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NOSIRP  作者: まるっち
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仕組まれた敗北

迫り来るオーガの群れ

それに突進して行くルッツ


その様子を確認し、特に急ぐ様子もなく

リゼットはポーチから小さな箱を取り出し

乳白色の中、煌めく炎を内側に秘めた

ポイントカットの結晶を摘み出し手のひらにのせた

「おいで」

途端に結晶から炎が吹き出しリゼットの小さな体を包み込んだ


ルッツは素早さに自信はあった

とは言え、たかがレベル7にしては素早いというだけのこと

あのまま、迫り来るオーガの群れを前に勝算もなく

じっとしているよりも、自身の幸運にかけたのだ

そして今

目の前に迫り来るオーガの巨大な手のひらを目の前にして

激しく後悔していた

強い衝撃が全身を襲い

太い指に握られ、全身の骨が軋み悲鳴が上がる

霞む視界の彼方に、湖の奥側から来た

オーガは2体とも地に伏し

その上に、リゼットの面影を漂わせた炎を纏う女性が此方を眺め

ゾッとするような優しくて冷たい笑顔で笑っていた


視界が徐々に不明瞭になっていく

ミシミシと押し潰されていく体の音を聞きながら

脳裏には老ゾンビの姿が思い浮かんだ

今、どうしているのだろう

いつも文句を言いながらも側にいた彼は

自分が死んだら矢張り悲しむのだろうか?

好きだの何だのと思っていたのは自分だけで

もしかしたらもう、忘れられてしまっているかも知れないけど


「…も…ぃ…どぁ…」


オーガがルッツの頭を捩じ切ろうと

頭に手をかけた時だった

オーガのそれとは別の咆哮が空気を震わせた

頭を掴んだ手が離れたが

ルッツはだらりと力なく握られたままだ

そんな、彼を掴んだオーガ目掛け

弾丸のように詰め寄る者がある

銀の閃光が宙を一直線に走り、寸分の狂いもなくオーガの目を貫く


ぎゃぁああああああ!


けたたましい悲鳴が上がり

ルッツを放り投げたオーガは目を覆いその場にもんどりうった

ルッツは強かに地面に叩きつけられ動かない

ソレは転げ回るオーガには目もくれず

残る2体のオーガに対し素早く詰め寄ると

圧倒的なスピードで

先ず膝を一刺しし、膝を折った瞬間に頸動脈を掻き切り

あっという間に2体とも制圧してしまう

最後に、眼球に刺さったナイフをようやく抜いたオーガの首を叩き斬り

全ての敵が沈黙した

「あら、セシルさん

助太刀ありがとう」

リゼットは何事もなかったように

オーガ達をねじ伏せた者に笑いかける

「…どうして外にいる」

「1人じゃないから大丈夫

心配し過ぎよ」

「…こんな低レベルの奴、足手まといになるだけ…

いや…お前、この男を見殺しにする気だったろう

只でさえシェアハウスは憲兵にマークされがちなんだ

直接手を下さなくても、人間の体や魂を素材にすれば何処で足がつくか分からん

…目立つ真似をするな」

「ごめんなさい

もうしないから、嫌いにならないで」

瞳を潤ませ、悲しそうに項垂れる彼女を見て

セシルは呆れたように溜息をつき

虫の息で転がるルッツの元へ歩み寄り

ポケットから取り出した小瓶の中身を

彼の全身に振りかけてから担ぎ上げた

「…帰るぞ」

「あっ待って、折角だから

オーガの角と牙、あと、魂を採らせて」

「懲りてないな…」

心の落ち着く不思議な香りが鼻腔をくすぐるので

懐かしいようなそんな気分で薄目を開く

妙に薄暗い部屋

カーテンの隙間から差し込む日差しが逆光になって

隣にいる人物は真っ黒に見えた

最後の記憶は握り潰される瞬間

骨が折れ筋肉がちぎれ内臓が潰れる寸前の記憶

「…ぁ…ごめん…俺…死んじまった…

でも…これで…ずっと…」

朽ちかけた小屋の中、板の隙間から差し込む朝日に照らされた

老ゾンビの幻と重なってルッツは手を伸ばす

「覚醒した」

真っ黒な人影はルッツの手を避けるように立ち上がり

老ゾンビのそれとは異なる声を発した

「…へぇ、ダメだと思ったけどな

じゃあ、これで足りるか?」

「ああ、その命知らずに

勇気と蛮勇は違うのだと叩き込んでおけ

必ず助かるとは限らんのだ」


窓を背にしていた影がカーテンを一気に開ける

眩しい午後の日差しが部屋を明るく照らし出す

部屋の中の調度品の数々は品の良い装飾が施され

一目に一級品である事がうかがえる

それらと同じくらい上等な衣類を纏った

おそらくこの部屋の主人であろう紳士が

ルッツの枕元に置いている香炉の火を消した

その紳士の横に立っていたのは

ノーシルプで新聞を読んでいたセシル

彼はまだ意識がぼんやりとしているルッツを構わず肩に担ぎ上げ

その部屋を後にした

無造作に担がれたせいか

オーガから受けた傷が治りきらないせいか

歩く振動が全身に痛みの衝撃として伝わり

ルッツはまた気を失ったのだった

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