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NOSIRP  作者: まるっち
22/84

罠師

「…最近頑張ってるらしいな」

そんな風に声を掛けてきたのはセシルだった


ジクスに教会に連れて行かれてから

連日、地下墓地の清掃を手伝い

(といっても、猫の手ほどにしかならないが)

ルッツのレベルは20にまで上がっていた

「で?何の用だよw」

「…お前、シーフだったろ

罠看破出来るよな?解除も出来るか?」

「物理罠なら余裕w」

セシルはしばらく考え、ポケットから20エルクを取り出しルッツの目の前に置いた

「…頼めるか?」

「安くね?俺一晩に200は稼ぐんですけどwww」

「…それセックスワーカーとしてだろ

俺が頼んでるのは、罠の看破と解除だ

それ以上は出せねぇ…つか、出さねぇ」

地下墓地清掃にも飽きてきていたルッツは

目の前の小銭とセシルを見て、小銭に手を伸ばすと分かったと話を受けた

「…場所は街を出て北東に進んだ山“ダスカ”だ

魔物は俺が殺るが、それなりの準備をして来い

1時間後に北門で落ち合おう」

1時間後、最近手に入れた隠密の服や

新調したナイフを持って北門に来たルッツは、既に待っていたセシルと合流した

セシルは特に特別な装備というわけでもなく

普段とあまり変わらないスタイルでいて

ルッツを見つけると、吸っていた煙草の火を消した

「おっさん、ほぼ普段着じゃんw

ちゃんと守ってくれんのそれでw」

「…あ?今から行くところは俺からしてみれば基本雑魚だ、問題ねぇよ」

申し訳程度に肩と心臓を守る革のベルトを着けているだけのセシルは豪語した

いいから行くぞと門を出て行くので、慌てて追いかける

山に向かう途中まで舗装された道があり

そこから先は、セシルが言っていた通り

全ての魔物は彼が1人で倒していった

下生えが生い茂るような場所まで来ると

セシルは立ち止まりルッツに先導するようにと顎をしゃくる

「ここから先に罠があるってことか」

「…そうだ、罠だらけでマトモに進めねぇ」

「えーっと…すご、マジじゃんwww」

ルッツから見えている範囲だけでも

10を超える罠が設置されていた

一番近い罠まで行き、解除を試みる

「…うっわw…これ時間かかるわwww」

「…何か普通のと違うのか?」

「初めて見る構造の罠だからな

こんな初歩的な罠な癖に、複雑過ぎるんですけどwww」

今ルッツが取り掛かっているのは、いわゆるベアトラップだったのだが

その構造がとんでもなく難解だという

「これ作った奴只者じゃねーよw」

そんな物がそこら中に仕掛けてあるのだから、堪らない

「20じゃ割に合わないってw

てか、どうしてもこの先行かないといけないわけwww?」

「…ああ、獲物の臭いがするからな」

セシルは薄暗い針葉樹林の隙間を睨み唸るように言った

何とかベアトラップを解除したルッツは次の罠に取り掛かる

「えー…同じベアトラップなのに構造違うんだけど…

作った奴、絶対頭おかしいだろwww」

延々と文句を垂れながら罠をいじくり回す

そうやって、何とか目に見えていた範囲の全てを解除した頃には日が傾き始めていた

「これ、いつまで続けんの?

何処まで行きたいのか知らないけど

何日かかんのよwww

これ仕掛けた奴を捜したほうが早いんじゃね?」

「…それもそうだな」

手を機械油で汚したルッツが、肩を回しながら立ち上がった

あー疲れた、と愚痴る彼の手を掴むと

セシルはその手のひらに鼻を近づけ匂いを嗅ぐ

「ちょっw何急にwww

ヤるなら別料金だぜw?」

「…男抱く趣味はねぇ、この油の匂い…

あまり嗅いだことのない種類の匂いだ」

これなら追える、そう呟いたセシルは

沈みゆく日を見て、戻るぞと道を引き返した


次の日、セシルはルッツを伴わず1人で昨日の場所まで来ていた

昨日嗅いだ機械油の臭いを探し鼻をひくつかせる

トラップ自体が、あちこちにあるせいで

色んな方向から匂いがするが

それを手がかりに罠を避けながら進む事が出来るようになっていた

(…古くない油の匂いだ、最近置いた物か…ということは近いか?)

見つけたトラップに触れないよう

鼻を寄せるために下生えの中にしゃがみ込む

次の瞬間、頭部に強い衝撃を受け

セシルの視界は真っ暗になった…


目覚めると知らない簡素な壁が目の前にあった

「ーうっ…!」

側頭部に痛みが走り、呻き声があがる

更に、動こうとして両手両足を拘束されていることに気が付いた

「おかしいな、後2時間は寝ててもらうつもりだったが」

聞いたことの無い男の声が聞こえ

セシルは声の方へ顔を向けた

「…テメェがやったのか?」

「他に誰が居る?

まあいい、一体誰の指図でここへ来た

何処の所属だ?さあ答えろ」

特徴的なモヒカン頭の男が強い口調で言う

しかし、見に覚えのない詰問をされたセシルは顔を顰めた

「…何の話だ」

「とぼけるな、ファングの追手なのは分かってる」

そう言った男は見た事のない複雑な金属の塊をセシルへ向けた

ところがセシルの方は、何をむけられたのか理解しておらず

不可解な物を見るような目でそれを見るだけで怖がる様子はない

「本当に違うのか…?」

「…ファングって言ったな、それはどういう侮辱だ」

男は大きくため息を吐くと、セシルに向けていた物を下ろした

「ちょっと待て…待ってろ」

ナイフで両手足を縛っていた縄を切る

自由になったセシルは、起き上がり

その場に座って痛む側頭部を押さえた

「俺の仕掛けた罠を解除して回ってたのはあんただろう

あんな罠だらけな場所をわざわざ進んで来るから、てっきりファングだと思ったんだ」

悪かった、と男は謝ってきた

この男の名前はデリック・ガーフィールド

ハーウェーという人種であり

遥か西の大陸から海を渡ってやって来たという

「技術者の仕事があると言われヴェルシコロルから船で来た

だがどうだ、蓋を開けてみれば人殺しの道具を作るだけの仕事だ」

こんな事を続けられないと思ったデリックは、国に帰ろうとした

だが、うまく行かずにファングに追われ

気が付けばスノームースのエルカトル付近まで流れて来てしまったのだ

「あんたに向けたコレは武器だ

連中ならそれを知っている

…勘違いして悪かった」


セシルの鈍器で殴られた側頭部も、痛みこそ残っているものの

魔獣化が進んでいるせいで、既に傷は塞がっている

急に襲われたことに怒っていない訳ではないが

彼がちゃんと非を認め謝ったことと

理由が理由なだけに、セシルは彼の行いを許すことにした

「…俺はダスカの奥に行く必要がある

その為にはここを通らなきゃならない」

「俺の罠が邪魔したな

何処まで行くんだ?罠を仕掛けた範囲を抜けるまで案内できる」

デリックの申し出は有難かったが

セシルはバツが悪そうに頭を掻いた

そもそも、セシルの目的は“魔女狩り”である

今はマルクスとの契約で人間を保てているが、魔女を前にしてそれを維持できるか分からない

それに、魔女と対峙するという行為は危険が伴うもの

今日出会った人間と即席パーティを組んで挑むような相手ではないのだ

「…いや…1人で行く」

「好きにしろ、俺はここに居る

あんたにゃ悪いがこっちも命が掛かってる

今ある罠は解除しないし、新しく設置するのも止めるつもりはないぞ」

デリックに一瞥くれて、セシルは小屋を出た

…が、数分もしないうちに戻ってきた

「おい!ふざけんな!

この周り罠しかねぇじゃねぇか!!!」

結局、1人で小屋から離れることすら出来なかったセシルは

今日知り合ったデリックと進むことになった

戦えるのかという問いに一応と答えた彼のジョブは“銃士”という聞き慣れないものだった

「本職は職人だから戦うのは得意じゃない、まあ援護ならやれるが」

そういいながら、セシルの背後

シロトウヒの影から忍び寄っていた魔物を

手に持っていた物で撃ち殺した

「…本当に武器なんだなその鉄屑」

「だからそう言ってるだろ

あと、鉄屑じゃなくて“銃”な

あっ!おい覗くな危ないだろが!!」

銃口の中をセシルが覗こうとしたので

デリックは銃を取り上げるようにセシルから離した


デリックの助けを借り、罠が張られた一帯を抜け

ダスカの奥まで入って来たセシルは魔女の匂いを追う

まだ距離はあるが、遠目にも分かるほど巨大な岩が見え

おそらくその辺りに魔女は居るだろうと目星をつけた

「どうした、進まないのか」

「…いや、今日は…」

マルクスを呼びに行かなければと考えたが

またデリックに頼んでここまで来る面倒くささが彼の中で優った

「…お前はここで待っててくれ

1人で行ってくる」

「こんな場所に1人で?本気か?

死亡フラグって知ってるか?

山での単独行動はナンセンスだ」

「…いや、俺ら別に登山家じゃねぇし

むしろ、俺は今から魔女を殺しに行くんだ

どう考えてもそっちのが危険だろ!?」

「援護するぞ」

「…死んでも知らねぇぞ、責任なんか取れねぇからな」

「危なくなったら、あんたに構わずさっさと逃げるさ」

シロトウヒの林を抜け、大岩に近付くと

その根元に不自然な扉が取り付けられていた

セシルは二本のナイフを抜き、扉に近付く

ノブを回そうと手を伸ばした瞬間、デリックが叫んだ

「ー上だ!」

岩の頂上にしゃがみ込む人影を見て、セシルは素早く後ずさり

デリックはその影に向け発砲した

彼の銃弾は確かに着弾したが、ダメージは与えられておらず

穴が空いた内側から押し出され、岩肌を跳ねながら下に落ちてきた

「丁度、検体が欲しいと思っていた所」

グニャッと影が歪み、粘度の高い液体のように魔女は岩肌を降りて来た

「ーッチ!」

セシルは素早く距離を詰め、魔女の喉笛を切り裂く

しかし、手応えはなく

魔女はその傷口から触手のように広がってセシルを飲み込もうとする

デリックは装填済の弾を素早く全て抜き去ると

赤い金属で作られた弾丸をリロードした

「喰らえ!クソッタレ!!」

放たれた弾丸は燃えながら魔女に着弾した

今度は銃弾は押し出されず、傷口から解けるように燃え始める

「ナニ!?…貴様ぁ…!」

魔女は絶叫しながらデリックの方へと四つん這いで走り出す

注意が自分から逸れたセシルはすかさず

体制を立て直し、魔獣の咆哮を上げた

全身の毛がザワザワと逆立ち、身体中の筋肉が熱くなる

そして、高く跳び上がった彼は

魔女の背後から痛打の一撃を放った


「おい、大丈夫か?」

魔女を背後から仕留めたセシルだが

これまでは無意識に魔獣化し、がむしゃらに魔女を喰い殺していたが

今回はデリックの存在に配慮して

本来の狂戦士特有の生命力を攻撃力に変換する、捨て身なスキルを使った為に動けなくなっていた

「…少し休めば問題ねぇから」

そう、雪の上に仰向けに転がった彼の身体は

相当熱を放っているのか、周りの雪が溶けて来ている

セシルから、少し離れた位置で絶命し動かなくなったうつ伏せの魔女の死体にデリックは近づいていった

「魔女って魔族の事を言ってたのか」

借りるぞ、と落ちていたセシルのナイフを拾うと

デリックはソレを死体に突き立て、裂いた

「…よし、あった」

死体の中から、先程使った弾の弾頭を取り出しポケットにしまい

彼は仰向けに転がるセシルの腹の上に何かを投げた

「こいつ、それ程強くもない癖に良いものを持ってた

高値で売れる貴重な石だ、よかったな」

セシルは投げられたソレを手に取る

鼈甲色の親指大の結晶がキラリと光を反射した

「…高値で売れるのにいいのか?」

「仕留めたのはあんただろ

それに、そもそもそれが欲しくて魔族の相手なんてしてるんじゃないのか

代わりに俺はあっちから適当に使えそうな物を貰うがいいか?」

デリックが親指で指差すのは、おそらく魔女の住処である岩の扉

セシルの本来の目的は、魔女を殺すことだけなので好きにしろと言うと

彼はその扉から中に入って行った


身体が冷えて動くようになって来たセシルはゆっくり身体を起こし

数メートル先で真っ白な雪を赤く汚し横たわる魔女の死体を見る

…ぐるる…催促するように鳴る自分の腹を、セシルは静かに撫で下ろした

「…今日は助かった」

「それ程何もしてないと思うけどな」

昨日ルッツが罠を解除していた辺りまで送ってくれたデリックに、セシルは感謝を伝えた

「むしろ、礼を言うのは俺の方だろう

結構貴重な素材が手に入ったし」

魔女の住処には貴重な鉱石が幾つかあったらしい

それじゃ、と帰って行くセシルの背中を見届けデリックも自らの隠れ家へと引き返す

真新しい2人分の足跡を前方に見て歩きながら

ついさっきの事が思い起こされる

魔女の住処で家探しを終え外に出た時

討伐したばかりの魔女の死体は跡形も無く消えていた

その行方を敢えて聞くことはしなかったが

彼は何となく察していた


(…まあ、もう会うこともないだろうし

どうでもいいか)

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