な魔素を用いて
仲間にバフを、敵にはデバフを掛けるサポートに徹している
魔族や魔獣の軍勢が使徒の群れへ果敢に攻撃をしかけ
セシルの主人であるマルクスは2匹の魔狼を引き連れて、使徒と空中戦を繰り広げていた
「…チ!アイツあんなところで…!」
悪態を吐いたセシルにモンロルナラが気が付く
「随分と遅かったな
眷属なら坊ちゃんのお役に立つのだ」
「…役に立てって…俺は鳥じゃ…おわっ!?」
セシルの身体が急に空中に浮かんだ
「お前に風の魔法を付与した
坊ちゃんの元へ行きお役目を果たせ!」
「…無茶苦茶言いやがって!」
その時だ
ードン!という爆発音と共に、突き上げるような激しい衝撃を受け
モンロルナラは立っていられずその場にしゃがみ込んだ
更に激しく地面が横に揺れる
「ーっ!地震か!?」
エルコライルホルンの山肌がボロボロと崩れ、土石流が発生する
危険を感じたモンロルナラもアルバートも空中に避難した
先ほどで自分達が居た、ヤギの寝床は崩れ去り
抉れたように山の下方へと流れて行った
「…おい!魔力の部屋が…!」
魔力の部屋の入り口があった岩肌ごと
滑るように崩れていった
セシルは中の2人を心配したが、モンロルナラは大丈夫だと言い切った
「アレは実際に岩の中に部屋を作ってる訳ではないからな」
それよりもと彼は指差す先では
地面の割れた所から更に濃い魔素が噴き出していた
「魔族は基本的に魔力あたりは起こさないが、濃すぎる魔素で正気を失うことはある
…気を付けたまえ」
地面から噴き出す魔素の直撃を受けた魔族や魔獣達は、身体能力が強化される一方で凶暴化した
それは使徒側も同じ事で、戦いはより野蛮で原始的なものと化す
「キタキタ!滾るぜ…!!」
まだ魔獣であったキースが濃厚な魔素を大量に摂取したことで、急速に魔族化が促進された
「キース…!危険だぞ!」
ヴィルヘルムはそんな彼に注意をするが
キースにはもう聞こえてはいなかった
正当な成長とは異なる方法である為か、唇から牙が突き出したり
鋭利な爪が本来生える場所以外から、皮膚を突き破り生えてきた
「ギャハハハハハ!!」
完全に暴走した彼は、目の前の使徒を切り裂き高笑いを上げる
「魔素に意識を奪われたか」
使徒の攻撃を弾き返し、マルクスは縦横無尽に暴れるキースを横目に見た
正気を失っていようが、使徒の撃破に役に立つのならよしとし
マルクスはそのまま目の前の使徒を純エーテルの切先で斬り割った
しかし、真っ二つになった使徒は
活動を止めるどころか2つに割れたまま、マルクスに襲いかかってきた
「ーっ!魔素か…!」
地震が起きる前はそれで動きを止められていたので、マルクスは油断していた
使徒の触手が腹部を抉る
「ご主人様!!」
エーテル属性の付かない攻撃ではあったが
腹部の半分以上を抉り取られた彼は、魔力の制御を誤り、地面へ吸い込まれるように落ちていった…
「俺の攻撃は近距離には向かないんだよな」
翼の化け物と化した、かつての仲間達に追われアルバートは空を逃げ惑う
距離を取りたいが、相手の数が多いせいで
それがままならなかった
モンロルナラもそんな彼をサポートしようとしたが、使徒に見つかり囲まれてしまう
「くっ…私は戦えないんだぞ…」
困り果てた彼は、自らに何重にも防御のバフを掛け凌ぐしかなかった
使徒は本来“パラフェトイ”と呼ばれる種の魔族であった
彼らパラフェトイは一個体が体長約15㎝程で白く細い形状をしている
彼らは単体では生存出来ず、必ず宿主を必要とし
魔族の間では忌み嫌われる者達であった
そんな彼らが、自分達の存在を肯定するために選んだ道が時の魔王への反逆
そして、自らが支配者になることによって
迫害を続けて来た他の魔族達を、逆に虐げる存在となったのだ
“使徒”に成って数百年…昨今のパラフェトイは一個体としての意思を殆ど持たない“群体”となり
1人の使徒を作り上げていた
その太古の記憶が、このニゲラの異常に濃い魔素によって呼び起こされ
使徒を“パラフェトイ”に戻したのである
「くそ!切っても潰してもキリがない!」
「燃やせ!燃やしつく…ぎゃあああ!!」
1人の使徒が何万匹にもなるパラフェトイの群体である
一個体は小さくとも数が多すぎるのだ
魔族の軍勢は使徒の攻撃に押され始めた
パラフェトイに飲まれた魔族は寄生され
使徒側の兵士として甦るので
迂闊に斬り込むことも出来ない
誰が敵で誰が味方なのか、分からなくなり戦場はぐちゃぐちゃになっている
そこへアークトゥルス率いる
メルザーガの一軍が到着した
「何だこれは…!どうなってる…!?」
魔族と得体の知れない蠢く白い塊が揉みくちゃになっている現場を見て、彼は唖然としたが
見える範囲で、セシルが蠢く白い塊を攻撃しているのと
モンロルナラやアルバートが同じ物に襲われているのを見て
敵が蠢く白い塊だと目測を付けた
「敵は白い方だ!攻撃開始!」
アークトゥルスの号令でギルタブを筆頭にツバメや猛禽類の猛攻が始まった
魔素は獣人である彼らに対して、身体に直接的な影響は与えないが
空気の抵抗が増すために飛行速度が落ちる
それでも速い者は使徒を翻弄するのには充分だった
メルザーガの参戦に戦局は魔族側に有利になるかと思いきや
依然としてパラフェトイの寄生力が勝り
魔族達は次々と体を乗っ取られ
戦いはどんどんと泥沼化していったのである…




