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NOSIRP  作者: まるっち
26/84

魔物に成る

「よぉ、ワンちゃん働いてる?」

ダスカからエルカトルに向かって歩いていたセシルの後ろから

後もなく近付いてきたキースが、彼を覗き込んで言う

「…うるせぇな、あっちの黒いのと遊んでろよ」

「ハハ!一丁前な口聞くな、弱いくせに

まだ1人も殺ってないんだろ?

そんなお前にいい情報があるんだけど」

聞く気のないセシルの横でキースはニヤニヤしながら勝手に情報を喋り出した

「あっちに常緑樹の林があるだろ?

あそこに魔女がいるぜ」

「…わざわざ言いに来ねぇで、テメェでやればいいだろ」

「俺?俺はさぁー

もう、かなり殺って魔結石も捨てるほど集まったんだよねー

だからー?後輩に譲ってあげようと思って?アハハ!」

終始、見下したように喋ってくるキースの態度を不快に感じないわけもなく

もう無視して行こうとそっぽを向いた

「なに?ほっとくのか?

まあいいんじゃねぇ?俺は困らない

罪のない女子供が犠牲になるまでほっといたら」

ギロッとセシルの殺気を帯びた視線がキースを睨んだ

より一層複雑な術式を完成させたアスシアスは詠唱も組み合わせ

大規模な魔術を展開していた

木に書かれた幾何学な模様が、徐々に光を帯び始め

魔法の発動が迫るのと同時に、彼の詠唱も興奮から上擦っていく

もう少しで発動する

そんな時に、急に後ろから首を刺され魔法は中断された

咄嗟に黒い粒に分散したアスシアスは、少し離れたところで形を形成しなおし、自分に襲いかかってきた者をみた

「…人間?本当に人間か?

何だこの違和感は…」

アスシアスを襲ったのは、キースに煽られたセシル

彼は目の前の魔族を完全に“魔女”と誤認しており

魔族領の法律を知らない彼に、魔族領の王の許可証は意味をなさない

(…これは厄介だ…)

と言うのも、魔族には人間を殺してはならないというルールがあった

それを破った者は、懸賞金を掛けられる

要は人間の冒険者達に命を狙われるようになるのだ

さらに、大量の人間を魔法の研究のために殺めたとあれば“魔女”として

同族からも追われることになる

「おい、人間!私は人間に害をなす者ではない!

私はただニゲラの研究を…」

「信じるわけねぇだろ!魔女め!」

セシルは牙を剥き出し、ナイフを向け再び切り掛かった

霧状になれるアスシアスに、彼の攻撃は届かない

「ーっ!仕方ない…」

殺さないように、細心の注意を払い魔法を使う

セシルの周りの闇が、ザラっと動いて彼にまとわりついた

「ー!?クソっ!」

そしてセシルの前で光が弾けた

「テメェ!解け!!」

「解いて対話ができるのならそうするが

お前は私の話を聞く気がないだろう?」

「…誰が魔女と会話なんかするか!」

手を後ろに拘束され、椅子に縛られセシルは吠える

アスシアスはそんな彼の前に、自分も腰を下ろし、彼を眺めた

「お前、魔女と因縁があるな?

それにこれは…王家の刻印…?」

よくないとは分かっていながら、アスシアスはセシルに興味を持ってしまった

もっとよく見せろと、暴れる彼の頭部を両手で掴み魔力を流す

「っ!ぐぅううう!!!」

身体の中を得体の知れない物が駆け抜けるような感覚にセシルは呻く

「ははぁ…なるほど…なるほどな…」

気の済んだアスシアスはセシルから手を離し離れ

セシルはというと、あまりの気持ち悪さから

その場に吐瀉物をぶちまけた


「要するに、お前は魔女の検体にして

魔物として魔族の王族に飼われているのか

…憶測に過ぎないが」

アスシアスは頼まれてもいないのに自分の推論を話し出す

魔女から受けた魔法の痕跡を解読して分かったのは、セシルが掛けられた魔法と呪いの種類だという

「先ずは幻惑、これが一番古い痕跡だ

その名の如く幻惑は幻覚、幻聴、幻臭など

その場にないものを対象にあると思わせる魔術である

そして、呪い

これは…単純だが厄介だ

ふむ、お前の精神に作用するようなものだな

魔女の呪いは、一般的に掛けた魔女しか解けないのだ」

魔女の呪いというのは

悪霊などアンデットの魔物や魔獣に掛けられた呪いとは種類が違うという

「この魔法を掛けた魔女は…指名手配されている凶悪犯だな…

奴は過去にも、人間を生きながらにして魔物化…いや魔族化させようとして

人間の村を数十潰している…」

胃の中のものを全て吐き出しても尚、込み上げてくる吐き気に

ぐったりと椅子の上で項垂れるセシルに、アスシアスは憐れみの目を向けた


(殺してやった方がこの男は救われるかも知れない…)

魔力を流して調べた時に、セシルが既に人間とは言えない状態になっているのは分かっている

人ではない彼を殺めるのはルール違反にはならないだろう

「…お前、生きるのは辛くないか?」

セシルが虚な目でアスシアスを見上げた

「私が…終わらせてやろうか?」

その言葉にセシルは口角を上げて笑う

それは、挑発的な笑みではない

喜びを表すようなそんな笑顔だ

「…分かった、今楽にしてやろう」

哀しそうな表情で、アスシアスは彼の額に手をかざした


「…おい、誰が許した?」

アスシアスのかざした手に、セシルが噛み付いた

その顎の力は人のソレとは言えないような力であり、咄嗟に身体を霧状散らし回避する

「…出たな、魔女の呪い」

カカカ!と笑い声を上げたセシルは

さっきとは全くの別人の様に変わってしまっている

「腹減った…最近、殆ど食えてねぇ…

お前、美味そうな匂いがするな」

目からは理性が抜け落ち、獣のようにギラギラと輝かせ

楽しそうに剥き出した牙の間から涎を垂らしアスシアスを見る

「人格を植えたのか…分離させたのか

どちらにせよ、お前こそが魔物の正体か!」

セシルは力任せに拘束された腕を引っ張った

片方腕がギチギチ後を上げ徐々に千切れ始める

「何を…!身体が壊れてしまう!止めろ!」

アスシアスが止めるのも聞かず、遂に腕は千切れて落ちた

それを平然と拾い上げたセシルは、千切れた面に押し当て笑う

「…ニゲラ、ニゲラはいいよなぁ

こんな怪我すらなんてことねぇんだから」

落ちた筈の腕を元通りに接着し、もう片腕も躊躇わずに切り落とし

セシルは完全に自由を手に入れた

「何処から食ってやろうか」

彼の鼻筋がメキメキと伸び、身体の筋肉が肥大化していく

全身を鈍い銀の色の毛が覆い

大きな口から鋭い犬歯を覗かせ、ペロリと舌なめずりをして

セシルはゆっくりとアスシアスに近づいて行く


…コンコン


そんな緊迫した雰囲気をぶち壊す様に

突如扉がノックされ、ガチャリと開け放たれた

「止めなさい」

入ってきたマルクスの一声に、完全にウェアウルフ化したセシルはビクッと歩みを止める

「この者は獲物ではない」

「…こいつは俺を殺そうとしたぞ!?」

「黙れ」

キャン!と甲高い悲鳴をあげ

セシルは壁際まで後ずさり、そこで尻尾を巻いて仰向けに倒れた

そして、みるみる狼の特徴が薄れ人間に戻っていく


一連のやり取りを見ていたアスシアスは

このマルクスが、セシルの主人だと確信する

「…貴方が彼に刻印を入れた者か?」

「如何にも、彼は私が使役する魔物

彼に学者と魔女の違いを教えていなかったのは私の落ち度です

どう償いましょうか」

そう感情がなさそうな、淡々とした謝罪をうけ

アスシアスは何だかドッと疲れが込み上げてきた

「何も要らない…ただ、その男を生かしておくのに私は賛成できない

彼を生かすのは、魔女の研究への容認になりかねないと思わないか」

「その魔女を追うのには、彼が必要不可欠です

狂宴の魔女、エレイオシスはその足取りを掴むことすら難しい

あの魔女の作品である彼は、唯一の手掛かりなのです」

その言葉には有無は言わせないという

空っぽの殺気が込められていた


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