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NOSIRP  作者: まるっち
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月を食う

3人の騎士は襲い来る蔦を次々に斬り伏せ、ルッツとリゼットを救出する

その中の金の短髪と透き通る様な青い瞳を持つ青年は

その奥で磔になっているセシルへ迷わず進むが

目の前まで辿り着いた青年に向かい

セシルは助けを乞うどころか

真紅に光る眼で彼を睨みつけ、牙を剥き唸り声を上げた


「…最早、人ではない」


青年のそんな呟きを

朦朧とする意識の中で聞き

霞む視界と彼等が蔦に覆われる刹那

確かに禍々しい何かを見て

ジクスは気を失った

ジクスが次に目を開くとそこは薄暗く湿った地下ではなく、エルカトルの城壁内の兵舎であった

血と消毒薬の匂いと、汗と土埃の臭いが混ざり

地下とはまた別の異臭にジクスは顔を歪める

「司祭さん、お目覚めですよ!」

彼の横たわるベッドの隣に腰掛けていた男が高らかに叫ぶ

彼は、一番初めにジクスの拘束を解いてくれた男だ

屈強なイメージの騎士には似つかわしくない少年のような幼い面持ちをしており

漆黒の黒髪に目の覚めるような青い瞳をしている

彼の叫びに答えたのは

彼とは対照的にプラチナブロンドの髪と濃いオレンジの瞳が印象的な男

「騒がしい奴め

叫ばずとも聞こえている

…お前、今回は運が良かっただけだ

能力もないのに魔女の根城などに立ち入るな」

ジクスを忌々しげに見下ろし

低く唸るように吐き捨て男は部屋の奥へと消えてしまった

「あーぁ、ごめんねー司祭さん

ヴィルヘルムは人間が嫌いだからさぁ」

プラチナブロンドの男はヴィルヘルムと言うらしい

「ありがとう助かりました

あの、俺の他に女の子と男の子

それに…成人男性が一人…」

ジクスは一緒にいた2人と、事の発端であるセシルの姿を探して、兵舎内を見渡した

「連れのガキどもは俺達じゃどうにもならないってんで医務局に任せた

推奨レベルに達してないガキを紙装甲で連れて行けって

神のお告げでもあったのか?」

少年の面持ちをした男は嘲るように言い終えるや

途端に部屋の奥に顔を向け表情を固くした

「キース、言葉を慎みなさい」

「やだなぁ…

いつから聞いてたんですかぁ?

人が悪いなぁ…」

少年のような彼をキースと呼ぶ

奥から現れた金の短髪と青い瞳を持つ長身の男

ジクスは彼の姿を認めるとベッドから立ち上がろうとしたが、身体が痛みそれは叶わなかった

「…やっぱりマルクスだったんだ

迷惑かけたね」

「確かに貴方がたが道を外れて行ったと耳にはしましたが

我々もあの場所に用があったので

しかしながら、あの場所は真夜中に低レベルの子供を2名も伴って行く場所とは思えません

以後、お気をつけ下さい

我々も騎士として市民を守る使命がございますが万能ではありませんので」

マルクスは淡々と機械的に伝える

「ごめん、マルクスの言う通りだ

俺はあの子達を止めなきゃいけなかったのにね…

あのさ、セシルは…セシルも医局?」

「アレは帰宅させました

貴方も治療は既に済んでおります

立てるようになりましたら

門番には伝えてあるので、帰って頂いて構いません

他の2人の子供は治療が済み次第、帰すのでご安心を」

軽く一礼をしたマルクスは

近くのキースへ彼の世話を続けるよう指示して、部屋の奥へと消えて行った

今聞いたセシルの事がどうにも気になったジクスは、ピシャリと両頬を叩くと

まだ痛む身体を無理やりベッドから引きずり降りた

「あれぇ?帰るの?まだ痛むでしょ

痩せ我慢か〜感心しないぞ」

「これ以上、迷惑かけられませんし」

キースの言葉を背中に受けながら、彼は兵舎を後にした

まだ痛む傷よりも、セシルの事が気になって仕方がない

足早に大通りを通り過ぎ

路地をいくつか折れ、ノーシルプの玄関の扉を勢いよく開く


「あ…セシル!」


玄関を入って直ぐの場所で

紫煙を口から吐きながら壁にもたれるセシルの姿がある

彼はジクスの姿を一瞥すると、大きなため息と共に大量の煙りを吐き出した

「…世話かけたな…

ガキはともかく、お前が来るとは思わなかった」

あの地下室で確かに自分達に向けられた

殺意を帯びた視線と赤い瞳

そして、邪悪な気配は何処にもない

ジクスは、薄れ行く意識の中で聞いた

マルクスの“…最早、人ではない”という言葉は聞き間違えだったのかもと思う事にした

「体調はどう?何かその…」

「…あぁ…魔女を殺した時に魔法を掛けられていたらしい…

それは騎士団のビショップが解いた

…だから…大丈夫だ」

丁度、煙草を一本吸い終えた頃を話の区切りとして

セシルは自室へと戻っていった

「“大丈夫”ね…」

元々、セシルに考えながら話す癖のあるのを知っているジクスだが

そんな彼の言葉の端々にあった妙な間に

不気味さを感じずにはいられなかった


◆◆◆◆◆◆◆


【兵舎】


「お客さん帰っちゃいました」

別室で蔦の汁に汚れた装備の手入れをするマルクスにそうキースは報告した

「何か失礼をしたのでは?」

「いいえ?まさか!

俺にしては優しく丁寧に接しましたよ

何たって未来の王様かも知れない人のお友達なんですから!!」

尊敬の意を示すというよりは、何処か小馬鹿にしたような下卑た表情を浮かべ

態とらしく跪いてみせる

「全く不愉快だ」

そんな所にヴィルヘルムが部屋へ入ってきて

跪くキースを一瞥すると、不愉快そうに顔を歪めた

「保護した二人は帰しました」

「お前はいつも不機嫌だけど

今日は更に不機嫌だな

絶対的なご主人様の命令に何か不満なんてあっちゃいけないよなぁ?」

キースはすくっと立ち上がり

自身よりも背の高いヴィルヘルムに対して薄笑いを浮かべ挑発的に睨みあげる

「不満に決まっている

野良は調伏したとしても

檻に押し込めるのが一般的なもの

常にお側にお仕えするべきは由緒正しい私のはずであり

下賎な輩ではない!!」

話し始めこそ静かだったが

最後はまくし立てるように怒鳴り

肩を上下させ息を吐く、ヴィルヘルムのオレンジ色の瞳には憎悪が滲む

しかし、マルクスは一切顔色も変えず

チラリと時計を確認すると

無感情な声で言葉を発した

「後10分もすれば別の騎士が戻る

“今”貴方達は私の同僚である

“ヴィルヘルム・ブラード”

“キース・ペイトン”

という人物だという事をくれぐれも忘れないように」

◆◆◆◆◆◆◆◆


【ノーシルプ】


医局で治療を受け、すっかり回復した二人は

少しづつ明るくなってきた西の空の下を駆け足気味にノーシルプへ戻ってきた

「やっぱ、ろくな目に合わなかった」

「…ごめんなさい」

流石にもう付き合わないからなと

念押しつつノーシルプの扉を開こうと手を伸ばした時だった

入居者には無害の筈のガーゴイルが、突然雄叫びを上げ二人を威嚇した

「なっなんだよ!俺の事忘れたのかよ!?」

たじろぐ二人と扉の間に立ち塞がり

ガーゴイルは更なる威嚇に吠える

2人が玄関の前で狼狽えていると

扉が開き、ジクスが顔を出す

そして、2人を交互に見てから

ルッツの方へ歩み寄り

何の説明もなく、首から下げたロザリオを彼の額へ当てた

「何か仕込まれてるね」

ジクスの短い呪文の後に

パン!っと破裂音が響き、ルッツの肩から何かが吹き飛び

ガーゴイルは吹き飛んだソレを追って飛び立った

唖然とするルッツの肩を叩き

もう大丈夫、と二人を建物の中へと引き入れる

「ちょwなに今の」

「兵舎か、魔女の巣窟か

とにかく見張りを付けられていたね

何方にしろ中には入って来られないだろうから安心していいよ」

ジクスは玄関から頭を出し、外を一通り見渡してから静かに扉を閉めた

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