人間性の懐柔
騎士として鍛錬を積み始めて1ヶ月
様々な戦いの方を学び、レベルだけではなく技術も上がったルッツは
ギルドでは遂に、ラビフィールドから来た戦士のリーダー、ガルヌランさえも10回に一回は勝てるようになっていた
そんな彼は兵舎の庭で1人鍛錬に励むマルクスに声を掛け
今、ノーシルプのルッツの部屋にはマルクスが来ていた
「それで要件とは」
「前に話した使徒の事で、色々考えたら
やっぱ使徒を倒さないと俺の夢が途中で潰されそうな気がしてさー」
「使徒の討伐に協力頂けると解釈して宜しいですか」
「平たく言えばそうなるなwww」
ルッツがそこまでいうと、マルクスは彼の目の前に左手を差し出した
意味が分からず、それを見ていると
彼の手のひらの空間が歪み一枚の羊皮紙が現れる
「では、契約を交わしましょう」
「なんの話www」
「互いに裏切ることの出来なくなる誓約書の様な物です」
魔族と契約なんてどう考えてもヤバそうだと、ルッツはその誓約書の隅々まで目を通してみたが
内容は特に難しい事が書かれているわけでも、ルッツにとって不利な事が書かれているわけでもなかった
「これ必要?」
「無くとも貴方が私を信じられるというのなら必要はありません」
彼のいう契約というものは
ルッツに対し力を与える代わりに命を貰うとか
彼がセシルと交わしているのとも違い
使徒を倒す為に協力関係を結び
互いが不利益を被るような事はしないというような事を細かく明言化している物であった
これは、自分が半魔族であるという
人間にとって信用に足りない存在だと理解しているからの行動であったが…
「契約とかいらねwww」
ルッツには種族などどうでもいい事だった
「じゃ、使徒を倒すって事だけど
俺ら2人じゃ無理じゃん?
そっちの仲間とかどうなんだ?」
マルクスは首を横に振る
頼みの綱であった、彼の二匹の魔犬はまだ変わらず子犬の状態である
魔族領には彼の家臣と呼べる者も居ないことはないが
今のこの状況と彼の計画に協力を得られるかは分からない
「あのおっさんって兄ちゃんの仲間なんだよな?」
「…セシルの事ですか」
セシルにはこの件はまだ話していない
「彼は確かに私の配下ではありますが
元が人間であるだけ制御が難しい
それに彼は魔族を憎んでいる」
そういうマルクスを見ていて、ルッツは肩をすくめた
「頼み方じゃね?
あのおっさんは多分人情派だろw
契約とか命令とか、そりゃ反発するよw」
「ではどうすれば」
・
・
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セシルが共有スペースへ出てくる頃合いを見計らい、2人は説得する為に彼を囲んだ
いつものように新聞に目を通しながら
煙草に火をつけた彼の両脇に、ルッツとマルクスが立ったので
セシルは座っていた椅子に背中を預け、紫煙を燻らせた
「…何だよ」
不機嫌なセシルがマルクスを睨み上げる
「話があります」
「それwww」
ルッツに指摘されマルクスは言葉を止めた
そして、一瞬の間をおいて
もう一度セシルに言葉を掛け直す
「貴方に相談があります
少しお時間を頂けないでしょうか」
「言えるじゃんw」
2人の妙な掛け合いを見せられ、眉を顰めたセシルだが
言い方が変わったところで主人の命令には変わらない為
時間を割かないという選択肢はなかった
マルクスの部屋に移動してから
彼はルッツからのアドバイス通り
普段の配下に対する上からの目線、口調と態度を改め
あくまで相談と協力を求めるというスタンスで打倒使徒の計画を話した
「このままでは人間領に未曾有の災害が降り掛かる
罪のない人間が大勢死ぬのは避けねばなりません
どうか、力を貸して欲しい」
実際、マルクスの本心としては
人間領の平和が守られれば、罪のない人間がどれだけ死のうが構わないかったりするのだが
セシルの心を揺さぶる為にあくまで人間側の被害を強調した
これに普段なら、一言目には何で俺がと噛み付くセシルが苦虫を噛み潰したように顔を歪め肯定的な態度をとった
「…勝てる見込みはあんのか」
「今のままでは勝てません」
「ちょw勝てるように前準備中なんだってばw
取り敢えず今は俺ら3人だけだけど
ここからあと何人か仲間を集めるだろ?
んで、同時に使徒について調べる
アイツらだって生き物なら殺せるってw」
「…随分と甘い計画だな
使徒について調べる?
これから図書館にでも行く気か?」
「それもいいなwww」
笑うルッツにセシルは舌打ちする
「…アイツらにとって不利な情報が、そんな公な場所に置いてあるわけねぇだろ
…無謀だぞこんな計画!」
呆れたセシルが部屋を出て行こうとするのを
ルッツは扉の前に立ちはだかり阻止した
「…退けよ、話は終わりだ
せめてもう少しマトモな計画立ててから出直してこい」
「全く当てがない訳じゃないぜw」
そういうルッツは、彼が王を目指すきっかけになったとある使徒の話をした
「その使徒は確かアルバートって名乗ってたな」
彼は自身のことを異端といい
事情を知った上で老ゾンビを手に掛けようとはしなかった
「それに、ウラノフェンだっけ?
みたいに変な威圧感も無かったんだよな」
ルッツの計画ではその彼をまず見つけ出して使徒について探ろうというものだった
「…異端だって言っても使徒は使徒だ
本人に直接弱点なんて聞いて
タダで済むと思ってんのか?バカなのか?」
「そんなナチュラルに聞かねぇしw」
「場合によっては捕らえて弱点を探る方法もあります」
マルクスの提案にセシルはこれだから魔族はと言わんばかりに顔を顰めた
「ま、何にせよw
先ずは“アルバート”を探そうぜw」
こうして、使徒打倒に向けて
3人は動き始めたのだった




