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NOSIRP  作者: まるっち
15/84

盗人とフルール

晴れているが、耳が痛くなる風が吹きぬけるエルカトルの表通りをルッツは歩く

ここへ来て1ヶ月と半月が過ぎたが

こうして昼間の街をゆっくりと散策するのは

思い返してみれば初めてのことだった

夜とは違う街の顔に、物珍しさを感じながら

露天でリンゴを一つ購入し、齧る

今日こうして、昼間の表通りを歩いているのは

経済的に余裕が出てきたので、新しい服でもと思ったからだ

なので適当に目についた服屋に入る

「いらっしゃいませ、どういったお召し物をお探しで?」

「エロジジイが息子ビンビンにしてむしゃぶりつくような服ってない?」

「エロジジイ?え…あー…と…」

こうして、もう数軒の服屋を困らせている

「あーじゃあさ、適度にフォーマルなのは?」

「それでしたらコチラに!」


花街にある煉瓦造りの娼館を訪ねた後

声を掛けてきた客引きと、その他数人と組んず解れずあれこれした末

ルッツはその娼館“ローズポッド”で無事に雇われる事に成功していた

入店してからは

初めこそ好奇心で指名される程度だったが

数日もしたら、ルッツの性技に惚れ込んでしまった者や

噂を聞きつけたスケベ達でお店は大盛況

気をよくしたオーナーに給料とは別にお小遣いまでもらえてしまった


これだけ噂になれば、王の耳に入るのは時間の問題だろう

そうなった時の為に“ちゃんとした服”を探しているのだ

「まあ、やっぱこのくらいの値段か」

店員が出してきた服の値段は、何処の店も大体同じくらい

120〜160エルクくらいの価値である

因みに今ルッツが今着ている服は5エルク

服にこんな大金を叩く事に抵抗を覚えつつも、王に成るための軍資金ならと

仕方なく程よくフォーマルな服を購入した


店を出てノーシルプに向けて歩き出す

今日はこの他にも雑貨や食品を買ったので

持ってきていた麻のリュックはパンパンになって重い

近道をしようと思い、ルッツは裏通りに入る

表通りとは違い、明らかに柄の悪い輩の溜まり場になってはいるが

皆、ルッツをじっとりと睨むだけで手は出してこなかった

ルッツ自身も、それが分かってて裏通りに入った筈だったが…

急に強い衝撃を背後から受け、ルッツは倒れた

「ーってぇ!?」

しかも、背負っていたリュックを奪われ

奪った者は、人間とは思えない素早い動きで路地の奥に走って行った

「クソっ!!返せ!!」

慌てて立ち上がり、走り去った者を追って路地に入るが

時すでに遅く、何処にも見つける事ができなかった

あれから数時間、泥棒を捜して彷徨ったが

見つかるはずもなく、がっくりと落ち込んだままルッツはノーシルプに帰ってきた

盗られたのは、今日買った物とお金

流石に全財産を持ち歩いていた訳では無いので、生活の心配はないが

それなりの大金であったからこそ、悔しさが半端ではない


しかし、共有エリアのリビングに入ると机に見覚えのあるリュックを見て

思わず「えっ」と声が漏れた

そして、そんな様子のルッツに気が付いた

フードを目深に被り、リュックを漁っていた人物は

彼を見て目をまんまるに見開いたかと思えば

椅子を倒して立ち上がり、個室の方へ走り出した

「おい!お前!!」

個室に逃げられる、そう思った瞬間

個室へ続く廊下の扉が勢いよく開き、入ってきたセシルが反射的に向かってくる相手を捕まえて床に組み敷いた

「痛い痛い!!イタタタタタ!!

腕が腕が折れるぅー!」

「…テメェ、またやらかしやがったな!」

「やめて!ちがうオレわるくない!」

セシルの下で暴れる人物のフードが脱げ

その下から猫にしては大きな頭が露わになった

「…あっフルール!

こいつボムボム・ケットンだな!?」


セシルはボムボム・ケットンを椅子に縛りつけ、リビングの隅っこに放置した

アメリカンショートヘアのような柄の猫の獣人は、しきりに自分は悪くないと叫ぶが

セシルは完全に無視して、落ちていたリュックをルッツに投げた

「…この腐敗臭のする鞄はお前のだろ

こんな臭い物、わざわざ盗むなんてな

…ボム、お前また墓荒らししたろ

コレが分からないなんて、呪われてんじゃねぇのか?え?」

「してない!してない!してない!」

「…黒だな

ジクスが戻るまでそこで反省してろバカ」


それからジクスが帰ってくるまでの1時間

ボムは椅子に縛られたまま騒いでいた

ただいま、と帰ってきたジクスは

部屋の隅で椅子に縛られた彼と

煙草を吸いながら新聞を読むセシルを見て直ぐに事態を察したようだった

「またかい?まったく…セシルは触ってないね?」

「…そいつのポケットの中は触ってない」

「オレわるくない!!!」

はいはい、とジクスはボムの前に行き祈りを始める

ボムは椅子をガタガタと揺らし逃げようともがくが、縄は解けない

ジクスのボムにかざされた掌が光を帯び始め、より強く発光した瞬間

ぎゃっ!という悲鳴と共にボムは椅子ごと後方に倒れた

「よし、解呪できたよ」

どれ、とセシルは椅子ごと倒れて気を失っているボムのポケットを弄った

すると、出るわ出るわ

…金のネックレス、指輪、ペンダント等の貴金属

それを机に並べていく

コレら全てがどうやら地下墓地の盗掘品であり、このどれかが呪われていたようだ

「この盗品は、俺が地下墓地にもどしとくよ」

そういえば、とセシルは

取り戻したリュックから、露天で買った惣菜を出して食べているルッツを指さした

「…そいつも呪われてたりしねぇか?」

「ああ確かに、死霊術の気配が濃くて

その可能性を失念していたね

アンデットと関わってたんだから先ず呪われてると思って間違いないよ」

え?と状況が理解できないルッツに、ちょっと見せてねとジクスが祈りを始めた

そして、パンッ!という破裂音と共にルッツは吐き気をもよおし

黒い霧のような物を口から吐き出した

「…うぉ、マジで呪われてたじゃねぇか!」

「死霊術の気配は消えないね、でも何かしらの不調は取れたんじゃない?」

ルッツの口から出た、黒い霧を

その辺にあった適当な容器に捕まえて鑑定する

「これ経験値に大幅にマイナスがつくデバフだよ」

「マジ?」

老ゾンビと暮らしいていた間、彼がパワーレベリングしてくれていたのだが

それでもルッツのレベルは7である

この呪いのデバフで、貰える経験値が大幅に減少していた為に

レベルアップに必要な戦闘回数が異常に上がってしまっていたせいだったのだ

「ジジイが俺にそんな呪い掛けてたってこと?

意味わかんねぇwww」

「うーんコレは多分違うと思うな、他に呪われるような心当たりない?」

心当たりなら大有りである

なにしろ、ルッツも住んでいた墓場の墓を何度も荒らしているし

ゴースト系のアンデットに追いかけ回された事も少なくない

「…そいつも、ボムと同じシーフなんだ

どうせ墓でも荒らしたんだろ」

「シーフへの偏見すごっwww」

セシルは間違ってないのだが、ルッツは思わずツッコンだ

「…ああ?偏見?シーフってのは盗人って意味だぞ

何処が偏見なんだ

ジョブとしては魔物から盗んだり、ダンジョンの開錠、罠解除が仕事なんだろうが

人間相手にやってる奴なんてアホほどいる

そりゃ、危険な魔物相手にするより

街で人間から盗む方が楽だからな」

更にセシルは床で伸びているボムに軽蔑の視線を落とした

「特にフルールなんて、理性の効かないバカな連中ばかりだ

コイツらの犯罪率知ってるか?

本能に忠実過ぎて牢獄は半分フルールで埋まってるらしいぞ

フルールを見たら罪人と思えとはよく言ったもんだ」

確かに、ルッツがよく使う裏通りや

日の当たらないエリアの柄の悪い連中にフルールは多かった

「ふーん、で、罪人だと思ってんのに

ルームシェアしてんの?」

「…それは、ここに誰を住まわせるかを決めるのは俺達じゃねぇからな…」


「…んにゃ!!」

急に猫を踏んだ時のような悲鳴が上がり

視線はボムに集まった

「…目が覚めたか?毛虫」

「ああん?ファーレスがなに俺様を見下ろして…て、にゃんだこれ!おい!縛りつけたのお前か!?」

どうやらボムにはさっきまでの記憶がないらしく、何故自分が椅子に縛られているのか分からないようだった

「待って今解いてあげるから」

「早くしろ!ノロマ!これだからファーレスは!!

てかこの部屋メッチャ臭ぇ!!おいファーレス!クソ漏らしてねぇか!?」

「…毛皮にしてぇ」

セシルの額に青筋が浮いている

拘束を解かれたボムは、ジクスにお礼すら言わずむしろ泥棒扱いしたが

ジクスが真顔で「次は憲兵に突き出すよ」という冷たく言い放ったのを聞き、自室に逃げて行った

「チッ…見たろ、フルールには関わるな

次は病気感染されるぞ」

セシルは苛立ちを込めて新聞を机に捨て、浴室の方へ歩いて行った

いつも穏やかなジクスもうんざりした様子で倒れた椅子を起こしている

老ゾンビにも、フルールに近付くなと言われていたルッツは

なるほど、こう言うことかと腑に落ちたのだった

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