表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NOSIRP  作者: まるっち
2/69

プロパガンダに成り立つ正義


時計の短針が12を通り過ぎた真夜中

月の灯りとぼんやりとした街灯の下

街を駆け抜け、丘を越え、森の中の朽ちた墓地へ

男が一人、墓地内の朽ちかけた小屋の腐った扉をこじ開け中へと入って行く

「ただいま、ハニーw」

「また帰ってきたのか」

男が場の雰囲気にそぐわない陽気な声音で呼びかけると

灯りもつけずに小屋の闇の中に座る男が大きな溜め息と

そんな言葉を吐き出した

「またってここ家だし

それに好きに居ていいって言ったのそっちじゃん」

なかなか閉まらない扉を無理やり閉じ

ひび割れたランタンに火を灯す

ぼうっと照らされ浮かび上がるのは

腐りただれ、乾燥した皮膚の間から剥き出しになった筋肉組織を露わにした

痩せた老ゾンビの男

「ワケありの子供で怪我をしていたからそう言ったんだ

それから10年近くも誰が居座ると思う

動けるようになった途端にあんたが逃げ出す予定だったんだ」

「まぁまぁ、そう言わずにさ

お土産もあるぜ」

酒を一瓶、鞄から取り出し老ゾンビに差し出す

「…あまり目立つ事をするな

墓地に肝試し感覚の連中が来て眠れないよ」

「これは盗んでないぜ?

愛しいお前のために買ってきたんだからな」

「スケベ野郎共の汗と涙の結晶に乾杯か

全く…よくもその口で言えたもんだ」

老ゾンビは白く濁った目で男を睨み

酒瓶を受け取ると

そのまま一気に飲み干した

「妬いてんの?

仕事でヤッても心はお前だけのものだってば

証拠に本命からちょろまかしたりしないぜ」

男は彼の腐った頬を優しく撫で

腐臭の漂う唇を軽く啄ばんだ

それを鬱陶しそうに払い除け

壁に立て掛けていた鉄の棒を拾い上げた不機嫌な老ゾンビは小屋を出る

「出掛けんの?」

「ストレス発散にな」

「俺も俺もw」

「あんたが来たら意味がないだろう」


【チェリカ村】

そこは都市から随分と離れた場所にある小さな村

誰も彼もが知り合いであるそんな場所の盛場では

最近ある話題が人々を賑やかしていた

「なあなあ、知ってるか?

森の中の古い墓地の噂!」

「聞いたぞ!最近ゾンビがウロウロしてるらしい」

「盗賊じゃなくて?」

「俺は魔族が住み着いたって聞いたぞ!」

右も左も手前も奥も、テーブルを囲む者達の話題は

丘向こうの深い森の中の朽ちた墓地の話

やれ、ゾンビの群れが出るだの

魔物の巣になってるだの

いやいや、山賊の根城だ

魔族が拠点にしているのだ、などなど

街一番の盛り場を中心に

そんな噂が巷を騒がせている


魔物自体は別に珍しいものでもない

街の外へ一歩踏み出せば

下生えの陰でスライムを見つけることは容易い

ただ、ここのところ頻発している

街での小さな事件の原因を

全て墓地のせいだと

人々は実しやかに囁き合っているのだ

「何にせよ、自衛しないと

退治出来たらいいけどなぁ」

「懸賞金かけるのはどうだ?」

そんな人々の会話を

盛り場の熱気から少し離れたところで聞いている者がある

肩まである金髪の髪を後ろで1つに束ね

狼の目が特徴的な男

彼は活発に噂話が行われるグループの中から比較的まともそうなものを選び声を掛けた

「…なあ、その墓地の場所

詳しく教えてくれないか?」

人工的な灯りは、男が手に下げた

ひび割れたランタンのみ

この日は月が出ているおかげで

薄っすらと周囲の状況が見える暗さだったが

ランタンの灯りは弱々しく頼りない

墓地には

いつの時代の物か分からないような

石の十字架は所々で倒れ伏し

原型をとどめないほどバラバラに崩れたものや

墓荒らしにでも掘り起こされたのか

木製の棺桶だったのだろう木片が道に散らばり足場を悪くしている

そんな朽ちるに任せた墓地の中を進んで行くと

石造りの地下墓地へと続く入り口が静かに佇み口を開けている

「着いてくるな」

「ホントごめんって

そんな怒るなよ」

「ここから先はダンジョンだ

あんた、まだレベル10にもならないだろ

足手まといはごめんだよ」

「そこはピンチの彼氏をお前がカッコよく助けてくれるだろ?」

ヘラヘラ戯ける男を、横目でチラリと見やり

老ゾンビはもう何も言うまいと無視することに決めた

「マジかw無視すんなってww

まさか、俺が弱い事をいいことにダンジョン内で他の男と逢引してるんじゃないよなw」


ースコーン!


鉄の棒が勢いよく男の頭めがけて飛んできてクリーンヒットし

80のダメージと共に闇の中へ飛び去った


「あんたみたいに悪趣味でもなければ!

不誠実でもない!!一緒にするな!」

「イッテwおいこれどうすんの

今モンスターに出会ったらスライムでも死ねるんですけどww

それに、だからって浮気する事ないじゃんw」

「するか!

どうしてその口でそんな事を言えるんだ…!

第一あんたの恋人になった覚えはないよ!」

「はぁ?する事しといて何言ってんだ」

「それはっ…!違うっ…!

あんたがっ…俺を襲ったんだろう!?

…玩具にしたんじゃないか…」

声を荒げていた老ゾンビは肩を落としてうな垂れた

自身の感じている居心地の悪さを言葉にした事で惨めな気持ちになってしまったのだ

「…悪い、言いすぎた

俺、あんたも拒まないし

とっくの昔に告白した気になってた

…そういえばまだだったな」

男は様子を伺いながら項垂れる老ゾンビに近付き顔を覗き込む

皮下組織の露出した腐った顔面は

表情に乏しいが落ち込んでいるのが分かった

ごめんと謝り、抱きしめその耳元にそっと囁く

「世界中の誰よりもお前を愛してる

俺が死ぬまで一緒にいてくれよ」

「…っ…このヌケサクめ

…ルッツ…俺は…」

老ゾンビが抱きしめ返そうと

その背に腕を添えかけた時だった

激しい衝撃と鈍い音がして

老ゾンビは吹き飛び、近くの墓石に強かに身体を打ち付けた


「…なっ!?おい!大丈夫かよ!?

そんなに嬉しかったのか!!?」


駆け寄ろうとする男の進路を

突如、上空から落ちてきた影に遮られる

予期せぬ障害物に彼は全力で体当たりすることになったが

ぶつかったそれが柔らかかったため

尻餅をつく程度で済んだ

「ってて…何なんだよ…」

「大丈夫か?怪我はないかい?」

6枚の翼を広げた狼の目を持つ金髪の男が立ち塞がり、尻餅をついた彼に手を差し出していた

「ぅ…」

腰をさすりながら立ち上がる老ゾンビに

男は素早く銀の銃口を向けた

「動くな、今その呪縛から解き放ってやるからな」

鋭い視線に老ゾンビは動きを止めるが

そんなことで危機を回避できないと悟り

諦めたようにため息を吐く

「やれやれ、誰か児相に連絡したな…」

「秩序を乱す魔物を狩るのが俺の仕事なんだ

恨まないでくれよ」

男は狙いを老ゾンビの額に定める

「ちょっと待てって!

こいつ俺の嫁!こいつを乱していいのは俺だけだ!!!!!」

引き金を引く瞬間

男は咄嗟に天使の腰にすがりつき

乾いた銃声が静寂の中にこだました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ