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NOSIRP  作者: まるっち
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尊敬の槌が壊す壁

気が付いた時には、ヴィシャスの道の洞窟に戻されていて

デリックは呆気に取られながらも

「俺は人間だ…」とうわ言を繰り返すセシルに肩を貸し

足を引き摺りながらも何とか洞窟の外へと脱出した

「…54番通り…」

あの路地まで行ったとして、セシルは自力で家に辿り着けるのだろうか?

それに自身の傷の手当ても必要だと

そう考えたデリックは、ここからほど近い

ダスカの隠れ家に移動することにした


ルッツの姿は見えなかったが

放心状態のセシルを引きずったうえで

彼のことまで気に留めているほどの余裕はない

何とか日が完全に暮れる前に小屋に辿り着いた彼は、非常用に残していた物資を使って

怪我の応急処置をして、火を焚き、温かい食事を準備した

その頃には、セシルも少し落ち着いたのか

相変わらず部屋のすみに蹲ってはいるものの

同じ言葉を延々繰り返すような事はなくなっていた


「食えるか?何か腹に入れた方がいい

空腹は思考力を低下させる」

質素な穀物の粥でも、摂らないよりマシだとセシルに渡し

デリックもそれを冷ましながら口に運んだ

消えたルッツをどうするか

捜しに行くべきだろうかと、思考を巡らせながら食事をしていると

セシルが小さな声で言葉を発した

「…見ただろ…俺の本当の姿を…」

「何のことだ?」

「…俺は…人間か…?」


自分が自分ではなくなる感覚

農夫が襲い掛かってきた時

セシルは自分の中の魔物に支配されるのを感じた

そして、妻子にそうした時のように

気が付いた時には口の中には血や肉の味が残り

満腹感と酷い倦怠感、散らばる肉片がそこに残されていた

「俺は…俺は…魔も「あんたはあんただろ」

暖炉の炎がゆらめき、デリックのどうでも良さそうな顔を照らし出していた

「世界には猟奇的な殺人鬼が沢山いる

人間を襲って食べ近親相姦を繰り返し

人体の一部を切り取ってコレクションしたりとまあ…

理解できない事をする連中だ

…そいつらは魔物か?違うよな?

ただの人間だ、犯罪者ではあるがな」

「…」

「あんたは襲われた、正当防衛だ

殺すしかなかった」

「…俺は人間のままだったか…?違うだろ…」


唇を噛むセシルの口から血液が流れ出る

確かにあの時、セシルの鼻筋は伸び牙はより鋭く

全身も人とは言えないほど毛深くなっていた

「だからどうした、あんたはあんただろう」

「…どうして…」

普通の人間の反応なら

あの時のセシルを見て逃げ出すか殺そうとしてくるものだ

所が、デリックは彼の異常性を目の当たりにしてもなお

こうして普通に接してくる

それが何故なのか分からなかった

困惑するセシルを見たデリックは、はぁ…とため息を吐いて静かに話し始めた


「昔犬を飼っていた」

デリックは大陸ラウリシルバの国の一つアビスのヴェルシコロルで生まれた

彼の家はアビスでも名の知れた富豪であり

その息子である彼も何一つ不自由のない暮らしをしていた

そんなデリックだが、友達らしい友達はおらず

媚びへつらい近付いてくる大人や、物目当てで近付いてくる同世代の子供に対して子供ながらに

いつも冷めた目で彼らを見ていたという


そんな彼の唯一の親友が

5歳の時に買い与えられた一匹の犬

犬にとってはデリックの親の財力や身分などどうでもいい話

言葉は通じなかったが、真の親友を手に入れたと思った彼は

その犬を何よりも可愛がった


それはデリックが16歳の時に起こった

その年のニゲラの後、犬が言葉を発した

「まず、俺の名前を呼ばれた

聞き間違いだと思ったが

アイツはもう一度、拙い言葉で俺の名前を呼んで一緒に出掛けようと言ってきた」

それは犬の魔物化を意味していたが、デリックはそんな事はどうでも良かった

親友と会話ができる

これがどれほど嬉しいことだっただろう

それから、毎日飽きる事なく彼は犬と話した

この幸せがずっと続くと思っていた


「それから、一年経つ前にアイツは殺された

理由?魔物だからだ

人言を話す犬は、犬ではないと言われた

…俺にとってはアイツはアイツで

魔物だろうが犬だろうが関係なかったのにな」

犬を殺処分した両親の心配は分からなくはない

しかし、犬は一度もデリックに牙を剥いたことはない

「俺は物作りが好きで、元々家の家業を継ぐ気はなかったから

それを機に家を出たんだ

で、まあ色々あって今ここにいる訳だが…」

ここまで聞いたセシルは顔を顰めた

「…まさか俺がその犬に似てるとか言わねぇよな?」

ぶはっ!デリックは盛大に吹き出した

「そ、そういう考えはなかった…

そうじゃない、俺にとってあんたが何であれあんたでしかないって言いたいんだ」

「…俺は俺…」

「身の上話が嫌いな俺にここまで話させたんだ

少しは自分を受け入れてやれよ」


日が明けてからデリック達は小屋を出る

「アイツを助けに行くか?」

デリックのいうアイツとは、ルッツの事だろう

セシルは少し考えてから首を横に振った

「…無理だ…勝てねぇ

あの女は…アイツは…」

セシルが捜していた魔女に違いなかった

念願の再会を果たしたというのに、あの時

相手の圧倒的な強さから噛み付くことすら叶わず

ただ尻尾を丸めて怯えるだけしかできなかった

このままそこに戻ったとしても

勝てる見込みなんて1ミリもないとセシルは項垂れる

「分かった、負けると分かってて俺も突っ込む気はないし

そこまでお人好しじゃない」

ルッツのことは諦め、城下街へ戻った2人はそのまま別れることにした

「…じゃあな、巻き込んで悪かった」

「まあ、全く収穫が無かったわけじゃないし

…そういえばあの魔族、エーテル弾が異常に効いたな

アレは本来魔力を一定数奪うくらいのデバフ効果しかない弾なんだが

…お前は今日じゃなくても、いつかはあの魔族ともう一度対峙するんだろう?

その時は声を掛けてくれれば微力だが協力できるかも知れない」

「…どうして、お前には何のメリットもねぇだろ…」

困惑するセシルにデリックは、笑い声をあげ背中を向けた

「ははっきっとあんたが飼い犬に似てたんだ」

トボトボとノーシルプへ向かう

妻子の仇を目の前にして、何も出来なかった悔しさや

デリックに「あんたはあんただ」と思いもしない受け入れられ方をして

まだ少し混乱していた

「…いや、なら…俺は2人を殺したただの殺人犯か…?

違う…そうじゃないだろ…

俺は魔物に変えられて2人を…食った…」

大切な人を守りたいと思いこそすれば

殺したいなどと思う訳もない

2人を食べたのは明らかに自分の意思ではなく、自分の中に確か存在する自分とは違う“意識”だ

セシルはそう思わなければ、自分が最愛の人達を殺したという事実で押し潰されてしまいそうだった

自分でも自身がよく分からなくなってきていた時にノーシルプの前まで帰ってきた


最悪な気分で扉を開き共有スペースに踏み入れ、思わずえっと声を上げる

「よ、おっさん帰るの遅かったじゃんw」

魔女を追いかけた消えたはずのルッツの姿がそこにはあった

「…お、お前…どうやって…!!」

「どうって、ゲリリート山の登山口まで

あのお姉さんが送ってくれたけどwww」

「…魔女だぞ!?そんな訳あるか!!」

「そう言われてもw事実俺はここに居るしw」

セシルの追ってきた魔女は“狂宴の魔女”と呼ばれる規格外に狂った魔女として有名な魔女だ

この魔女のせいで一体何人の犠牲者が出たか

分からないくらいには凶悪な相手である

「…呪い…呪いは!?」

生かして返したのなら意味がある筈と

セシルはルッツに掴みかかる

「ちょwwwベッド行く?www」

しかし、セシルが呪いを受けた時のような感じはルッツからは全く感じられなかった


訳が分からない


セシルはバッと振り払うようにルッツを離し

髪をぐしゃぐしゃに掻き回して

ソファーにドカッと座り込んだ

「あ?」

ルッツが素っ頓狂な声をあげたので

セシルはゆっくりとそちらを見上げると

マルクスが2人を見下ろしていた

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