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第32章 二度目の発熱

 コーリィとリオードは、アリブレがネジッレを買ったという屋台の出ている区画に急いで向かうことにした。屋台のある区画は庭園の南側で、展示用マキシカは北側の区画だったため、展示も離れている。

 メッセの会場に二つのマキシカがあることは盲点であった。心配性のコーリィとモノニシアでさえ、予想外のことだった。メッセにはマキシカ社やマキシカ管理局が把握しないマキシカが出展しないはずだった。

 移動が可能な小型のマキシカはスナバラの中にそう多くはなく、マキシカのほとんどが中型や大型マキシカである。フュールイ学園の第一世代のアグリマキシカや、ネッツの家を崩した重機マキシカのように中型でも人を乗せて移動できるマキシカはあるが、少なくとも車ほどの大きさであり、それらのマキシカを移動させる場合は、公道の通行規定があり、移動先と冷却手段をマキシカ管理局に届け出る決まりだ。しかし、ネジッレマキシカは小型の移動可能なマキシカだった。小型のため、行動の通行過程もなくスナバラ内を移動でき、許可を取った場所でネジッレを販売できる。移動に関してはマキシカ管理局に申請する必要もない。ネジッレマキシカは、スナバラという盤上で、マキシカ管理局もコーリィ達も把握できない動きをする特別な駒であった。

 警察は、ディージ警部とシダバー巡査しかマキシカの暴走の可能性を伝えていない。そのため、二人は展示用マキシカを気にして見回ってもらうくらいしかできなかった。現在メッセの会場内にあるもう一つのマキシカをコーリィたちは警戒していない状態だ。

 仮にコソックの思惑通り、ネジッレマキシカが暴走したとしたら、彼はなんらかの方法でネジッレマキシカをメッセに出展させるまでを計画していたのではないだろうか。メッセに出展する企業や団体は事前に判明しており、来場者も開催前に知ることができた。一方で、来場者が利用する軽食や飲み物を提供する屋台については、屋台が出ることは判明していたが、その店名までは当日まで一般客にも出展者にも知らされていなかった。アリブレが展示用マキシカから離れた屋台の区画に行かなければ、コーリィ達はもう一つのマキシカに気づかなかったかもしれない。大きな遅れをとったのではないだろうか。

 メッセは最も人の多い賑やかな時間帯を迎えていた。リオードとコーリィは、ほとんど早足で歩けないほど、人が多くなっていた。ゆったりと様々な紹介された商品を見る人々の合間を縫って、人とぶつからないように気をつけて二人は歩いていた。

 人が多くて歩きづらいと感じるくらい、メッセは大盛況だった。それがコーリィとリオードが人の流れと逆行しているからだと気づいた時には、遅かった。

 二人が向かう先が騒がしい。それは屋台の区画で人々の目を惹くパフォーマンスが行われているわけではない。

 来場者の一人が言ったことをコーリィ達は耳にした。

「マキシカが暴走した!」

 群衆はそう誰かの言葉を耳にした者から、一目散に逃げ出した。慌てふためき、悲鳴を上げる。恐怖が飛び火し、あたりに火をつけたかのように、混乱が人々の中に広がった。

「コーリィ、こっちだ!」

 リオードがコーリィの手を引き、一つのパラソルの影に身を潜めた。間一髪、二人は、駆け出した人々の波に巻き込まれずに済んだ。

 屋台にある区画まであと少しだった。人がいなければ屋台が見えるほどだ。

 暴走に気づいた人々は、訳もわからず走り出す。メッセ全体にその恐怖が伝わり、広がっていく。

 悲鳴と足音、混乱する会場。チラシが舞うなかで、皆が一目散に逃げることしか頭にない。

 コーリィはマキシカを止めようとネジッレマキシカの方に行きたいが、駆け出した来場者たちが行く手を阻み、まるで意思を持って吹き込んでくる砂嵐のようだ。警察も混乱する市民たちを制御できないでいた。

 コーリィが予想した最悪なシナリオになった。マキシカの暴走を目撃する人数が多いほどマキシカの安全性に疑問を持ち、マキシカへの風当たりが強くなるだろう。いわば、マキシカの安全性を市民に伝える場でマキシカが暴走したのだ。もう、マキシカに安全などないと印象付けてしまった。

 多くの人が暴走を目にしたであろう。議員たちも巻き込まれたとしたら、都市中で議論されるだけでなく、マキシカは批判され、排斥運動だって起こる。

 我先にと博物館の庭から博物館の中へと、人が吸い込まれていくことだろう。押し合い、時に人々はよろけ転びながら。悲鳴があちこちで響き、誘導する警官の声がかき消されてしまう。パラソルが倒れ、展示されていた商品が散らばり、庭園にばら撒かれた。

 楽しいパーティに怪物の仮装をした者が参加していた。それが本当の怪物で暴れ出したかのような地獄だった。

 人の波がまばらになり、コーリィは物陰から飛び出した。

「リオード、行きましょう」

「あぁ」

 二人は急に人がいなくなったメッセの会場を、屋台の区画に向かって走りだす。

「コーリィ!!」

 コーリィたちの後ろから声が聞こえた。

「ネッツ!」

 怯えた顔の少年が、アリブレに連れられてやってきた。

 鼓動がうるさい中でネッツは心を落ち着かせて、話した。

「コーリィ、あいつがいたのに、見失ったし、みんな走り出して、迷った」

「ネッツが無事でよかった」

 ラゥル・コソックが会場にいたこととネジッレマキシカの暴走は関係している可能性がある。

「何が起きてるんだ?」

 不安げなアリブレはネッツを連れてコーリィ達を追いかけてきたようだ。

「ネジッレマキシカが暴走したようです。私はネジッレマキシカを止めに行きます」

「まさか、さっきネジッレを買ったあのマキシカが!」

 アリブレは驚愕した。なぜコーリィたちが、メッセの会場内とはいえ、離れたネジッレマキシカの暴走の知らせも来ていない中でいち早く動いたのか、アリブレは考えをまとめようとしたようだ。しかし、まずは暴走したというマキシカを止めるのがマキシカ管理局としての仕事だと思い直したようだった。

 屋台区画の外れから若い女性が現れた。赤いエプロンをして、巻毛の茶髪をまとめている。

「大丈夫ですか?」

 リオードは声をかけた。彼女の顔は怒りに満ちていた。

「ネジッレマキシカがまた暴走するなんて!何なの!」

 彼女の叫びは、最もだった。ネジッレマキシカは一月前に点検を終えたばかりの頃、通りでネジッレを売っているところで突如暴走した。コーリィはネジッレマキシカが坂を降り逃げていくのを追いかけ、広場でクールショットを打ち込んだ。ネジッレマキシカは整備中の広場の床に亀裂を入れたために崩れ、コーリィはヒャリツに落ちるという反抗的だったマキシカだ。ネジッレマキシカは、そのあとの再点検の後、再び暴走したのだから、事情を知らない者ならマキシカへの信頼は深い深いヒャリツの底まで落ちただろう。

「私はメグリエ鉱物研究社として、マキシカを止めます」

 コーリィの言葉にすぐにはピンと来なかった彼女は、ネジッレマキシカでネジッレを販売していたという若夫婦の片割れだろう。

「また暴走なんて、おかしいわ」

 涙目の彼女に、コーリィは冷静に尋ねた。

「ネジッレマキシカに不用意に近づく人はいませんでしたか?」

「え?」

 コーリィの質問に彼女は少し考え込んだ。メッセに訪れた人々はネジッレを買い求めた。屋台の区画はとても混雑していただろう。

「白い手袋の男性が、マキシカのかなり近くで見ていたけど、ネジッレを買わなかった」

「それはどんな人?その人がマキシカに細工をしたのかもしれないわ」

 コーリィが言うと、彼女はだんだん冷静になってきたようだ。

「お店にちょうど人が並んでしまって、その人も一瞬しか見ていなくて。服は灰色っぽいかったような」

「ありがとうございます。今、マキシカを止めます」

「できるの?」

 その若いネジッレ売りの女性は、コーリィの顔を見て信じられないように言った。

「私はメグリエ鉱物研究社の者です」

「お願いするわ!お義母さんのマキシカなの!」

「僕も行くよ」

 リオードは志願したが、コーリィは首を横に振った。

「リオード、貴方はネッツとコソックを探して。皆が逃げて行ったのは博物館のほう。今頃、人が過密になって身動きがとれない中に、彼がまだいるかもしれない。手袋が怪しいわ」

 リオードは少し戸惑ったが、頷いた。ネッツしかコソックの顔を知らない。コーリィの支援をしたいが、これ以上、負け続けてはならない。

「わかった。ネッツ、一緒に来てくれないか?アリブレさんは、コーリィとネジッレマキシカの方をお願いします」

 アリブレは状況がまだ飲み込めていないものの、頷いた。マキシカ管理局の職員として、暴走したマキシカなら仕事の範囲だ。

「わかった。任せてくれ」

 コーリィとリオードはお互い頷き、逆方向に駆け出した。コーリィとアリブレはネジッレ売りの女性とともに暴走したネジッレマキシカの元へ、リオードはネッツと人々が避難した博物館の建物の方に向かった。

「ネッツ君、あいつの顔を知っているのは君だけだ。一緒に彼を探してくれ」

 ネッツの出番が来た。これで奴を追い詰められれば、マキシカの暴走が起こらなくなる。コーリィだって喜ぶはずだ。

「まかせろ!」



 コーリィはクールショットガンをスカートの中から取り出した。

 屋台の区画は急にゴーストタウンになったかのように人が去り、果物や麺、ソースの入った容器、皿や串などが散乱していた。

 揚げ油の弾ける音からすぐに熱にうなされるマキシカが見えた。パラソルの下で陽気に甘い揚げ菓子を作るはずが、熱々のネジッレモドキを時折、鍋の外に乱暴に投げる。

 コーリィにとっては再戦となるマキシカだった。

 今度はマキシカが逃げ出す下り坂も、足場の崩れそうな場所でもない。

 ネジッレの生地をこね、捻るための機械腕と、ネジッレを揚げるための油の入った鍋を持つマキシカだ。

 弾を込めたクールショットは、異常振動をするマキシカを向けられた。

 マキシカは揚げ油を高温に熱し撒き散らせながら、そこに次々と不恰好なネジッレ生地を投下し、熱した油を撒き散らす。

 近づけばどこから熱いネジッレが飛んでくるかわからないが、クールショットは銃の形をしていることで、近づかなくてもよい。スナバラ内では警官と自衛軍しか銃の携帯は許されていないため、マキシカ緊急停止用冷却器を銃型にするかは開発者の祖父レイト・メグリエも迷ったそうだが、距離を取らなければ危険がある暴走マキシカには銃型が適している。そう、油の切れていないお菓子のなりそこないを投げつけてくるこのマキシカにはぴったりだ。

 コーリィは落ち着いて集熱板に狙いを定める。ネジッレマキシカは小型のマキシカのために、集熱版も小さい。しかし、前のように自らの意思で動き回るようなことはない。そこにいるから、当たる。

 コーリィは引き金を引いた。

 コーリィの放ったクールショットは、見事に氷の花を咲かせた。

 マキシカの悲鳴のような甲高い金属音が鳴り響く。氷の花が咲き、それが散るかのように氷が舞い散り、油落ちて弾け舞った。マキシカは徐々に動きを遅らせ、眠りに落ちたのように止まった。


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