取り替えの真相
錬金術の素材を買い取ってくれていた
ハイドの錬金術師の店に来たルッツは、レジの男に“エーテル”について聞く
「エーテル?錬金術でも始める気か?」
そんな風に言いながら男は彼に待つようにいい
一度奥に引っ込んでから
金属製の箱を持って戻って来た
それをカウンターに置くと、中から幾つか瓶を取り出して見せる
「100gで100エルク」
エーテルの100gは約50ccだ
小瓶の中に入った金属光沢のある灰白色の液体をルッツは眺める
アルファウラの金の弾丸に含まれていたエーテルの量がどれ程のものかは分からないが
これだけで使徒を殺せるとは流石に思えない
量からみて値段的にかなり高価であり
これが大量に必要となると購入は現実的ではないと彼は考えた
それでも1瓶購入してノーシルプに戻ると、共用スペースにはセシルがいた
「…兄ちゃんは?」
「…あ?…アイツなら兵舎に行ったんじゃねぇか?」
「ふーん、まあいいか
これエーテル買ってきたんだけど」
ルッツはマジックバックから購入した小瓶を取り出してセシルの目の前に置いた
「…本気で買って来たのか」
少し驚いたように言った後、彼はそれを手に取り眺める
「…なるほどな…」
デリックから見せられた純エーテルよりも色が薄くザラザラとした印象を受け
そして純エーテルよりもかなり軽かった
“お察しレベル”とはこう言うことなのだなと
1人で納得したセシルは小瓶をルッツへ返す
「どのくらいあればいいと思う?」
「…全く足りてねぇだろうな」
純エーテルを硬化したナイフは実は驚くほど重い
通常200gいかない武器が、これ一本で1kはあるのではないかと思うような重さだ
そのナイフで突き刺してマルクスにあの程度のダメージしか与えられなかったのだから
殺そうと思うならとんでもない量が必要になると想像できる
「…もっと純度の高いエーテルを大量に
しかも使いやすい形にしないなら全く使い物にならないだろうな」
「純度?てかこれでも100エルクすんだぜ?w
破産するってwww」
「…はぁ!?そんなにすんのか!?」
これには思わずセシルも声を上げた
初め見返りを求めずに純エーテル製のナイフを渡して来たデリックの気前の良さに驚くのと同時に
護衛なんかで足りるのかと彼の中の良心の呵責に苛まれる
「…そうだ、魔術師が扱うならジジイもやれんじゃねぇか?」
「ジジイ?」
・
・
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セシルとルッツはバイロンの隠れ家を訪ねた
ややあってから使い魔の青年に中へ通され
実験室で複雑な器具に囲まれ
何かの魔力触媒の反応を記録していたバイロンの元へ連れて行かれた
「…おいジジイ、大量の純エーテルが欲しい」
セシルは単刀直入に言う
が、バイロンは彼の事など気付いて居ないかのように目の前の事象に夢中になっている
「…チッ…おいクソジジイ!」
「あー…気を引くような事を言うのがいいんだったっけ?
なあ爺さん、使徒を殺しに行きたいんだけどw」
「オイ!!何言ってんだ!!」
使徒の殺害など、軽々しく口にしていい話ではない
それだけで反逆罪として死刑に処される危険な話である
それ故にセシルはルッツの軽率な発言に嫌な汗をかいた
バイロンが次にどういう行動に出るのか分からず、セシルは逃げられるように身構えたが
彼は静かに器具へ流していた魔力の流れを止めるとルッツを見た
「ほう面白い、どう殺すのだ」
ルッツからアルファウラから得た情報を
聞かされたバイロンは少し考えてからこんな事を話し始めた
「使徒の遺体を見たことがある」
まだバイロンが20歳にもならない頃のこと
フィールドワークから戻った彼のクリスタルレイの私室の前にソレはあったという
「私の私室へ来るような物好きは居なかったので、ソレを部屋に入れて解剖した」
使徒の遺体という存在が、政治的にもどれほど危険なものかを知りながらも
バイロンはその知識欲を抑えることができず
夢中になってその身体の隅々を調べたのだという
「結果として使徒は魔族となんら変わらない」
体内構造も魔族のそれと変わらなかったと断言し、更にバイロンは魔王の側近に聞いた話だがと続けた
「アデモスの魔王が私を召し上げようとした使徒を殺したらしい」
その時、旧魔族が語った話では
使徒という者達は元々“寄生型”の魔族の一種であり
当時の時の魔王の統治に不満を持った彼らが
人間を唆し行った反乱が“レプレイス”なのだという
そして、彼らは思惑通り
魔王を玉座から引きずり下ろし、人間の独占に成功した
「連中は“召し上げる”という捕食行動で
これまで高品質の人間から能力を吸い上げ蓄積しているのだと聞いている
アレの言っている事が本当だとしたら
最早使徒を殺すのは、魔王を討伐するよりも困難なことかも知れん」
「ちょ、ちょっと待てよw
使徒が魔族って…流石に飛躍し過ぎじゃね?w」
よく似た性質の別の生き物ではないのかと
ルッツは言いたいのだろうが
バイロンは冷めた表情で静かに言った
「慈愛に満ちた聖職者も、残忍で冷酷な殺人鬼も、どちらも同じ人間であろう?」
魔素を駆使する同じ生物がただ二つの概念に分かれているだけということだろう
「…そうなると、レプレイスの伝説を
有り難がって読めなくなるな」
人間の世界で信じられている“レプレイス”では
魔王による恐怖の支配を終わらせるべく
立ち上がった勇者達に、立ち向かえるだけの力を授けたのが使徒だとして
崇め奉らねばならない高貴な存在として語られている
「それで、使徒を殺すために純エーテルが欲しいのだったな」
バイロンは立ち上がり
別の器具の前へと移動した
レアメタルや特殊なガラスなどが使われたその見るからに高そうな器具の複雑な魔法陣が描かれた台座に
レアリティの高くない素材を乗せ彼は魔力を流す為に短く詠唱した
術式の発動に合わせ器具は動作し、幾つかの透明なガラス管やフラスコ濾過器を経て
一番端の小瓶の中に、液体が一滴滴り落ちた
「エーテルってこうやって採るんだ?」
ルッツがよく見ようと少し近づくと、バイロンが触るなと声を荒げた
「装置の設置場所や角度、管や部品の配置から何から何まで計算し尽くし設置してあるのだ…!
1㎜でもズレれてみろ、それだけであっという間に効率が落ちる」
元より愛想のない男であるバイロンだが
彼が声を荒げるのを見たのは始めてなのでルッツは怯み、後ろへ下がった
そして、30分掛けて
やっと5滴程のエーテルが集まった
「…E+といったところだな」
バイロンは出来上がったものを鑑定し机に置く
「…そいつは純エーテルなのか?」
「いや、これを更に何度も濾過し凝縮せねば
“純”エーテルと呼べるものにはならん」
要するにバイロンは何が言いたいのかというと
そのくらい純エーテルを集めるのは時間とコストが掛かるという事だ
「意外と知られてはいないが、ただエーテルを取り出すというだけなら
素材はなんであっても構わない
しかし、変換効率を極限まで高めた道具を使って尚、得られるエーテルはこの程度
使徒の殺害は非常に興味を唆られるが、それ相応の対価を貰わねばやれんな」
「…何が欲しい」
バイロンは富の類に興味がない
金銭の要求をされないと踏んで彼を頼ったが
純エーテルの精製が想像以上に大変だと知り
彼の要求も恐らく高難易度の素材になるだろうと、セシルは息を飲んだ
「モリオン、或いはアダマントの原石
獣人の肝でも良い」
ところが、要求された物は確かに高難易度ではあるものの
セシルの想像より、ずっと手に入れやすい物だった
「…そんなのでいいのか…?」
「エーテルを取り出すなら、それ以外だと効率が非常に悪いのでな」
つまるところ、エーテルの材料を取ってこいと言われているのである
「…それは対価じゃ…」
「求める対価は“使徒の遺体”だ」
サラリととんでもない要求をして
バイロンは、2人が部屋に入ってきた時にやっていた触媒の研究を再開した




