チユノバス廃坑
「隠密装備よし!安全よしっ!と」
炭鉱の入り口を、塞ぐ気もなさそうな
ボロボロの木の板を叩き割り中へと足を踏み入れる
中は真っ暗だが、明かりをつけるわけにはいかない
そんなものをつければ、立ち所に魔物達に見つかって囲まれてしまうだろう
そこで登場するのは“暗視”のポーション
魔物の気配を感じながら、慎重に奥に進んで行ったルッツは
炭鉱の半分くらいまで降りてきた位置で、やっと件のキノコを見つけた
それは岩肌に生えていて、ゴルフボールくらいの大きさのお椀のような形をしていてる
その傘の窪みの中には赤くぶつぶつした丸いものが幾つものくっ付いていて
なかなかショッキングな見た目の物だった
「うわっ…ヌルヌルしてるしw」
ルッツはそれらを素早くポーチに押し込んだ
取るときに、ネチャッと不快な音も立つというとにかく気持ち悪いキノコだった
どうやら深く潜れば潜るほど、そのキノコは沢山生えているようで
魔物の気配がどんどん増えるのは分かっていたが、ルッツは金に目が眩んで先へ先へと進んでしまった
気が付いた時には、魔物が周りにいすぎて身動きが取れなくなってしまった
魔物に見つかった訳ではないが
これでは戻ることも進むことも儘ならない
(さあ、どうすっかな…)
魔物達にバレないように何とか戻らないとと、足を後ろに下げた時
ざりっと音をたててしまった
途端に警戒状態に入る魔物達
こうなったらバレるのは時間の問題だ
この狭い坑道の中で、この高レベルの魔物に囲まれれば
数分でバラバラに引き裂かれてしまうだろう
(…こうなったら一か八かだ!)
ルッツは奥に向かって爆竹を投げた
それが炸裂して魔物達の気がそちらへ向く
その瞬間に一気に出口の方へ走り出す
ここまで来る途中に、鉱夫たちの休憩室があり
そこは今でも魔物除けが機能していた
セーフティーゾーンとしてちゃんと機能しているのを確認済みである
そこまで何とか辿りたければと、自分の足に賭けた
しかし、もう直ぐ休憩室というところで曲がり角を魔物が塞いでいた
相手はゴブリンだが、ここはそもそも高レベル帯
ルッツは祈るような気持ちで素早くそこを通り過ぎようとした
「ーうっ!!」
足に激痛が走る、それでも足を止めている場合ではない
足を引きずりながら何とか休憩室に滑り込むと扉を勢いよく閉めて
それにもたれて息を吐いた
激痛の走る膝には刺し傷が出来ていて、更にデバフが掛かっている
「ークソ!呪いかよ!」
傷だけならポーションで対応できたが
呪いは流石に自分では解呪出来ない
両足、いや体全体が鉛のように重たいという事は鈍化のデバフだろう
それから3日、まだルッツは鉱夫達の休憩室に居た
ここに逃げ込むところを見られているせいで、唯一の出入り口にゴブリン達が居座り続けるので出る事が出来ないのだ
「あークソw俺が死ぬ前に強制送還来るといいな…www」
もうルッツの頼みの綱は、ノーシルプの強制送還だけだった
◆
セシルは魔女を捜しに行く為に
日が暮れてから外に出た
いつものように裏路地から出た瞬間
表通りの店の花壇に座っていた男からよぉと声を掛けられたセシルは軽く飛び上がった
よく見ればそれはデリックであり
驚く彼を尻目に立ち上がる
「ここに居れば会えると思って待ってた」
「…なに…どうして…」
「あんたは強いだろう?
フィンブリウムを手に入れたいんだが
この辺じゃチユノバス炭鉱とかいう
既に廃坑になった所くらいからしか採れないらしい
推奨レベルは60って聞いてる…行けるか?」
セシルの現レベルは59である
行けなくはない場所ではあるし、何ならたまに行っている場所ではあるが
なによりも、何故デリックがここで待っていたのかの方が気になっていた
「…じゃなくて、俺がここを通るのを何で知ってるんだ」
「悪いな、早い段階であんたのことは大方調べあげてた
信用できるかどうか分からないからな」
どうやったかは秘密だといい
デリックは行けるのかともう一度聞く
「…行けないことはない…けどお前も来るんだろ?
あの鉱山が廃坑になった理由は知らないのか?」
「魔素だろ?掘ると吹き出すんだってな
そのくらい聞いたさ
資源がまだ潤沢にある坑道を廃坑にするくらい濃厚らしいな」
「…なら」
「お前は行けるんだろ?」
デリックの目がジッとセシルの目を見る
彼の言葉が、一体何処まで分かっていて出ているものなのか分からないが
セシルは少し不愉快そうに顔を歪めた
「魔力下しも一応持って行くし、何ならそれ用の防具を作ったから心配するな」
「…死んでも知らねぇからな」
デリックが連れて行けと聞かないので
渋々同行することになったセシルは、チユノバス炭鉱まで彼を案内した
「…ん?誰か最近通ったな」
坑道へと続く入り口を塞いでいた
木の板が外れているのを見て、セシルは眉を顰めた
その入り口付近の、廃墟と化した詰め所に寄り
デリックは持ってきた魔力耐性装備に着替えたのだが
これがまたセシルから見たらかなり異質で彼は言葉を失う
頭をすっぽりと覆う、目の部分に大きなレンズの嵌められた防毒マスク
全身を革と金属の組み合わされた服と手袋で覆い、一切の肌の露出はない
「よし、行こう」
「…怖ぇよ…それ…」
「そうか?」
後ろから着いてくるデリックに若干怯えながら、セシルは炭鉱に足を踏み込んだ
坑道は暗い、セシルは夜目が効くので灯りの必要性を感じなかったが
デリックの為にカンテラに火を灯し進む
灯りをつければ当然魔物が寄ってくる
セシルはそれらを物ともせずに、片っ端から叩き斬っていく
途中、デリックが先を進むセシルにこんなことを言った
「…あんた腹が減ってんだろう」
いつの間にか涎を垂らしグルグルと唸っていたのに気がつき
セシルはハッと我に返った
「俺達は炭鉱に潜って鉱石を回収した
それだけだ
ここでは他に何も起きなかった
…そうだろう?」
デリックは魔物の千切れた足を拾い上げ
セシルに突き出した
「“食べたい”…違うか?」
「…俺は人間だ!そんな物!!」
「ああ、分かってる
偏食家は大変だな」
つまり気にしないから食えと言われているのだとセシルは気付いたが
これに甘えると、何か大切なものを失うようない気がして小さく大丈夫とだけ返した
丁度坑道の中間地点くらいに来た時
やけにゴブリンが集まっているのを見つけ
セシルは構わず全て蹴散らした
「…コイツらセーフティーゾーンに何の用だ?」
「誰かが入った痕跡があったよな
もしかしたら中に誰か居るんじゃないか」
「…いつからだよ…」
2人は慎重にドアを開ける
中は何ともいえない異臭が漂っている
「…お、お前っ!」
机の向こう側で寝転がっていたルッツを見つけたセシルは思わず叫んでいた
「…あ?…あ、おっさん…あれ?
俺ノーシルプに戻れた?」
「知り合いか?」
ルッツは休憩室に閉じ込められて4日の後に救出された
置いて行くわけにも行かず、セシルは仕方なく彼もパーティーに加え
3人は更に下層を目指した
「おっさん、めっちゃイカついの連れてんじゃんw」
「あんたはそんな軽装で自殺志願者か何かか?」
「違うしwwてか、その防具そんな強いの?」
「魔素中毒を起こさない為の装備だ
強いとか強くないとかそういう話じゃない」
全く人見知りのないルッツは、デリックの異様な姿に怖けずベラベラ喋りかける
「初めて見るwww何処で買えんのwww」
「自分で作った
似たような物なら売ってなくはないが
この国ではまず買えない」
「えーwじゃあ俺のも作ってよお兄さん
サービスするぜ?」
「ドラゴンのなめし革を2頭分用意できるんだな?」
「は?wwwマジ?ヤバイじゃんwww」
デリックに軽口を叩くルッツにセシルは何故か苛立ちながら、やっと目当ての鉱脈を見つけた
デリックはルッツに簡易的なガスマスクを投げて渡す
「魔素が吹き出す可能性がある
一時凌ぎにしかならないが、着けとけ」
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城下街に戻ってきた3人は門の内側で解散した
魔素か噴き出ることはなく、デリックもルッツも欲しいものを手に入れて帰っていく
真夜中の表通りを歩きながら、煙草を燻らせセシルは思った
「…俺だけ時間を無駄にしただけじゃねぇか…」




