娼館ローズポッド
【特別出演】マハドさんより
キャラクター、ダンテさんをお借りしました。
クリスタルレイ城の裏口から、1人の男がコソコソと外へ出て来た
汚れたマントを羽織り、フードを目深に被ったその男の正体は“エドリック・カルネウス”
スノームースの王にして、このエルカトルを治める王その人である
そんな人物が、なぜ使用人用の裏口からこっそり出て来たかというと
習慣の女遊びに行くことについて
こんな大事な時期に!と大臣達に咎められたからである
「やれやれ、ストレス発散に行くのに
なんで文句言われにゃならんのだ」
そのまま、コソコソと城下の花街へ行く
時間は22時を回っており、既に日の落ちた街の中は街灯や店の窓から漏れる灯りで
イルミネーションのように華やかである
道の両脇に立ち並ぶ娼館を、品定めするように道を進むが
結局はいつも行く店に辿り着く
王の一番のお気に入りの店“ローズポッド”
この古めかしい煉瓦造りの娼館は300年は経つ老舗であり
身分は卑しくても、教育の施された娼婦が在籍している
見た目も申し分なく、適度に教養があるので
連れて帰った時に城の者から言われる嫌味の数が劇的に減る為、ここに通いがちであった
久しぶりに訪れたローズポッドの店の前は、以前来た時よりも賑わっていて王は首を傾げた
「そこのお前、なんの騒ぎだ?」
店の客引きを捕まえ問うと、彼は訳を教えてくれた
「うちの新しい商品にみんな興味津々なのさ
あんたも試してみるといいよ、あー5時間は待つ事になるけどね」
「5時間?俺をそんなに待たせる気か」
客引きに詰め寄り、王はフードの端を少し上げその顔を見せ
胸元から、王族のみが身につけることを許されているヘラジカのエンブレムをチラリと見せた
「…それは…!あっ…貴方は!大変失礼致しました!さ、こちらへどうぞ…」
中に案内されそのまま一番奥の彼専用VIPルームに通される
そして、すぐにこの娼館の支配人が駆け付けた
「エドリック王、ご無沙汰致しております
本日はどの様な娘をご所望でしょうか?」
ソファーに深く腰を掛けた王の前に、跪き媚びた笑顔で支配人は彼を見上げた
「最近何やら噂になってる商品があるそうじゃないか、それを頼もう」
その注文に支配人は目を丸くし、そして慌てた
「あ、アレは…その、王には相応しくないといいますか…
一級品の娘が沢山おります…!そちらを…」
「俺に相応しいかどうかは俺が決める
それともなんだ?足りないか?どのくらい積めばいい?」
「いえいえ!滅相もございません!
その…アレは男娼でして、女では…」
噂の商品が“男”と聞いて、王は眉を顰めた
だが、女ではないのにここまで人気のある男というのが王は気になってしまった
「いい、男でも構わん!連れて来い!」
・
・
・
暫くして、部屋にきたのは
ブルーのドレスを着た小柄な女だった
「おい、揶揄ってるのか?」
いえいえ!と支配人は女の後ろに回り込み、ドレスのスカートをたくし上げた
「この通り…付いております!」
「なるほど、確かに男だな
で、ソイツは喋れないのか」
全く口を開かない女装男に王はどうなんだと問うと支配人は跪いたまま答えた
「喋らないようにと教育しています
興味があっても“男”に抵抗を覚えるお客様が多いので…その為に女装と化粧を施しておりますが、声は男のそれです…
ただ、技術はローズポッド1なのは保証致します」
「ふぅん、お前名はなんという
言葉を話して構わんぞ」
「…“ラナンキュラス”です
以後お見知り置きを」
彼の自己紹介に、王はワッハッハと大声で笑った
「見た目はこんなに綺麗な女で、その声は確かに萎えるな!
面白い、こっちへ来い!」
ラナンキュラスは言われるまま王の目の前まで歩み寄る
すると王は立ち上がり彼を抱きしめ、その耳に熱い息をかけ囁いた
「本名はなんだ?言ってみろ」
「…ぁっ…ルッツ…」
◆◆◆◆◆◆
セシルは、エルカトル外壁の外へ出ていた
そして、いつものように道を逸れて魔女の小屋を目指す
外に出るのはあの日以来のこと
血の渇きがない状態で、夜の魔物にどこまで対応できるか不安もあったが
彼は難なく魔物を斬り伏せ、目的の場所へと辿り着いた
大木の下、池のほとりの魔女小屋の扉を軽くノックする
「開いています」
中から返事が返り、慎重に扉を押し開けた
小屋の奥にはマルクスと、もう2人見慣れない男が待っていた
「…魔女も居ねぇ、こんなただの小屋に呼んで何がしたいんだ」
「その魔女の話がしたくてここへ呼びました」
「…ここで?そいつらは…?」
「彼らは此方側の人間です
この場所は、魔女さえ居なければ
貴方が思うよりずっと安全なので」
マルクスはひっくり返っていた椅子を起こし腰を下ろした
「そう身構えず腰を下ろしなさい、我々の向いている方向は同じなのですから」
「…テメェらと一緒にするな
薄汚ぇ魔族とは違う、俺は人間だ」
「貴様!主人に向かってなんて口の聞き方を…!!」
プラチナブランドの髪と濃いオレンジの目が特徴的な男が吠え
セシルに掴み掛かろうとするのを、マルクスは止めた
「止めなさい、ヴィルヘルム
彼は私が何者か、まだはっきりとは知らない」
「そうなんだ?じゃあ言っとかねーと
お前の目の前にいるその人は、魔族領アデモスの第16王子
で、俺たちはその護衛
こっちはその辺の半端な魔女なんてゴミカスレベルに叩き潰せる
態度には気を付けた方が身のためだぜ」
ケラケラ笑うのは、小屋の出入り口を塞ぐように立っている
子供のような面持ちで、黒髪に目の覚めるような青い瞳をもつキース
「…はっ、魔族の王子…?寝言は寝て言えよ」
グルルッと獣の唸り声を漏らすヴィルヘルムを右手で制止し、マルクスは無表情に続けた
「信じずとも構いません
私の身分など、今はどうでもいい
重要なのは、我々の敵は“魔女”であること
そして、貴方が特別“魔女”の追跡に優れていること」
“魔女”は魔法や魔力を研究し続けた成れの果て、魔族にとっても
彼らの存在は害であると言う
それに、とマルクスは続けた
「ノーシルプから一定以上離れられないのをご存知ですか」
彼が言うことには、入居者はノーシルプから離れる程に体と魂がブレるような感覚に襲われる
それでも移動を続けると気絶し、目を覚ました時には自室に戻されているという
「色々と試した結果、この範囲を広げるのに魔結石が有効です」
それは魔力の内包量の多い、魔獣や魔族が体内に生成する魔力の結晶のことである
魔女はかなりの高確率でコレを体内に持っているのだと言う
「…そんな物見たことないぞ」
「見るも何も、貴方はソレを食べてしまっています」
トンと、胸を人差し指で小突かれ、セシルは眉を顰めた
「次にここやこの付近に魔女を感じた場合は1人で行かずに私を呼びなさい
魔結石を取り出す手順を教えます」
マルクスはセシルに魔術的な術式の書き込まれた鈴を一つ渡した
◆◆◆◆◆◆
午前1時頃、ルッツと他に2人の女を引き連れ
エドリック王は娼館を後にした
大の女好きで有名な王が、ルッツも数日貸切りにした事には娼館の支配人も驚いたが
礼金をたんまり受け取ったので、二つ返事で彼を差し出したのだ
「それにしても、ドロドロした因縁なんかを纏った女は多いがお前のそれはなんだ?
墓守りでもまだマシなレベルだ
…このまま戻ると、城の神職が大騒ぎするな」
ルッツからする、死霊術の気配に王は暫く考えるように顎に手を添えてから
何か思いついたのだろう、付いて来いと裏路地を進み始めた
幾つかの裏路地を折れ進むと
深夜にも関わらず、明かりの漏れる窓がある
王は迷いなくその家の扉を叩き
はーいと家の中から返事が返ってきて、何故か王は顔を顰めた
ガチャッと開かれた扉から、若い男が顔を出し
王や男を誘うためのドレスを着た女とルッツの姿を見て不思議そうにする
「あれ?デリヘルなんて頼んだっけ?」
「うーん?何処かで道を間違えたか?」
玄関口で王も男も互いに困惑していると
更に奥から老年の紳士が歩いて出てくる
「どうした、セールスなら追い返せ」
「あっ!」
その紳士にルッツは思わず声を上げた
というのも、以前リゼットに殺されかけた時に治療してくれた彼だったからだ
「お!なんだ間違いじゃなかったか!
と言うかなんだ?お前達知り合いか?」
紳士とルッツとを交互に見て、更に初めに出て来た若い男も見て王は
ははぁーと意地の悪い笑顔を作った
「バイロン、お前やっぱり男色家だったか
なるほどこういう若い男が好みなのだな」
ニヤニヤする王に対して何の用だと紳士、バイロンは冷たくあしらう
「お前は相変わらずツレないなぁ…
お楽しみ中だったの?ごめんごめん
で、この男の悪臭を消せるアイテムない?」
バイロンはルッツの頭から爪先までをジロリと見てから一度奥へと引っ込んだ
そして、暫くすると香水の瓶を一つ持ってくる
それを王が受け取ろうと手を伸ばすと、バイロンはひょいっとその手を避けた
「カイザーセレニセレウス」
「また希少性の高い物を要求する…」
「このポーションに使われている素材を鑑みれば妥当の請求だが?」
「分かった分かった、後で花を城の者に届けさせるって」
バイロンは小瓶を王に渡す
「用は済んだだろう、帰れ」
王が外に出ようとしないので
玄関扉が閉められない位置に立ったままの王を鬱陶しそうに見る
「俺とお前の仲じゃん、久しぶりに会ったのだからもう少しお喋りしよ?な?
でさ、その男は何処の娼館の男娼だ?お前ってどんなプレイするの?
あの時やあの日だって好みのタイプ言ってくれれば、それに合わせて贈ったのに」
「追い出せ」
はーいご主人様ーと若い男は王を外に押し出して扉を閉めた
追い出された王は肩をすくめて、連れの3人を見てから城に向けて歩き出す
「現役の王様にあの態度ないと思わん?」
娼婦達もルッツも苦笑いするしかなかった
・
・
・
「現王にあの対応で良かったわけ?w」
玄関扉の鍵を掛けた若い男は
不機嫌そうなバイロンに話しかけた
「構わん、どうせ奴は私には何も出来ん」
「奴呼ばわりwww」
「そんな事より、装置の魔力の流れを止めてしまった…分かるか、一からやり直しだ
家事が済んだのなら手伝え、ダンテ」
ハイハイ、仰せのままにと2人は部屋の奥へと戻っていった




