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第53章 探検の拠点

 コーリィたちが歩いてきた地下道を少し戻ると、細い脇道があった。

 3人がフレイザとミッゲルについていくと、その脇道の中にテントがあった。脇道は坂になっており、少し高い位置のヒャリツの壁を掘って出来た浅い横穴に、薄い鉄板と棒、布で建てた小さなテントの拠点である。

 緑と黄色の太いストライプ柄の分厚い布で囲まれたその簡易的な住居は、フレイザとミッゲルがヒャリツやマキシカの調査の基地としているところだった。

 二人で使う広さのテントは、そこに五人はなんとか入り込める広さだった。

「狭いが、少しはあったかいだろ?」

 そこはヒャリツ内を探検するための秘密基地であった。その狭い部屋の中心には、砂の入った壺があった。それがほのかに暖かく、ヒャリツの冷気に凍りついたコーリィたちの頬を優しく暖めて溶かしていく。

 火鉢を中心に、皆向かい合い膝を曲げて座る。ネッツが知っている、物資を詰めた箱がテントの隅の方においてあるのが見えた。ナガレが物資を詰めて運ばせた箱の一つだろう。

「火鉢は触れると火傷をするから気をつけてな。寒い地域で使われているもので、真似して作ってみたんだ」

 フレイザは火鉢の上に、過酷な環境で使いこんで凹みができたやかんを乗せた。

 ヒャリツ内はネッツが凍えるという感覚を初めて知った場所であった。その火鉢を囲んで五人は座り込む。もともと二人が入れるほどに使った小屋に五人がぎゅうぎゅうとはいると、それだけでも少しあたたかい。それに火鉢が加わると、ほっとする暖かさを感じたネッツの中で、ぴんと張り詰めた糸が少し緩んだ気がした。

 フレイザは深くかぶっていたニットの帽子を脱ぎ捨てた。赤みがかった金髪の髪が緑色の瞳にかかるほど伸びている。

 コーリィの髪と目の色は母親ミマ譲りらしいことをネッツは悟った。ミマの弟であるミッゲルはコーリィと同じ蒼い目をしているが、髪は暗い金髪のようだ。

「お父様、叔父様、ナガレが食事を持たせてくれたわ。いただきましょう」

 コーリィが持ってきた鞄には、食べ物が詰まっていた。

「本当か!久しぶりに保存食じゃない!」

 ミッゲルは喜んだ。

 コーリィは紙に包まれたサンドイッチを一人ずつに配る。新鮮な野菜とハムが、ナガレ特製のソースとともにパンに挟まっている。

「缶詰ばかりだったのでしょう?」

 コーリィはまだ無断でいなくなった二人に怒りを隠せずにいた。

「たまに沙漠で動物が獲れることもあるさ」

 フレイザの言葉にネッツが反応した。

「それって、首長竜?」

 月刊ミカイに書いてあった沙漠で生き残っているという巨大生物のことだ。化石しか見つかっておらず、ミカイの記事故に、いまもその巨大な生物が沙漠を闊歩しているとは思えない。

「首は・・・そんなに長くなかったかな。小さくてあまり食べるところもなかったが」

 ミッゲルは苦笑いをして、その沙漠で手に入れたという肉を語る。ネッツはわっと目を輝かせた。大きな首長竜ではなくても、子どもの首長竜かもしれない。それを捕まえて味わうなんてスナバラにいたら出来ない体験だろう。

 対照的にコーリィは眉間にシワを寄せた。一体あの乾燥と昼夜の温度差という過酷な沙漠環境に棲む動物とはなんなのだろうか。そして、食べる肉がないほどの小さい動物となれば、ネッツが雑誌の挿絵で見たような巨大生物ではないことは確かだ。

 火鉢で温めた湯でフレイザはお茶を入れる。不揃いの金属製のカップのお茶を皆に配った。

 ネッツは冷えた体に温かい飲み物を招き入れると、緊張が緩み、船酔いなんてすっかり治ってしまった。

 フレイザとミッゲルは久しぶりの新鮮な食材の挟まったサンドイッチを嬉しそうに頬張った。二人は味わいつつ、しかし早食いでもあった。

「コーリィ。マキシカ暴走事件は解決したのか?」

 フレイザの言葉に、コーリィはピクリと眉を動かした。ずっとヒャリツの中にいたフレイザがなぜ最近起こったマキシカ暴走事故のことを事件と呼び、知っているのか不審に思ったからだ。

「お父様、叔父様、知っていらしたんですね。ナガレからお聞きになったの?」

「おっと、ナガレからの報告のことも秘密だったんだ」

 ミッゲルが口を慎む。もはや、コーリィたちがヒャリツまで来てしまったのだから、計画を全て話してもいいはずだというのに。

 フレイザとミッゲルは、あの暗号受信装置でナガレに必要なものを伝えていた。ナガレが台所で大きな箱に食べ物、特に日持ちする缶詰や瓶詰め、焼き菓子、炭や薪などを詰めていたのは、二人のいる沙漠の真ん中へ届けるための必要物資だ。そこに、コーリィとミマのことや都市のことを書いた手紙や新聞記事もナガレが送っていたのならば、スナバラで起こっていた事件のことも、行方不明になっていた二人でも知っているわけだ。当然、コーリィたちがヒャリツに迎えに来ることも伝わっていた。コーリィの不満げな視線に、フレイザは口を開く。

「箱に入っていたナガレからの手紙に書いてあった。コーリィがここに迎えに来ることも書いてあったが、まさかこんなにすぐに来るとは思わなかったんだ」

 フレイザはコーリィの能力を見誤った反省と自責の念にかられた。寒いヒャリツの過酷な環境にずっといたために、正常な判断に支障が出ているのではないだろうかとコーリィはさらに眉をひそめた。

「ヒャリツの地下水の水位が最大になる日も近いわ。早く戻らないと」

「マキシカがもう少しで止まる。そうしたら、帰るさ。なぁ、ミッゲル?」

「来週くらいには・・・」

 二人とも明言はしないところを見ると、まだヒャリツにいるつもりらしい、コーリィはそれを見抜いていた。

「あぁ、そういえば、テイラーマキシカの事故に巻き込まれたのがネッツ君だったな」

 話を逸らすために、ミッゲルはネッツを話題の中心にした。奇跡の生還を果たした少年として二人はネッツを見ている。

「無事で本当によかったよ」

 フレイザとミッゲルは笑った。

 ネッツはサンドイッチを食べながら頷いた。しかし、コーリィは納得していない。

「クールショットの材料集めだなんて嘘をついていなくなったのは誰かしら?こっちは大変だったのに」

 コーリィは怒りを込めた。ネッツにはコーリィが初めて弱音を吐いたように見えた。

「コーリィ、それは父さん達が悪かった」

「まさか故意にマキシカを暴走させる人間がいるとは、俺たちも予想できなかった」

 フレイザとミッゲルは平謝りだった。しっかりした娘に任せて、自分たちは楽しい冒険に行っていたわけではないが、コーリィには無責任に失踪したように見えたことは否めない。

「クラム議員とコソックの二人や泥棒が逮捕されて警察が調べているわ。もうマキシカ暴走も故意に起きることはない。だからここにお父様たちを迎えにきたの」

「よくやったな。お姫様だと思っていたのに、コーリィは素晴らしい探偵で冒険家だよ」

 ミッゲルは大げさに姪を褒めた。

「お父様と叔父様のことも、私にきちんと説明してくださる?ナガレと画策していたのでしょうけれど、秘密なのはひどいわ」

「コーリィがこうやって追いかけてくることがないようにだ。そこは理解してくれ」

 フレイザは娘の成長と行動力に驚きながらも、親として、一人娘の安全を優先させたかったことを強調していた。

「計画を初めから話して!」

 コーリィの剣幕にフレイザは観念した。

「わかった。わかったよ」

 フレイザとミッゲルは、はじめはスナバラの西側の沙漠を超えたところにあると言われるトード山脈をヒャリツから目指した。しかし、ヒャリツの先は広い地底湖であることがわかった。その地底湖は半日船を進めてもすぐに向こうの陸地には辿り着かないほどの大きさだった。ヒャリツにある小さな船ではその地底湖を渡り切るのには向かないと判断し、その先に進むことを断念したのだった。スナバラからおよそ50オクルカの地下にそんな巨大な地底湖が広がっていることなど、知る人はいないだろう。

 ヒャリツは遥か西の山脈の地下に繋がっていると言われていた。山頂は雪が積もると言われており、その地下に雪解け水がスナバラに届いているという。その冷たさと沙漠の夜の低温がヒャリツの冷たさを支えていると考えられている。

「マキシカより西側とマキシカと都市側のヒャリツの温度調査から始めたんだ。確かにマキシカのせいでヒャリツの温度は上がっていた。だからすぐにマキシカを止めようとしたんだ。それがだいたい、いつだっけ、ミッゲル?」

「えっと、私が5ヶ月前からいて、フレイザが3ヶ月前から来ていて、だいたい一ヶ月半前のことだな」

「そうだな。ヒャリツにいると、つい時間の感覚がなくなってくからなぁ。ヒャリツのマキシカだがわかっているのは、すでに二週間前には停止しているってことだ」

「じゃあなぜ、すぐにスナバラに戻られなかったの!?」

 コーリィは声を上げた。二人がスナバラに戻れば、議会に疑念を抱かせることもなかったし、マキシカ暴走事故も早く解決していたかもしれない。リオードがコーリィを宥める。

「今、ヒャリツのマキシカはほぼ止まっているとは思う。しかし、メグリエ機関だけが、熱量を持て余して燻り続けている。それがヒャリツの温度を上げている」

 フレイザは広げた両手のひらほどの手帳の、書き込んだ頁をコーリィたちに見せた。過去にマキシカは回転羽を回して風を起こしていて、今はメグリエ機関からの熱量供給がうまくいかずに、稼働している回転羽は少ないと二人は考えていた。熱量を得てもそれを使ってくれるマキシカというパートナーがいないメグリエ機関は、今や熱量を持て余してしまっているのだ。

「このマキシカの集熱版は、地上の礫沙漠からヒャリツの天井に刺さり込んだ巨大な玄糖石(ショコライト)をそのまま使っている」

 ミッゲルの言葉にコーリィは口を開く。

「つまり、地上からクールショットでも止められない、ということかしら」

「あの手この手でやってみたがそうだった。メグリエ機関だけが暴走している珍しいパターンさ。設計図も失われているから対処法も不明だ」

 皮肉たっぷりな言い方をするフレイザは、コーリィと似ているとネッツは思った。しかし、話している内容はよくわからない。

「マキシカ管理局に設計図があるはずでは?」

 リオードはマキシカ管理局の管理官であるから、都市中のマキシカの設計図があることを知っている。

「もちろん調べてからここに来たよ。見つからなかった。別の場所に保管されているか、完全に失われたのだろう」

 ミッゲルもマキシカ管理局の管理官であったから、設計図を探すことができた。しかし、そのマキシカの存在さえ管理局では確認できなかった。

 マキシカ管理局で働く職員は都市中のマキシカの設計図を閲覧することができる。職員はマキシカ家とメグリエ家の人間だけではない。リオードの教育係をかってでたオゥサン・アリブレ管理員など、一般市民にはヒャリツのマキシカのことは隠されてきたため、マキシカ管理局にヒャリツのマキシカの設計図を置くことができないからだろう。メグリエ家にも、マキシカ家にもその設計図はなく、保存場所もわからない。もしかしたら、ヒャリツのマキシカの存在を知られぬよう、破棄してしまったのかもしれない。

 ネッツは四人の話に耳を傾けていたが、その内容はまったく意味不明だった。メグリエ機関やマキシカを知り尽くした家の人々。何も知らないネッツが口を挟める話ではない。コーリィを追いかけて、こんなヒャリツの奥まで来たのに、ネッツができることがない。

「メグリエ機関はどこにあるの?」

 メグリエ機関を止めるには、メグリエ機関の要となるものを回収するか壊す必要がある。紅夜石をメグリエ機関から外すことができれば、メグリエ機関は成り立たなくなる。

「それが、その場所がわからないんだ」

「集熱フィラメントが鳥かごのようになっている場所を見つけたんだ。フィラメントを切ってマキシカの中に入ろうとしたさ。フィラメントが太すぎて一日一本切るのが限界で、メグリエ機関の心臓部にたどり着けていないんだ」

 ずっと長い間ヒャリツにいたのは、フィラメントの切断に時間がかかっていたのだとコーリィはようやく状況が理解できた。

「夕日の歌にある黄色の糸と言われるフィラメントはなかったの?」

 夕日の歌がヒャリツのマキシカのことを暗喩していたことに、コーリィは確信を持っていた。

「夕日の歌?そんな歌詞だったか…?」

 フレイザは首を傾げた。

「フレイザ、キーウェルの手紙にあった、夕日の歌がヒャリツのマキシカのことを指すって話じゃないか?」

 どうやら、キーウェルの一通目の手紙に何か書いてあったらしい。

「あぁ。でもよくわからなかった」

 しかし、2人はその謎を解くことができていなかった。キーウェルが稀代の変わり者と聞いていた二人には、答えに結びつくヒントにならなかった。

「あの歌には三番目の歌詞があるの。それに詩を書いたのはキーウェル・ヒサーマよ」

「歌詞は二番までじゃないのか?」

 驚くフレイザとミッゲルは顔を見合わせた。夕日の歌と呼ばれている「明日の太陽」はスナバラの夕方に2度流れる放送の曲である。マキシカの停止時間の知らせのために、都市中で流されている。放送は2回で旋律だけが流れるが、2番までの歌詞は都市の多くの人が知っている。

 肝心の3番はスナバラの多くの人が知らない幻の歌詞だ。フレイザたちが知らなくてもおかしな話ではない。

 キーウェル・ヒサーマはマキシカの安全の守護者と呼ばれるべき人物だった。ヒャリツのマキシカの存在を知る人も限られ、点検も修理もされずに何十年も働き続ける孤独な機械のことを彼が憂いて、詩として遺したとしたら。

「そんな、まさか」

 フレイザは半ば信じられないようだった。

「ネッツは三番を知っていたわ。これが歌の詩よ」

 コーリィは歌詞を書いた紙切れを鞄から取り出し、見せた。


輝く 太陽 風と 眠る

沙漠の向こう 源へ

朝まで 力を 蓄えて

再び 冷めた 地を照らす


恵みの 雨風 大地 めぐる

空から雨が 潤して

西から風が 吹いてくる

幾千 咲いた 花たちよ


大地に 根を張り 葉を 広げ

東の街を 見守って

黄色の 糸が つなぐなら

紅 命 抱きしめて


「黄色の糸・・・これがマキシカの停止の方法・・・?」

 フレイザは突拍子のない考えに、固まった。

「マキシカ管理局には、夕日の歌のレリーフが飾ってあったが、ヒャリツのマキシカのことだったのか」

 ミッゲルは、管理局に勤めており、日々目にしていたというのに、気付いていなかった。

「三番の歌詞はレリーフにはなかった。だからこれはほとんど知られていない歌詞よ」

 三番の歌詞を知っていたのはコーリィの周りではネッツだけだった。ネッツはヒサーマがよく歌っていた歌として記憶していた。だから、信憑性があるとコーリィは考えていた。

「歌詞からして、ヒャリツのマキシカのことに思えてきたの。でもヒャリツのマキシカのことなんてみんな知らないから、毎日、夕日の歌を聞いても重大な情報だなんて気づかない」

 キーウェル・ヒサーマがいつかくるヒャリツのマキシカの停止のために、沢山の安全対策を遺していた。

 マキシカ管理局も、マキシカの停止の時間を知らせる夕日の歌を流すことも。そして、その歌詞も。

 彼が来る日のために準備した仕掛けが今、子孫たちによって花開こうとしている。

「コーリィ、この歌詞がヒャリツのマキシカのことを言っているとして、どう解釈したのか、教えてくれ」

 ミッゲルの言葉に、フレイザも頷く。

 今までのコーリィは、一番の歌詞では、マキシカの熱量となる太陽のことを歌っていると考えていた。ネッツが三番目の詩を口ずさんだ時、ふとこの歌詞がヒャリツのマキシカのことに思えたのだ。

 改めて歌詞を見直すと、一番の歌詞は太陽や太陽の神シロミヤを讃えている普通の歌詞である。スナバラでは一番の歌詞を知っている人も多いため、あまりヒャリツのマキシカの情報を隠さなかったとしたら自然だ。

二番の歌詞は一見、雨や雨の神アマミヤを讃える歌詞に思える。ヒャリツや地下水のことを歌詞に込めているとコーリィは考えた。

 “西から吹く風”は、夕方の西から吹く涼風のことだと多くの人は解釈するか、歌詞の意味など気に求めずに歌っているものが大多数だろう。しかし、これは、ヒャリツの中の風が西からもたらされることを示しているのだ。実際に夕方の西の沙漠から吹く風は涼しいが、西から吹く日もあれば、他の方角から吹く日もあり、西からの涼風が特別なわけではない。

 “幾千もの花”は、雨季の恵みを感謝する二番の歌詞からは、雨季のごく短い時期にだけ沙漠に現れる花畑のことだと考えるのが自然だ。

 しかし、それは地上の話だ。地下のヒャリツの中の出来事と視点を変えると、ヒャリツのマキシカの回転羽の回る様子との意味とも取れるのだ。

 三番の歌詞があることを都市の人々はほとんど知らないだろう。博識なナガレでさえ知らなかったのだ。

 夕方に流れるマキシカ停止の合図の音楽も夕日の歌を二回流して終わるから、市民は三番の存在を知らない。三番目の詩があることは秘密にされていないとしても、ヒャリツのマキシカという考えに達しなければ、その隠された意味を一般の市民が気付くことはない。

 逆に、広まっていないその認知度の低さを生かし、三番ではヒャリツのマキシカの停止のやり方のことを歌っている、コーリィはそう解釈した。

 東側に都市があるとする三番の歌詞から、ヒャリツのマキシカの視点の歌詞だ。それぞれ、大地に根をはる根はフィラメント、黄色は何かの印、紅の命は紅夜石、つまりメグリエ機関となる。

「となると、黄色の何かの印というわけだな」

「フィラメントに印があるのだろうな」

 集熱フィラメントはメグリエ機関に熱を伝える金属だ。直径1チカから数チカほどの針金のようなものである。空気中の熱を吸収する性質の合金からできている。

 印のあるフィラメントは、メグリエ機関に熱を供給する主流のフィラメントで、切断すると熱の供給が大幅に抑制されるものと予想される。メグリエ機関への熱の供給の大部分がなくなると、熱量生産反応が徐々に減っていき、メグリエ機関が停止、またはマキシカを動かせるほどの熱量が発生しないため、マキシカが止まるのだろう。

「その黄色の印のあるフィラメントを探してみる価値はある」

 フレイザはそのマキシカを止める一撃となるフィラメントに賭けると決めた。

「メグリエ機関のある場所にたどり着けないから、そういう仕掛けがあってもおかしくはない。歌にのせるなんてキーウェルも情緒的なことをするな」

 ミッゲルは感心した。

「ネッツ、どうしたの?」

 皆がサンドイッチを食べ終わり、ソワソワし始めたネッツをリオードが気がつく。

「・・・おしっこ」

 恥ずかしそうな顔をする少年にミッゲルはにっこりと笑う。

「よし、ヒャリツのマキシカの建設時に作られたトイレにご案内しよう。地下水を汚すわけにはいかないからな」

 ヒャリツの中の生活を続けていた二人は、生活できる基盤を、四十年前にヒャリツのマキシカ建設時に使用していた空間を利用して作っていた。トイレもその一つだった。

 ヒャリツの地下水を汚すことはスナバラの市民の何人たりとも犯すことが許されぬ犯罪だ。沙漠の中の街で、水は貴重なものだからだ。過去に地下水にほんの少しの洗剤を混入させた者は無期禁錮刑となり、故意にヒャリツの地下水を汚染した者は沙漠の真ん中に鎖で繋がれたという。


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