手を噛む
魔力を封じる強力な手枷をつけられ
椅子に座る事を許された使徒アルバート
改め、アルファウラは大きく溜息を吐き
それから使徒の正体について語った
「まず結論として、使徒は殺せる」
彼の記憶の中では、自身も半ば死にかけていたところを
幸運な事にアルバートが近付いてきた事で
死なずに済んだというだけである
更には、過去に確実に死んだとされる仲間も居るという
「最近だと使徒“ラディウス”が
魔王ベスベチュラによって殺害されたはずだ」
それを聞いたマルクスは普段ピクリともさせない毛の無い目の上部分を動かした
「我が王が…」
「ベスベチュラの方もかなり痛手を負ったと聞いている」
マルクスは知らなかったらしい
考え込むようにな素振りをみせた
「マジかwなら魔王スベスベ?
に使徒の殺し方を聞いたらいいじゃんwww」
「…無理です、魔族領へは帰れない
それに、我が王は日によって会話が成り立つかどうか怪しい」
魔王ベスベチュラは狂王だなどと言われる程に何もかもが不安定で滅茶苦茶
それは実の子に対しても同じであり
まともに会話が成り立つ方が珍しいのだとマルクスは言った
そんな彼とエドリック王は一体どうやって和平を結んだのか気になったが
今の論争はそこではないなとルッツは2人の会話を引き続き聞く
「…恐らくベスベチュラはラディウスに脳を壊されたんだろうな
本来のベスベチュラは狡猾で尊大な魔族だと記憶している」
「それはつまり、使徒は脳みそ破壊するような攻撃をするってこと?w」
アルファウラは少しの沈黙の後マルクスを見た
「拘束を解いてくれないとこれ以上使徒について話せない」
「出来ません
拘束を解いた瞬間、攻撃を仕掛けてこない保証が何処にありますか
これ以上話さないと言うのなら
後は自らで調べるのみです」
マルクスはこれについて一歩も譲らない
「話したく無いんじゃなくて
説明しにくいんだ」
アルファウラの懇願をルッツが聞き入れ
彼の手枷を外そうとしたので
マルクスはルッツの襟首を掴み引き離した
「危険だというのが分かりませんか」
「いや埒開かないじゃんw
俺が責任取るから外してやってよw」
「アルバートとして頼むよ…」
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かなり嫌々、アルファウラの拘束を解いたマルクスは
安全の為に設置した防御魔法陣や幾つかの魔術式を展開して
アルファウラの攻撃に備えている
そんな中でルッツは話の続きを聞くことになった
アルファウラは掌の上に黄金の弾丸を出現させた
それを見てマルクスは身構えたが
攻撃の意思はないと言うと、それを指先で摘みルッツに見せた
「コレは今、俺の魔力で空気中のエーテルや物質を加工して作った弾だ」
「エーテル?」
「そう、エーテル
この世界で唯一、魔素を溶かし込む物質」
エーテルはありとあらゆる場所に存在しているとアルファウラは言う
「濃度の話になるとかなり薄いが
本当に何処にでも含まれてるありふれた素材だ
何なら、お前たちの肉体にも多少なりとも存在していると思う
というか、魔法が扱えるなら持っている
じゃなきゃ魔素を体内に維持しておけないからな」
魔力を扱うのに必要というエーテルだが
一方である一定の濃度を超えると猛毒になるのだとアルファウラは続けた
「魔素と肉体が強く結びついている者程その影響は大きい
だからコイツをあんた達2人に同じ条件で撃ったとしても効果がかなり変わる
まさに、魔族特効の弾丸という訳だ」
アルファウラは掌の弾丸を握りつぶすように霧散させた
「…それを伝えるために拘束を解かせた?
解かずとも話せたのでは」
マルクスの言う通りだ
これだけを説明するなら解放を懇願する理由にはならない
だがアルファウラは弾丸を握りつぶした手を開き、その掌を2人に見せた
「溶けてる…!」
アルファウラの掌が若干だが溶けていた
この溶け方をルッツは知っている
「使徒の武器は使徒にも効く
…そういう事ですか?」
「ああ、そうだ」
「そして、我々魔族を苦しめる
使徒の奥の手がエーテルであると?」
「如何にも」
アルファウラは溶け出した掌をもう片手で撫でて治した
そして、マルクスにどうする?と聞く
「もっとエーテルを俺で試すか?」
「いえ、結構
魔族である私にエーテルは制御できない
分かっていて煽っているのでしょう」
「え、アルバートは魔法で作ったんだろ?
兄ちゃんも魔法が使えるならやれないの?www」
「エーテルを扱う技術はエルフ
いや、人間の技術だからだ
使徒は人間を取り込むか、乗っ取るだろう
だから出来るんだ」
「仮にやるとどうなんの」
「巧く扱えず、全身にエーテルを浴びることになるかも知れません」
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アルファウラを魔力の部屋に閉じ込めたまま、マルクスとルッツはノーシルプに帰還した
そして、セシルも呼んで作戦会議をする
「…使徒にもエーテルが効くのか」
セシルは何か難しい顔をして
2人が得てきた情報を聞く
「…で、その捕らえた使徒は捕獲したまま閉じ込めて来たのか
…会えるのか?」
「スクロールを使えば飛べますが
会ってどうなさるおつもりで?」
「…いや、別に…」
セシルはそう言うと煙草に火をつけた
「じゃあ、使徒を倒すためにエーテルを集めないといけない訳だけど」
「…売ってるぞ」
彼が言うにはマジックショップや錬金術師の店で買えるという
それを聞いたルッツは早速どれだけの金額が必要になるか考えなければと
店を見てくると言いマルクスの部屋を出た
部屋に2人きりになったセシルとマルクス
セシルは煙草の煙を肺に満たすと、大きく溜息を吐くように吐き出した
「…魔女も使徒も似たようなモノなんだな」
「と言いますと」
部屋の隅に立っていた彼が、マルクスに近付いていく
「…魔女は魔族だ
…コレがお前に効くなら使徒も魔族か?」
マルクスの肩に手を置く
そして、セシルは彼の腹部を素早くナイフで突き刺した
「…っ…!」
「…どうだ?…痛むか?」
ナイフを抜こうとセシルの腕を掴むが
セシルはナイフを引き抜かせまいと腕に力を込め押し込んでくる
「そんな刃物では…」
「…ただのナイフならお前には擦り傷なんだろうな
…で、どうなんだ?苦しいか?」
マルクスは刺さったナイフの周囲に得体の知れない不快感と熱傷のような痛みを感じていた
「…セシル…抜け…!」
かなり強い口調で、彼の体内に棲むマルクスが調伏した魔物へ命令する
するとセシルは、顔を歪めながら渋々といった感じでナイフを引き抜いた
「…っぐ…」
ナイフが抜けるのと同時に血液がどっと溢れ出る
マルクスは回復魔法を使い素早く傷口を塞いだが、手に着いた物を見て顔を顰めた
「これは…」
手には鮮血の他に何かドス黒いドロドロとしたものが混じっている
「…チッ…殺せはしないか」
「一体何を」
残念そうに言うセシルに詰め寄る
そんな彼に特に悪びれもせずに、セシルはマルクスの体組織で濡れたナイフを彼の目の前にかざした
「…お前らの欲しがってるエーテル製の武器だ」
セシルは犬歯を剥き出し、邪悪な笑顔で笑った




