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015 新たな衣装で始める三日目

 21世紀のバイオスフィアでの生活が三日目に突入した――。


 昨夜は非常に快適な睡眠をとることができた。

 寝床が地上に移り、さらには布団のセットを手に入れたからだ。


 安物でも布団は布団だ。

 天然のハンモックとは別格の寝心地で、心身の疲れを癒やしてくれた。


 なお、順位は3位に転落していた。

 少なくとも俺と同レベルのスコアを稼ぐ人間が二人はいるようだ。


「うん、悪くない」


 朝日が昇る中、俺は境野が買ってくれた服に着替えた。

 シンプルな無地のTシャツに、色味を抑えたカーゴパンツ。

 これまでと変わりないが、新しくなったことで着心地がいい。

 下着と靴下を新調したのもいい感じだ。


「ゆーきん、私の新しい服はどうっすかー!?」


 晴菜が「じゃーん!」と声を張り上げながら登場した。


「おほぉ」


 思わず声が漏れる。

 彼女は胸元が深めに開いたフィットシャツに黒のホットパンツという格好をしていた。

 特に素晴らしいのがシャツだ。

 ボディラインが強調されている上に、胸の谷間がよく見える。

 思わず凝視してしまい、「おほほほ」と笑ってしまった。


「その反応を見る限り大正解っすね!」


 と言いつつ、晴菜は見せつけるように右脚を前に出す。

 よく見ると、太ももに深紅のレッグホルスターが装着されていた。

 まるでアクション映画のヒロインみたいだ。


「似合っているじゃないか。でも、そのレッグホルスターには何を入れるつもりなんだ? サバイバルナイフか?」


「正直、何も考えてないっす!」


 晴菜は「えへへ」と笑いながら、ホルスターをぺちぺちと叩いた。


「なんかサバイバルっぽくてカッコいいし、ポーチみたいに使えれば便利かなーと思って買ったっす!」


「なるほどな。たしかに見た目はすごくキマっていると思うよ。せっかく買ったんだし、黒曜石の石包丁を入れるとかして有効活用してみてくれ」


「了解っす!」


 二人で話していると、シェルターの裏から亜希が現れた。


「わ、私も、境野君に買っていただいた衣装に着替えたのですが……」


 顔を赤くして恥ずかしそうに言う亜希。

 そんな彼女を見て、境野を含む俺たち三人は「おお!」と歓声を上げた。


 亜希の新しい服は、白のブラウスにワインレッドのミニスカート、それに白のニーハイという組み合わせだ。

 今までのタイトパンツに比べて、男性ウケを狙った格好になっている。

 彼女のスレンダーな体型やミディアムストレートの黒髪と合っていて、俺は心の中で「たまりません!」と吠えた。


 なお、亜希本人は顔を伏せ、恥ずかしそうに両手でスカートの裾をぎゅっと握っている。

 その姿がまた可愛らしくて、俺は「ほっほっほ」と笑ってしまう。

 晴菜が「ぶー」と頬を膨らませて睨んでくるが気にしない。


「今さらながら恥ずかしくなってきました。こんなに脚を出す服装って経験がなくて……」


「いや、すごく似合っているよ! 絶対に今のほうがいい! 境野もそうよな!?」


「いいと思う! タイトパンツの時はモデルっぽい印象だったけど、今は可愛い大学生って感じがする! やっぱりスラッとした長身だと映えるなぁ」


 境野の発言を聞いて、俺は「こいつ……!」と心の中で苦笑い。

 恋人がいるだけあって、明らかに俺よりも上手なコメントをしている。

 これが童貞を卒業できる者の力か。


「悠希くんが気に入ってくれているなら、こ、今後も、こういう格好をしようと、思います……」


 亜希は真っ赤な顔でペコリと頷いた。


「ぶーだ! どうせ私はチビっすよー!」


 晴菜が不貞腐れている。


「いやいや、春坂さんだってチビじゃないでしょ」と境野。


 俺は「だな」と同意する。

 晴菜の身長は本人曰く158センチなので、「チビ」と言うほどではない。

 ただ、亜希が165センチだから、相対的に小さく見えるだけのことだ。


「というか、境野も自分の服を買っていたんだったな。いい感じじゃないか」


「俺も久世と同じでこだわりがないほうだけどね」


 境野は落ち着いたデザインのシャツを着ていた。

 長袖で、ゆったりとしたサイズ感のものだ。

 服を着ているので見えないが、体には包帯が巻かれてある。

 亜希が買ったものだ。


「さて、服のお披露目はこのくらいにして――」


 俺は大きく息を吐くと、勢いよく手を挙げた。


「――今日も一日、頑張ろうぜ!」


 皆が「おー!」と応じた。


 ◇


 朝食をさっと済ませると、役割分担を決めることに。


「何かしたいこととかある? 何もないなら俺が決めるけど」


 俺たちはPTを組んでいるチームだが、明確な方針は定めていない。

 晴菜以外は順位に興味がないため、基本は各人の自主性に委ねるつもりだ。


「あの、いいでしょうか」


 亜希が遠慮気味に手を挙げた。


「お、何かしたいことがあるのか?」


「はい、石鹸づくりをさせてほしいです」


 亜希はパウチされた袋を取り出した。

 クラフト紙にバイオプラスチックを合わせたような物で、表面には「石鹸の素」と書いてある。

 どこか実験用の試薬を彷彿とさせる雰囲気が漂っていた。


 これは昨日、亜希が5ゴールドで買ったアイテムだ。

 詳しいことは知らないが、簡単な工程で石鹸を作れるらしい。


「なら亜希は石鹸づくりを頼む。清潔さを保つことは大事だからな」


「じゃあ私は飲み水を補充したら亜希の手伝いをするっす!」


 今度は晴菜が言った。

 大きめのヤカンを掲げている。

 昨日、彼女が35ゴールドで買った物だ。


 価格を聞いた時は「高ッ!」と驚いた。

 しかし、決して悪い選択肢とは思わなかった。

 竹筒よりも衛生的だし、容量が大きくて使い勝手がいい。


「川に行く時は猛獣に気をつけろよ。三つ首ライオンは倒したけど、境野を襲ったという妙なクマは健在だからな」


「大丈夫っすよ! その時はヤカンを放り出しても逃げるっす! 陸上部なんで逃げ足には自信があるっすよ!」


 俺は「それでいい」と頷いた。


「晴菜と亜希にそれぞれやりたいことが決まっているなら、俺は俺で拠点の拡張に努めるとするか」


 そう呟いた時だった。


「久世、俺は何をすればいいんだ?」


 境野が尋ねてきた。

 あえて触れなかったが、やはり見逃してはもらえなかった。


「それを決める前に体調を教えてくれ。問題ないのか?」


 境野の顔色は非常にいいが、だからといって万全とは言えない。

 俺としては明日くらいまで大人しくしてもらいたかった。


「大丈夫だよ! ほら、見ての通り元気だぜ!」


 境野が腕を回してみせる。

 しかし、微かに痛がっている様子が見られた。


「恋人を探すためにも無茶は禁物じゃないかな?」


 やんわりと休むよう促すが――。


「大丈夫だって! 軽作業ならできるから! 何かさせてくれよ!」


 案の定、境野は譲らなかった。


(これは休めと言っても聞いてくれないだろうなぁ)


 指示を出さなければ、好き勝手に動かれる恐れがある。

 境野の性格上、役に立とうとして無茶をしかねない。


(仕方ない、妥協案を出すか)


 俺は軽く息を吐き、境野に提案した。


「じゃあ、俺の作業をサポートしてくれ。荷物持ちとか、ちょっとした作業のヘルプとか。それでどうだ?」


「任せろ! サンキューな、久世!」


 境野が元気よく自分の胸を叩く。

 そして、「いってぇ!」と苦しそうに声を上げた。


「やれやれ、傷口に自ら攻撃する馬鹿がいるかよ」


「境野は私と同じで後先を考えないタイプっすねー!」


 なはは、と笑う晴菜。


「包帯、10ゴールドもしたんですから、無駄にしないでくださいよ」


 亜希は呆れ顔で言う。


「とにかく、これでやることが決まったな。昼になるまでは各自で決められた役割をこなしていくってことで。解散!」


 俺たちはそれぞれの持ち場へと動き出した。

お読みいただきありがとうございます。


本作をお楽しみいただけている方は、

下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして

応援してもらえないでしょうか。


多くの方に作品を読んでいただけることが

執筆活動のモチベーションに繋がっていますので、

協力してもらえると大変助かります。


長々と恐縮ですが、

引き続き何卒よろしくお願いいたします。

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