共同謀議
モンロルナラは旧魔族であり、ベスベチュラの弟にあたる
血縁的に畏れられがちだが、彼は兄とは違い非常に穏やかな魔族であった
「えーっと?この人が今討伐を叫ばれてる魔王の弟?マジで?w」
その日、使徒討伐を目論む者がエルコライルホルンの魔力の部屋で一堂に会した
そこで初めて彼を見たルッツが、面と向かっていうくらいに彼は強そうには見えなかった
白髪混じりのボサボサ頭と不健康そうな顔
目の下にはクマまであるその細身の中年は、誰がどう見ても弱者だろう
「ほら、坊ちゃん…私を戦力として期待されると困ります」
「戦闘要員として迎えた覚えはない」
困ったようなモンロルナラにマルクスは素っ気なく返す
「てか、旧魔族ってもっと見た目も魔族魔族してるもんじゃないの?w」
「この姿は借り物ですから…」
モンロルナラの姿はあくまでも人間領で活動する時の仮の姿だという
「…で、敢えてその格好なのか」
「かなり昔に飼っていた人間の姿を借りているだけです
私にとっては寵愛すべき存在だったので」
それがいつだったか思い出すのも難しいくらいに昔の話だ
違法に誘拐され闇市で食用として売られていた人間を
一斉摘発により一時的に保護する事があったという
その時に1人だけ人間領に帰りたくないと言った人間が彼の姿の元となった男で
病気で死んでしまうまで、大事に可愛がったのだとモンロルナラは思い出を懐かしみながら語った
「…てことは、実際はもっと強そうだって事か?」
「いえ、特には
彼は魔力の操作に長けていますが、戦闘となると素人です
ですので、冗談でも刺さないで下さい」
セシルはマルクスに釘を刺される
「それで、そちらは?」
ルッツが連れているのは、カノープスに紹介してもらったアークトゥルスと
その彼が気の置けない友人というツバメベースC型男性であった
「使徒討伐の志しを持つメルザーガの友人だぜw」
「宜しく頼む、それにしても…」
アークトゥルスはその場に居る者達を見渡した
「人間、魔族、そして獣人…手を取ることがないと思っていた種族同士が
こうして一つの目標に向かって協力し合えるとは」
「俺は仲間外れかい?」
拘束され椅子に座らされたアルバートが声を上げたが
マルクスに信用できないと言い放たれ、彼はしょぼくれた
今日までに集まった使徒討伐のメンバーは
マルクス、ルッツ、セシルの初期メンバーに
魔族の協力者としてキース、ヴィルヘルム、モンロルナラ
メルザーガのアークトゥルスにその友人ギルタブ
そして、リゼットの計9人が集まった
「おっさんが呼んだの?」
幼いリゼットが参加していいような話ではないだろうと思ったルッツは
まだ間に合うから帰した方がいいなんて忠告した
「…俺は誘ってねぇ、けどコイツは全部知ってて勝手について来た
…お前が考えてるよりも相当ヤバいぞこのガキ」
リゼットを訝しげに見ると、彼女はルッツにニコッと笑いかけた
「安心して、自分の面倒くらい自分で見られるのよ
今までもずっとそうして来たもの」
「坊ちゃん、これからどうなさいますか」
モンロルナラがマルクスに問う
使徒に立ち向かう為の人員と、使徒を殺す武器を手に入れた
次はこれらをどう活用していくかだが…
「もう時期にレプレイスがあるだろう」
部屋の隅に追いやられたアルバートが口を開いた
「使徒の降臨は予測できない
だが、この日だけは必ず使徒が特定の場所に現れる
しかも1つの都市に1人、それ以上で来ることはまず滅多にない
今度のレプレイス、クリスタルレイにはゼノタイムが来るはずだ」
使徒“ゼノタイム”は穏健派に分類される使徒である
魔族に慈悲はないが、人間に対してある程度融通がきくという
「そうだな…
お嬢さんかルッツ、どちらかがゼノタイムを誘き寄せる
後はそうだな…うまいこと魔力の部屋に入れるんだ」
いくらレプレイスで各地に使徒が散っているとはいえ
仲間を呼ばれてしまったら使徒を殺すどころか全滅は免れない
そうならないようにゼノタイムを世界から隔離したいとアルバートは言った
「…つまり、ここ入れられてなけりゃ
使徒を呼べるってことか?」
「まあ、そうなるな」
「ならば貴方がエルコライルホルンの山羊の寝床へ、仲間を1人呼べばいい
そうすればレプレイスを待つ必要もない」
マルクスの発言に、周りも確かにと賛同する
「いや…ダメだ、呼ぶと群勢が来る
1人を相手にするのだって無傷では済まない戦いだ
確実に殺されるぜ?」
使徒はポロニアという個体が支配者として君臨し
その下の大勢の対等な立場の使徒達は個々で意識共有はしておらず
全てが支配者ポロニアに集約されるように繋がっているのだという
“呼ぶ”という行為は、ポロニアに対する緊急信号であり
それを受けたポロニアが自分に繋がる全ての配下に伝令を出すので
世界中から使徒が集まって来てしまうのだとアルバートは首を振った
「だからレプレイスの時に、相手に罠だと気付かせないまま
魔力の部屋に誘い込む必要がある
誘い込む場所が魔力の部屋だとバレてもマズイってことだ…」
どうだい?出来そうか?なんてアルバートは笑った
魔力の部屋という物がそもそも魔族の術である
そんな物に自ら入ってくる使徒はいないだろう
「私の出番ですな」
モンロルナラが手を挙げた
マルクスの紹介通り、彼は魔力の緻密な操作が可能であり
自然の流れに限りなく寄せた魔力の流れを作りつつ部屋を作れるかもしれないと言った
「ただ、幾つか試作をしたいのと
リソースが…」
「魔力の供給は私が行う」
マルクスが彼の補助をするという事で使徒を閉じ込める箱は決まった
「使徒を誘うのは俺でいい?」
「私がやるわ」
リゼットが手を挙げる
「ルッツさん、あなた度胸はあるけど
言わなくていいこと言ったりするでしょ?
それに、私くらい小さな子供なら
警戒されにくいと思うわ
私、使徒ウケがいいみたいだし」
アークトゥルスとギルタブは、まだ子供である彼女を囮に使うことに異論を示したが
使徒と戦わせるよりマシだろと
セシルに言われて口を噤んだ
「無事に魔力の部屋に誘導したら後は殺すだけだが…
ゼノタイムは特にギフト持ちの人間を好んでいた
それだけ特殊な性質を多数持っているということだ」
「おい、何気に強敵じゃんね
はー、そんな奴を勧めてくるお前怪しいくないか?」
ずっと黙って座っていた黒い中型犬にまで成長したキースが悪態を吐く
「いや、ゼノタイムを分かりやすく言うなら
“立派な道具ばかり集めてろくに使いこなせない素人”だ
確かに奴が集めた特性は厄介だが
純粋な強さで見るなら、そんなに腕の立つ相手じゃないのさ
こっちが戦闘の手練れなら勝ち目はあると思うね」
そのためには、この寄せ集めのパーティーの息を合わせる必要があるだろうと言われ
互いに互いを見た
「…レプレイスまではまだ少し時間があります
皆で鍛錬を行うべきではないでしょうか」
白い中型犬のヴィルヘルムは
相変わらず真面目な男で、そう主人に進言する
「…そうだな
このエリコライルホルンの中腹に丁度ダンジョンがある
それを力を合わせて攻略してみるのは如何でしょうか」
マルクスの提案にセシル以外は賛成したのをみて、ルッツは思わず笑った
(もう足並み揃ってねぇしwww)
しかしそれでも
着いてきなさい、という主人の命令に抗えない不機嫌なセシルは
せめて態度だけでも否定を取り続けるのであった




