世界の異変
「ほらよ、今回の分だ」
「毎度ありw」
段々と錬金素材の採取が板についてきたルッツは、この日もオーロラユッカの実をハイドに買い取ってもらい
ルッツは纏まった金額の入った袋を懐にしまった
上機嫌に売り場スペースへ降りると
そこにはヴィンセントが居る
「よ、お陰様でかなり稼げてるぜw」
すると、ヴィンセントは少し驚いた風な表情を見せた
「すごいな、続いてるのか」
「それ、どういう意味www
この仕事めっちゃ割りがいいぜ
お陰ですげー金が増えたww
こんな楽な仕事なら億万長者になれそうw」
ルッツがいつもの軽口を叩く
「これが楽ならよっぽど君はラッキーだ
初めに人手不足と言っただろう?
覚えているか?」
金の為にあのリストの錬金素材を集めようとする者は一定数いる
だが、実際にそれを手に入れ換金できる者はそう多くはないのだという
「年に十数人は、無言の帰宅か行方知れずだ」
そもそも、足りていない素材というのは
入手難易度の高い物ばかり
クレバスの中で見た、氷漬けの死体はそういう事だろう
現にルッツだって、たまたまアスシアスが見つけてくれたから
生きて帰ってこられただけの話である
「そういうお前は?そっちだって錬金素材を売って稼いでるんじゃねぇの?」
「僕は植物素材じゃなく、魔物素材を集めている
戦って勝てない相手とはやらない」
この男、少しぼやっとした感じだが
実はギルドではそれなりに名の知れたソードマンである
素材集めはついでで、彼の本職は要人の護衛や用心棒の方だったりする
「まあ、この仕事が気に入ったのなら
僕も紹介した甲斐があった」
自室に戻ったルッツは、貯めたお金を数える
彼の貯金額は既に1万エルクを超えていた
「よし、これならあのクソデカ魔結石が買えるんじゃね?」
いよいよ欲しいものに手が届きそうで嬉しくなる
かなりの大金である為、先ずは現物を見に行って値段など色々確認してから…
と思って部屋をでると
テインが共用スペースに出て来ていて目が合った
「小僧、ニゲラが来るぞ
5日後…約5日間だ」
彼のその言葉にルッツは笑う
「いや、この前来たじゃんニゲラw
年に一回じゃねぇの?www」
「俺は生まれてからずっと報せを外したことはない…」
そういう彼自身、異例の年内2度目の予感に少し狼狽えているように見えた
「とりあえずあんがとw」
適当にお礼を言って外へ出る
彼の足は闇市の出る裏通りではなく、城壁外へと進んでいた
かなり早足でダスカまで来たルッツは
その登山口であることに気が付いた
アスシアスは時間があれば、またパーティーを組んでくれると約束したが
彼とどう連絡を取ればいいのか分からないのである
「アイツのラボはクレバスの中だよな…」
彼の住処に落ちたのは偶然で
そのクレバスが何処だったか正確には分からない
だからと言って、適当なクレバスを下ったらそれこそ死ぬだろう
「…これ無理ゲーじゃんwww
分かっててまた手伝うなんて言ったなアイツ」
大きな溜め息を吐き
アスシアスクソじゃんwと悪態を吐く
ルッツはとんだ無駄足だったと戻ろうとした
「ー呼んだか?」
戻ろうと振り返ったそこに、アスシアスは立っていた
・
・
・
少しぶりに来るアスシアスのラボ
相変わらず明かりは暖炉の火だけで薄暗い
彼はやっぱり、ただのお湯をコップに入れて渡して来て
スキンヘッドの頭を撫でながら腰を下ろした
「俺来たの何で分かったのw」
「お前が近くで私の名を呼んだからな
魔族にとって名前はとても重要な要素だ
それ自体がある種の呪文でもあり、力を持つのだ」
「そんな重要なもの教えてくれたのwww」
危機管理大丈夫か?なんてルッツは笑う
「特に問題はない
お前に私をどうにか出来るだけの力はないだろう?
名前を使った呪詛はあるが、それは非常に高度なものだ」
それで何の用だったのかと聞かれ
ルッツは本題を思い出した
「あー、ニゲラが来るって本当か知らないけど」
「何?…まさか!」
ニゲラが来ると言われたアスシアスは部屋を出てクレバスの底へ飛び出した
そして、暫く何もせずに立ち尽くす
その後、彼は地面に手をかざし魔力を放った
ーズン!という鈍い振動の後
氷の底にバスケットボールくらいの円形の穴が空き彼はそれを見つめていた
ードドドドド…
遠くから地鳴りのような音が近付いてくる
「何この音」
「しまった、雪崩を呼んでしまった」
アスシアスは急いで部屋に入り玄関を閉じた
「ちょw大丈夫なの?w」
「この中に居る限り、雪崩で死ぬことはない
外に出るのも別の扉を作ればいいだけのことだ
結論から言おう、ニゲラは確かに来る
ここの場所は思っていた以上に空気が澱んでいて気が付かなかった」
ありがとうとアスシアスは早速研究するための準備を始めた
「ニゲラって年一なんじゃないの?」
「この1000年はそれで安定していたので
そう信じられているな」
過去の文献では…と彼は続ける
まだ新魔族が生まれるよりもずっと昔の世界について書かれた本によると
ニゲラは時として数年続くことも
年内で何度も起こることも珍しい話ではなかったと記録されているという
「現存する旧魔族も、その時代よりも後の生まれと聞くので
今生きている誰も経験したことはない」
だから年に何度も起こること自体は
あり得なくはないと彼は言い切った
「さあ、私は少し忙しくなる
上に送るのでもう帰りたまえ
お前も家に籠る準備があるだろう?」
ルッツはダスカの登山口にまで送られた
「5日っつってたっけ」
今度は長期の備えは要らないなと
自宅に向けて歩き出す
この次の日、ダスカ付近で地震騒ぎがあり
雪の半分が雪崩になって流れたことをルッツは知った




