レプレイス
ルッツは小さな香水の瓶から噴射される液体を体に吹き付けた
「…香水っていうけど無臭なんだよなこれw」
匂いが無いので、ちゃんと効いているか不安になって少し多めに塗布する
今日は18日、レプレイス当日である
中央広場では午前10時から式典が行われ
そこに昨日の使徒が降臨するという
一応、昨日の時点でウラノフェンとは直接会話してはいるが
国の年に一度の儀式を見にいく事にしたのだ
「準備できたみたいだね」
自室を出て共有スペースに来ると
外行の格好をしたジクスが待っていた
ノーシルプを出ると不思議と静かである
前夜祭の15日から昨日までは
朝も夜も関係なくエルカトル中が大騒ぎしていたのにだ
「ちょw今日が本番じゃねぇの?www」
裏通りにいたフルール達の姿も消えている
「あいつらどこ行ったのwww」
「家がある者は家、無い者はおそらく下水道に隠れてると思う
使徒は獣人も嫌うからね
…よっぽど、殺されたりはしないと思うけど
出会っていいことはないだろうから」
ふーんと、ルッツ達は誰もいない裏通りを通り中央広場に出た
もう数分で式典が始まる
広場は溢れんばかりの人で埋め尽くされていた
今まで広場にある、数段高いスペースの用途に疑問を抱いていたが今日その答えが出た
その壇上に国王エドリックと、各領主達等の要人が立っている
開式の宣言がされ、式典は粛々と進む
そして、使徒が降臨した
遙か上空の雲が割れ、青白い光が一筋
壇上に帯のように降り注ぐ
一瞬、視界を奪われるほど発光した後
あの巨大な使徒、ウラノフェンが壇上に居た
使徒が姿を現すと人々は跪き
両手を握って拳を頭より高く上げ祈った
「ルッツ、形だけでも周りの真似をして…」
ジクスに囁かれ、彼のいうように周りの行動に従う
先ず、王や要人が使徒に加護を賜り
次に使徒は群衆に目を向けた
ウラノフェンがスッと群衆を指差すと
空から一筋の光が、数人をスポットライトを浴びせるように照らし出す
光に照らし出された人々は、歓喜に涙を流し感謝の意を表にする
そうして、選ばれた者達を伴って使徒が空へと飛び去り式典は終わりを告げる
人々が散り散りになり、再びお祭りの喧騒が戻ってくる
「何処か行きたい所とかある?」
「いや?特にないかなー
何処行っても人だらけだろwww」
「なら、俺の務めてる教会に来てみる?」
ジクスの提案に、特に予定もないルッツは乗ることにした
彼の務める教会、そこは城下街の隅にあり
城からは最も遠い建物である
それはよくある立派な教会とは違い、民家のような見た目をしていて
年季の入った白い石造りの建物には緑の蔦が絡みつき陰鬱な雰囲気を醸し出していた
「人は殆ど居ないよ
俺の他に2人聖職者が居るくらい
今日はみんな来てると思う」
傷んだ扉を押し開けると、ヒンヤリとした空気が漏れ出てルッツの顔を撫でた
扉を開けてすぐ礼拝堂なのか、広くはない部屋に、ベンチが2つと小さな祭壇
そして、その後ろに女神像が置かれ
天井のステンドグラスの採光窓からの光を浴びていた
祭壇の前に居た男はジクスの隣に立つ
見慣れないルッツを見て声を掛けてくる
「その子は?」
「この子が今面倒を見ているルッツ
彼はトーレ、ここの責任者だよ」
「こんにちは、トーレ・アムレアンだ
エルビラは今下に居る
1時間もすれば戻ると思うが…」
ルッツは祭壇の後ろに立ち、ステンドグラスの窓から淡い虹色の光を浴びる女神像を見て首を傾げた
「なあ、教会の像って使徒だよな?
なんでここの使徒像には翼がないんだ?」
彼の疑問にトーレは目を丸くした
「なんでって…ジクス、ここが何かちゃんと説明せずに連れてきたのか?」
「説明はしてないけど、彼はこちら側だよ」
ちょwなんなのwと笑うルッツにジクスはこの場所のことを静かに話し始めた
「エルカトルは攻撃性の低い宗教なら、使徒以外を信仰してても咎められることはない
といっても、使徒信仰以外は極々少数派
ここがそのうちの一つ
女神ディナアルを崇拝する者達の家
“女神”なんて言ってるけどディナアルは魔族なんだ」
「えっwwwちょwww
俺騙されてたってことwww?
生贄か何かにすんのwww?」
急にそんな告白をうけ、カノープスのジクスは信用できないという言葉を思い出し後ずさった
「魔族というだけで、ディナアル様を理解した気になるな
彼女は私達に死霊に対抗する術と、加護を授けてくれる慈悲深い方だ!」
女神を侮辱されたとトーレは怒鳴る
「ごめんって…でも何で魔族なんだよ
普通、悪さをするのが魔族で
助けてくれるのが使徒なんじゃないの?」
「ルッツはウラノフェンに会ってどう思ったの?」
ジクスの問いに、昨日の事が思い出され表情が曇る
「キッカケはどうあれ、俺たちは“使徒”に不信感を持ってしまった聖職者なんだ
ねえルッツ、もう一度聞くよ
使徒、ウラノフェンに会ってどう思った?」
「…恐かった」
世間一般的に使徒は慈悲深く、人間を愛し守る絶対的な存在だとされている
しかし、アルバートはともかく
昨日のウラノフェンからは、とてもそうは感じられなかった
「その感覚は大事だ、大切にするんだ」
トーレは顔を歪めて静かにいう
彼らがどういった経緯で使徒に不信感を抱いたのかは分からないが
彼らも恐ろしい目にあったのは間違いないと思わせるには充分だった
「てか、ここがどういう場所かは分かったけど
俺をここに連れて来た理由はなんなのw」
「ルッツは強くなりたいって言ってたね
この建物の下、仲間のエルビラが今行ってる所はこのエルカトルの地下墓地で
そこに時々ダンジョンが生成されるんだ
俺達はそういうのが大きくなる前に潰すのが仕事なんだけど
…ルッツ、やってみない?」




