ダンジョンを作るには
再び魔術的な放送が入り、ルッツは反乱の鎮圧を自室で知った
「…ま、そうだよな」
王が王であるのには理由がある
そう簡単にその王が変わるわけがないのだ
「俺に王の素質なんてあるのかな」
卑しい身分、腕っぷしも弱い、王と認められるためのナニカを持っているのか自分でも疑問に思っていた
共有スペースに出ていくと
いつもの光景がそこにはある
ジクスも特に変わった様子もなく、あの時の彼や彼の部屋は
夢だったのではと思うほどだ
新聞を読んでいたセシルは、はーと長い溜息を吐いた
「幸せが逃げるぜ?w」
「…逃げていくような幸せ持ってねぇよ」
彼はそう言いながら、記事の一面を飾る
今回の反乱の記事を指差した
「…鎮圧はされたが、王が魔族の女を囲ってた事実は変わらねぇ
…当分荒れるぞ」
「おっさんは魔族反対派?」
「…魔族はぶっ殺す」
魔女も魔族もセシルにとっては変わらない
あまりにも相手が強すぎて歯が立たないだけで
本当ならマルクスや、その眷属の2人も
今すぐ八つ裂きにしたいとすら考えていた
「荒れるっていうと、この前の暴動みたいなのが起きまくるとかだよな
気を付けて外歩くかねぇとw」
「…それだけじゃねぇよ
魔族が嫌いなのは人間だけじゃねぇ」
セシルは使徒が今回のことをどう判断するか
それで、場合によっては王が変わるかもなとタバコに火をつけた
「それってワンチャン俺が王になれたりする?www」
「…は?ないだろ…
次の王は使徒が決めるんじゃねぇのか」
そう、この人間の世界の何もかもが使徒によって支配されている
ルッツの認識も絶対的な存在であり、人間の守る神の様な存在であるはずだった
もし、ジクスの言っていたことが本当なら…
ルッツは不安で仕方なくなった
◆
ダスカの登山口でアスシアスを呼ぶ
今回は呼ぶと直ぐに現れ、内心ホッとした
彼のラボに入ると、ちゃんと老ゾンビミゲルも居て
ルッツはここでやっと本当に安心した
「ジジイ〜」
「…まったく…暑苦しいよ」
ルッツがベタベタと抱き付いてくるのを
適当にあしらうミゲルだが、どこか嬉しそうである
「今日はどうした?」
アスシアスがいつものただのお湯を出してくれる
「あー…新しい計画を思いついたんだけど、どうなんだろうって思ってさ」
ジクスに話したのと同じ
ダンジョンの中に国を作る話をしてみた
アスシアスはそれを黙って最後まで聞き
暫く何か考え事をしてから、彼の考えを話し始めた
「まず、お前が疑問に思った
ダンジョンの主に人間がなれるのか?
という点だが、恐らくは可能だ」
ミゲルが居た小屋下のダンジョンで、彼の代わりに置いてきたゴーレムは
そもそも魔力で動かしているだけの物であり、生物ですらないと彼は言う
では何故、見つかるダンジョンの全てが魔物を主に置くのか
「答えは簡単だ
動物はあの中では魔物に成るか、死ぬかのどちらかしかないからだ」
ダンジョンは魔素が溜まり淀んだ場所で発生する魔力が創り出した異次元
そんなダンジョンの中は当然、外よりも格段に魔素が濃い
ニゲラ程では無いので、急速に体調を崩すことは無いが
長く居れば居るほど元の姿から離れるか
死に近付くのだとアスシアスはいった
「駄目じゃんwそれってつまり
ダンジョンに国なんて作ったら死ぬか魔物になるかってオチだろw」
「お前達は“魔力下し”を使うだろう
無理矢理感は否めないが、そういったアイテムを使うことで
ダンジョンの中において、人間で居続ける事は可能だと思うぞ」
そう言われてふとルッツは自分の体が心配になった
「俺って人間だよな?死にそう?ねえ?」
「なんだ急に…普通の人間にしては魔素の蓄積量が高いが
直ぐにどうにかなる量でもないだろう」
大丈夫だとお墨付きをもらってホッとする
「しかし問題がある
ダンジョンの主はダンジョンから基本的に出る事は許されない
そうなると、魔力下しのポーションを補給することも出来なくなる」
ここでルッツはあれ?っと思った
ジクスの作り出したノーシルプなのだから
主はジクスだと思い込んでいたのだが
そうだとすると、彼が毎日出掛ける事に辻褄が合わない
「…主は絶対出られないの?」
「出られるが、ダンジョンは消滅する」
それは冒険者がダンジョンのボスを討伐し
外に出るとダンジョンが消滅することをみれば確かにそうである
「てか、ボスを倒した冒険者をダンジョンは引き止めないのな」
「彼らは帰ろうという意思が強いだろう
悩んでいると引き止められるぞ」
「…え、ジジイじゃあ…残りたかったのか?」
「いや、そういう訳じゃない
…でもほら、あれだけ居心地がいいとな
後ろ髪を引かれる思いにはなるだろう?
そもそもだ、俺の住処はあんな状態だしな」
どう見ても人間ではない彼の居場所など地上には存在しない
だから余計に出難かったのだろう
「さて、問題はまだ山積みだ
まあ、場所を選ばないのであれば
その辺に出来た物を乗っ取ればいい訳だが
一からダンジョンを作るとなると、膨大な魔素が必要になる
今お前がくつろいでいるこの部屋は、ダンジョンではないが
ここも魔力で作った異次元であり、コレを作るのに私はかなりの魔力を注いでいる」
クレバスの中にあるアスシアスのラボは、彼が肉体労働をして作り上げた部屋ではなく
魔力で生み出した亜空間に違いなかった
ダンジョンと違うのは、主人が不在でもそこに存在できること
空間に含まれる魔素も濃くなく
そして、無秩序に拡がらないことだろう
そう思うと、ノーシルプはダンジョンというより
アスシアスのラボと同じか?とも思ったが
ジクスの部屋はどう考えても
無秩序に拡がるダンジョンの特性を備えていたし
規模が大き過ぎると感じた
「この部屋ってもっと大きくしたら、中に世界を作れたりしてw」
「無理だ、維持できない
このサイズだから均衡を保っていられる
暴走して部屋が消えるか、養分にされて矢張り最後は消滅してしまうだろう
…さて、作った後も安心は出来まい
冒険者達がダンジョンを消滅させに来るからな」
冒険者ギルドは積極的にダンジョンの攻略を行う組織だ
「敵は冒険者だけではない
使徒も魔物や魔獣の巣になるダンジョンを放ってはおかない
そして、その魔物や魔獣はダンジョンの魔素に惹かれて集まってくる」
「もう無理じゃんwww」
ここまでアスシアスに言われてルッツはソファに寝転がった
一体ジクスがどうやってノーシルプを作り上げたのか本当に分からない
そして、そんな彼からの誘いが
かなり魅力的なものに変わった
「一応言っておくが、ダンジョンは私の専門ではないから
かなり偏った意見だと思ってくれ
だが、普通に考えてかなり難しい話だぞ
何にせよ力がなければ何を為すのも難しい
お前はもう少し自分を磨いた方がいいだろうな」
もっともな意見を言われてルッツは撃沈した
「まあなに…俺は時間だけはあるから
そう急ぐ必要はないよ」
ミゲルに微妙な励ましをもらい
ルッツは取り敢えず、明日はまたダンジョン潰しの手伝いにでも行くかと思ったのだった




