ダスカの山頂
パウダーモスが生えているとされる
ダスカの山頂を目指して、ルッツとアスシアスは急勾配の雪の上をゆっくり登っていた
「お前の恋人はゾンビだと言ったが
恋人がゾンビになってしまった理由は何だ?」
「あ?いや、ジジイは知り合った時からゾンビだったぜ」
「なに?ではソイツは意思疎通が出来るか?
…それはもう、魔族ではないか?」
「そうなの?w」
「アンデットが魔族にまで成り上がる例は殆どないが恐らくは
それかよほど特殊な個体なのか…
一度会って話してみたいものだ」
彼の知識欲を刺激してしまったらしい
アスシアスはぶつぶつと独り言を言い始めた
不意にルッツの足元がズレる
え?っと気がついた時には自分の前方の地面がゆっくりと下に向かって動き始めていた
終わった
そう思ったのも束の間、アスシアスが急にルッツの腕を掴み
一瞬のうちに雪崩が起きた箇所よりさらに上に移動していた
「えっ?と?」
「私が居た助かったな」
要はアスシアスが魔法を使ったのだ
さあ行くぞと、進み始める彼から遅れないようついて行きつつルッツは思う
「つか、魔法で山頂まで運んでよw」
楽したいルッツの提案は瞬間的に断られた
魔族といえども、魔法を無限に使える訳ではなく
使えばちゃんと消耗するからダメだ、と言うことだった
ケチ、なんて文句をつけて
ふと、アスシアスの事が気になって魔族について聞いてみることにした
「魔族って、一括りに魔族って俺らは言うけど
なんとか人みたいな区分あるの?」
「あるぞ、私はエレメント系の新魔族だ
魔族は先ず大きく2つに分類できる
旧魔族と新魔族だ」
旧魔族は古くから居る魔族の祖であり
その体は純粋な魔素で構成されているとされている
彼らの数は非常に少なく、今では旧魔族の生き残りは王族だけであるという
もう一つの新魔族とは、動物などから魔物へ、魔物から魔獣をへて魔族になった者達のことを指し
彼らは元になったものの特徴を強く持つ
「更に7つの大まかな区分がある
獣、鳥、爬虫・両生類、魚、虫、草、そしてエレメント」
エレメントは少し特殊な分類で、唯一の非生物系統である
「精霊や妖精がそれに該当する
私はノーム、ベヒモスを経てアスシアスという魔族に成った」
無機物が魔素を蓄えすぎると、魔物になることがある
それが所謂精霊と呼ばれるそれなのだとアスシアスは言った
「へぇ…なんだか獣人みたいだな」
「私は彼らは魔族の成りそこないだと思っている
それを証明できるものが何もないので
あくまで私の自論なのだがな」
そんな会話をして歩いていたら、いつの間にか山頂まで後100m程の所まで来ていた
ここにきて急に天候が目まぐるしく変わり出した
雲が気持ちが悪いほど早く動き
たちまち空を分厚く覆い隠していく
「吹雪が来る」
アスシアスが縄でルッツと自分の体を繋いだ
そのすぐ後にホワイトアウトした
何処を向いても真っ白な世界に、1人で放り込まれたような感覚に陥ったルッツは軽いパニックを起こした
「ちょ、アスシアス…居るよな?なあ!」
「ああ、側にいる」
冷たい彼の手が、ルッツの手を触った
「俺何も見えないし、風が強くて動けない…
これwヤバイよな?www」
「大丈夫だ、私には見えている」
ぐいっと体を結んだ縄が引っ張られ、ルッツは飛ばされないように身体を低くしながら、よちよちとその方向へ進んだ
姿の見えない真っ白で孤独な世界を1時間も進んだかもしれない
急にその白い世界がパッと晴れ
ルッツは山頂への登頂に成功した
「…うわ…スゲェ景色ヤバっw」
「パウダーモスを探そう」
山頂への登頂成功が嬉しくて、一瞬本来の目的を忘れていたルッツはハッとする
「パウダーモスってもな…」
山頂は悉く白い世界
この中から白い苔を探すのは骨が折れそうだ
ルッツがわずかに出ている岩肌をじっと見つめている間に、アスシアスは雪を手で掘り
その下に生えていたパウダーモスを刮げ取った
「あったぞ、どれくらい集めればいいんだ」
「え?マジ?あればあるだけ
俺は嬉しいけどw
何か見つけるコツとかあんの?」
「人間にこの探し方は無理だ
苔の含む魔力を見ている」
結局、殆どアスシアスに頼りっぱなしで
パウダーモスを100gほど手に入れた
「お前はそれで得た対価を何に使うのだ?」
下山途中に、そう問われ
ルッツは事の顛末を端折って彼に聞かせた
初めは黙って聞いていた彼だが、ルッツが王になると言ったときに笑い声を上げた
「今バカだと思ったろwww」
「いや、バカだとは…クク…
お前は本当に面白い人間だな
魔族と暮らせる国か…いや実に面白い
それが叶ったら私を呼んでくれないか
誰にも邪魔されないラボが人間領に欲しいんだ」
「いいぜw呼んでやるよw
てか、また力貸してくんない?
正直1人だったら死んでたしwww」
「私もそう暇ではないが…
たまにならいいだろう」
魔族のアスシアスから協力を得られる約束を取り付けたルッツは、こんなに頼もしい味方はいないと心の中でガッツポーズを決めた
ダスカの登山口まで降りてきた2人はここでお別れとなる
別れ際に、そうだとアスシアスは急に石灰岩のチョークを取り出すと
道端に魔法陣を描きあげ、詠唱を始めた
魔族は詠唱なしに魔法を使うものだと思っていたルッツは呆気に取られながらその様子を見守る
一瞬、爆発するように魔法陣が激しく発光したあと
その円の中にキラキラとした砂粒のようなものが散らばっていた
アスシアスはそれを両手でかき集め
小さな袋に入れてルッツに差し出した
「え、なに?w」
「周囲の魔素を集めて結晶にしたものだ
規模の大きな魔法を使う時の補助として用いることが多い
…錬金術師なら欲しがる筈だ」
「すごっw金のなる木じゃんwww」
「この周囲の魔素を凝縮したのだ
今はもう結晶化できるほどの魔素はこの辺りにはないぞ」
予期せぬ換金アイテムまで手に入れて
ルッツはダスカからエルカトルに向けて帰途についた
ハイドの所で換金した時
魔素の結晶の入手方について、しつこく聞かれたがそこは濁し
錬金素材も合わせて、かなりの大金を手に入れることができた
「ピクシーフラガとパウダーモスは当分要らないって言われたから
次は別のもの取りに行かないとか」
味を占めたルッツは自室で、素材一覧と地図、図鑑を開いて
次の採取対象を選び始めた
そして、目に止まったのは古く誰も使わなくなった炭坑の中で採れるキノコである“ペダンガンダ”
エルカトルから東の山にある廃炭鉱が次の目的地だ
一説に魔物の化石から生えると言われているこれは
1g50エルクの価値があるらしい
ルッツははやる気持ちを抑えながら、明日に向けてコンディションを整える意味で早めに就寝した




