使徒捕獲作戦
使徒アルバートを捜すといっても
3人には行動範囲の制限や時間の制約がかかっている
闇雲に捜しては埒が開かないということで
マルクスがこんな提案をした
「話を聞く限り、その使徒は降臨で降りてくる訳ではなく
常に人間領で害をなす魔物の類を狩って移動している事になる
ならば、手っ取り早くギルドに討伐依頼を出すか
或いは魔物や魔女の噂を流すのが宜しいかと存じます」
「ギルドの依頼を使徒が受けるのか?www」
「…まあ、聞いたことはねぇな
それに、ギルドに個人で依頼を出すってことは
それなりに金を積む必要があるってことだぞ」
「そういえば、ギルドって一体どこからお金出てんの?」
ルッツの素朴な疑問にマルクスが答える
「ギルド、冒険者組合の主な資金源は
家族や領主、そして国です
更に、一定の冒険者階級から上の者達はギルドに会費を払っています」
ギルドの始まりは
各々が好きなようにダンジョンへ潜り、その戦利品を回収していただけの頃に遡る
ダンジョンというものは、深く潜れば潜る程に手に入るアイテムのレアリティが上がり儲かるものであり
ある程度強いパーティーでなければ、元の取れない仕事であった
そのために、冒険者の数は限られ
攻略されずに成長してしまうダンジョンが各地に増え
魔物や魔獣までもが地上に現れるようになってしまった過去があった
困り果てた当時の王や領主は、兵士や騎士を使ってこれを制圧することに力を注いだのだが、そう上手くはいかなかった
それに目をつけたのが、ギルドの創設者
時の王や領主を集め、彼らにこんな話を持ちかけた
「毎月一定額の支援をしてもらえた区域のダンジョンを優先的に徹底的に排除する」
ギルド創設者が提示した金額に、王も領主も目を剥いて驚き、ふざけるなと罵詈雑言を浴びせたが彼は引かなかった
「その額は俺達に対する報酬じゃない
あくまで、支援金はまだ駆け出しの冒険者の生活を支え育成する為の資金
腕の立つ冒険者が沢山育てば、それだけ国や領地の害悪を取り去る助けになる」と
「初級冒険者向けの依頼は、良い意味で報酬に見合わない簡単な仕事が多いとは思いませんか?」
昔見た、素材収集として貼り出されていた
スライムゼリーの収集依頼書は
スライムゼリー10個で店で売った時の値段の1.5倍の報酬額だった事を思い出した
「そういえば、自分で店に売るより
少し高めの報酬だよな」
「それは毎月の国や領主その他支援者からの支援金で成り立っているからです」
「なら、冒険者から会費なんて取る必要なくね?www」
「…ギルドは慈善事業じゃねぇぞ
あれだけの規模の組織で、どれだけの人間が関わってるかは知らねぇが
会費を払ってでも、ギルドの斡旋する上位依頼を受理出来る権利がみんな欲しいんだ」
同じような依頼を民間で受けて、報酬を払わずに雇い主が逃げるなんて話はよくある事
「…命懸けで戦ってマイナスは嫌だろ」
「それはそうwww」
「それに冒険者は頻繁にダンジョンや魔物と対峙している為、有事の際の臨時の兵士にもなれます
それも国にとって大きなメリットになる」
現に、このスノームースは
冒険者達のおかげでベアからの侵略を防いでいるところがある
「なるほどなーで、個人依頼出すのにいくらくらいかかんの?」
「例えば錬金素材の依頼だとして
素材の値段の1.5倍に斡旋費用を合わせ
大体、依頼する素材の約2倍値段です」
「…それは安く見積もっての話だな
そんな値段じゃ、他の割のいい依頼に埋もれて誰も受けない
本気で誰かにやって貰いたいなら出し惜しみはしない方がいい」
セシルはギルドの依頼をよくこなしているだけあり冒険者側の事情に詳しかった
「…使徒を誘う依頼って言うんだから
依頼の難易度は高いだろ?
そうなるとそれこそ膨大な費用が必要だ
…それは富豪じゃなきゃ成り立たねぇ
第一誰が金を出す?
俺は嫌だぞ、つか、そもそもそんな無駄金はねぇよ」
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ルッツはマルクスに言われて城下街のギルドにやってきた
別に高難易度の依頼を出す為ではない
もう一つの作戦である“噂”を流すためである
不自然にならないように
いつものように鍛錬場で何人かと手合わせしてから、食事の席を設ける
そしてそこで“エリコライルホルンでドラゴンを見た奴がいる”と吹聴した
その場の誰もが笑うだけで信じなかったが、初めはそれでいいとマルクスに言われていたので
意固地になったりはせず適当に話した
その頃、街の盛り場でセシルも彼と同じように
“エリコライルホルン”で“ドラゴン”を見た奴がいると言う話を広めた
そして、三日後には
街の大半の人間がエルコライルホルンにドラゴンが居ると信じきっていた
「…やべぇなwギルドじゃドラゴンの話で持ちきりだぜ?www
このままだと誰かが討伐依頼を出すかも知れないぜ?www」
居もしないドラゴンを恐れる人々の反応に
ルッツは笑いを堪えることができない
「…お前、何かしたか」
ドラゴンは居ないはずなのに、流石に噂が広がりすぎているとセシルがマルクスを睨むと
マルクスは少々、とだけ答えた
「これからは交代でホルンの頂きに訪れる者を待ち受けましょう」
マルクスは山頂に転移魔法陣を設置してあるといい、2人に転移に必要となるスクロールを渡した
「かの場所は極寒、必要最低限の物資は運びましたが防寒装備を忘れないように」
「え、なに?山頂に小屋でも建てたの?w」
「いいえ、岩肌に魔力の部屋を作りました」
セシルは眉を顰めたが
アスシアスのラボに通っていたルッツはすっとそれを受け入れる
「…使徒じゃない奴が来たらどうする
殺せとか言うなよ?」
街では既に、俺が討伐すると騒ぐ者が現れ出している
狙いの使徒以外が偽情報に踊らされ
ドラゴンが居ない山頂の状況を知って、それを広められてしまっては計画が台無しだ
「捕らえてください」
「えwマジ?w殺すの?www」
「このクソ魔族が…!」
セシルがマルクスに掴みかかり吠える
だが、掴みかかられた彼は非常に冷静に話を続けた
「山頂には幾つものトラップを仕掛けてあります
それに誘導するか、自力で捕獲後に私を呼んでください
捕らえた冒険者には幻惑魔法でドラゴンの悪夢を見せてエルコライルホルンの麓に帰します」
そうすることで、ドラゴンの存在に更に信憑性を持たせるのだと彼は言った
「離していただけますか」
「…チッ!」
振り払うようにセシルは手を離した
◆
とある港の酒場でご機嫌な船乗り達が
酒を酌み交わしながら航海で見聞きした話を水商売の女達に話していた
「あっちの大陸じゃ魔王討伐に向けて勇者を捜してるって話でよぉ!」
「アハハ!旦那さん、そんなの御伽話じゃないのー?
今時勇者なんて流行んないわよぉー!!」
「そんなこと言って、お前ら女は結局強い男が一番好きだろぉ!?
見ろよ俺のこの筋肉美!」
「ヤダねぇ!何が筋肉美よ!
いくら体が良くたってその顔じゃムリムリ出直してきな!」
ギャハハハと下品な笑いが巻き起こる
「まあ、筋肉が必要ないくらい平和な方がいいよなぁ
平和で美味い酒が飲めていい女が居りゃそれが幸せってもんだよなぁ…」
「いい女はアンタらみたいな汗臭い男にゃ靡かないけどね」
「ひでぇーなぁ、お前なんてどうでもいい女だろぉが!?」
客と水商売の女が喧嘩を始めた
「なによ!どうでもいい女にすら相手にされないアンタらはネズミ以下よ!
魔王討伐?は!最近噂のドラゴンだって無理だろうね!!」
「んだとぉ!?俺らが仕事してるから、お前らがぁ安心して暮らせるんだろぉが!!」
男が立ち上がり、千鳥足で女に近づいていく
「はん!木偶の坊が、酔っ払いなんて相手にならないね!」
女がファイトポーズをとった時
ふらふらの男の肩を何者かが掴んだ
「そのドラゴンについて聞かせてくれないか?」




