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NOSIRP  作者: まるっち
44/84

人間

「ーぅっ」

ルッツが目を覚ますと、そこは明らかにヴィシャスへの道とは異なる場所だった

やっぱりダンジョンだったと辺りを見回すと

セシルが壁に向かって何度も繰り返し攻撃を加えていた

「ークソッ!ふざけんじゃねぇぞ!!」

自分達が取り込まれた、口であるだろう部分をこじ開けようとしているらしい

「あれ?モヒカンのおっさんは?」

「…っチ!アイツは先を見に行ってる」

「一人で行かせたのかよw

え、レベル低いんじゃねぇの?www」

「…レベルだけでいうなら、お前よりは高いぞアイツ

それより手伝え!じゃないと出られねぇぞ!」

デリックが一人で進んだと聞いて、何その死亡フラグと思ったが

数分もしないうちに彼は戻って来た

「ここから次の部屋まで魔物の気配は全く無かった

部屋には踏み入ってないから分からないけどな

…本当にここはダンジョンなのか?」

聞かれてルッツもうーんと考え込む

感覚としてはダンジョンっぽいのに、魔物の気配もなく

そして、意思を持ったようにそれ自体が自分達を取り込んだ

そういう例を知らないし、それをダンジョンに分類していいのか分からなかったからだ

「…とにかくお前らもここを壊すの手伝えよ!」

「てか、7日経てば強制的にノーシルプに戻されるからここで待ってれば良くね?」

そう、ルッツは七日という時間さえ耐えれば

強制送還があるのでそれほど焦ってはいなかった

「…デリックはどうなる

そいつはあそこの居住者じゃねぇだろ」

7日でリセットされるのは2人だけであり

デリックは何らかの方法でここから出なければならないのだ

「何の話だそれ」

「…いや…」

「俺達シェアハウスに住んでんだけど

そこのルールで7日帰らないと

強制的に部屋に戻されるんだわwww」

セシルは彼にノーシルプの事を話すべきではないと思っていたが

ルッツはサラッとそれに答えてしまった

「シェアハウス?…それは何処にある」

何処って54番通りの路地裏を…「おい!」

詳細を話そうとしたルッツの腕を引っ張りセシルはそれを止めた

「何だよ、どうせ話したって来れないだろw」

「そういう事じゃねぇだろ!」

しかし、ここまで話してしまえば

もう殆ど話た様なものである

セシルは観念したように、分かっている範囲で大まかにノーシルプがどういうものか

どれだけ危険なのかを話した

「なるほどな、あの路地であんたを見失う理由の合点がいった」

「…何…?お前まさか俺を尾行してたのか!?」

尾行に気付かないなんてと驚いたセシルに

デリックはいや、と否定してから

彼は内ポケットに手を突っ込んで小さな甲虫を掌に乗せて見せてきた

「…虫?…お前そんなもん持ち歩いてんのか?」

「虫の形をした発信機だ

コイツであんたの動向を探ってた

あんたを信用していいか知るためにな」

デリックが小さな虫を指で弄ると、それは動き出しブンと飛び上がってセシルの肩に止まった

「…ヴェルシコロルの技術か」

「まあそうだ」

セシルの肩から虫を取り外しポケットにしまうと、デリックは体を抱くように腕組みをする

「で、どうする

ここが本当にダンジョンっていうなら

攻略しちまえばいいんじゃないのか」

「…そう言われりゃそうだな

仕方ねぇ…進むか」

セシルは、壁に攻撃するのをやめて奥へ進む方に歩きだした


「てか、おっさんw

動向探られてたのに怒らねぇの?www」

「…別にいい、俺に何かしようとしてた訳じゃねぇなら」

セシルはどうでも良さそうにいう

そして、3人はデリックが偵察した場所まで辿り着く

その先は少し開けた場所になっていて

明らかに何かありそうな雰囲気であった

「本来ならこういう場所に敵がいるよなw」

目に見える範囲には何も居ない

「…お前らは後から来い」

セシルは臆せずに1人でその部屋に足を踏み込み、彼が数歩進んだところで

入り口部分の地面から鉄の柵が迫り出してきて3人は分断された

更に、壁だった場所が崩れそこから1人の男が現れた


ところが現れた男は何処からどう見てもただの農夫であり、人間だった

「…何?どういう…」

困惑したセシルに出てきた農夫が襲い掛かってくる

「ぐるぉおおああ!!」

凡そ人とは思えないような声をあげ、まるで獣のように逃げるセシルを追う

「…やめッ…チッ!」

埒が開かないと、セシルは農夫を絞め落とそうと掴みかかるが

人間というより、猛獣ともとれる抵抗にあって離してしまう

そして、飛び掛かってきた農夫がセシルの喉笛に噛み付いた時

彼の中で、彼の過去がフラッシュバックした

鉄の柵がゆっくりと地面に戻っていき

2人は部屋の中央で血肉に塗れ、蹲るセシルに駆け寄った

「…違う…違う…違う…」

セシルはうわ言のようにそう繰り返している

彼の周りには、バラバラにされた農夫の残骸が散乱しており

デリックは思わず目を背けた


「おっさん、今のは正当防衛だって…」

「…違う…違う…」

放心してる彼にルッツが声を掛けるが聞こえてないようだ

どうしたものかとルッツがセシルの背中に手を置いた瞬間

彼は「ぎゃあ!」と声をあげ部屋の隅に移動しガタガタ震えた

「えっw何?どうしてwww」

そのまま震えるセシルは、農夫が出てきた先へと続く道を見ている

それに釣られるようにそっちを見ると

足音が近付いてきて、女が1人ゆっくりと部屋に入って来た


さっきのこともあるので、ルッツもデリックも身構える

「誰が来たのかと思ったら、順調に育ってるみたいで安心しました

…初めての成功例になりそうですね」

背の高い、灰色の長い髪の女が不気味に笑い

2人を無視して壁際で震えるセシルに向かって一直線に進み出した

感覚的に良くないと感じたデリックは、かなり強力な弾丸を素早く装填し女に向けて放った

所が、その弾は片手で簡単に取り去られ

女が指で弾いた弾はデリックの太腿に穴を開けた

「ーぅぐっ!?」

「貴方達2人もちゃんと後で遊んであげるから

大人しく待っていなさい」


女はうずくまるセシルの前にしゃがみ、彼と目を合わせた

セシルはガタガタ震え歯を鳴らしながら、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている

「おや…お前…いつの間にアデモスの飼い犬になったの?

お前は私の犬でしょう?」

「ぢがう…!俺は人間…人間だ!!」

セシルが叫ぶ

デリックは膝をついたまま持っていた銃の部品を素早く取り替え弾を装填した

それを見たルッツはデリックから離れ

わざと女からよく見える位置に移動してナイフを投げる

「待てないの?」

当然、ナイフはいとも簡単に弾かれてしまう

女がルッツを見たまま立ち上がったところで、デリックが女に向けて発砲した

女は気付いていたようでそちらに手を向け

初めにそうしたように、その弾丸を手で受け止めようとした

ルッツ的には囮になるつもりの作戦が失敗したと落胆したが

デリック的には成功だった

特殊な弾丸は女が掴んだ瞬間弾け、細かい霧を発生させた

「ー!?手が!目が!焼けるッ!」

女は悲鳴をあげ、来た方に走って逃げて行った

「あんたもやろうと思えばやれるじゃないか」

デリックは銃を担ぎ直し、ルッツに言うと

蹲り震えているセシルの方へ足を引き摺りながら歩いていく

「てか、今の何?」

「ただのエーテルだ」


ぶるぶる震えるセシルに声を掛けながらデリックはその背中をさすった

「アイツは逃げて行った、大丈夫だ」

「…ぅゔ…グルル…」

そんな2人を遠目に、ルッツは逃げて行った女が気になり

彼女の逃げて行った方へ歩き出す

それに気がついたデリックはおい、と声を掛けたが

ヘーキヘーキと言いながら彼はそのまま奥の道へ1人で歩いて行ってしまった


薄暗い通路を奥へ進む

幾つかの曲がり角を折れ、階段で更に下へと下がった所にその部屋はあった

壁は全て本棚で本で埋め尽くされ

バイロンやアスシアスの所で見たような

よく分からない器具やアイテムが沢山あった

そんな部屋の中に女はいた

彼女がドロドロと溶け出した顔を上から下にゆっくり撫でると

撫でた箇所から元通りになっていく

「なあ、あんたって“魔女”だったりする?」

そんな彼女にルッツは臆せず声をかける

女は溶けた部分を全て治してから、ルッツにゆっくりと視線を向けた

「命知らずな人間…」

「ここってあんたが作ったのか?

これって研究室?それともダンジョン?

どうやったらこんなの作れる?

俺にも教えてよ」

女はルッツの言葉に口角をギュッと吊り上げて笑う

「興味があるのね…良い心がけ

でも人間のままでは出来ないことよ

お前は人間を辞める覚悟があるのか?」

「俺は人間じゃなくてルッツだ

使徒に邪魔されない、魔物や魔族と一緒に暮らせる国を作るために勉強してる

だから教えてよ

ここってダンジョンなのか?」


女は口が裂けるほど口角を釣り上げた

途端に周囲の魔素が濃くなっていく

それはあまりに濃すぎる為に、視覚的にも分かるほど

数秒ごとに部屋の中が暗く、黒くなっていくのだ

そうニゲラの時のように…


いつの間にか自身の手すら見えないほどの黒に辺りは塗りつぶされ

女も当然見えなくなった

しかし、濃い気配が確かにある

『お ま え に い い も の を あ げ る』

ルッツはその声を耳元で聞いた

そして、次の瞬間

全身の穴という穴からドロリとした高濃度の気体とも液体ともいえない

何かが流れ込んでくるのを感じた

「ーんぐっ!!」

全身に激痛が走る

皮膚の下を虫が這い回るような感覚

脳みそをかき混ぜられ

内臓を引っ掻き回されるように…

全身がメチャクチャにされたような激痛に襲われ


ルッツは気を失った


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