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NOSIRP  作者: まるっち
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無責任なコウノトリ

それは月のない静かな夜のことだった


闇夜に紛れ、足音が二人分

朽ちた墓場に向かってくる


慌てた様子の男女の声

スコップが土を掘り返す音

土が塊に降り注ぐ音

足早に去っていく二人分の足音


音の全てが遠退いて

再び墓地が静寂に包まれた頃に

傾いきひどく傷んだ墓守小屋の扉を押し開け

湿った空気に満ちた空間に踏み出した


墓の中の不自然な盛り土は

たった今、掘り返されたことが伺えるように

濃い茶色の湿った土が盛り立て滅茶苦茶に踏みつけられている

じっと見つめれば、その盛り土が微かにだが

地中から押し上げられるように小さく上下しているのが分かった


「…丁度いい墓石の前に何を隠して行ったのか」


スコップを突き立て土を掘り返す

おそらく埋まっている柔らかなソレを傷付けないよう

少しづつ少しづつ掘り進め

土から右の手首までを掘り出し

そこからはスコップを墓石に立てかけ

素手で土を退けていった


痛い…


目を開くと、隙間だらけの天井


初めて見る景色と、全身の酷い痛みに

冴えない頭をフル回転させて

自分自身がどういう状況なのか考えてみて思い出した


「そうだ、俺…滅茶苦茶に殴られて」


母親が連れてきた男から散々に殴られ、蹴られて

痛くて、胸が苦しくなって…

それから…目が見えなくなって…?


へえ、死んでも痛いんだな


体中が痛すぎて起き上がれないから

目だけ巡らせて辺りの様子を見る


木製の小屋っぽい建物

床も壁も天井も、所々腐ってる

人間の住処にしては、生活感はない

湿った空気には肉が腐ったみたいな

生き物の死んだみたい悪臭が混じってる


そうやって色々見渡してたら

傾いてぐずぐずになってる扉が

ギッギッと不快な音を立てながら

無理やりって感じに開き

ガリガリのジジイが1人入ってきて

小屋一番の暗がりに移動し俺の方を向いた


そいつが入ってきた途端

建物の中一杯にすえたような、腐ったような臭いが充満して

胃の中は空っぽだったからゲエゲエと声が上がるだけだったけど

吐き気を催してしばらくえづいた


「目が覚めたか

あんた、名前は?」


「…うぷっ…先にそっちが名乗れよ…

うぇっ!…子供だからって…うぶっ

舐めんなよ…!」


そのジジイは毛のない頭を指先でカリカリと掻いて面倒臭そうに答えた


「名前は忘れたよ

俺の名前を覚えてて呼ぶ相手は、もうずっと昔に居なくなった

そうだな…そっちの思ったままに呼んでくれていい」


ジジイが喋ると一層、部屋の中の臭気が強くなる

もしかしたら酷い虫歯で口の中が腐ってるのかも知れない


「…ぅえっ…ルッツ…

ルッツ・リベラ…」


「…ルッツ…聞かない名前だな

まあ、その方が都合がいいだろう

どうしてそんなことになったか

俺から深く聞くつもりはないから

ここに居るも、出て行くも

あんたの好きにしたらいいさ」


ジジイはそこまで言うと

部屋の隅から手だけ伸ばし缶詰を置いて

また、ぐずぐずの扉から真っ暗闇の中に消えて行った


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