悪意の道
「よっしゃ…!レベル30だぜ!」
ダンジョン清掃のバイトに通い詰めて
やっとレベルを30まであげたルッツは、喜びのあまりガッツポーズを決めていた
「順調に夢に近付けてるなら良かった」
あの日以来、ジクスは完全に何も無かったかのような態度だが
ルッツは取り敢えず気にしないことにして
アスシアスに言われたように、最低でもレベル50を目指して今日も地下墓地のダンジョンを潰して回るのだった…
◆
反乱軍とグラウンドベアの侵攻の危機が去った後だが
今だに城下街、もといスノームース全土が混沌としていた
セシルは王に向かってデモを繰り広げる民衆の横を通り過ぎ、南門の辺りまでやって来た
ここには武器や防具などの工房が集中している
セシルはその中の適当な一軒に入り、店の人間に話しかけた
「…最近この辺の工房で働き始めた奴で
ハーウェーの男を捜してる…知らないか?」
何軒か聞き込みをして、一軒の工房へ辿り着く
“レドモンド装具店”古めかしい看板にそう書かれている
扉を開けようとセシルがドアノブに手を掛けた時
店の横の路地から、フードを目深に被った男が声を掛けてきた
「俺に用か?」
「…ああ…」
フードのせいで顔は見えないが、声から察するに捜していたデリック本人だろう
2人は店の隣の路地に入る
「それで、どういった要件なんだ」
「…いや、要件っていうか…」
初めに彼がベアから逃げていると聞いていたので
心配になって見に来たと言うのが何だか少し恥ずかしくなったセシルは
適当な言い訳をいうことにした
「…お前、鉱石探してたろ
これから行こうと思ってる場所にそれがあるから
…興味あるかと思って」
「何処だ?」
「…ゲリリート山」
ダスカよりも少し遠く、ワピチ領を囲う山脈の続きのようにあるその山には
沢山の洞窟があり、数多くの貴石や鉱石が取れる場所であるが
一方でダンジョンも多数報告されている難所である
「いいな、だが俺は戦力にならないぞ」
「…全くって訳じゃねぇだろ」
「まあ、けど期待されたら困る」
「…援護だけしてくれたらいい」
分かったと言うと、デリックは裏口から店に入って行き
数分の後に戻ってきた
「休みを貰ってきた、それとクソみたいなリスト表
…まあいいか、買い取ると言ってたから」
どうやらゲリリート山に行きたいと言ったところ
休みをやるから鉱石を取ってきて欲しいと言われたようだった
「…なんか悪いな」
「いや、いい、俺も欲しい物がある
ここの王の不祥事のせいで色々手に入りにくくなってるからな」
・
・
・
ゲリリート山に着いた時
彼らのパーティーは何故か3人に増えていた
と言うのも、向かう途中の城下街の中で偶然ルッツに出会ってしまい
断っても「俺も俺も」と勝手に着いてきてしまったのである
「…チッ…死んでも知らねぇぞ」
セシルはここまでしつこく着いてきたルッツに舌打ちをして山の中へ入っていき
その後ろをデリックが着いていく
「逃げるのは得意だから気にすんなw」
ルッツはそんな風に呑気にその後に続いた
「なるほど確かに魔物が多いな」
低レベルなものと一々エンカウントしないようにと
デリックが持ってきた忌避剤を使ったが
四方から3人を品定めするような視線と魔物達の息遣いが聞こえていた
そんな中を荒れた登山道を進んで行くと
右手に洞窟への入り口と標識が立っている
【この先、アブソン氷穴】
この氷穴は比較的難易度の低い洞窟ではあるが、同時にレアリティの高い鉱石類は期待できない
デリックもあまり興味を示さなかった
なので、さらに奥へと歩みを進める
そして辿りついたのは
【ヴィシャスの道】
「…難易度はかなり高い、その代わり取れるものは期待できる
ただ、流石に守り切れるか分からねぇ」
どうする?と聞かれたデリックはルッツを見た
「あんたは何で着いてきた」
「俺?俺はレベル上げのためw」
「つまり戦う気があるって事だな?」
ルッツは相変わらず、キャリーしてもらう気満々で着いてきていたので
戦力として戦うことを求められると、あからさまに嫌そうな顔をした
「俺、そんな強くないwww」
「…デリック、そいつと話すとバカになる
お前が行きたいなら行くぞ」
ルッツの態度にムカついたセシルは、デリックの腕を捕まえ
洞窟の中に引っ張って行く
「おい…離せ、危ないだろ」
デリックはそんな手を振り払い、はぁ…と盛大にため息をついて
行くから触るなとセシルに注意した
ヴィシャスの道はとても長い洞窟である
同じような風景の道、そして幾つも枝分かれした分岐点
非常に狭い通路や崖も存在していて
単純な洞窟探索だけでも命の危険がある
更にそこに、複数のダンジョンと魔物が棲みついているのだから非常にタチが悪い
レベルが50を超えてくるような
魔物を数頭倒し一般的な鉱石を適度に集めたところで、セシルは立ち止まった
「…おい!テメェ、もう少し何かしやがれ!!
弱いなら弱いなりになんかあんだろ!?」
「何をw攻撃したって通らないじゃんwww」
「…なら荷物持ちでもしろよ!!」
本当にルッツはただ着いてくるだけだった
何なら、デリックの方がターゲットを取ったり特殊な銃弾で援護してくれる
「…もう帰れ!マジで邪魔だ!!」
怒るセシルをえーとヘラヘラあしらうルッツ
そんな2人を尻目に、デリックは今いる場所を見渡した
「なあ、アレ何か分かるか」
彼が指差した方に2人は顔を向ける
そこには何かよく分からない巨大な顔を彫り上げた石の彫刻があった
「…え、何だよそれ気色悪い…」
「ダンジョンじゃね?」
ルッツの言葉にセシルは、はぁ?と彼を見る
「俺、ダンジョンに潜りすぎて
何となく分かるようになって来たんだよな
それ、多分ダンジョンの入り口だぜw」
「…んな訳ねぇだろ、少し前に来た時だってあんなもん…」
セシルがそう指を刺した時だった
巨大な顔の石像の目が見開き、3人を捉えた
「ゔぇ…ッ!?」
デリックは変な悲鳴をあげて、反射的に逃げ出したが
今来た道が急に塞がり進めなくなってしまった
「…クソっ!何がダンジョンだ!!
ダンジョンの入り口はただの穴だろが普通は!!」
石像が動いたことでセシルは魔物の類だと思ったらしく
武器を握り切り掛かった
しかし、石像は異常に固くナイフの刃が欠けてしまう
しかも、弾かれて体勢を崩したセシルを石像が一飲みにしてしまった
「あw食われたwww」
「おいおいおいおい!冗談じゃない!!」
近付かなければ食べられないだろう
だが、セシルを助けるなら近付かなければ
と銃を見つめ葛藤していたデリックの耳に
ゴゴゴ…という音と揺れが届く
パッと顔を上げた瞬間に見た光景は
自身とルッツに迫り来る、大きな口を開けた巨大な石像の顔だった…




