モンロルナラ
魔王城の自室に居たモンロルナラは、机の上に置いてあった本が1人でに開くのを見た
「…おお…!やっとか!」
彼は素早くその本の元に行き、白いページを見つめた
すると暫くしてから
真っさらなページに滲むように文字が浮き上がってきたのだ
[私は生きている、変わらずクリスタルレイの城下街に滞在している
魔族だとはバレてはいない
其方は今どうしている?
ジョージ・マルクス]
文字を読んだモンロルナラは大きく溜息を吐いた
彼がまだ生きていて安全だという事が何よりも重要だったからだ
「これでもう暫く兄を止めておける」
モンロルナラはペンを取り、余白に返事を書き始める
[王は貴方を心配している
貴方を取り戻す為に人間領に向かうかも知れない
早く魔王城に戻って来て欲しい]
ノーシルプの自室でこの返信を見たマルクスは眉を顰めた
[戻るに戻れない
呪いでスノームースから出られない]
マルクスからの返答にモンロルナラは頭を抱えた
これをこのまま伝えて魔王ベスベチュラが納得するとは到底思えない
むしろ、迎えに行くと人間領へ向かう可能性も大いにあり得る
頭痛のする頭に手を当て唸る彼の眼前の本のページがめくれ、更に文字が浮き出してくる
[私は使徒を討伐する、力を貸して欲しい]
「ー馬鹿な!!」
モンロルナラは思わず部屋で1人叫んでいた
「全くあの親子ときたら!
使徒討伐!?馬鹿も休み休み言え!」
机を叩く彼の目に文字は止まることなく
ツラツラと続く
[既に人間の協力者と共に使徒を一体捕まえ
奴らを殺す手段を見つけた
人手が欲しい、お前のような忠臣が必要だ]
「あぁ〜全くもう!!」
モンロルナラは頭をぐしゃぐしゃ掻きむしり苦悩の表情を浮かべた
そんな彼の脳裏をよぎるのは、まだマルクスが幼く魔王城にいた頃の記憶
思い出されたのは、幼く他の魔族よりも弱い彼が怪我をしないように後をついて回った日々だ
モンロルナラは自室の衣装棚を引っかき回し、他所行き用の服を着替えると
本を抱えて部屋を飛び出した
「イスタネラ!私はこれから坊ちゃんを迎えに行ってくる
ベスベチュラ様には「迎えは私でなければ嫌だ」と坊ちゃんが駄々をこねたとでも言っといてくれ!!」
「はぁ!?」
城内ですれ違った同じく旧魔族であり
ベスベチュラの血縁であるイスタネラにそんな事を頼むと
モンロルナラは城外へ飛び出し、そのままドラゴンハイブへ急いだ
ゼノビアには境界の谷を通らせたが
彼がそこを使わない理由はただ一つ
「ぅうむ暑い…!」
まるで階段でも登るように、何もない空間をどんどん上に駆けていく
そう、彼は自力で空中を進むことが出来るのだ
下で他の魔族達が降りてこいと騒ぐのが聞こえたが、そんなものは無視し
灼熱の縦穴を突き抜け、豪雨の中で穴に流れ落ち込む海を横目に雲に突っ込んだ
発達しすぎてスーパーセルとなった雲の中で、四方八方から雷に打たれながら
更に雲の中を突き進み白い巨塔のような雲の側面からボッと雲を巻き込みながら飛び出した
そしてそのまま今度は落ちるように海に飛び込む
ここで漸く彼は人型から姿を魚類に変えた
(最も速く泳げる肉体を…!)
極限まで無駄を無くした流線型の魚が流星の如く突き進んだ
・
・
・
エルカトルにあるクリスタルレイのボロボロになった外壁を見上る
時刻は既に真夜中であり、行き交う人々は居らず
見張りの騎士が数人、外壁の外周と門をパトロールしていた
モンロルナラはあぁ…と溜め息を漏らす
「最後に訪れたのはいつだったか…」
彼は遠い記憶に想いを馳せる
旧魔族である彼が人間領に来ることはあまりない
「そうだ、兄を迎えにきた時か」
40年ほど前に瀕死になったベスベチュラを迎えに来たのは彼だった
「…はぁ…血は争えないか」
陰鬱な気分になりながら
モンロルナラは人間の男の姿で門をくぐった
適当な場所で本を開き文字を書き入れる
[クリスタルレイ東側の庭で待つ]
パタンと本を閉じ、近くにあったベンチに腰を下ろしマルクスが来るまで休憩しようと彼は目を瞑った
「…何の用だ?」
彼の背後に忍び寄っていた人物に声を掛けると
相手はビクッと身体を跳ね後ずさる
返事がないので立ち上がり振り返ると
如何にもならず者といった風貌の男が、手には拳大の石を持って立っていた
「べ、別に…何でもねぇよ!」
「ほう…巷では石を集めるのが流行っているのか?」
そんな風に揶揄われ、カチンときた男は
何事かを怒鳴りながら石を振りかざし襲いかかってきた
「物盗りか」
モンロルナラは特に動じず、男の攻撃を冷静に避けた
「逃げるんじゃねぇ!!
テメェの有り金全部だしやがれ!!」
「…はあ」
面倒なので眠りの魔法でも使おうかと、モンロルナラが思ったところで
灯りが近付いてくるのに気付いた男は
チッ!と盛大な舌打ちをして反対側へ走って逃げて行った
「予想よりもずっと早い到着で感心した」
「…坊ちゃん」
カンテラを持ってやって来たのは、モンロルナラが捜していた
ジョージ・マルクスその人であった
彼はゼノビアを案内したのと同じ魔力の部屋にモンロルナラを通し、その対面に座る
「坊ちゃん、ご無事で何よりです」
最後に彼が訪れた頃よりも、城下街はずっと治安が悪くなっている
深夜といえど、座って数分で物盗りに遭遇するとはモンロルナラは思ってもいなかったので
ただただ、そんな場所で暮らしているマルクスの身を案じた
「半魔といえど人間如きに遅れはとらない」
「そうですが…私も王も心配なのです」
それで、とモンロルナラは続けた
「使徒討伐…あれは本気ですか?」
「ええ、使徒を根絶やしにしなければ
いつか彼らの気まぐれで我々が滅ぼされてしまう
どうせ滅ぼされるなら、抗ってからの方がいいとは思わないか?」
マルクスは殆ど表情がないが、冗談で言っているわけではないのは
モンロルナラには分かっていた
「気の迷いならよかったのだが…勝算は?
私は確かに旧魔族ではありますが、戦闘は…」
「全くないないわけではない」
マルクスは机の上に、ルッツとセシルが集めた純エーテル入りの瓶を置いた
「これで使徒を殺す」
それを見せられた時
数100年止まっていた世界が動くと
モンロルナラは確信した




