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NOSIRP  作者: まるっち
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黒い人影

ダスカからの帰り道、城下街へ続く道を歩いているルッツは

さっきから不自然に後ろを着いてくる男の気配に気が付き意識をそちらに向けた

つかず離れず後をつけてくる男

(…あ、これ多分物盗りだ)

そう思ったルッツは相手の行動に更に注意する

今彼が歩いているのは舗装された道ではあるが

主要な道ではなく人通りも殆どない

領と領を結ぶ主要道路なら、兵士達が巡回しているので最悪助けを求めることも出来たが

兵士どころか、旅人1人周りには歩いていなかった


1人ならやれるか?とも思うが

相手のレベルが自分より高ければ殺される可能性すらある

ルッツは何とかして逃げる方向で物事を考える事にした

そして…金稼ぎの為によく錬金素材を探しに入っていた土地勘のある林の近くまで来たルッツは、急に走り出しその林の中に飛び込んだ

林の中にあるちょっとした断層を飛び降り

更に走って下生えの中に飛び込む

暫くそこで、じっと息を殺していると

おそらく、ルッツをつけていた男の足音と声が聞こえてきた


「ーあいつ、どこ行きやがった…?

クッソ…見つけ出して…」

明らかに友好的ではなさそうだ

ルッツの隠密スキルは非常に高くなってるので、この時はこのままジッとしていればやり過ごせるだろうとタカを括っていた


そう何もなければ、やり過ごせる筈だった

足元にハウルと呼ばれる虫がルッツを見上げているのに気付くまでは…

マズイ、そう思った時にはもう遅かった

爆音の虫の鳴き声が林の中に響き渡り

ルッツが虫を踏み潰した時には

あの男がルッツの後ろに立っていた

「ーっ!!」

振り返りざまに、側頭部を殴られ転倒し

そのまま男に馬乗りにされた

そして何度も頭部を殴られる

相手のレベルはそれほど高くは無かったが

それでも何度も頭を殴りつけられればダメージは蓄積する

「クッソ…ッ!」

魔物ではなくこんな盗賊に殺られるのかと思うと流石に情けない

何とかしなければと、腰のポーチに手を突っ込んだ途端

ポーチからゾロっと濃い黒が溢れ出した

「…!何だ!?」

男はそれに気付きたじろぐ

地面を這うようにポーチから溢れ出した黒い霧は地面に寝転ぶルッツの鼻や口から身体に入っていった

「…うぐっ!ガッ!ぐげっ!!」

苦しみ出したルッツを見て、男はそれが危険な物だと察知して彼から退いた

ルッツは悶えながら、この苦しみの正体が何なのかを察する


ーファッチャだ

アレの果汁を被った時と同じ苦しさ

いや、それを更に酷くしたものに襲われていたのだ

(どうして…確かにどの実も割れてなかったに…)

地面の上でもがき苦しみ、あの時のようにルッツは嘔吐した

だがそれは、あの時とは違い恐ろしく長い嘔吐だった

ドロドロと黒いものをとめど無く口から吐き出す彼を見て

男は彼の荷物を盗むことも忘れて逃げ出そうとした

「…あれ…俺…どうなったんだっけ」

気絶していたルッツの意識が戻り

彼は殴られて痛む頭を押さえならゆっくりと身体を起こした

近くの茂みにさっき殴りかかってきた男の足だけが見えている

「えwなんで?w」

立ち上がり近付こうとしたところで

その足が茂みの中に引き摺り込まれていった


これはヤバい

茂みの中に魔物がいるのだと思い後ずさる

バキバキという骨を折るような音の後に、木と同じくらい大きい真っ黒い人形のモノがルッツを見下ろしていた


…殺される


本能的に終わりだと感じたのか

足から力抜け、ルッツはその場にへたり込んだ

そしてゆっくりと黒い人がルッツに近付いてくる

それの手がルッツの頬を優しく撫で

砂のように崩れ去る間際に確かに風の中に


マ…マ…


と聞いた気がした



「ああっ冗談じゃないよ…!」

カノープスは怪我をした翼を庇いながら

大きなリュックを背負い直し、路地裏を進んでいた

彼はいつも城下街の市場で店を開いてメルザーガの国、ディアスティマから仲間に持って来させた工芸品等を売っている

そして、今日は城壁外で故郷からの仕入れを終え

市場に店を開こうと戻ってきたところを暴徒に襲われてしまっていた


メルザーガの1番の強みは空を飛べること

だが、この怪我では空など飛べるはずもなく…

ノーシルプに戻るには、まだ幾つのも大通りを通らなければならない

いっそのこと、城壁外へ出て強制送還を狙った方が安全だとは思ったが

外に出るにも矢張り大通りを通らなくてはならない現状にカノープスはイラつき冠羽を立てる


「まだこの辺にいるはずだ!」


「あっちには居なかった!」


暴徒達の声が徐々に近付いてくるのに

カノープスは羽をブワッと逆立て聞き耳を立てていた

このまま殺されてたまるか…

そんな考えから、人間を何人か殺してでも逃げ切ろうかと思い始めた時

路地の更に奥のゴミバケツがガタッと動き、そちらを向く

更にゴミバケツはゆっくりと持ち上がり右側にズレる

そして、その下からネズミベースのフルールがカノープスを見て手招きをした



「…おたく、何で助けてくれたの」

下水道の中で前を進むネズミ獣人の後ろ姿に、カノープスは声をかけた

「たまたまそこに居たから

メルザーガは怖いけど、同じ獣人としてファーレスに追われている訳だし」

そういい前をゆく彼は、下水道の奥に明らかに別に掘られた穴へと進む

その先でカノープスが見たのは、怪我をした獣人達と元々ここに住んでいた者達だった

「みんなたまたま下水道の入り口近くに居ただけ」

「ここいる怪我してるのはみんな

ファーレスにやられたって事かい?」

「そうだよ」

老若男女、見境なく獣人というだけで襲われた人達の数にカノープスは言葉を詰まらせる


「でもここも、別に安全って訳じゃない

下水道だって元々はファーレスの作ったもの

ここに押し入ってくるのも時間の問題だと思う」

「…なに?集団自決でもする気かい

あたしゃこんな所で死ぬ気はないよ!」

「だから、みんなで考える

残された時間で生き残る術を考える」


不意に怪我人だらけの彼らの中に、カノープスは知った顔を見つけた

「アルシャイン…?

おたく、アルシャインかい!?」

呼ばれて顔を上げたのは、猛禽類型のメルザーガであった

「お前、カノープスか」

アルシャインと呼ばれた彼は、両目を瞑っていて顔面は乾いた血液で茶色く色づいていた

「おたくその顔…」

「翼は無事だが目を潰されてしまってな」

正直、助けてもらったことには感謝しつつも

フルールに手を貸すつもりはなかったカノープスだが

知り合いでしかも同じメルザーガの仲間が、酷い状況でそこにいるのを見て黙っていられるほど無情でも無かった

「おたく、名前は?」

助けてくれたネズミ獣人の方を向いて問う

「ディシーブ」

「は、相変わらずフルールの名前は酷いねぇ…まあいいわ

ちょっとこっち来な!」

カノープスは背負っていたリュックを下ろした

それはマジックバッグになっていて

見た目よりも遥かに多い商品が詰められている

「特別にこの中からタダで何か使えそうな物を使わせてやるよ!

死んだら元も子もないからね!!」


カノープスのリュックは本当に色々な物が入っていた

武器は勿論、ちょっとしたアイテムまで本当に色々入っている

「武器がある…ファーレスが攻めてきたらこれで奴らを」

「いったい誰が戦うんだい!」

ここにいる獣人の殆どが怪我人で、怪我をしてない下水道の元々の住人達は腕っぷしが強いタイプではない

なので、戦うのは現実的ではないとカノープスは止めた

「じゃあどうする?」

ネズミ達が困ったように毛繕いを始める

「ここは…下水道だろ?何処か街の外に出るルートはないのか?」

犬型の男が問うとネズミ達はあるよ!あるよ!と口々に騒ぎ出した

「川の目の前までは行けるけど

川には出られないよ、金網が張られてるんだ」

これは外からフルールや犯罪者が入って来られないように付けられている金網である

カノープスは辺りを見渡し、少し考えてからリュックを漁った

そして、取り出したのは

ペンと紙とテープ…更に爆弾だった

街の中で大多数の獣人達を駆除した暴徒達は遂に下水道にまで降りてきた

「クセぇな…あいつらこんな所に住んで

汚ねぇし害悪でしかねぇな」

「見つけ次第皆殺しにしてやる」

何十人もの人間が武器を片手にゾロゾロと下水道を行く

その中で先頭を行く者が変な声を上げた

「何だありゃ」

ある程度進んだ所、目の前の道がテープで封鎖されていた

そしてそのテープには張り紙がされている


【この先、魔素溜まり】

【進入禁止】


「マジか…魔素はやべぇな」

暴徒達はその表記に怯み、足を止めた

そして彼らは暫くその場で相談し合った結果

魔素はどうしたって無理だという結論に至り引き返して行った


その頃、怪我人達を協力しながら川への出口へ運んでいたカノープス達は

やっとのことでネズミ達の言う金網まで辿り着いた

「んじゃ、ちょいと離れときな」

リュックから売り物の爆弾を幾つか取り出し

金網に設置していく

そして、導線に火をつけ自らも離れる


ードン!


下水道の中を伝い、城下街のマンホールから爆音が響いた

「壊れた!」

金網がへしゃげたの見て歓喜する獣人達

しかし、ゆっくりはしていられない

さっきの爆発の衝撃が、老朽化していた下水道の数カ所を崩落に追い込んでいたのだ

ゴゴゴ…と地響きが鳴り止まないのを聞いたネズミ達は急げ急げと

怪我人達を川に蹴り落とす

そうしてかなり手荒い彼らの脱出劇は成功を納めた


川から上がってリュックから出したタオルや布で身体を拭きながら

カノープスは少し遠くに見える城下街を見る

「ありがとう!きみがみんなを救ってくれた!」

「もう諦めてたんだ…本当にありがとう」

獣人達が口々にカノープスにお礼を言う

「本当に有難いと思うなら金貨で答えておくれよ」

そんな風に言いながらも

カノープスは悪い気はしていなかった

「カノープス…」

「アルシャイン、何だい?」

「お前は戻るんだろう?」

「…直ぐじゃないけどね、戻らざるをえないのさ

だからこれ以上おたくの世話は焼けないよ

もし故郷に帰りたいなら、来週の水曜日にバラーイエロの糸杉の根元に行けば

あたしとやり取りしてる奴が取り引きに来る

そんで、この事態を説明すりゃ連れて帰って貰えるでしょ」

アルシャインはありがとうと頭を下げた

だが、彼は目が見えないので1人ではそこまで辿り着くことは不可能だろう

「…たく、しゃーない

糸杉までは送ってやるよ!」

「今は何も礼ができない…」

「かー!!うるさいねー!元気になったら

たんとうちで物を買いな!」

カノープスが外に居られるのは後約5日

彼をその糸杉まで連れて行く事は出来ても

見送ることは出来そうにない

「ディシーブ、あたしらはここでお別れだ」

「本当にありがとう

メルザーガは怖いけど、この恩は忘れないよ」


アルシャインの手を引きながら

フルール達に見送られ、2人はバラーイエロの糸杉を目指して歩き始めたのだった

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