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NOSIRP  作者: まるっち
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ノーシルプ

スノームースは

境界と呼ばれる谷から一番近い場所に位置する国であり

その北側の平野に首都エルカトルがある

この境界の谷というのは

底深い大地の切れ目だ

底には魔族の巣食う世界があり

魔族などの魔物は境界を這い出して散らばって行くとされている

実際に目の当たりにした人間は居ないが

その一帯を含むスノームースは高レベル帯推奨の地でもあり

その事がそれを裏付けているようなものでもあった

その為スノームースの大きな街は、市民の安息を維持する方法として

街を高く堅強な塀で囲んだ

更に、魔物からの戦利品や地位、名誉を求め集まった戦士達が増え

計らずしも世界一の軍事国家として知られるようになる



そんな首都エルカトルへ

老ゾンビを朽ちた墓場に残し

自分の野望を果たすためにやってきたルッツは

先ずは拠点となる住処を探していた

不動産の類を見に行くも

都市のそれは地方のそれとは比べ物にならないくらい値が張る

彼の予算ではアパート一室借りるのも

やっとな金額がカタログに記載されていた


ない袖は振れない

野宿や、以前のように街はずれの空き家にでも住み着こうかと考えたが

境界に近いエルカトルの外壁の外は

夜にもなればレベル50以上、2人以上のパーティーでないと危険だと門番に言われその考えも断念した

「かっこ悪いけど、首都の路地裏に寝泊まりするか

下水道に住み着くかな…」

しかし、下水道は自分の故郷よりも

遙かに高レベルの大ネズミの巣になっていて

危うく死にかけたところを逃げ出すことになる

息も絶え絶えに逃げ込んだ路地裏は

如何にも怪しい者達が目を光らせていた


行き場所を追われ途方にくれていた頃

ふと手をついた壁にこんな張り紙を見つける

ーーーーー

“シェアハウス:ノーシルプ

同居者募集中

場所:6番街96-46番

家賃交渉相談可”

ーーーーー

彼は早速そのシェアハウスへと向かった

幾つも角を折れ、大通りを越え

辿り着いた場所は薄暗い路地裏の一角

そこに“ノーシルプ”の表札のある一軒の家が建っている

その雰囲気に圧倒され

男が玄関の前で躊躇していると

背後から突然声を掛けられた


「もしかして、入居希望者?」


振り向くと銀髪と翡翠色の目を持った

口ひげを申し訳程度に生やす男が

彼の様子を伺っている

「広告見て来たけどさ

家賃交渉出来るって書いてあったけど

この街の相場も出せないぜ」

「お金?ああ、大丈夫、心配要らないよ

ここに来られたんだから…

立ち話もなんだから入ってよ」

銀髪の男が扉を開き先に入るように促す

それじゃあ、と男が足を進めると

扉の両脇に置かれている鳥のような魔物の像から強烈な視線を感じた

ルッツが玄関の扉を越えると、後に続いて銀髪の男も家に入り前を歩き始めた

「玄関の2匹は元々、少し遠くの教会の屋根に居たんだよ

教会が使われなくなって寂しそうにして居たところを連れてきてね

今ではここで門番をしてくれてるんだ

君も顔を覚えられたから、次からは鍵を開けてくれると思うよ」

「…は?」

「あれ?気付いたのかと思ったよ

あの石像はガーゴイル

この家の住人には無害だから安心してね

あ、あと俺の自己紹介まだだね

俺はジクス・ジンジャー

ジョブはクレリックだよ

これから宜しくね」

「ルッツ・リベラ

世話になるぜ」

ジクスがガチャリと廊下の突き当たりのノブをひねる

そこは12畳程の広さの部屋で、真ん中に机と複数個椅子、壁際にソファーが置かれていた

「ここはリビング

こことバスルーム、洗濯機、中庭、キッチンは共有だよ

あ、冷蔵庫の中に物を入れる時は名前を書かないと誰かに食べられちゃうからね

君も名前のあるものは、誰かの物だから手を出さないように

で、奥の扉は個室に続いてる」


その奥の扉が開き

気怠そうな男がリビングに入ってきた

彼はジクスとルッツを横目に見て

チッと舌打ちをし、ソファーにドカリと腰掛け新聞を読み始めた

「彼も住人の1人だよ

ああ、ここでのルールなんだけど

他の住人のことはむやみに詮索しないこと」

てっきりジクスの家を2人でシェアするのだと思っていたルッツは

他の住人の存在に少し驚いた

「続きは一度、ルッツの部屋を見てからにしよう

俺はこのリビングに居るから見ておいでよ

あ、荷物置いてきても大丈夫だよ」

それ以上の案内はしてくれないらしい

ジクスは奥のキッチンへ行ってしまった

行けと言われても何処が自分の部屋なのか分かるわけないと

ルッツは奥の扉の前で肩をすくめる


「…行けばわかる」


新聞を読んでいる男が

新聞に視線を落としたまま

面倒臭そうに呟いた

言われた通り開いた扉の向こう側には

扉は1つしかなかった

廊下にしてはやけに短く、その存在があまりにも不自然だと

訝しく思いながらノブを回す


…その先は廊下ではなく部屋だった


質素なベッドと一対の机と椅子

小さな衣装ダンスが1つ

「えw何これww

まさか、さっきのおっさんと相室とかwww

しかもベッドは1つとかwww

まあ、俺はいいけど

おっさんそこそこイイ男だったしw」

ルッツの荷物は麻の袋1つ

特に置いていく程のものでもないので

部屋の確認だけしてリビングに戻った

リビングでは中央のテーブルに

ティーカップを向かい合わせに置き

ジクスが座って待っている

「部屋はどうだった?」

「シェアハウスって聞いてたんですけど

シェアベッドじゃないっすかwww

そのおっさんと相室って、料金はそういうことかよ?www

いいぜ、とことん悦ばせてヤるよw」

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべた

が、ジクスは目を丸くして首を傾げる

「…おいテメェ

おっさんって俺のことじゃねぇだろうな」

男が新聞から顔を上げルッツを睨みあげる

ジクスはよく分からないけど、と

2人を無視して話を続けた

「部屋は1人1つあるよ?

家賃は毎月、家に必要な物を納めることになってて

先人達の調べだと…

・お金

・魔物素材

・魔力

・生命力

のどれかなら確実だね

足りない分は大体の場合、魔力か生命力のどっちかを持ってかれる

レベルに見合った分を要求されるから

よっぽど怠けたりしなきゃ死なないから安心してね」

ジクスがそこまで話し終えると新聞を読んでいた男は立ち上がり

そのまま外へ出て行った

「俺は家にいる間は大体このリビングに居るから

また、何か聞きたいことがあれば聞いてね

答えられる範囲で答えるよ」

「おっさんは?」

「セシルはどっちかと言うと夜型だから

会いたいなら夜だね

パーティーに誘っても初めのうちは無視されると思うけど面倒見はいいよ

それじゃあ、明日も早いから俺そろそろ寝るね」

ジクスは空になったティーカップを下げ

リビングの玄関側に近い扉から出て行った

ルッツも奥の扉から自室に戻り

ベッドに横になる

「…変な感じだぜ」

隙間風も入らない暖かい部屋

安全が確保され、布団は柔らかい

「アイツ、今どうしてんだろ

俺がいなくて泣いてないよな」

いつも隣にいた老ゾンビの存在が恋しくなる

ルッツは唯一の荷物、麻の袋から小さな巾着を取り出して

更にその中から乾いた肉片を手のひらに乗せた

それは、腐敗臭を立ち上らせる

老ゾンビの一部に違いない

「んーこれこれ」

心ゆくまで腐臭を堪能した彼は

ようやく瞼を閉じたのだった

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