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NOSIRP  作者: まるっち
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アルファウラ

エルカトル西部にある、象徴的な鋭利に尖った山、エリコライルホルン

その麓に4人の意識のない人間を転がしたマルクスは、ふぅと溜息を吐いた

彼らは使徒アルバートの為に流した噂に踊らされた可哀想な冒険者である

こういうのがもう7組目で、噂の広がり確信するとともに

冒険者自体のレベルも高レベル帯なので

捕えるのもなかなか楽ではなかった


懐中時計を取り出し時刻を確認する

次の見張りはルッツだ

彼に現場を引き渡す前に、魔法罠を仕掛け直しておく必要がある

山のピークを少し下った肩の部分“ヤギの寝床”などと呼ばれる場所に戻った彼は

魔族が用いる魔法陣を残さないタイプの罠を幾つか仕掛けた


魔力の部屋に戻ると、丁度ルッツが来た所で

軽く挨拶を交わし連絡事項を伝える

「2組の冒険者が来ました

どちらもレベルが60を超える仲間を1人以上含む高レベル帯です

罠の密度や難度を出来る限り上げましたが…」

話している途中で、部屋の中のベルがチリチリチリ…と音を立て始めた

「早速来ちゃったなwww」

これは特定の区画に、一定以上の魔力を保有する生命体が侵入した事を知らせるベルである

「ギルドでも兵舎でも連日ここの話で盛り上がってるし、まあしゃーないwww」

窓から外を覗くルッツは笑いながら言っていたが、急にあっ!と声をあげ

帰ろうとしているマルクスを引き止めた


「来た!居る!」



世界を賑わせる“魔王討伐”への動き

クリスタルレイの城下街で使徒により行われた“浄化”はアルバートの耳にも届いており

その後、使徒達に通達された『魔王ベスベチュラを処分せよ』というポロニアの言葉も彼に届いていた

「ベスベチュラが何をしたっていうんだ?」

アルバートは他の使徒達とは少し変わっていた

そもそも、彼の使徒名は“アルファウラ”

ある頃から降臨以外で人間領に頻繁に訪れるようになり、単体で魔物などの人間にとっての害を取り除いてきていた

ところが、それは無差別に行われるわけではなく

人間の生存に邪魔になるような存在にのみに留めていたのだ


そんな彼がクリスタルレイの現状を調べる為

各地の街で情報を集めていた時にそれは耳に入った

“エリコライルホルンのドラゴン”

ドラゴンのような魔獣がニゲラ以外で人間領に留まる例はあまりなく

まだ被害は出ていないが、仮にドラゴンが山から降りて来てしまった時は甚大な被害が予想された

山の頂に居るうちに退治してしまおう

そう思って彼はエリコライルホルンの山頂へ訪れたのだ


そして今、彼はドラゴンではなく

いつか出会った青年に見下ろされている

「…どう…して…?」


魔力の部屋の中から、目当てのアルバートの姿を確認したルッツは

マルクスを引き止めアルバートの存在を伝えた

そして、標的を確認したマルクスは

不可解なものを見るように暫く彼を観察した後

でこんな作戦を提案した

「貴方は私から逃げて下さい

そして、彼が私を敵と見なし貴方を保護した時にコレを彼に使用して下さい」

作戦は決行された

不自然にならないようにと、数回マルクスに殴られたルッツは

魔力の部屋から出て、悲鳴を上げながらアルバートのいる方へ走った

当然、そんなルッツを見た彼は保護するために駆け寄り

それを少し遅れて跡を追って来たマルクスを見て攻撃姿勢をとった

ルッツは自分から完全に気が逸れた瞬間に、渡された魔道具をアルバートに向かって使用したのだ

強力な捕縛用の魔道具はアルバートを完璧に拘束し

そんな彼を2人は魔力の部屋に押し込み今に至る


「久しぶりwあんたには恨みはないけど

ちょっと協力して欲しいんだわwww」

床に転がされ状況が飲み込めないまま、アルバートは困惑した様子でルッツとその隣に立つマルクスを見上げていた

そんな彼にマルクスは予想外の質問を投げ掛けた

「貴方は本当に使徒ですか?」

「え?wなんでwww」

ルッツは驚きアルバートを見る

使徒といえば、人間とよく似た身体に鳥の様な翼を持つ者である

アルバートも例外ではなく、背中に立派な6枚の翼を背負っていた

「…お前は魔族だろう?

一体何の目的でこんな事を

自分が何をしているのか分かっているのか?」

「話を逸らすつもりですか」

マルクスは動かないアルバートの左肩を踏みつけ腰の剣を抜き

彼の翼の一枚を引っ張るとその根元に刀身を当てた

「ちょ、いきなり拷問かよ!」

流石にルッツも慌てたが、マルクスの抑揚のない声で止まれと言われ

身動きが取れなくなった


「…わかった、分かった!

はぁ…先ずどうして俺にこんな事をしたのか教えてくれ

そしたらこっちの事情も説明するから…!」

「私は魔王ベスベチュラの六番目の子

使徒が人間を唆し、我が魔王を討伐しようと企てているは分かっている

お前達の都合で人間領と魔族領との均衡を崩されては困る

使徒が我々を滅ぼす気でいるのなら

私がその前にお前達使徒を滅ぼす」

無表情で淡々としたマルクスだが、非常に強い殺気がアルバートに向けられていた

「ああ、言いたいことは分かるよ

みんな仲良く手を繋いで分け合って幸せになれたどれほどいいか…

つまりお前達は使徒を倒すための足掛かりとして俺を狙ったんだな?」

アルバートの狼の目が、ルッツとマルクスを睨んだ

「そうだな…初めの質問に答えようか

俺は厳密には使徒では“ない”かも知れない」

アルバートは床に転がったまま、ポツリポツリと自身について話し始めた

それはもう60年程前の話になる

アルバートはデミドラド大陸の国ルイーバの一般的な家庭に産まれた

特に目立って何かが出来た訳でもなく

一般的な少年期を過ごし、青年期を迎え

その頃からトレジャーハンターとして各地を回るようになっていた

ある時潜った遺跡の中で、彼は妙なものを見つけることになる

原型を留めていなかったが、確かにそれは翼を有していて人程のサイズのモノだった

好奇心の強かった彼は、それに近付き手を触れてしまった

「死体だと思った肉の塊が蠢いて襲いかかってきた

抵抗する暇もなく口や耳、鼻から

何かが入ってきて気を失ったんだと思う」

次に目を覚ました時

アルバートの背中には6枚の翼が生え

覚えのない膨大な記憶を持っていた

「俺はアルバートだが、使徒“アルファウラ”でもある

どうしてそうなったのかは分からないが

本来なら、食い尽くされる人間の人格の方が残った状態なのが

今の俺なのだと解釈している」

だから基本的に仲間の使徒と行動を共にはせず

自身をアルバートと名乗るのだと言った

「え…じゃあ、使徒ってマジで人間を食ってんの?

召しあげるってのは本当に…」

「“俺”はしないが、“アルファウラの記憶”では

自分好みの人間の身体を内側から喰い、乗っ取ったり

気に入った部位や能力を捕食吸収する行為を人間の召し上げというらしい…」

ジクスの言っていた事が思い出され、ルッツは顔を顰めた

「…あんたはそれでいいのかよ」

「使徒を憎んでいるかと聞いているのか?

だとしたら…まあ裏切られた感覚は拭えないな

だからこそ、俺は使徒の為ではなく人間の為にに行動しているんだ」


マルクスはここまで聞いて翼の根元に突き立てていた剣を鞘に収めた

「使徒を倒したい、彼らについての情報提供を求めます」

「…俺は確かに使徒の方は向いてないし

人間の味方だが、魔族の味方じゃないぜ?」

「拒むというのなら、貴方の身体に直接聞くだけのこと」

使徒の身体にどんな攻撃が効くのか

何処が急所なのか、じっくり調べればいいとマルクスは真顔で言ってのけた

「いやいやいやw

こういう時こそ契約とかどうよ?w

結べないの?契約w」

「契約には条件があります

相手が格下である事、どんな形であれ相手が取引に応じ納得している事」

セシルに関しては、厳密には彼の中の魔物がマルクスとの取引に納得して応じた契約者であるため

絶妙に舵の取れない眷属になってしまっているという

「彼の眷属化は無理でしょう」

実際不完全な使徒とはいえ、使徒は使徒

ルッツの存在と作戦を取らずに対峙していたら

捕えることはおろか、おそらくマルクスは殺されていただろうと話した

「…なあ、使徒が憎くないのか?

あんたがどんなに人間を守っても

仲間の使徒はレプレイスの度に人間を食うんだぜ?

嫌じゃないのか?」

「…それは…」

「あんたが人間の味方なら、人間を代表して俺から頼むよ

人間の自由と権利を取り戻す為に力を貸して欲しい」

ルッツは地面に転がったままのアルバートに対して

膝を折り手をつき、額を床に擦り付けるような土下座をした

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