冷たい好奇心
その日、ルッツはエルカトルの一番高いところに建つ
スノームースの城、クリスタル・レイに向かって歩いていた
この城は魔力に対して耐性の高い水晶を加工して造られた外壁が特徴的で
雪の多い寒冷地にある、スノームースでキラキラと輝くようなその姿は
氷の城とも呼ばれていた
城下町の坂になったメインストリートを登って行くと城の門に辿り着く
数日前にこの城の騎士に保護され、門内の兵舎に入ったルッツだが
当たり前に門番にその歩みを止められた
「これより先、許可のない部外者は通せない
ボウズ、来た道を戻るんだ」
甲冑を着た衛兵2人が前に立ちはだかる
「俺、つい最近ここの医局に運ばれたんだけど
その時、忘れ物しちゃったんだよね
それを見つけたらすぐ帰るから、ちょっとだけ!ダメ?」
「ダメ決まっているだろう!帰れ!」
もちろん、忘れ物などしていない
もう一度、何とか中に入って
あわよくば城内で知り合いを作ろうという魂胆だが、上手くいくはずもなく
衛兵と揉めていた所に、門の内側にいた1人の男が近付いてきた
「あれー何騒いでんの?」
「ああっキース!この子供が…
医局で忘れ物をしたとか訳の分からない事を言っていてだな」
「ん?お前…忘れ物ってアレか?アレだろ!ちょっと待ってな!」
黒髪の少年の様な男はそういうと、タッとその場を離れ、数分のうちに戻ってきて
ルッツに小さな小銭袋を突き出した
「これだろ!お前の忘れ物」
「あー…そうそう、これこれ
あんがとwそれじゃw」
自分の物ではない小銭袋を受け取り
ルッツはその場を離れる
(…やっぱ、正面から入るのは難しいか)
上手いこと追い払われたな、なんて思いながら中を確認する
中には期待したような硬貨は入っておらず
一枚の紙切れが入っていた
・
・
・
「へぇーお前みたいな身なりのガキは
大半が文字なんて読めないけど
ここにいるって事は読めたんだ?」
小馬鹿にしたように笑いながら
昼間、ルッツに小銭袋を渡した男は
ベンチに座っていた彼に声を掛けた
「“12時20分に広場のヘラジカ像の右のベンチで待て”だろ?
で?俺の時間は安くないぜ?」
対してルッツも強気に返す
男はフッと鼻で笑うと、ついて来いといい歩き出した
「俺はキース、あんな場所に何しに来たんだ?
最悪、投獄されても文句言えないぜ?」
「何でだよwただ忘れ物取りに来ただけで?」
そんな物ないくせに!とキースは声をあげて笑う
「ま、どっちにしたって日が悪いな!
特に今日はスノームース内の領主が集まって会議してる
守衛はピリッピリさ!
で?何の用があったんだ?兵舎に」
さっきまで笑ってたキースの顔は、笑顔のままだが
青く光る目は笑っていなかった
「…騎士に…助けてもらって、カッコ良かったからさー…
ほら、俺もなりたいなって…」
咄嗟に嘘を吐く、キースはふーんと目を細めルッツをじろりと見下ろした
「無理じゃね?弱すぎて話にならねぇ」
「わっ!分かってるし!」
ピタッとキースが足を止め、親指をたてて右を刺した
「ここ、俺の家…入る覚悟ある?」
・
・
・
キースの家はうなぎの寝所のように細長く狭い場所だった
必要最低限の家具と、ベッド、そして何かよく分からない魔獣の皮や骨が
幾つも転がっていた
「じゃ、混み合った話ししよっか」
「大3、痛いのは無し
中に出すなら追加で1ね」
ルッツはてっきり“そういうこと”だと思ったが、キースは腹を抱えて笑う
「マジ言ってんの?人間なんて抱かねーって!
つか、お前死ぬよ?
あははは!まあいいや…
お前さ、王になるとかホザいてるらしいじゃん?何で?
本当になれると思ってんの?」
「なれるかじゃなくて、なるんだって
じゃないとジジイと一緒に暮らせねーし」
一体誰から聞いたのだろうと疑問に思いながらも、別に隠している事でもないのでそこは聞かなかった
彼自身、滅茶苦茶なことを言っているのは頭では分かっている
それでも、大切な人と安心して住める世の中を手に入れたいと思っていたのだ
キースは近くの椅子にドカッと腰を下ろして真剣な顔のルッツを見た後
これでもかと口角を釣り上げ、邪悪な笑顔を浮かべた
「いいねぇ、面白いじゃん
マジのアドバイスしてやろうか?
お前、人間の癖にくせぇんだよ
魔物の臭いを隠せない限りあの城には入れてもらえない、騎士にもなれない
この前みたいに死にかけて保護されたら
ワンチャン、兵舎の医局までは行けるがそこまでだ」
「ダメじゃんwww」
「最後まで聞けって!
例外があんだって、下賤な輩でも入れる方法でお前にピッタリのやつ!」
・
・
・
ルッツはもう日の落ちたエルカトルの街の歓楽街に向けて裏路地を歩いていた
通り過ぎる民家からは、夕食のいい香りが漂ってきてお腹が鳴る
キースの教えてくれた話
それはこの国、スノームースの王のこと
現王、エドリック・カルネウスはかなりの好色漢で頻繁に花街から女を買う
そして、その王には息子が1人いた
時期王の王子は、王の連れてきた商売女も
他国や領主の娘に一切見向きもしない
そんな王子に“男が好きなのでは”という根も葉もない噂が流されている
「実際、王子が男を好きじゃなかったとしても
上手くやれば城に入り込めるかも…だろ?」
キースは無責任に言い放ち笑ったのだ
「ここか…」
辿り着いたのは、夜の店が立ち並ぶ
あまり雰囲気のいい場所とは言えない場所
ルッツは元より、男娼として稼いでいるが
個人的にやっていることであって
この何処の店にも属してはいない
キースからもらった情報が正しければ
この通りにある煉瓦造りの娼館が、王のお気に入りらしい
「お兄さん、うちは30分20エルクだよ」
「こっちは今日入った新人がー…」
「フード付き!朝まで居ても60エルク!」
各娼館の呼び込みがルッツに営業をかけてくるが、彼はそんなものに興味はない
それらを適当にあしらって目的の娼館に辿り着いた彼に
他がそうであったように呼び込みが寄ってきた
「やあ、お兄さん!うちはエルカトル一番の女の子揃い!由緒正しい娼館だよ!」
「一番の女しかいないのか?」
「え?そりゃ…ここは女の子と遊ぶ場所だからね」
「へぇ、その一番の女より
男を悦せられる自信があんだけど
ねぇ、ボーイさん…俺のこと試してみない?」




