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NOSIRP  作者: まるっち
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魔女に変わる時

コロゴロフの放送はバイロンの家に居た者達にも届いていた

それでいてバイロンは相変わらず、彼を助けに行くつもりはないらしい

「王が殺されてもいいのか?」

という使い魔の問いにも、別に死んでも私は困らないとまで言ってのけた

「アレはそう易々と殺せん、やれるものならやってみて欲しいものだ」

むしろ、王が処刑されるのを待っているかの様でもある


そんな彼の家を、深夜を待って飛び出したルッツは街の混乱を目の当たりにする

昼間の放送での呼びかけで、反乱軍に呼応した領民達が家から出て

あちこちで暴動を起こしているのだ

おかげで目立たずノーシルプまで何とか辿り着いたルッツは

共有スペースに集まっている数人の住民の視線を集めた


「あ、ルッツ出掛けてたんだ

帰ってこられて良かったよ」

久しぶりに会うジクスに言われ、ルッツはヘラッと笑う

「ああ、まあ、街中が大混乱だから

ある意味簡単だったぜw」

「さあ、コレからどうするね

王があのコロゴロフ?とかいうのに変わっちまったら

アタシらここで住み難くなっちまうよ!」

カノープスがヒステリックな声を上げた

コロゴロフの治めるコモンゲラートは、エルカトルよりも獣人に対する差別が激しい

カノープスとしては、商売がやり難くなるので阻止したいのだろう

「そうは言ってもよ、俺らが何か出来るわけでもねぇよ」

ボムは組んでいた足を組み替えてため息を吐く

「確かに、我々獣人がここで声を上げて王を救いに行ったとして

反乱軍側に我々を始末する口実を与えるだけだな」

テインもこのままでは困るが、何も出来ないと首を振った

「ケッ…人間はいいわよね!

お前らの国のことなんだ、もっと真剣に議論に参加してくれないかねぇ!?」

黙って座っていたセシルに、カノープスは苛々しながら怒鳴り散らした

「…王が誰になろうが構わねぇ

俺は魔女を殺れれば文句ねぇからな」

「キー!!」

そんな風にああでもないこうでもないと

話し合う中で、キッチンに移動するジクスにルッツはついて行った


「お茶入れんの手伝うぜw」

「ありがとう、ちょっとみんなを落ち着かせないとね」

心を穏やかにする効果のある薬草を使ったハーブティーを人数分淹れるのを手伝う

「…ルッツは正直、王様に死んで欲しいでしょう?」

お湯を沸かしながら、ジクスが急に言ったことにルッツは驚いた

「何でwww」

「だって、王を倒すのは難しいけど

反乱軍を倒すのはそこまで難しくないと思うよ

それこそ、混乱に乗じて国を掠め取れるかも」


ハーブティーの開封したティーパックから

優しい香りがキッチンに広がった

「…まあ、そうかも知れないけど

俺はなんだかんだ言ってエドリック王嫌いじゃねーしなw」

酷いことをされたのは事実だが、そもそも仕掛けたのはルッツの方だ

ただ話すだけなら、気が合うタイプではある

「王になるのは諦めたの?」

「人間の王にはなれなくてもいいかなとは思い始めてるかもw」

「ハハ!魔王にでもなる気かな?」

「どうだろwww」


ほんの少し前に、恋人をダンジョンに迎えに行った時に彼は

自分が世界でどれほど非力で平凡な人間なのかを思い知らされてしまった

世の中には自信があるだけではどうにもならない事が多くある

どんなに努力をしても、スタートラインから違う自分が

バイロンのような世界的な賢者になることも

アスシアスのような学者になるこも出来ないと悟った


金銭で土地を手に入れられるほどの莫大な富を稼ぐ力も

武力を持って他人から奪う力も彼にはない

ならどうすれば良いのかと考えた時

ふと、少し前に行ったダンジョンを思い出したのだ


ダンジョンは即ち一つの世界であり

主とは要は王ではないかと

人間がダンジョンの主になった例は知らない…

まだ、自分の頭の中で考えただけの構想でしかないが

ダンジョンという土地を一から作る事ができたら

自分が王として君臨し、理想の国を作ることができるかも知れない


また笑われるかもと思いながら

ルッツはそんな絵空事をジクス話しながら

熱いお湯をティーパックの入ったポットに注いだ

「すごい、そこに辿り着けたんだね」

ジクスの肯定

それは本当に感心したようなそんな声色で

彼は今までに見たことのないような不気味な笑顔で笑っている

「えっ…いや…なに?www」


そんな彼の様子に狼狽え、ルッツはポッドのお湯を溢れさせてしまった

「ーアッツ!」

「おっと、大変だ…水で冷やして」

流水で冷やすように言われ、ジクスは布に包んだ氷を取り出して彼の患部に当てた

そして、ルッツの耳元で静かに囁いたのだ

「ノーシルプこそがその国だ」

目を剥いたルッツに、ジクスは不気味に笑い掛けるのだ


俺の部屋においでよ


ジクスはそう言い、ハーブティーの入ったポットとティーカップを人数分持って共用スペースに持って行く

彼は特にいつもと変わらない様子で

遂に喧嘩を始めたカノープスとセシルの間に入っていってハーブティーを勧めた


全員にそれらを行き渡らせると

チラッとルッツに目配せして、彼は部屋の方へ歩いて行く

これから何が待っているのか分からない

恐怖や不安、期待のようなぐちゃぐちゃした感情のままルッツはついて行った

ーガチャ…

ジクスの部屋へ通じる扉を開け中に入り

ルッツは驚きに声を上げた


「…外…?えっ部屋じゃ…」

「ルッツ、ここはノーシルプの中だよ

そして確かに俺の部屋

俺がここまで育てた世界だ!」

そこは広大な草原であり、遠くには山や海の様なものも見えた

まるで外のような場所だが、光を発する恒星は何処にもなく不自然に明るい

「俺はね、使徒が大嫌いなんだ

憎くて憎くて憎くて堪らない…

奴らのいない、人間にとっての本物の楽園を作るのが夢なんだ」

草原にばたりと仰向けに倒れたジクスは空を見上げて不気味なくらい満面の笑みで言う

「使徒に召し上げられた人間がどうなるか知ってる?」

「えっ…使徒の仲間にしてもらえるんだろ?」

「違う、違うよルッツ…

アイツらはね、選んだ人間の優れた部分を奪うために食べちゃうんだ」

「…マジで?」

「選ばれた人間が後日、使徒のように翼を生やして降臨することがあるけど

アレは使徒に成ったその人ではなく、その人の皮を被った使徒なんだよ

選ばれた人達は誰1人として生きていない

この世界は使徒の人間牧場なんだ」


「…誰か大切な人を食われたのか?」

ジクスに問うと、彼は小さく両親と答えた

彼の家系は先祖代々、使徒崇拝の教会でクレリックをしていたのだという

「容姿が良いとか、何か特殊な能力があるとか

そういう“特別”でなくても

長い期間、教会に勤めて使徒に奉仕し続けたクレリックは定年を迎える時に召し上げて貰える

父も母も大層喜んで召し上げられて行ったよ…」

若かったジクスは、そんな2人を喜んで送り出したのだが

後に送り出した父の時に、使徒に成る父を見てみたくて彼らの後をコッソリと着いて行ったのだという

…そして見てしまった


「使徒は、奉仕して召し上げたクレリック達を自分の一部にはしない

年老いただけのただの人間は、欲しい部分もないし美味しくないから要らないのかな

仮死状態にされた父は、新しく産まれてくる使徒の苗床にされたんだ」

生きながらにして、異形の種を植えられた彼の父親は

数分のうちに内側から喰い荒らされ

目玉と翼の塊のような物が腹部を破って出てきたという

「使徒は尊い救世主なんじゃない

醜い異形の化け物だ」

ジクスの感情に呼応しているかの様に、草原に突風が吹き抜けた

「…何で俺に話したんだ?

てか、このアパート作ったのはジクスってこと?

何で…自分も入居者みたいなフリして…」

色々聞きたいことがあったし

色々言いたいことがあった

だが頭の中が混乱したルッツは上手く言葉が出てこない

「数えきれない程の命をこのダンジョンの養分にした

もうすぐ楽園が完成する

人間が何者にも怯えずに暮らせる、素晴らしい世界…

ルッツ、俺は君のような人材を待ってたんだ

ここの王にしてあげるよ」

「なんで…だって、お前が作った世界だろ?

自分が王になるんじゃないのかよ」


「俺は世界そのものになるから」


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