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NOSIRP  作者: まるっち
39/84

小屋下のダンジョン

出合頭に臨戦態勢に入ってヒヤヒヤしたが

険悪だったのは本当に始めの少しの間だけで

今ではダンジョンの中を歩くバイロンとアスシアスは

ルッツには分からない専門用語だらけの魔術の話を2人で繰り広げていた


ノロイーストのウルベテルへ

バイロンの書き上げた転移魔法の魔法陣を使い、一瞬にして到着した一行は

当初の目的通り、あのダンジョンへ降りていた

3人とも後衛というなんともバランスの悪いパーティーだが

バイロンは“賢者”と言われ、人間の中では最強の部類に入る男であるし

アスシアスもしがない学者といえど

魔族として長い年月を生きてきているということは強さの証明でもあった


前を進む2人は、ダンジョンを観察しながら

奥から現れる敵を物理的に排除する

「魔術師なのに魔法で戦わないのw」

バイロンが巨ウジを蹴り殺したのを見て

ルッツはこんな状況を前にもどこかで見たななんて思った

「魔力は有限だからな」

魔力回復ポーションは幾つか持っているが

魔力が尽きてしまえば、自分はただの老人であるとバイロンは言う

「アスシアスも?」

「ただの魔族になるな」

ただの魔族ってなんだよと思いながら2人についてく


この前、ルッツが到達したあたりまで

まるで散歩をしているかのように余裕で到達した

「俺はここまでしか来れなかったんだけど…

ここでダンジョンのどのくらいまで来たと思う?」

「3分の1くらいかと思う」

アスシアスは大気の中に混ざる魔素に魔力を流すことで、凡その規模が分かるといった

「規模的には中程度か」

「我々ならそれ程苦にならないでしょう」


大ネズミですら、魔法を使わずに

前を歩きながら殺していく本来なら後衛である2人に

ルッツなんだか自分の頑張りが馬鹿らしくなってしまう

普通の後衛は前衛のように前に出て戦うなんてことは先ずしない

そのくらい2人のレベルが高いのだ

何匹目かの大ネズミを叩き潰した頃

ダンジョンの敵にアンデットが混ざり始めた


「ダンジョンについて調べた幾つかの論文があるが…」

アスシアスは今まで読んできた

魔族領の論文について話し始めた

彼が話すダンジョンについての話は、ジクスが話してくれたことが大半ではあったが

初めて聞くことも中にはあった

「…傾向というのがあって

生成された場所とボスの種類で中を徘徊する魔物の種類が偏ってくるという物がある」

「あ、それ分かるぜ

アリの大軍が出てくるダンジョンは女王アリがボスだったし」


巨大ウジに始まりその他不快害虫

オオネズミ、ゾンビネズミ、骸骨ネズミ

そしてゾンビ…スケルトン

「墓地らしいラインナップだよな」

笑うルッツにアスシアスは少し難しい顔をしてこんな可能性を話した

「ボスがゾンビの可能性があるな」

ルッツはまあ、墓地ならあるんじゃねと気にしていない風だった

「お前の捜している男もゾンビなのだろう」

「…まさか、ジジイがボスかもって言ってんの?w

無いっしょwダンジョンに住み着いてるっての?www」


そしてその懸念は現実のものとなる

迫り来る魔物を倒していき、辿り着いた一番奥の部屋

そこはまるでどこかの居室の様な部屋になっていて、そこの椅子に座った老ゾンビが

入ってきた3人を見て濁った白い目を剥いて驚いたような表情をした


「ジジイ!」

戦闘態勢をとった2人を押し除け、ルッツは老ゾンビの目の前まで行くと

その腐った体を躊躇せずに抱きしめた

「驚いたな…どうしてこんな所にあんたが

戻ってきたってことは、世の中は少しは住みやすくなったのか?

それとも諦めて帰ってきたのか?」

「諦めてなんてねーよw

ただ…会いたくて会いに来ちゃダメか?」

「普通ゾンビに会いたい人間はいないよ

それで、そっちの人達はあんたの友達か?」

老ゾンビに指摘されて、ルッツは仲間のことを思い出した

「ダンジョン攻略を手伝って貰った

バイロン爺さんとアスシアス」

老ゾンビは棚から飲み物を出すと

ルッツが旅立た後の話を3人に聞かせた

話を聞く間、アスシアスとルッツは特に気にした様子もなく出された物を飲んだが

バイロンはそれを色々な角度から眺めていた

「じゃあ、ジジイはずっと小屋に閉じ込められてて

んで、逃げ出そうとしてダンジョンに落ちたってことか」

「まあ、そうなるな

ずっと出口を探して彷徨ってたんだが

少し前にこの部屋に辿り着いて、心地がいいので止まっていたんだ」

日に何度か魔物の訪問はあるが、その程度だと彼は笑う

ルッツは飲んでいたコップの中身を見た

老ゾンビの話が本当なら、彼が出した物は一体どこで調達したのかという話になる

「不思議だろう?この部屋の中の飲食物は減ったら翌日には元通りになっている

…俺は腹を壊したりはしてないよ」

ゾンビである老ゾンビがお腹を壊さない物というのは説得力が皆無だが

味も匂いも変なところのない良くあるお茶

だと思っていたものも、話を聞いた後だと

ルッツは気分が悪くなってきた

「私には問題なさそうだ

ただ、魔力的に作り出された物が人間の体にどう作用するかは分からないが」

アスシアスはそうお茶を飲む

「どうりで歪なのか」

さっきまでお茶を眺めていたバイロンは、事情を知って逆にお茶に口をつける

何なら少し持って帰っていいか?とまで言い出した


「少しこの部屋の中を調べても?」

アスシアスの申し出に、老ゾンビは好きにしていいと返す

「さて、それでお前は何者だ」

バイロンが老ゾンビを真っ直ぐ見据える

彼がルッツに同行したのは、この老ゾンビに興味が湧いたからである

「…年老いたゾンビだよ」

「名前があるだろう」

老ゾンビの名前はルッツも知らない

聞いてもいつも忘れたとはぐらかされていたからだ

老ゾンビは同じ様にバイロンにも言ったが、彼は引き下がらなかった

老ゾンビは少し困った様に頭を掻いてから

ルッツにあんたの友達怖いな、と耳打ちして観念したように話した

「俺の名前はミゲル・ホナス」

「私が生まれるよりも前の魔女狩りにそんな名前の男が居たな」

ミゲルはその当時、有名な魔女狩りとして名を馳せていた

人間の身でありながら次から次に魔女を仕留める彼を

人々は利用する一方で畏怖し避けていた

そんな負けなしの魔女狩りも、とある魔女との戦いで負けてしまう

一体どん酷い殺され方をするのかと思ったが、魔女は彼を殺さない代わりに呪いをかけた


それは死なない呪い


“死なない”それだけを聞くと

呪いどころかギフトだ思う人もいるかも知れないが、それは壮絶なものだった

死なないだけで、不老ではない

彼は当たり前に歳をとっていく

どんなに体が衰えても、肉体が傷付いても苦しいだけで死ねない


いつしか人間の風貌からは程遠い見た目に成り果てた彼は

他人から距離を置き、自らをゾンビと呼び

そして…気が付けば本当にゾンビになっていたのだという

「いや、明確にゾンビかと言われれば分からない

ただ身体がとっくに限界を迎えてるのは、この腐敗臭で分かるだろう?

それでも死なない、ほら生ける屍だ」


バイロンは成る程なと老ゾンビ、もといミゲルの話しを聞いた後

彼をよりじっくりと観察した

ルッツが話そうとすると、口元に人差し指をたててそれを遮った

「…魔族ではない…だが、人間でもなさそうだ

なかなか特殊な事象で興味深い

色々と試したいことが出来た」


「これは何だ?」

部屋を調べていたアスシアスは箱の中にある物を取り出して不思議そうに聞く

「ああ、それは俺の故郷でよく食べられていた加工品だ」

ミゲルが言うには

初めは何もない部屋だったのだが、時が過ぎるごとに勝手に物が増え

それらは彼の記憶にある物ばかりなのだという

「今じゃまるでここが実家のように心地良くてな

もうここに住めばいいかと思い始めてた頃だ」

「…ふむ、そうか

ダンジョンは主を求めている

主が居なくてはダンジョンとして成り立たないからだ

何故そうなのかは突き止められていないが

お前がここから抜け出そうとするから

それを止めるためにダンジョンが“考えた”という訳か!」

「俺がダンジョンの主だと…?

そんなのになったつもりはないよ」

ミゲルは肩をすくめた

「お前はそうでも、ダンジョンはお前を主として認めているのだ」


ここでルッツは一抹の不安を覚えた

「それってさ、ジジイはここから出られないってことか?」

ルッツは老ゾンビをあわよくばノーシルプの自室へ連れて帰るつもりだった

「ダンジョンは主が居なければ消滅する

ダンジョンが出ることを許さないだろうな」

「は?困るんですけど?

ちょ、今すぐ主やめてくんない?」

「いや、そんなものになったつもりはないんだが…

というか、俺はここから離れないよ

この墓地に居なければ…あの魔女にもう一度会うために…」

「けどそれって、すごい昔の話なんだろ?

その魔女だってもう生きてないかも知れないぜ?」

ルッツがミゲルの腕を掴み立たせ

部屋を出ようとした途端、出入り口が消えてしまった

「マジで困るんですけどwww」

「お前はソレを連れ出したいのか?」

一部始終を黙って見ていたバイロンがそう言った

それにルッツは何度も頷き応える

「ダンジョンの消滅は主を失うことだ

なら、代わりの主を立てればいい

ダンジョンの主はこのダンジョンで強い者が選ばれる筈だ…違うか?」

「まあ、その通りだが」

アスシアスの同意を得て、バイロンは部屋の床に魔法陣を書き始めた

そして、彼は氷のゴーレムを召喚した

「このゴーレムに負けろ」

「なに?」

「いやいや、老ゾンビだぞ?ゴーレムと戦ったら怪我どころの騒ぎじゃなくね?」

「死なないのだろう?

戦って殺されろと言っているのではない

お前がコレに負けたと認めればいい」

勝負は何でも構わないとバイロンは言った


そこで行われたのは所謂ジャンケン

始めからお互いの出す手は決まっている

打ち合わせ通りに行われたソレは

ゴーレムが勝って、ミゲルが「俺の負けだ」ということで決着がついた


果たして、彼を件の部屋から連れ出すことに無事に成功する

「ここのダンジョンの攻略は冒険者に委ねよう」

「そんな事して大丈夫なのか?

爺さん何らかの犯罪に問われないのw」

「ゴーレム自体そう強いものではない

数時間のうちにボスは変わるだろう

なので私が関与した証拠は残らない」

そもそも、冒険者ではないので

ダンジョンを攻略する義務はないとバイロンは言い捨てた


「では、戻ろう」

バイロンが書く転移魔法陣を

アスシアスが横槍を入れながら新しいものに改良し

4人はバイロンの家へ戻った

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