森の戦士
地鳴りのような音も止まり、ルッツ達はその音源が何処だったか分からなくなり立ち止まった
「あっちの方だよな?」
「…知らねぇよ」
闇雲に歩いていい場所でも無いので元の場所に戻ろうとデリックが進言したが
急にセシルがシッと人差し指を立てて耳をすました
「…足音がする…こっちに来るぞ」
こんな火山洞の深く危険な場所に、自分達も含め
まともな人間は居ないと思った3人は、曲がり角に身を潜めた
足音はどんどんと近づいてきて、その主達の姿がようやく視認出来るようになった
その人物達の姿を見たルッツは息を呑んだ
筋骨隆々の2mはありそうな屈強な肉体
エルフほど長くはないが尖った耳
額や顔に何本か角を生やし、鼻は潰れて大きく
受け口の下側の犬歯は大きく露出している
そして何よりも、肌が黄色から緑、また青味がかった色をしていたのだ
セシルはこれを見て魔族だと思った
マルクスは殺せなかったが、目の前の4人の男達なら殺せるかも知れないと
エーテルのナイフを取り出す
ルッツも親しみを感じさせない見た目の彼らに
見つかりませんようになんて祈っていた
1人だけ反応が違ったのはデリックだ
「…アレは森の戦士だ…どうしてこんな所に」
まるで彼らは敵ではないと言った様子で、なんと出て行ってしまった
「…バカ!」
きっと次の瞬間にはデリックは八つ裂きにされる
そんな未来を頭の中で考え、セシルも慌てて飛び出した
しかし、想像した最悪な結果は杞憂に終わる
それどころかデリックは聞いた事の無い言語で4人の男達と会話をしているのだ
「…お、おい!!
デリック!!そいつら…!」
「ん?ああ悪いな、敵じゃない
オークの言葉を勉強しといて助かった」
「オーク?」
最後に出てきたルッツが不思議そうに彼らを見上げた
するとその内の1人がガハハと笑う
「我々の言語を使う人間に出会うとは思わなかった
この国の人間はそっちの子供の様な反応をするか、攻撃をしてくるからな!」
「あんたら人間の言葉が話せるのか」
「如何にも、ボタンを押したのはお前達だろう?
そして、我々の言葉を使うという事は同士だ!歓迎しよう…!」
訳もわからないまま、ルッツとセシルはオークと呼ばれた4人の男達に火山洞の奥へと案内された
「この山はオリハルコンがよく採れる
我々はそれを故郷へ運ぶためにここに住んでいる」
「ああ、あんたら出稼ぎか
質のいい鉱石をいつも融通してもらってっいたから分かるよ」
当たり前のように会話をするデリックを見たセシルは、彼の背中をツンツンと突いた
「…何なんだそいつら
…魔族じゃねぇのか?」
セシルの問いにデリックはハハ!っと笑い声を上げた
「そういえば、こっちの大陸ではオークに会うのは初めてだな
彼らは人間の一種だ
まあ、エルフの親戚みたいなもんだな」
デリックの故郷では行くところに行けば普通に会える人達であり
魔力の扱いに長けるエルフとは対照的に、肉体に恵まれていてる彼らを
アビス人は“森の戦士”と呼んでいるのだという
「オークはいいぞ、実直で嘘をつかない
取り引き一つとっても悪い気分になった事は今までで一度もない
こちらがちゃんと礼儀を弁えて接していれば
同じ目線で対応してくれるからな」
だから俺は好きなんだとオークに言うと
彼らも笑って「アビス人は大好きだ」と返してきた
「あのボタンって何なの?w」
友好的だと分かるといきなり距離感がバグるルッツが、オークの1人に聞く
「アレは呼び鈴だ
仲間が鉱石を受け取りに来て、我々が見当たらない時などに鳴らすのだ」
「じゃ、地鳴りは?」
「それは恐らく、ここから出てくる時に門を開いた音だな」
そう言い、オーク達は力を合わせて大きな岩石を引き摺るように動かした
ゴゴゴゴ…と音をたてるそれに
なるほどなとルッツは変に関心する
彼らが退かした岩の向こう側は、部屋になっていた
オークサイズの机と椅子なので、ルッツやデリックには少し大きい
「くつろいでくれ」
彼らは木をくり抜いて作られたコップに水を注ぎ3人に出してきたが
有毒ガスがあちこちに発生している火山洞の中で、ガスマスクを外す訳にはいかない
気持ちだけで充分だと伝えたが
するとオークはこの中は安全であると言った
「確かに我々は強い身体を持っているが
穴の中の淀んだ空気は身体に良くない
なので魔道具を使って空気を浄化している」
「…マジじゃんwww」
ルッツは何の疑いも持たずにガスマスクを取ったのを見て
デリックは面食らった
「いや、実直なんだろ?w
なら大丈夫だってwww」
「そ、それは…そうだが、明らかに彼らと俺たちは違うだろ」
大丈夫ならと全員がガスマスクを外す
そして、オーク達はルッツ達の目的を聞いた
「…モリオンとアダマントを探しに来た」
オーク達は顔を見合わせる
「アダマントはともかく、モリオンなら売れない物が沢山ある」
1人のオークがチェストから麻袋を引っ張り出し机に置いた
袋の口からザラっと溢れるモリオン(黒水晶)
それらはヒビが入っていたり、異物が混入していて真っ黒ではなかったり
サイズが小さかったりと、装飾品の加工に向かないB級品である
「すごっwこれ捨てるの?
捨てるんなら欲しいんだけど?www」
「やってもいいが代わりに少し手伝ってくれないか」
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オーク達が手伝って欲しいこと
それはこの火山洞の更に奥にある扉を開いて欲しいという事だった
「…扉?お前らが作ったんじゃないのか」
「違う、あれはドワーフの仕掛け扉だ
力尽くでどうにかなるものではない
人間ならきっと開けられる」
案内された場所は少し開けた空間で、そこに降って湧いたような
金属製の複雑怪奇な扉が佇んでいた
「ドワーフって?」
「ドワーフも人間の一種だが、俺も見たことが無い
絶滅したんじゃないかと言われてさえいる
けどまあ、俺の扱う銃や技術は元を辿れば彼らが起源だと言われているな」
そう言いながらデリックはその扉に近付いて、仕掛けを弄り始めた
「おっさんの罠もそう?w」
「ああ」
2人がかりで扉の解析にあたり、セシルやオークが見守る中
かなりの時間をかけて解錠に成功した
中は火山洞だが、異様に寒い洞窟であった
「素晴らしい!あの石はお前達の物だ!」
「しかし寒い…今のままではこの先には進めそうにない」
一先ず扉の先に進むのはまた後日という事らしく、タイムリミットも近付いていた3人はここで切り上げることになる
オーク達が地上まで送ってくれたので、魔物との戦闘はかなり楽だった
「またな!同士よ!」
「ああ、助かったよ」
火山洞の前で手を振るオーク達に見送られ3人は下山した




