アルバート
「おや…飯の時間か?」
魔力の部屋に飛ぶと椅子に縛り付けられたアルファウラが惚けたようにいう
「いやいやwこの期に及んで人間を食べようって思ってるのか?www」
「ハハ!違う違う…
けど身体の維持には何かしら食べないと」
「使徒も飯食うんだ?w」
ルッツは持っていた飴をとりあえずアルバートの口に入れてあげた
「てか、なんか怪我してね?」
「ああちょっとね」
よく見ればアルファウラの身体にはアザが増えていた
ここに来られるのは3人だけ
何があったかは聞くまでもない
ルッツは少し嫌な気分になりながらも、セシルとバイロンを紹介した
「…」
セシルは椅子に縛り付けられた哀れな男を見て目を細くし
「使徒よ、貴様の魔術を見せろ」
一方でバイロンは少しも気にした様子もなく、自身の要求をした
「…バイロン・マルクスだな
あんたの事は知ってるよ、ラディウスが欲していた男だ
俺の魔法を見せても良いが、悪いね
このままでは何も出来ないんだ」
それは暗に“拘束を解け”と言っているのだろう
「原始魔術には何の前振りも必要ないはずだが」
バイロンがぴしゃりと言うと
アルファウラは一度首を大きく項垂れ、そして笑い声を上げた
「…ハッハッハ!!その通りだ
半魔の子よりも、人間のあんたの方がよっぽど操りにくいなんてな
ハッキリいうよ、拘束を解いてほしい
もう何日もこの状態で身体が痛い
人間の肉体が崩壊したら死んでしまう」
「解いてやれ」
バイロンに言われ、ルッツはセシルを見た
「…危険はないのか?」
「前解いた時は何もされなかったぜ?」
それに対してアルファウラはこんな補足をつけた
「この魔力の部屋を作った坊やはよっぽど俺を恐れてるらしい
俺がここを出ようとしたり
誰かの命を奪うようなことがあれば
魔力の部屋自体が消滅するように作ってあるみたいだぜ」
つまるところ、アルファウラが変な気を起こせば
彼は部屋ごと消されるという訳である
「…信じるか?」
「内容までは分からんが、この空間に制約が掛けられているのは事実だ」
バイロンのお墨付きが出たので
ルッツは再びアルファウラの拘束を解いた
「助かった、ありがとな」
立ち上がり大きく伸びをした彼は、本当に数日椅子に座りっぱなしだったのか
簡単なストレッチを始めた
「俺が真人間じゃなくて良かった
足が腐るかと思ったよ
俺が死んだら困るなら、もうほんの少し優しくしてくれるように
坊やに言っておいてくれないかい?」
「そんなことより、貴様は空間からエーテルを集められると聞いたが」
アルファウラの健康などどうでも良いバイロンらしい返しだ
フッと笑ったアルファウラは近くにいたルッツにだけ聞こえる小さな声で
「融通の効かない親子だな…」
という言葉を聞いてハテナを頭の中に浮かべた
「可能だが、それがどうした?」
「見せろ」
アルファウラは肩をすくめてから右手を手のひらを上に向けた状態にする
すると、前と同じように手のひらに黄金の弾丸が現れた
「…どうぞ?」
差し出された弾丸を受け取ったバイロンはそれを繁々と眺めた
「あ、そっか!別に俺らが駆けずり回ってエーテルの材料とか集める必要ないじゃんw」
「…何?」
ルッツは何か思いついたのか、そんな独り言を漏らす
「それで、何か分かったか?」
「少しな」
バイロンが渡された黄金の弾丸を右手に握りしめ、数秒後に手を開いて見せた
手の上に確かにあったはずの弾丸は跡形もなく消えていた
これにアルファウラは少し驚いたように目を見開き、そして不敵に笑う
「人間の身分で原始魔法を使えるのか
みんなが欲しがる訳だ…
分解出来たんだから、ある程度の構成は掴んだんだろう?」
「まだだ、足りない」
完全に2人の会話に置いてけぼりになったセシルはルッツのさっきの独り言について聞いた
「いやだって目の前に“無”からエーテル作れる奴がいるじゃんねwww」
楽しくなったのか、アルファウラはバイロンが求めるままに
彼が見ている前でエーテルを含んだ弾丸を生成していく
バイロンも目を爛々と輝かせ、一瞬たりともそれを見逃さないようにと
食い入るように彼の魔法に魅入っている
「…いや、お前バカか
奴が自ら仲間を殺すための道具を作る協力なんかする訳ねぇだろ」
「そう?w
“アルバート”は自分の事を使徒だとはあまり思って無さそうだぜ?」
「…酷く小さい…このパターンは…」
「見えてきたか?」
「いや…聞こえる…!」
バイロンが手のひらの上に弾を生成した
それは歪で均一な金ではないが
確かに“ナニカ”は再生することに成功した
「おお!すごいな!
それが出来る人間が居るなんて!」
何故か拍手をして喜ぶアルファウラ
バイロンは、ニッと口角だけを釣り上げ
手のひらのソレを取り落として、その場にしゃがみ込んだ
「…ジジイ!?テメェ何した!!」
セシルはアルファウラがバイロンに何かしたのかと掴み掛かり
鋭い犬歯を剥き出しにして吠えた
「オイオイ…俺は何もしてない」
「…ただの魔力切れだ」
バイロンが肩で呼吸しながらゆっくりと立ち上がるので
ルッツは慌てて彼の身体を支えようとしたが、その必要はないと振り払われた
「なんだよw可愛くねーの」
ルッツを無視し、バイロンは自分が作った歪な弾を見る
「だいぶ分かってきたがまだ浅いな」
「あんた面白いよ
俺が人間の心を持ってなかったら
間違いなく襲ってたんじゃないかな」
アルファウラなりの冗談らしいが、笑えない
「コストが高すぎる
魔力も切れた…今日はこれ以上追及はできないない」
「魔力回復のポーション飲んだら?」
「アレはそうそう飲むものじゃない
如何に私でも使い過ぎれば体調に異変をきたす」
バイロンはそう言い部屋の椅子に座った
「…てことらしいからさ
アルバート、エーテル作ってくんない?w
俺ら結構頑張ってあの手この手でエーテルを手に入れようとしてんだけど
使徒を殺すほどのエーテルってなかなか集まんなくてさー」
「…お前!何でいつもそう考えなしにそのまま言うんだよ!?」
ルッツの要求にアルファウラはお腹を抱えて笑った
「ハハハ!!…本当にその通りだ!
俺にそれをそのまま頼むなんて!
けどまぁ…」
ふう…と大きく溜息を吐いて笑いを止め、涙を拭ったアルファウラは
狼の瞳でルッツをまっすぐに見つめた
「“アルバート”はお前に協力したくなったみたいだぜ」




