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第50章 不機嫌の出発

同一犯らによる犯行計画か?――メグリエ機関盗難・マキシカ暴走事故・女性失踪事件の関連性を捜査


 そんな見出しが新聞に掲載され、誌面を広く陣取った。

 最も市民が関心を寄せたのはこの事件には都市議会議員が関与し逮捕されたことだった。ロマーク・クラムは議員を辞職し、警察で取り調べを受けている。

 逮捕されたラゥル・コソックという名のスナバラ・タイムズの記者については、紙面があまり割かれていなかった。

 一連の事件の幕開けは、メグリエ機関盗難事件が二件あり、その犯人が捕まったことだった。泥棒は主犯の二人に雇われていただけらしく、組織的な犯罪であることが明らかになった。そして、警察が調べていたところ、別の事件として捜査されていた孤児院院長の女性の失踪までが一連の事件として繋がった。それには、マキシカの暴走事故が故意に引き起こされていたという前代未聞の事件までもが数珠繋ぎになり、人々はマキシカの暴走事故が故意に引き起こせることに怯え、それがマキシカに対する恐怖心を煽ることになった。

 今では、マキシカの多い通りにはできるだけ近づかないようにしている市民もいるという。それはやはり、マキシカの暴走事故で一人の少年が亡くなったと信じる人間がいるからだ。

 まだ少年の事故死と一連の事件との関連について新聞は報じてはいなかった。テイラーマキシカ暴走事故は故意に引き起こされたかどうか、警察が捜査しているところであり、少年が意図的に巻き込まれたか、偶然巻き込まれたのか決着がついていないからだ。

「おはよう、コーリィ」

 ネッツは眠たそうな顔で朝食のスープの湯気の向こうに現れた。昨日のこともあり、コーリィと顔を合わせることもなく、拗ねたまま部屋にこもるとコーリィは思ったが、意外にも不機嫌そうな顔もしていない。

 昨日、ネッツは屋敷を飛び出した。そして、陽がとっぷり暮れてから兄貴分エレックに連れられて帰ってきた。ネッツが帰ってきたのは夕食が終わった時間だったので、コーリィは昨日の晩、ネッツと顔を合わせなかった。屋敷を飛び出したネッツは、兄に泣きついたらしい。エレックはヒャリツに行くことは知らないようで、ネッツは秘密を守ったようだ。大泣きしてやってきたネッツをなだめて送り届けにきたと、エレックは困り顔で言っていたそうだ。

「おはよう、ネッツ」

 コーリィはそれだけ言って、二人は黙々と朝食をとった。ネッツにとっては気まずかっただろう。コーリィと目を合わせずに黙々と朝食を食べていた。

 ネッツは、右手に包帯を巻いていた。親指だけがかろうじて包帯の外だったが、四本の指をまとめて巻かれた包帯は指から手の甲にかけて巻かれている。昨日までそんな怪我などしていなかった。強い痛みはないように見えるが、包帯の巻かれた右手は指の関節の動きを制限しており、ネッツはぎこちなくフォークを使っている。

「ネッツ、その右手はどうしたの?」

 コーリィの質問に、ネッツは目を泳がせ口をつぐむ。

「言いたくないなら、別にいいわ。怪我をしたなら、包帯を替えたり、清潔に保つ必要があるでしょう?ネッツが一人でできるならいいけれど、片手で包帯を巻くのは難しいでしょう?ナガレに見てもらうのよ」

 コーリィの言葉に、ネッツは口を開く。

「――エレックのところに行く途中で転んだ。これは、エレックが大袈裟に巻いただけだから。だから大丈夫」

 転んだのに怪我をした場所が不自然だ。転んだ時に擦り剥くのは、膝や掌、膝だ。それらが無事で、右手の指だけの怪我とはどんな転び方をしたのかと、コーリィは考えを巡らせる。

 エレックがネッツの指輪を外すために協力し、その時の怪我だろうか。しかし、ネッツがキーウェルの形見である指輪を壊すはずがない。ネッツはキーウェルが自身の祖父であることが判明し、その形見を大切にしているからだ。

 昨日、書斎を飛び出したネッツは、エレックに連れられて戻ってきたとナガレは言っていた。泣きはらした目と、過剰に指に包帯を巻いて。

 ネッツの指の関節に引っかかるようになっていたその紅夜石の指輪は、破壊以外にネッツの指から外す方法はなかっただろう。それでも決意して指輪を外したのか。

 例え、エレックが指輪を破壊して外すことができたとしても、ネッツにとっては、大切な家族からもらった唯一の指輪だ。ネッツは指輪を破壊する決断はできない。そうコーリィは考えた。ならば、ネッツが右手に包帯を巻く理由も容易に想像がつく。指輪がその手にはまっているかどうが、包帯で確認できないのだから、指輪は外れたとネッツは言い張る。そして、ヒャリツについてくるつもりではないだろうか。エレックがネッツに入れ知恵をし、包帯の下に指輪を隠す作戦を企てたのだ。

 指輪が外れても、外れなかったとしても、ヒャリツの冒険には連れて行くことはできない。それは議会との約束だ。ネッツがどんな決断をしたとしても、コーリィが判断を変えることはしてはならない。



 朝食の後、コーリィはヒャリツに行くための準備をした。洞窟探検のために、温暖なスナバラでは稀な素材の服を用意する必要があった。

 分厚いタイツに靴下を重ねる。まるで焼き菓子みたいな色に染めた動物の毛を編んで作られたやや裾の長いセーター。毛織物で膝当てのついた冒険に合わせて丈夫に仕立てられたズボン。ポケットのたくさんある灰青色のコート。これらはマダム・ファニスターに頼んで仕立ててもらった。沙漠の夜を過ごす者やヒャリツの点検をする者などスナバラでもごく一部の人間しか防寒具を持っておらず、少女の背丈に合うものはないため、マダムに仕立ててもらわなくてはならなかった。

 寒い季節のある遠い地域に住む動物の毛を糸にして編んだり、厚みがあり目の細かい布を何枚も重ねたり、綿を詰めたりして、ヒャリツの中にいられるような服をマダムは縫い上げた。メグリエ家と長い付き合いのあるマダムは、ドレスではない注文にも関わらず、ヒャリツに落ちたコーリィの噂も聞いていたこともあり、二つ返事で注文を受けて服を仕立ててくれた。

 コーリィはヒャリツに行くための服装や装備を整え、自室の鏡で自身の格好を見た。寒さに対応した格好をする機会は初めてであった。こんなに服で膨れて服に着られてしまっていて変ではないのか、寒い場所に住んでいる人、気温の低い冬という季節がある場所の人間はこんな格好で外を歩くのかとコーリィは首を傾げた。ひと回りもふた回りも大きくなったために、若干動きづらいが、今なら転んでも痛くはなさそうだ。

 

「おはよう、コーリィ。遅れてすまない」

 リオードが屋敷にやってきた。彼もまた分厚いコートを用意したようだ。ウミナト経由で輸入したという寒い地方で暮らす動物の毛をフェルトにした焦げ茶色のコート。若草色の毛糸で編んだ帽子で耳まで覆っている。

「もこもこね、私たち」

「とても寒いんだろう?これくらい着ないとってみんなに言われたよ」

 コーリィ、ネッツ、ナガレ、リオードは書斎に荷物を運び込んだ。書斎からヒャリツに降りる床の扉には、梯子だけでなく、荷物を下ろすためのロープをかける杭も付いていた。箱に入った物資をゆっくりと下ろす。船に乗せられるだけの日持ちする食べ物や瓶に詰めた飲料水、缶詰、着替え、ランタンの油、救急箱、工具などだ。2クルカもないほどの長さの小さな船だが、幅のある安定性を持たせた船は、支援物資のような荷物を乗せるためのものだろう。ヒャリツのマキシカの部品の大きなものは載せられないから、別の方法で運んでいたと思われる。

 ナガレとともに、書斎の地下、ヒャリツの出発地に物資を下ろす手伝いをネッツは素直にやっている。手を怪我したと言いつつも、本人は痛がる様子もなく、ナガレは止めてもネッツは手伝うと言って聞かなかった。凍えるほどに寒いヒャリツに荷物を運ぶ手伝いをするネッツには、ナガレがあるだけの防寒具を着せていた。少し大きめのウミナトからかなり前に輸入した暖かい動物の毛で編まれた古いセーターに、厚手の布の長ズボン。分厚い靴下を履かされ、いつものブーツに足をねじ込んでいる。そして、大人の古いヒャリツ内の点検用のコートの袖をめくって着せられている。

 皆の吐く息が白い。

「これを船に乗せたら、出発しましょう」

 船は大きく揺れながらも沈むことなく、荷物によって安定したようだ。

「寒い!」

 ネッツはわざとらしくブルブルと震える。

「お手伝いは十分ですから、ネッツ坊ちゃんは先に地上に戻ってください」

 ナガレに言われて、ネッツは頷いた。首を冷やさぬよう、首に巻かれた布にネッツの顔が沈む。

 これから、極寒の水路を進む冒険が始まる、とでもいえば聞こえはいいが、コーリィの父フレイザ・メグリエと伯父ミッゲル・ファンの捜索とヒャリツの中のマキシカの点検、場合によっては停止が目的の地下水路の捜索だ。

「行こう」

「ナガレ、行ってくるわ」

「お気をつけて、お嬢様、リオード様」

 薄暗いヒャリツの中でもナガレの心配そうな顔が見える。ナガレはコーリィをヒャリツに送り出したくはなかっただろう。しかし、ヒャリツのマキシカの秘密を漏らしてはならない。だから冒険に行けるのは二人だけだった。

 船に先に乗っていたリオードの手を取り、コーリィは船に乗った。船は少し揺れ、すぐに落ち着いた。コーリィは荷物の隙間を縫って船頭の方に座った。

 リオードは船のエンジンをかける。蓄電池で動き、船を進ませるための尾鰭がついている。

 加速していく小さな船は地図にはないヒャリツの源流へと向かった。方角は西。ウミナトとは真逆の方向となる。

 ヒャリツの地下水の緩やかな流れを逆行するので、行きは動力が必要だった。

 水の流れる音しかしないヒャリツに機械の音が混じる。

 思ったよりも少し早く、慣れない船の動きに困惑する。コーリィが船頭側に座り、リオードが船尾側のエンジンの近くに座っていた。幸い荷物も載せるのに十分な幅のある舟で、二人の座っている場所以外には出来るだけ物資を載せた。

 地下水の川を船はすいすいと登っていく。

 スナバラに船というものは皆無だ。地上で暮らす市民は、大きな川も池もない沙漠の都市で船を見たことがない。櫂の使い方だって知らない。

 ウミナトの海では、帆という布を張り、強い海風を受けて進む方法と、水中で回転羽根を回して進む方法で大きな船を動かしているというのをコーリィは本で知ったくらいだ。ヒャリツの中では都市に向かって風が吹いているため、向かい風の中進むことはできない。

 船には魚の動きを真似た船の尾鰭がついていた。少ししなる素材で作られた人工の尾鰭は、ゆったりと水中で扇ぐように動く。帰りは地下水の流れも風もスナバラに向かっているので、船に乗ればいつかは流されて都市に帰ってこられるはずだ。

 ゆっくりだが、船は都市の地下から、西側の沙漠の下を進む。

 ヒャリツのトンネルは薄明るいだけで、先は見えないが、ほとんどまっすぐ、分岐もないようだ。

 だんだんトンネルは狭くなる。一艘ずつしか通れないほどだ。天井は高さがあるため、圧迫感はあまりない。

 しばらくは幅が狭い水路が続いた。コーリィとリオードは船の速度を落として、狭くなった水路を壁にぶつからないように進む。船の方向転換は、船尾の舵と櫂の代わりの長い板切れと棒だった。

 コーリィは棒切れを握ったまま、ぼうっと考えた。ずっと続く長い水路の景色は代わり映えしない。

 こんな時は思考を巡らすのにちょうど良い。この先に何が待っているのか、父親と叔父は無事なのか、ヒャリツのマキシカなんて本当にあるのか、それを止められるのか、いくら考えても答えの出ないことより、一つ気になることを頭の中で整理した方が良い。

「コーリィ、大丈夫か?」

 船尾のほうに座るリオードが少し大きな声を出すと、ヒャリツ内で反響する。

「ええ、少し考え事をしていたわ。どうやってラゥル・コソックがネジッレマキシカを通りと見本市で暴走させたのか、わからないの」

「ディージ警部からは何か聞いてないのか?」

 時計台マキシカとおもちゃ製造のマキシカからメグリエ機関が盗み出され、その二つのメグリエ機関から取り出された紅夜石がワッカの首輪に付けられていたと考えられる。

 コーリィがワッカを首輪とともに保護したあと、ネジッレマキシカとメッセで実験マキシカが暴走した。つまり、彼は二つの紅夜石以外にも、少なくとも三つ目の紅夜石を持っており、それを使ってマキシカを故意に暴走させたのではないだろうか。

 コーリィは、ほかに盗まれたメグリエ機関がないか、コソックが紅い石を持っていないか、警察に調べるよう頼んでいた。

「ええ。3件目のメグリエ機関盗難事件で手に入れたとラゥル・コソックは証言したのだそうよ」

 逮捕されたラゥル・コソックとロマーク・クラムの持ち物や家宅捜索を経ても、メグリエ機関や赤い石は見つからなかったとディージ警部は言っていた。

 ラゥル・コソックによると、3件目のメグリエ機関盗難を指示したというが、どのマキシカからメグリエ機関を盗み出したのかは分からないと主張したという。

 三つ目となる紅夜石を手に入れたラゥル・コソックは、自身の勤める新聞社の近くでネジッレを作り売っていたネジッレマキシカ、そして、メッセで再び同じマキシカを自らの手で暴走させたのだろう。

「3件目の盗難事件がまだ明るみにならないな」

「泥棒を雇い紅夜石だけを彼は受け取ったと。あとは何も知らないと主張したそうよ。ヒャリツに隠してあったメグリエ機関も二つ。紅夜石を取り出した三機目のメグリエ機関は今どこにあるのかしら?」

 見本市でラゥル・コソックが、マキシカを暴走させた後に、紅夜石を捨てたとなれば、小石一つ見つからないことは不思議ではない。もし、あの場で紅夜石を所持していたら、ラゥル・コソックはマキシカ暴走事故を引き起こした証拠を所持していたことになる。さっさと見本市の会場で捕まる前に手放すほうが賢明だろう。しかし、紅夜石は貴重なものだから、捨てるよりもまだ隠し持っているか、見本市で仲間に預けた可能性もある。

「三件目の盗難届は出ていないから、どのマキシカのメグリエ機関かわからないわ」

「雨季だから停止中のマキシカが多いからな。すぐには盗み出されたことがわからないマキシカを狙ったのだろう」

 コーリィはそこに引っかかっていた。メグリエ機関盗難事件は、泥棒が捕まるまでスナバラ中でどうやってマキシカという巨大機械の中からメグリエ機関を盗み出したのか、不可思議な事件として新聞を賑わせていた。しばらく使っていないマキシカの持ち主は、自分のマキシカのメグリエ機関が盗み出されていないか、マキシカが動くか確認する者もいたはずだ。

 コーリィの仮説は、ラゥル・コソックはメグリエ機関以外から紅夜石を得たのではないのか、である。それとも、コーリィやマキシカ家が知らない方法でマキシカを暴走させた可能性だ。

「ネッツの指輪のように、マキシカの中にない紅夜石が他にもあるのかしら…?」

 しかし、まだ一つのピースがはまっていないことに、コーリィは納得がいかなかった。

 


 ネッツは体を丸め、息を潜め、包帯を巻いた手を見つめていた。まだ指輪がその中指にあるような感覚もある。

 昨日、エレックが行ったネッツの指輪を外す方法。それは、地道に指輪を削っていく方法だった。エレックは一抱えの機械の傍にネッツを呼び寄せた。機械から伸びたコードの先に、太いペンのようなものがついており、先に固そうで尖った金属が付いていた。これがどうやら回転するらしく、このペン先のような金属を削る装置を使って、指輪を外そうと試みたものの指輪に少し傷がついただけであった。

 見かねたエレックの修理工仲間が、より硬く良いペン先を貸してくれる事になった。

 取り替えたものは、先ほどのペン先よりも、金属色で虹色に輝いて見える。

「試してみるか」

「うん!お願い」

 エレックは再びネッツに色のついたレンズの保護眼鏡をかけさせた。ベルトを調整して頭に固定するものだが、大人用のためネッツの顔から小さくてずり落ちる。ネッツは左手で保護メガネを目の位置に持ってくる。

「動くなよ」

 エレックも保護メガネをかけ、コードのついたペンを持ち、煤けた機械の少しだけ曲がったスイッチを動かした。

 目覚めて身震いをするように振動する機械。機械の高い叫び声とともに、ペン先が高速で回転し始める。

 ネッツの指輪をした右手を作業台にぴったりと置き、エレックは回転するペン先を指輪に当てた。

 指輪が悲鳴を上げるかのように、回転するきんきんの機械音が高音になる。

 指輪から伝わる振動にネッツは耐えながら、行く末を見守った。削られていく指輪が熱を帯びていく。

 エレックはペン先に全神経を集中していた。指輪から少しでも外れれば、ネッツの手に穴を開けてしまう。

 エレックはペン先を離した。

 そして、ネッツに掌を返すよう言った。今度は反対側を削るらしい。

 ネッツの掌に再び回転するペン先が迫る。エレックは指輪を削り続けた。緊張感と使命感でエレックは額に汗を浮かべながら作業を続けていた。

 キーンと耳障りな機械の音がする。

 その音が急に低くなり、エレックは顔を上げ、ネッツに勝ち誇った笑みを浮かべる。

 ネッツは指輪を見た。

 そっと作業台から手を離すと、ネッツの右手の中指にしがみ付いていた赤い指輪が、手から離れた。作業台に落ちた指輪は真っ二つに分かれていた。削った分、細かく砂になった部分もあるが、ほぼ綺麗な半円が二つ、そこにあった。

 キーウェルが遺したたったひとつの品。

 キーウェルと暮らしたあの家を出てから、ずっと一緒だった指輪。キーウェルの形見の指輪。

 今が、思い出と形見の指輪を外す時だったとネッツは心に言い聞かせる。いつかネッツが大きくなったら、指輪が窮屈になっているのだろう。今が外す時だったに違いはないのだ。

 エレックが半円になってしまった指輪を拾い上げ、ネッツの掌に置いた。緊張してすっかりネッツの手は冷えていた。

 指輪は元々の表面の朱色と新たにできた少し明るい色の切り口でキラキラと輝いていた。

「粉々にはならずに外れたぞ」

 エレックはネッツを励ますように、わざと自信満々で難解な仕事をやり切った達成感の笑顔を作った。

「エレック。ありがとう」

「これで、お嬢様とマキシカのある場所に行けるな」

 エレックは綺麗に指輪を切断することができて、修理工としても、弟の望みを叶えられた事にも満足げだった。しかし、ネッツは暗い顔をしたままであった。

「うん。コーリィと一緒に行く」


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