使徒討伐チーム
エルコライルホルンの中腹には
マルクスの言った通り、大規模ダンジョンがあった
ダンジョンというものは、基本的に冒険者ギルドによって
大きくなる前に潰されるものだが
時々こうして発見されず、もはや手をつけられない状態まで育ってしまうものがある
とはいえ、その手のダンジョンは人里離れた山深い場所などに存在する為
よほど人々の生活を脅かすような事もなかった
前衛にキース、ヴィルヘルム、セシル
中衛にマルクス、アークトゥルス、ギルタブ
後衛にルッツ、モンロルナラ、リゼットの陣形で進んで行く
前衛の2人は、まだ魔物止まりではあるが
元は魔族であったために見た目以上の戦力を誇った
加えて狼であることで索敵能力に非常に優れている
「この匂いはザコのマッドプリンだなー」
「ご主人様、5匹の群れです!」
キースは種族を言い当て、ヴィルヘルムが数を言い当てる
そしてセシルが敵を倒す
入ってから30層までは前衛の3人だけで事足りてしまった
「…あの3人とも兄ちゃんの眷属なんだよな?」
「坊ちゃんの正式な配下はヴィルヘルム
キースの本来の主人はベスベチュラです
あちらの半魔については知りませんが
此方で調伏したのでしょうな」
「へー?魔族って1人一匹犬を飼ってんの?
あんたの犬は?」
「あの2人の出生は少々特殊でして」
旧魔族は王族として魔族領に君臨する
彼らは使徒によりその数を管理されていて
勝手に増える事は許されていないのだという
そんな彼らは新しく生むことを許された子を大切に思うあまり
いつ頃からか、生まれてくる子の為に生涯の護衛を1人生み出すのだという
「我がアデモスは主に獣ベースの魔族を統治する国でして
代々主人に忠実である狼の子を一つの箱に複数匹いれましてな…」
そこに少しずつ魔素を流し込み
生き残った者を、更に共食いさせ
最後の一匹を生涯の護衛として側に置くという
「私の忠犬は随分昔に殉じました
キースは王に坊ちゃんを護るよう言いつけられているのです」
そこまで聞いて、キースのマルクスに対する何処か反抗的な態度に
なるほどなと納得がいった
「ーッチ!コイツやたら固ぇ!」
ダンジョンの奥から迫って来るブラックボーン(スケルトン)に
ナイフを弾かれたセシルが唸りを上げた
斬撃が基本のセシルにこの敵は不向きである
「任せろ」
動いたのはアークトゥルスだ
彼は素早く敵に近付くと、その鋭い鉤爪のついた巨大な足で頭を掴み砕いた
「すっごwww」
「獣人は魔法が一切使えませんが
その代わりにベース種の数倍の身体能力を有しますからな
魔法も通りにくいので敵にするとなかなかに厄介な相手ですよ」
そこからは中衛も戦闘に加勢し
67層までは余裕を持って辿り着いたが
ここまで来ると敵に魔獣が混ざり始める
69層でクエレブレというドラゴンが一行の前に立ちはだかった
弾丸をも通さない固い鱗に身を包むソレは、大きな翼を広げ一行を威嚇した
相手は魔獣であるので、キースとヴィルヘルムは後退する
セシルは試しに普段使い用のナイフで切り掛かったが、強靭な鱗に弾かれ
中衛のギルタブが飛び上がった
ツバメベースの彼はアークトゥルスよりもずっと小さい
だが彼の飛行能力は他のメルザーガを凌駕するものがある
水平飛行での速度はとても目で追えない程に素早いのだ
そんな彼は翼の先に小刀を仕込んでいて
相手の周囲を飛びながら刻んで行くのが本来の戦闘スタイルなのだが
今回はクエレブレを翻弄しターゲットを取ると
アークトゥルスがクエレブレに襲い掛かった
「ーっ!硬すぎる!」
鉤爪のついた大きな足で翼をへし折ろうとしたが、強健な鱗に阻まれてしまう
次にマルクスが詠唱を必要としないバフを味方の武器に施した
全員の武器が炎の特性を帯び、マルクスは剣で敵の喉元を斬りつける
しかし、それでも鱗に傷を付けただけに止まり攻撃が通らない
「熱かしら?」
その様子を見ていたリゼットは徐に魔法陣を描き始めた
「ほう、召喚魔法か」
モンロルナラは感心したように彼女のその様子を眺める
何度目かの斬撃を弾き返されたセシルは
普段使いしていたナイフをしまい
デリックにもらった純エーテルのナイフを引き抜いた
重いので攻撃の速度は落ちてしまうが
もしかしたらと思ったのだ
そんな中でクエレブレは絶えず繰り返される複数の攻撃に苛つき、口から炎を吐いた
「はは!キレてら」
キースが炎を交わしつつクエレブレの尾に噛み付く
「…出来たわ」
リゼットが魔法陣を完成させ詠唱で魔物を呼び出す
現れたのは炎の精霊サラマンダー
サラマンダーは彼女の指示に従い、クエレブレに炎の技を使った
腹部の熱せられた鱗の一部をマルクスは続けて氷の魔法を付与した剣で斬りつけた
ーバリン!
何枚かの鱗が割れ壊れ、地面に落ちる
露出した肌にすかさずヴィルヘルムとキースが噛み付いた
ギャアアア!!
クエレブレが悲鳴をあげ、怒りの咆哮を上げた
素早さが上がり、その一撃、一撃の破壊力が増す
そんな攻撃がアークトゥルスの翼を擦り
彼はバランスを崩して地面に墜落した
クエレブレはそれを好機と見てアークトゥルスを丸呑みしようと大口を開けて迫る
「アーク!」
ギルタブが彼を救おうと急行するが
アークトゥルスの巨大な体を持ち上げる力は彼にはない
「いけない!」
モンロルナラが咄嗟に口から音波のようなものを放つ
目に見えないそれは衝撃となり、クエレブレの体を波状に揺すり
それによって攻撃が外れ、アークトゥルスとギルタブの少し横をクエレブレの大きな顔が掠めて行った
そんなクエレブレの伸び切った首に
セシルは純エーテルのナイフを突き立てた
ズヌッ…!
と普通の刃物では感じたことのないような
不思議な手応えと共に刀身が
あれほど硬かった鱗を突き抜けズブズブと吸い込まれるように深く突き刺さり
傷口が溶けて血液とは違う黒い液体がドロリと溢れ出した
「…効くのか…!」
感心した次の瞬間、セシルは吹き飛ばされ
強かに身体を壁に打ち付けた
クエレブレからグァアァア!!と怒りの咆哮があがる
ここでルッツがすかさず、敵から盗み
マルクスは怒り狂ったクエレブレの鱗の剥がれた腹部に剣を突き立てた
・
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ピクリとも動かなくなったクエレブレの死体から
使えそうな素材をセシルは抜き取りマジックバッグにしまっていた
この戦いでの怪我はマルクスとモンロルナラが治療した
「思ったよりもいい線いったよな?w」
「…テメェ、マトモに戦ってたか?」
ヘラヘラと笑うルッツをセシルは睨みつけた
「課題が山積みですな」
クエレブレの死体を眺めるマルクスにモンロルナラは声をかける
「ええ、もう少し下へ進み
皆の能力や戦い方の癖を知る必要がある」
休憩もそこそこに
一行は次の階層に向かって進むのだった




