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NOSIRP  作者: まるっち
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純エーテル

常夜の世界、魔族領

その一国アデモス領では魔王ベスベチュラの配下達が慌ただしく

魔王城内を走り回っていた

「手の空いてる者は西門に先回りしろ!!

早く!門を閉ざせー!!」

旧魔族にしてベスベチュラの親類にあたる、イスタネラが怒号をあげた


四天王や大臣達が城のありとあらゆる扉を閉ざしていく間

ストロテロバスラは魔王ベスベチュラの前に立ちはだかり

彼を睨みつけ手に持つ武器の切先を魔王に向けた

「ここは通せません!

どうかお部屋にお戻り下さい!」

目の前に佇む魔王は微笑んでいたが

辺りは殺気に満ち、空気に電気でも流れているかのように皮膚がピリピリと痛む


魔王ベスベチュラ

この身の丈3mはありそうな巨大な旧魔族は

安定した姿を持たない

ここ数100年は人間にハマっているのか、人間風な風貌をしているも

日によって顔は違うわ性別も見た目の年齢もまちまちである

毎日違う外見というだけならばまだしも

ベスベチュラの擬態はかなりいい加減で

この日も彼には足が三本あり、口が額にあった

見た目にも狂ったこの王は

心も狂っていた

「バスラそこを退け」

「今貴方が人間領に行けば大変な事になります…!」

「何故だ?自分のモノを回収しに行くことの何がいけないのか」

「子の安否を案じる親心は分かりますが

王である貴方自身が動いてしまうと

レプレイスの悲劇の再来となってしまいます!」

魔王ベスベチュラには6人の子供がいる

その中の末の息子が人間領で人間に扮して暮らしていた

今回の人間側の“魔王討伐”を受けて

ベスベチュラはそんな我が子を連れて帰ってくると言って聞かないのだ


これだけを聞くと、ただ子を心配する親に思えるのだが

狂った王の心配は普通の親が子に対して向ける愛情とは違うものであった

「…こんな事になるのなら

あの時に食べてしまえばよかった」

魔王が末の我が子を取り戻したい理由

それは、その子がとても“美味しそう”だからである

「お前が、ある程度育った方が

食べ出があると言ったから我慢した」

王は産み落とした瞬間から、我が子に対して異常な程の食欲を感じていた

「その結果、サルラーキラに足を盗られた」

末の息子は実の兄弟に、赤子である時に

片足をもがれ食べられてしまっている

「次にお前は人間領が安全だと言った」

自分の子供達に末の子を食べられてしまわないように

ベスベチュラはストロテロバスラの助言をうけ、その子を人間領へ送り隠した

彼がより大きく強く美味しくなるまで安全で居られるように…


「もうお前の言うことは聞かない」


ベスベチュラの口が裂け、人間風だった風貌が徐々に怪物に変化していく

ストロテロバスラも旧魔族ではあるが

この狂った王が本気で殺しに来てしまえば

確実に殺されてしまうだろう

ごくりと生唾を飲み込み、目の前で形を壊していく魔王を彼は見ていることしかできなかった

「魔王様!魔王様!!」

そこへ駆けつけたのはヤーと呼ばれている

この城の道化

新魔族のヤーは特に強くもない低級の魔族だったが

そんな彼はキレた魔王に臆することなく

彼とストロテロバスラの間に割って入り

大きな身振り手振りで騒ぎ散らした

「今日が何日かお忘れですか!?

私とお庭の池でトラン・トランの観戦をする約束だったでしょう!?

私ずっと待ってましたよ!!

早く遊びましょう!遊んでくれなきゃお城の中で1人運動会しますよ!

魔王様が入れて欲しいって言っても

入れてあげませんからね!!」

ヤーの訳のわからない主張に

ベスベチュラは身体の変化を止めた

「それは狡いぞヤー」

「なら遊びましょ!今すぐに早く!ホラ!ホラ!!」

魔王はみるみる元の歪な人間風な風貌に戻り、ストロテロバスラの事などもう見えてもいない様な風にヤーに着いて行ってしまった

「…やれやれ…」

何とか殺されずに、しかも魔王を引き留める事に成功したが

根本的な問題は解決していない

「モンロルナラは使者を送ったと言っていたが…ぐずぐずしてはいられないぞ」



浄化の後、久しぶりに昼間の城下街へ出ようと家を出たセシルは

路地を抜けたところでデリックに出会う

「ここ数日、ここに待ってたが

全然出てこないから心配してた」

「…俺が死んだと思ったのか?」

「あんなことがあったんだ、魔族を駆逐するとか抜かしながら

一般市民だって相当な被害を受けてるからな」

浄化が行われ彼らが帰った後は

市民達が“魔族と疑わしき人物”への私刑を

連日城下街の広場で行っていた

「…それで、俺に何の用だ」

「ここではアレだ、何処か安心して話せる場所に行こう」


そう言われて来たのはダスカのあの小屋だった

誰もこんな所に来ないとは思うが、と言いながらデリックは鍵をかけ

覗き窓からあたりを見渡してから、セシルの向かいに座った

そして持っていた鞄の中から幾つかの弾丸を取り出して見せる

「…これは?」

「前言ってたエーテル弾を少し改良したものだ」

「…この前も思ったんだけどよ

そのエーテルってのは何なんだ?」

エーテルとは主に錬金術師が使う物質の事であり

魔力や魔素を溶かす性質を持つのだとデリックは教えてくれた

「本業は特定の魔素を取り出したり、分解するのに使うと聞いてる

あんたも全く馴染みがない訳ではないと思うぞ

“魔力くだし”の必須素材だからな」

そのエーテルの純度を前に使った物よりも

極めて高めた純エーテルを着弾と共に弾けるようにしたのがこの弾なのだという

「…へぇ、エーテルって何処で手に入るんだ?」

「まあ、一般的には鉱物から抽出するか

錬金術か魔術の店で売ってる

獣人からも採れるなんて噂もあるが…

ああ、それに使ってるのは鉱物由来だから安心してくれていい」

デリックの口ぶりから、獣人由来のものに関する噂はろくでもないのだろうなとセシルは鼻で笑う

「…そうか、売ってるのか…」

「市販品の純度なんてお察しレベルだが」

セシルがエーテル弾を手のひらに乗せ、転がしながら観察する

そんな彼にデリックは胸ポケットから小さな小瓶を取り出し差し出した

中には金属光沢のある灰色の液体が少量入っている

不思議そうにするセシルにそれが純エーテルだと彼は言った

「これで魔女が殺せる…」

セシルが嬉しそうな笑顔を浮かべたのを見て、デリックは改良エーテル弾を一つ手に取り小型の銃に装填した

「前にも言ったと思うが、本来は魔術を使う相手にデバフを掛けるための弾だ

あの魔女がどうして溶けたのか、ハッキリとした理由も分からない」

カチッと安全装置を解除する

「銃弾の威力としてはまあ…当たった部分が赤くなって少し痛いくらいだ」

「…俺で試すのか?」

「いや、罠にかかった間抜けがいる」


デリックはそう、銃を構えたままセシルを通り過ぎ小屋の扉を開いた

小屋から数メートル歩いた先で、魔物がトラップに引っ掛かり動けないまま

デリックを威嚇して吠え、襲ってこようとと暴れていた

そんな魔物に向けて、彼は発砲した

ータン!という軽い音で発射された球は

魔女の時と同じように、魔物の額に着弾するの同時に破裂しエーテルを霧散した

魔物は驚いて怯んだが、あの時の魔女の様に溶けたりはせず


またデリックに向かって唸り声を上げながら噛みつこうと懸命にもがいた

「…魔物には効かないのか」

「少し様子見ててみろ」

数分の間、魔物を観察していると

次第に落ち着きを取り戻し、2人に対して敵対的な行動を示さなくなった

「不思議だろ?この状態だと触っても

攻撃してこないんだぜ?」

「…まるで動物になっちまったみたいだ」

「残念だが魔物のままだ

何か期待したかも知れないが、その小瓶の中身を飲んだり浴びたりはするなよ?

何匹か試したが、どれもこの後数時間で激しい下痢と嘔吐を繰り返して弱って死んじまう」

「…それは…人間もか?」

「さあ?流石にこの純度のエーテルを人間に向けて撃ったことはない

一般的な物なら、丸一日は魔法が使えなくなる程度だが

これまでにエーテルが原因の健康被害がないわけでもないから…死ぬかもな」

どのみち安全な物ではないないだろうといい、デリックが手を差し出すので

セシルは彼に純エーテルの小瓶を返した


小屋に戻るとデリックは小屋の床板の一部を剥がし、床下から木箱を取り出した

「液化させたエーテルを、再び硬化させるのはかなり骨が折れたが

アンタはこっちの方が使いやすいと思って」

デリックが取り出した木箱の中には

一本の小型ナイフがはいっていた

「…これもエーテルなのか?」

「ああ、かなり純度は高めたが

やっぱり液化してないと魔素や魔力を溶かす力はほとんど発揮しない」

「…それはもうただのナイフだろ」

「普通の相手にはな

あの時の魔女なら切り口が溶けるかも知れないぞ…

ま、何の確証もないがな」

デリックはそんな風にいいながら、床板を元の位置に嵌め込んだ


「…その…ありがとう…これ高いよな?

…全部すぐ払えなくてもいいか?」

「ん、別にいい気にするな

あんたには命を救ってもらった借りがある

それに俺も作るのが楽しかったんだ」

さあ帰るから外に出てくれと、小屋から追い出されセシルは何か持ってなかったかと自分のマジックバックを探るが

これと言って彼が欲しがりそうな物は見当たらず

いつまでもバツが悪そうにしている

それに見かねたデリックは、後頭部を掻いて小屋鍵を掛けた

「なら、今度素材集めに協力してくれ」

「…ああ、そんな事でいいのか?」

「そんな事?命掛かってるぞ?

あんたも命懸けで守れよな」

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