王の特別訓練
城下街は謎の爆音と共にあちこちにシンクホールが開き
人間と獣人の対立であちこちに死体が転がる程に治安は地に落ちていた
騒ぎに乗じた悪党が、金品を奪うために強行に及び、弱い者の権利は踏み躙られる
街角に放置された死体には虫が湧き悪臭が漂い
疫病が流行って教会もパンク寸前である
何とかしようと、王は自らも城の外に出て事態の収集を目指したが
王と分かった途端、民衆は罵詈雑言を浴びせ、酷いと物を投げる始末であった
エドリック王は最愛の女性を失い
毎日民衆に非難される日々に、すっかりやつれ人が変わったようになってしまっていた
そこへ、ルッツが訪問した
「ちーっす、って人相代わりすぎじゃんw」
謁見の間で椅子に座る王の顔は頬がコケ
目が落ち窪み、急に何歳も歳を取ったように見えた
「お前か…国を取りに来たのか…?」
声に張りはなく、あのエネルギッシュな殺しても死にそうにない王は何処にもいない
「この国の人間じゃ、俺の理想とする国の国民に相応しくないから要らねwww」
「…はは!今がチャンスと思ってきたわけではないということか…」
ならば何の用だと王は問う
「王様ってすげーレベル高いんだろ?
どうやったらその高みにいけるか教えてよ」
王や領主達が並々ならぬ努力をしているのはそうなのだが
それ以前に彼らは、自分の治める場所で誰よりも強くある為の特別な方法があるのでは無いかとルッツは思ったのだ
そうでなければ、努力しても少しづつしか上がらないレベルを
そこまで上げられる説明がつかないのである
エドリックは目の前にいる熱心な青年ルッツの眼差しに心が震えた
最近は城の中であっても、神官や大臣果ては使用人までもが
彼に軽蔑の眼差しを向けてくる
王は自らに向けられた悪意のない眼差しに、失っていた心を取り戻した気がしたのだ
「…お前はどうして王になりたいのだ」
大半の者が莫大な富や権力と答える問い
聞きもしないのに、ルッツもそうであると王は思っていた
「恋人と穏やかに過ごすためだけど?」
「そんなものは…王にならずとも」
「俺の恋人はゾンビだからwww
どんなに人間なんか食わないって言っても
今の世の中じゃ安心して暮らせないじゃんwww」
王の脳裏にシベティの虚な生首が過ぎる
「…そうだ、その通りだ
出来るのか?そんな事が」
「出来るか出来ないかじゃなくね?
愛する人の為にやるんだってばw」
王がオオオ!!と急に吠え、ルッツはその声に驚いて後ずさる
怒らせたかと椅子の上の王の顔色を伺うと
王は吠えながら涙を流していた
「…来い!教えてやる!!」
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王に鍛錬場へ連れて来られたルッツは、彼から鍛錬用の特殊な剣を渡された
「何故、冒険者はレベル70の壁を超えられないのか…!
答えは簡単である、戦う相手が格下ばかりだからだ」
王はルッツと程よく距離を取り、鍛錬用の剣を抜いた
「レベル50を超える魔物など
その辺にそうそういない
そうなると残された選択肢は魔女を狙うか
ダンジョンに潜るかの2択だ
だが、俺は魔女を狩らなければダンジョンにも入らん!」
王は剣を構え、目の前のルッツに踏み込み
目にも止まらぬ速さで彼の首筋に刀身をトンと当てた
「代わりに同程度…あるいはそれ以上のレベルである者と手合わせをし
お互いを高めあう…!!」
「…ヤバっマジ?w」
真剣なら確実に死んでいた太刀筋だ
「俺は厳しいぞ」
「七日間あんたの攻めに堪えた抜いた男だぜ?w」
この日からエドリック王による
ルッツの強化が始まった
それは本当に過酷な鍛錬だった
まず、基礎が出来ていないということで
剣を使って基礎をとことん叩き込まれる
基本の構えから、体さばき
更に筋力の強化として筋トレや素振り
打ち込み台を使って感覚を捉えろと自主練を数時間終えた後に
30分延々と王に打ちのめされる
使われている剣は鍛錬用の物なので
ダメージは殆ど入らないが、痛覚には訴えてくる
3日目にはもうルッツはへろへろになっていた
「なんだその顔は、もうギブアップか?
そんな覚悟で俺に頼みに来たのか?」
「はぁ〜?ウッさw違うしwww
筋肉痛がヤバいだけだしwww」
「ほう、筋肉が喜んでるな
よし、筋トレのメニューを増やすぞ!」
「鬼かwwww」
体を動かす事が苦手なルッツだが
王はそれは違うと言った
「お前は足は速いだろう
それは生存に必要だったからだな?
戦いに自信がない、脳筋かっこ悪いと思っているんだろう
その考えを捨てよ、それこそがお前を運動音痴にする
…筋肉は正義だ!!」
「ちょっwww途中まで良さそうな説教たれて、いきなり脳筋になんなしwww」
2週間の地獄のような基礎と筋力底上げを頑張った結果
ルッツは少しずつだが、エドリック王の攻撃に反応出来るようになっていた
そこまできてようやく王は強化メニューから基礎の時間と筋トレの時間を減らし
応用と筋トレはより負荷の高いメニューへ変わった
そして、手合わせは1時間に増える
始めてから1ヶ月でルッツは基礎と筋トレは自主的に行うようにと言われ
4時間みっちり王と手合わせする事になる
その頃からだ、3日に一回はレベルが上がり始めたのは
「お前と俺のレベル差が大きいから
50くらいまでなら大体そのくらいのペースで上がるだろう
それを過ぎたらレベルが上がるペースも落ちるし、俺以外の人間とも手合わせを重ねた方がいい」
「王様がこの国で最強なんじゃねぇのw
他の誰と戦えってんだよwww」
「パワーレベリングとして俺を利用するのはいいが、1人の相手と戦い過ぎると応用が効かなくなる
変な癖がついちまうって事だ
…ギルドにも鍛錬場はあったろ?
今機能してるか知らないが、そこで適当な冒険者と手合わせするのが手っ取り早くて
自分の成長を感じられると思うぞ」
王に勧められるままルッツは一度ギルドの冒険者と手合わせしてみる事にした
久しぶりに訪れたそこは、前に来た時よりも人に溢れていて
冒険者も荒くれ者の中に何処かの騎士の様な人間や、他国の者と思われる者が多く混ざっていた
カウンターにいたジョザイアに声を掛ける
「手合わせしてくれる人探してんだけど」
「ん?始めての人間はまず登録をだな」
「あ?w前にパーティー探しに来た時に登録しなかったけ?www」
ルッツの言葉にジョザイアは首を捻ったが
数秒彼を見つめてから「あっ!」と声を上げた
「あんたあの時の坊やか!
随分と精悍な顔つきになったから分からなかった!」
ガハハハと笑いながら彼はルッツについて来るようにいうと
彼をギルドの鍛錬場へと通した
「今ここに居る連中は声掛ければ手合わせに応じてくれる筈だ
だがまあ、自分から見てあまり高レベルな奴は相手にしてくれないだろうから
その辺は自分で考えて声掛けするんだな」
ルッツは鍛錬場の中を見渡した
1人で自主練に打ち込む者もいれば
列を作って順番に手合わせしているグループもいる
「ねぇ、手合わせしたいんだけど
ここに並んでたら俺も出来る?」
「あ?お前ジョブは?」
「シーフだけど?w」
エドリック王にしこたましばかれたルッツは、相変わらず細身ではあるが少し筋肉が付き
見た目にもひ弱な印象が若干解消されていた
「…物盗りか、俺ら剣士と対等に渡り合えると思ってるのか?」
「やってみなきゃ分からなくない?www」
「シーフの癖に生意気な奴だな
おい!みんな!この盗賊崩れがサンドバッグになりたいんだとよ!!」
剣士の男が声を上げると、彼らの仲間だと思われる
手合わせをしていた連中がルッツを見た
「二度と舐めた口聞けないようにしてやろうぜ」
「ちょwお手柔らかにwww」
半笑いを浮かべながら、ルッツは逃げる時の経路を確認して
手合わせをする為の試合場に上がった




