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第27章 街角の記者

 箱詰めを終えた台所で、ナガレは野菜を入れた籠を見ていった。

「レコペ、使い切ってしまいましたか」

 籠にあった黄色の丸い野菜は、マァレットによって昼食でとろみのあるスープと箱に詰められたスープの瓶詰になっていた。

「ええ、あまりなかったので」

「もう少し買ってくるべきでしたね。夕食にも使う予定でした」

 ナガレは困ったと眉を下げた。

「まぁ、それは、申し訳ありません」

「いえいえ。あまり良いものがなくてたくさん買ってこられなかったのです」

「市場に行って買って参りますね」

 マァレットはにこやかに言った。レコペは雨季の今が旬であるから、市場に行けば買うことができる。市場にあふれる今、品定めが必要になってくる。

「俺も行く!」

 台所にやってきて満面の笑みなのは赤毛の少年だった。ネッツは宿題に飽きたところで、コーリィについて出掛けなかったから、退屈している頃だったのだろう。

「そこまで荷物にはなりませんので、坊ちゃんにお手伝いいただくわけには・・・」

 マァレットは一度断ったが、ネッツは気晴らしにマァレットについていきたかった。

「行きたい!つまらないし!」

 マァレットとナガレは顔を見合わせ、うなずいた。

「では一緒に参りましょう」

 マァレットの言葉を聞いたネッツは跳ねるほどに喜んだ。

「最近、近所でよく見かける方がおります。用心してくださいね」

 ナガレは二人に用心するように言った。

「もしかして、眼鏡をかけた女性の方ですか?」

 マァレットも数度、屋敷の周りで見かけた人物を認識していた。偶然であればまた近所に越してきた人間だろうが、少し不自然な感じだった。彼女の目は監視の目のようであったからだ。

「たぶん、その女性です。ここ最近、よく屋敷の周りで見かけるのです」

「もしかして、あいつの手下がコーリィの様子を探りにきているのか?」

 ネッツの心配は最もだ。ナガレは唸った。

「それにしては、隠れるのがあまり得意な方ではないですね」

 ナガレの言葉に、マァレットも頷いた。二人は何度も彼女を見かけていたし、彼女もメグリエ家の執事やメイドを見ても、隠れることもしなければ、話しかけてくることもない。

「もし、声を掛けられても、お嬢様のこと、ネッツ坊ちゃんのこと、コソック氏についてどこまで知っているのか話してはダメですよ。そうそう、フレイザ様が不在のことも、内密に」

 ナガレはネッツに言い聞かせる。

「わかった。でも、話しかけられたら、どう誤魔化したらいいんだ?」

 ネッツはその屋敷の周りに最近いるという眼鏡の女性を見かけた覚えはない。もし、彼女が接触してきたら、うまく対処ができない気がして、不安になる。

「そうですね、何も知らない、わからないと言って速やかにその場を離れるのがいいでしょう」

「わかった。知らない、わからない、だな」

「ネッツ坊ちゃんのことを聞いてくるかもしれませんが、そのときも、大人の人を呼んでくると言って立ち去るのがいいですね。一人で対応してはなりませんよ」

「わかった!」

 ネッツはマァレットと近くの市場に出かけた。警戒してその眼鏡の女性をさがしたが、屋敷の周りにはいないようだった。

 歩いて行けるほどの距離に食材を売る通りがある。スナバラで最も大きな市場よりも何分の一の小さな規模ではあるが、必要ものは大抵そろう場所だ。

 ネッツはマァレットにウミナトについてもっと聞いてみたかった。市場までの道中の話題にちょうど良かった。

「マァレットはどうしてあんなに美味しいものが作れるんだ?」

 メイドの女性と赤毛の少年が歩いているのは、親子が買い物に出かけているようだった。

「そうですね。私はおばあちゃんから習ったからでしょうか」

「おばあちゃんか」

 ネッツのおばあちゃんという存在は、ミセス・トッドマリーしかいない。マァレットと彼女の祖母の関係を、ネッツはうまく想像できなかった。

「ええ、でも、おばあちゃんの教えてくれたとおりに作ることは、あまりないですね」

「どうしてだ?」

「教えてもらったのは、すべてウミナト料理なので、スナバラでは材料が手に入らないことが多いのです。だから作り方を変えていますよ」

「材料なら、ウミナトから汽車で運ばれてきて、スナバラで売ってないのか?」

 スナバラとウミナトをつなぐスナウミ鉄道の汽車には、人だけでなく、ウミナトのものがたくさん積まれてくる。ウミナトで作られたものもスナバラで見かけることが多い。

「ええ。日持ちがするものは汽車でやってきますね。でも、生の海魚はないでしょう?」

「生の海魚か」

 確かに、ウミナトの魚は缶詰、乾燥させた干物や薫製などの加工品でしかスナバラにやってこない。

「スナバラでも魚を育てているけれど、淡水の白い身の魚だけでしょう?」

 近年、安定的に地下で育てられているチカゴや泥の中に住むデウオがスナバラでよく食べられている白身魚だ。海のないスナバラには、淡水魚しか手に入らない。

「ウミナトには、朱い身の魚もいますよ」

「それは、食べられるのか!?」

 ネッツは不思議に思った。魚の血は赤いが、身は白い魚しか見たことがない。

「焼いたり、茹でたりすると白くなるのですが、生のままでは朱いのです。新鮮な魚は生で食べることもありますよ」

「それ、おいしいのか?」

 生の魚は生臭かったり泥臭かったりと、加熱前の魚は食べられないと思っていたネッツには、魚を生で食べるなんて予想がつかなかった。

「ええ。生の海魚料理はウミナトの名物です。新鮮でないと生では食べられないんですよ」

 それはウミナトにネッツが行かなくては叶わない夢だ。スナバラから出ることなんてないだろう。お金持ちなら汽車の切符も買えるのかもしれないが、ネッツには遠い話だ。スナバラで一生を過ごす人は珍しくない。ウミナトに住んでいたマァレットがネッツには遠くからやってきた旅人のように思える。

 マァレットはネッツのウミナトについての質問に答えながら、歩いてきたが、ふと見ると赤毛の少年がいない。いつから独り言を話しながら歩いてきたのだろうか。

「あら、坊ちゃん?」

 メイドはあたりを見まわした。マァレットは市場の入り口でネッツとはぐれてしまったことに気がついた。市場に近づくにつれて人出は増えていたとはいえ、ネッツは手を繋ぐような幼子ではないはずだった。



 ――ネッツの目にあの男の姿が写った。

 背は高く茶髪に金縁のメガネ。暗い灰色のチェック柄のスラックスとベスト。

 イルズ・カーン。いや、ラゥル・コソックだ。ネッツはもう見間違えることはない。

 ネッツは雑踏に紛れながら、コソックを追いかけた。市場が見えたところで、ネッツの眼は彼に向いていた。

 どこに行くのだろう?何か彼について知ることができるかもしれない。何か分かったら、コーリィに伝えることができる。

 通りを歩くコソックはネッツがつけていることなど気づきはしない。

 市場から一本隣の通りだ。市場ほどではないが、人は多く、ネッツはうまいこと紛れ込める。

 ネッツは慎重に獲物を追う小さな肉食獣のように、男を追いかけた。コソックは一軒の店に入った。

 昔ながらの白い建物に銅色の看板を取り付けた喫茶店のようだ。店の名前は“タビドリ”というらしい。ネッツのような子どもが一人で入れるような店ではない様子だった。これでは彼のことを探ることができない。いや、コソックがタビドリという店に来ていたことだけでもコーリィに話せる。

 しかしもう少し、彼のことを探りたい。コソックのことをほとんど知らないコーリィのためにも、ネッツがこの場所に留まっていたら、何か新しい情報を得ることができるかもしれない。使命感もあり、ネッツはこの喫茶店の入り口が見える場所で少し離れて様子をうかがうことにした。

 残念ながら、中の様子はわからない。コソック以外に店に入る人間はいない。南向きの店構えのため、窓が小さい建物だったことからも、どんな喫茶店なのかでさえうかがい知ることができないのだ。もう少し近づいてみてみようか。

「こんにちは!」

 どきり、とした。ネッツは背後からの声に驚き振り返った。

 そこには、ラゥル・コソックの顔があった。心臓が飛び跳ねた。

「ネッツ君?」

 ネッツに声をかけたのはカミーエ・テンヘン先生ではないか。コソックの顔と錯覚するほど、ラゥル・コソックと似ているが、くたびれたシャツに、少しだけ裾が足りないズボンだ。顔だけを見れば一瞬では見分けがつかないかもしれない。

「て、テンヘン先生か」

 ネッツは飛び出しかけた心臓を抑え、呼吸を整える。彼はネッツの通うフュールイ学園の高等部の教師であり、コーリィの師匠のような存在だ。

「こんなところでどうしたの?」

 ネッツが一人で通りにいたから、声をかけてきたのだろう。

「わ、悪い奴を追ってて」

「探偵ごっこかな?」

 それを聞いてテンヘンはピンときたらしく、にこやかに言った。子供の遊びだと思われてしまった。

「いや、本当に悪い奴」

「ネッツ君が一人で悪い奴を追いかけているなんて、危ないじゃないですか」

 テンヘンの言うことは最もである。そして、彼はネッツが通うフュールイ学園の教員であるため、生徒が危険なことをしようとしていたら、止めるのは道理だ。ネッツは弁明した。

「み、見つからないようにしてたし、そろそろ市場に買い物に来たマァレットのところに戻ろうと思ってるから」

 もう少し何か探れないか、市場にいるであろうマァレットの元に戻るのはまだ少し後にしようとしていたのがネッツの正直なところだ。テンヘンに声を掛けられなければ、もう少しここにいたところだった。喫茶店の前を通り、ちらりと中を覗いてみようと思っていた。

「それで、その人はどうして悪い人なのかな?」

 テンヘンは探偵小説が好きであるかのように、ネッツに尋ねた。

「あいつ、マキシカを暴走させてるんだ。その、カーンって前に先生と似ていて間違えた人なんだけど」

 テンヘンは目を丸くした。

「あぁ、以前、僕に似ていると言っていた・・・悪い人なんですね」

 テンヘンは、その自身に瓜二つだという人物に少し失望したようだった。

「うん。しかも名前も嘘をついていて、本当は違う名前だった」

「本当の名前は?」

 テンヘンは興味深くネッツの話を聞いてくれる。

「ラゥル・コソックっていうらしい」

「へぇ。その僕にそっくりな人はそんな名前なんですね。その悪い奴だという人物があの喫茶店に」

 テンヘンはちらりと喫茶店を見た。

「でも中の様子はわからないし、コーリィにはあの喫茶店にあいつがいたことしか、教えてあげられないや」

 テンヘンはネッツの話を頷いて聞いてくれる。

「うん。ネッツ君の考えもわかる。コーリエッタ君の役に立てたら嬉しいでしょう。でも、これ以上は危険だと僕は判断します。うちの学園の生徒に何かあったら大変ですから。さ、彼に見つかる前にここを離れましょう。あの店を利用していることがわかったことだって、コーリエッタ君に教えてあげたら十分な情報になるのではないですか?」

「・・・うん」

 テンヘンに促されてネッツは元来た道を歩き出した。もう少しコソックのことを探りたかったが、テンヘンの言う通りかもしれない。

 何か少しでもコーリィの役に立てればとネッツは思っていた。

 確か市場は向こうの通りを左折すればすぐだ。少年はテンヘンと歩き出す。

「ネッツ君、これは危ないことだとわかっているよね?」

 テンヘンは急に教師の顔になった。ネッツははっとして、頷いた。

「コーリエッタ君の役に立ちたい気持ちもわかりますが、ネッツ君に何かあってからでは駄目なのですよ」

「うん」

「相手が悪い人というならば、尚更です。ネッツ君にどんなひどいことをしてくるかわかりません」

 彼はネッツのことを心配する一人の大人としてネッツを叱ったのだ。ネッツは素直に頷いた。だから、テンヘンから次に出た言葉は意外だった。

「でも、悪い人を尾行だなんて、わくわくするのはわかります」

 ネッツがテンヘンの顔を見ると、怒った顔ではなく、笑った顔だった。かつて少年だったテンヘンにだって、探偵ごっこの経験はあるのだろう。

「その僕にそっくりな人物は、もしかして、カレズ議長に会いにあの店に行かれたのかもしれません」

「え?議長があの店にいるのか?」

 ネッツには、スナバラ都市議会議長カナー・カレズが町の普通の喫茶店に行くことに驚いた。

「タビドリは、議長が議長になる前から通う喫茶店として有名ですよ。議長がいつもいるわけではないですが、議長と会えることもあるそうです」

 ネッツははっとした。コーリィはマキシカ評議員の7人のうち、だれがラゥル・コソックとつながっているのかを気にしていた。7人の中にカレズ議長も含まれる。もしかしたら、カレズ議長とコソックに接点があるのかもしれない。

 あの喫茶店でカレズ議長とコソックが会っていたとしたら。残念ながら、その現場を見ることはできなかったが、カレズ議長がコソックにコーリィのことを話していたとしたら。ネッツは重要な情報を掴んでいるかもしれない。スナバラの代表である議長を敵にしているとなれば、ことの重大さは桁違いだ。

 ネッツは早くマァレットと合流して、コーリィに伝えるために帰らなくてはならない。

 テンヘンに連れられ、ネッツは市場の方に歩いてきた。道の向こうからマァレットがやってきた。

「ネッツ坊ちゃん!」

 驚き、安堵するマァレットに、テンヘンはネッツの肩を軽く叩く。

 ネッツはうつむいてマァレットに言った。

「勝手にいなくなって、ごめんなさい」

「うちの生徒だったから、声をかけたんですよ」

 テンヘンはぎこちなく答えた。ネッツがカーンを追っていたことは言わないでくれた。

「テンヘン先生、坊ちゃんを見つけて下さり、ありがとうございます」

「どういたしまして。何事もなくて良かったです」

 市場の入り口で、ネッツとマァレットはテンヘンと別れた。

 マァレットとネッツがレコぺを買い、屋敷に戻ると、コーリィが帰宅していた。店先のいつも新聞を広げる机に座って、小難しそうな表情をして、何か考えごとをしているようだった。

「コーリィ、あのさ」

「何?ネッツ」

「俺、ラゥル・コソックを見たんだ!」

「どこで!?」

 コーリィは驚いた。

「マァレットと市場に行く途中で、コソックを見つけたから、少し追いかけてみたら、タビドリって喫茶店に入っていった!店の前でテンヘン先生にあって、タビドリってお店にはカレズ議長が来る店なんだって!コソックとつながっているのは議長なんじゃないかな?」

 ネッツは嬉々として話したが、コーリィは喜ぶどころか、みるみる表情を曇らせた。

「ネッツ、なぜ、そんな危険なことをしたの!」

 コーリィが初めて大声をあげたことに、ネッツは固まってしまった。

 コーリィはハッとして口を押さえた。コーリィの声を聞いてナガレとマァレットが心配そうにやってきた。コーリィが大声を出すことなどほとんどないからだろう。

 コーリィは息を吸い、落ち着いてから、いつもの冷静な声で話し始める。

「相手はネッツに危害を加える可能性だってあるの。見かけてもすぐにその場を離れるべき」

 マァレットが二人の元にやってくる。

「お嬢様、私が目を離したのがいけなかったのです。ネッツ坊ちゃんは、お買い物のお手伝いで一緒に市場に行ったのですが、逸れてしまったのです。申し訳ございません」

 マァレットは表情を曇らせ、深々と礼をする。

「ネッツはマァレットのお手伝いで一緒に出かけたのでしょう?なぜ、それがコソックの尾行になったのかしら?」

 お嬢様は、メイドではなく、少年を刺々しく問い詰めた。

「コーリィが、コソックのことをもっと知りたいと、思って・・・」

 だんだんと声が小さくなるのはネッツ自身もわかっていた。確かに、マァレットの手伝いで市場に出掛けた。それなのに、コソックを見つけ、勝手に追いかけ、マァレットに心配をかけたのはネッツの落ち度だ。敵しか見えていなかった。

「テンヘン先生と会わなかったら、ネッツ、あなたは喫茶店の前で何をした?」

 ネッツはあのコソックが入った喫茶店のあった通りの風景を思い出してみる。

 コソックが入った店には、テンヘンに声をかけられたことで、ネッツはそれ以上近づかなかった。もし、テンヘンに声をかけられなかったら。店には窓があったことを思い出す。

「・・・喫茶店の窓から中を覗いて」

「相手に見つかったら、どうしたのかしら?」

「――えっと」

 ネッツは黙って俯いた。きっと喫茶店でコソックと目があったら、ネッツは逃げ出すだろう。

「ネッツがコソックに見つかっていたら、彼の行動が慎重にならざるを得ないわ。次に彼がまたマキシカを暴走させるつもりだったのを、一度やめるかもしれない。そうしたら、彼を逮捕するのが遅れるかもしれない」

 コーリィは少し先のことも考えていた。ネッツにはその先のことを考えても見なかった。

「ネッツが危険な目に合う可能性だってあるわ!」

 ネッツの中で、彼は悪い人間だが人に危害を加えるような人間だとは思っていなかった。彼はその一線は超えないとネッツは決めつけていた。

 孤児院に来ていたイルズ・カーンは、子どもが苦手らしかったが、お菓子をくれる人間だった。それは、ネッツの中で彼は度を越した悪ではないと思わせていたのだ。逆に言えば、子供を近づけさせなかった彼は子供たちをなんとも思っていなかったということだ。子供が消えようと怪我をしようと、何があろうと、罪悪感をもたない人間であるかもしれない。ネッツをマキシカの暴走事故に遭わせたのも彼だ。ネッツが軽傷で済んだのは、コーリィが来てマキシカを停止させたからである。コーリィが来なかったら、ネッツはどうなっていたのだろうか。あの日の耳障りで高速に鳴る金属音がネッツの耳に鳴り響いた気がして、身の毛がよだつ。

 ネッツはラゥル・コソックが怖くなった。相手は大人だ。子どものネッツが力で勝てるわけもなく、狡猾でずる賢い、人を騙す男なのだ。

「テイラーマキシカの事故で幸運にもネッツは助かったけれど、彼はネッツを殺そうとしていた可能性もある。コソックが孤児の遺体の記事を真実にするつもりだったら・・・」

「お嬢様!」

 ナガレは首を横に振った。コーリィは口をつぐむ。

 ナガレはネッツの目線に合わせるために屈んで、じっとネッツの目を見つめ、諭すように言う。

「ネッツ坊ちゃんがお嬢様の役に立とうとするお気持ちはわかります。しかし、これまで分かったことから推察すると、相手は悪い人間と考えていいでしょう。ネッツ坊ちゃんに何かあっては遅いのです」

 コーリィもナガレもマァレットも、ネッツのことを心配し、無茶なことをしたネッツを叱っているのだ。

「・・・ごめんなさい」

 ネッツは泣きそうになりながらも、声を絞り出した。

「無事だったので良かったとしましょう。ネッツ坊ちゃんは今、メグリエ家がお預かりしているのです。何かあったら、ミセス・トッドマリーにお会いした時に、なんと言えばいいのか・・・」

 ナガレは悲しそうに言ったこともあり、ネッツは自身の行動は浅はかだったと思い直した。急に不安になる。

「ミセスはどこにいるの?また会えるよね?」

 ネッツはコーリィに、ミセス・トッドマリーは無事だと言って欲しかった。その確信がコーリィにはなかったとしても、気休めだったとしても。

「まずは、コソックを捕まえないと、被害者が増えてしまう。彼を捕まえれば、彼女のこともわかるはずよ」

 コーリィは冷静だった。彼女は合理的で最短の道筋を目指すのだ。


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