エルフの魔術とドワーフの技術
エルカトルに迫る、冬の寒さに黄色く変化した背の高い草が生い茂る草原の中をゼノビアは歩いていた
「この方角で合ってると思うんだけどね」
いつもとは違うルートからの人間領入りのせいで若干迷子になりつつも
何とかノルウォギガスからエルカトルまでは来ていた
「それにしても歩きにくいねぇ…!」
ゼノビアは糸を出しそれを左右に薙ぐ
すると彼女の前方に生えていた草がかなりの広範囲で薙ぎ倒された
視界が開けたことで、潜んでいた小動物や小さな魔物が慌てて逃げ出していく
「一体この草っ原は何処まで続いてるんだい!?」
ゼノビアの糸が届かなかった場所には
草が壁のように佇んでいるのだ
うんざりした彼女は休憩を取ろうと思いその場に寝転がった
秋の空が眼前に広がる
「…街に着いたら何か美味いものを食べてから、だね」
ゼノビアはそのままうたた寝を始めたのだった
◆
スクフェアの町からクリスタルレイ城下街へ向かう馬車を捕まえ
乗り込んだ3人は、来た時と同じ様に馬車に揺られながら
長い道程を進むことになる
「それで、モリオンにアダマントを集めて
エーテルでも抽出するつもりなのか?」
スクフェアで買ったサンドイッチを頬張りながら、デリックはセシルに聞いた
「…そうだな、お前もこの石ころから純エーテルを取ったのか?」
「そうだが…何だ、あまり分かってない感じなのか」
少しガッカリしたようにデリックはため息を吐いた
「…お前こそ、あんなよく分からない術式やら呪文を扱えたんだな」
「何のことだ?」
セシルやルッツは、バイロンのエーテル抽出が全てだと思っているが
デリックは魔術なんて使えないと言い切った
「ハーウェーはあんたらハイフロリアみたいに魔力適正は高くない
そりゃ個人差だってあるし、呪文を覚えて勉強すればある程度は使えるだろうが…
基本的に魔力値が低いからポーションを頻繁に飲むハメになるだろうよ」
「じゃあどうやんの?w」
もしかしたら自分でもやれるのでは?
なんて淡い期待を持ちつつ、ルッツは問う
「いや簡単じゃないぞ、それなりの知識と技術、それに根気が必要だ」
先ず原材料を粉々に砕く所から始まるという
この工程では、モリオンを使った場合にはそれほど困ることはないらしいが
アダマントを使うとなるとかなり骨が折れる
「アダマントは非常に硬い金属だ
こいつを粉末にするなんて、ゾッとする」
とにかく材料をどんな方法でもいいので粉末にしてから
木炭粉と混ぜ合わせ、少なくとも5時間は熱するのだという
「不思議なことにここで粉の色が変わる
この工程で火入れが甘かったり
均一に火が入ってないとエーテルの品質が明らかに落ちる」
そうして出来上がった粉末を一度冷却し、更に蒸気で均一に蒸煮する
それを圧搾機にかけ圧力を加えることで
漸くエーテルの原液が取れるという
「その後は濾過、沈殿に分離を行って
やっと純エーテルと呼べる代物になるわけだ」
因みに完成まで早くても4日は必要だという
「案外出来そうじゃね?www」
「ならやってみたらいい」
そもそも、均一に蒸煮する為の器具や圧搾機などの機器をルッツが持っている筈もなく…
「…ジジイの魔術的な抽出よりは現実味はあるが、こっちもハードル高いな」
「まあ、魔力値とかそういうのを気にしなくても道具と手順さえ間違えなければ
品質はともかく、よっぽどやれるだろうな」
純エーテルの生成難易度が高いのが分かったルッツは話題を切り替えていく
「ドワーフだっけ?
それって結局どんな奴らなんだ?」
「どんな奴らって言われても…
俺だって伝承でしか知らない」
デリックの知る伝承でのドワーフという種族はエルフ、オークと同じ亜人であり
背が低く日の光を嫌い地中に町を作るのだと伝えられている
彼らは非常に高度な鍛治や工芸技術を持っていて、その技術の一部をアビスの国周辺に住むハーウェー達が受け継いでいると言われている
「さっきも言ったようにあんたらのいう魔法は得意じゃない
だが全く扱ってない訳でもない
俺の故郷で魔法ってのは、呪文や魔法陣を駆使して作用させるのではなく
物に書き込んで道具に特別な力を持たせるものを言う」
デリックは自分の武器である小型の銃を取り出し見せた
その銃身やグリップに刻み込まれた模様は
バイロンが術式に使う言語とは違っているが、効果は似たような物で
要するに道具への魔法付与であった
「刻む模様は色々あるが、重要なのは道具の製品としてのレベルだ
使われた素材や素材自体のレアリティ
後は制作した奴の腕だな
どんなに良い材料を使っても、銃身が微妙に曲がってたら使い物にならないだろ?」
「…この銃は?自分で作ったんだろ?」
「自慢じゃないが、ランクSはかたいぜ」
「えwなら俺の武器作ってよw」
「あんたが幾ら出せるかによるな」
ルッツからはしっかり料金を取る意思を見せるデリックに
セシルは何だか複雑な気分になった
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「ほう、案外早かったな」
リビングの机の上に10キロはありそうな
モリオンの入った麻袋とアダマントを見て
バイロンは感心したように言った
「…これでどのくらい取れる?」
「純エーテルとなると材料の重量に対して3分の1程度になる」
「少なwww」
取れる量の少なさに思わずルッツはツッコミを入れてしまう
しかし、そう考えれば
店で買った時の値段も何となく納得のいくものになった
「人間はこんなに大変なのに
使徒は呪文もなしに一瞬で集められるの草生えるなwww」
取ってきたアダマントを指でつつき
文句を垂れる彼の言葉に、バイロンは反応した
「原始魔法か…扱えないことも無いが
アレを研究するのは骨が折れる」
そういうバイロンに対して、目の前の2人が理解していないような惚けた顔をしたので
何かスイッチが入ったように
バイロンはペラペラと語り始めた
「まず、魔法…魔術は原始魔法と古代魔法に分類出来る」
原始魔法とは主に魔族が使う詠唱を必要としない類の魔術であり
体内にある魔力を放出して発現させる
魔物達が火を吹いたり、居るだけで温度が変わったりするのはこの原始魔法の所為なのだという
そして、古代魔法
こちらは古代エルフが発明した魔術であり
今日人間が扱う魔法の源流となっているものである
古代魔法は自分の中の魔力を消費し、自然界の魔素に干渉することで大きな魔法へと変える技である
「原始魔法は魔力値の低い人間には不向きだ
常人なら体内の魔力が一瞬で枯渇する」
「マジかwてか古代魔法?
自分の魔力消費無しで使えねーの?www」
「お前は火種も衝撃も与えずに爆弾を爆発させることができるのか?」
バカな質問はするなというバイロンの前に
使い魔の男が入れたてのハーブティーを置いた
「…ジジイ、お前は扱えないことは無いって言ったよな
原始魔法がやれるってことだよな」
「幾ら私と言えど、コストが嵩み過ぎるので魔力切れの原因となる
扱う術にもよるが、打てて5発だ」
「…その研究は、扱える奴が目の前に居れば簡単に進むのか?」
「無いよりはマシだ」
「ちょwもしかしてw
会わそうとしてる?www」
ルッツの想像通り、セシルはバイロンに捕らえた使徒に会わせてやると言い放った
バイロンとしては、魔法を研究するのにまたとないチャンスだと
立ち上がり今すぐに案内するようにと言い出した
「いいのかよw
あの兄ちゃんに断りもなく勝手なことして〆られるんじゃね?www」
「…誰かを会わせちゃいけないなんて指示は受けてねぇ
テメェの落ち度だろ」
セシルは鼻で笑う
バイロンは机の上のモリオンの袋とアダマントを抽出機にセットしてから
コートを羽織り、使い魔に抽出機を任せた
「…じゃ、行くぞ」
マルクスから渡されているスクロールを開き、3人は使徒アルファウラを閉じ込めた
魔力の部屋に飛んだのだった




