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第23章 冷血の偽り

「ただいまー、もどりました」

 ネッツは自信満々でコーリィとともにメグリエの屋敷に帰ってきた。ナガレが笑顔で迎える。

「おかえりなさい、お嬢様、ネッツ坊ちゃん」

 秘密基地の裏口からコーリィとネッツが、表からはエレックとシャルテが出て、別れた。ネッツはコーリィと屋敷に戻ってきた。

「情報を得たわ。作戦会議しましょう」

 いそいそとコーリィは髪をほどき、屋敷の奥の方に向かう。

「わかりました、お茶をお持ちします」

 ナガレは手慣れた扱いで、コーリィの要望を聞き届ける。コーリィは奥の書斎へと急ぎ足で向かった。ネッツもそれについていく。帰ってきたばかりなのに一息つく暇もない。ネッツのもとにやってきたワッカをネッツは抱き上げ、書斎に向かう。

 ナガレが書斎にお茶を持ってきたところで、コーリィによる作戦会議が始まった。

 書斎の主が考え事をする時に使う黒板が書斎にはある。自立式で移動することも可能なもので、フュールイ学園の教室の黒板の半分ほどの大きさだ。それを作戦会議で使うことにしたらしく、コーリィはチョークを持つ。

「情報を整理するわ」

 コーリィが教師として授業を始めるかのようだ。ネッツとナガレは書斎のスツールにそれぞれ座った。コーリィが次に何をするのか、ネッツは期待の目を向けた。

「イルズ・カーンはエレックに修理屋が持つマキシカの設計図を読み解かせていた。メグリエ機関の盗み出し方はエレックよってもたらされた情報だったの」

 新聞記事に掲載された、おもちゃ製造のマキシカと博物館の時計台マキシカからのメグリエ機関の盗難事件。素人がマキシカの中からメグリエ機関を盗み出すことは不可能と言われていた。なぜなら、マキシカごとに異なるメグリエ機関の位置、そしてマキシカを停止させなければ、中で歯車や部品が動くため、マキシカの内部に人が入ることなどできないからである。設計図を読むことができれば、マキシカの中にあるメグリエ機関のありかや、安全な取り外し方法がわかるのだ。設計図の写しを見ることが可能で、設計図の解読が出来ること。そして雨季のいつマキシカを止め、点検に入る時期も知り得たのは、マキシカの点検を行う修理屋の人間だから可能だったことだ。

「イルズ・カーンは盗み出したメグリエ機関から紅夜石(クレナイト)を取り出す仕事もエレックにやらせていた。カーンは紅夜石のみを持って行ったそうよ。だから、エレックは紅陽石を抜いたメグリエ機関を仕方なくヒャリツに隠した。これがメグリエ機関盗難事件の真相よ」

 ナガレは唖然とした顔をして、頷き、納得した表情になった。ネッツは真剣に聞いていた。

「それで修理屋の近くのヒャリツ内にメグリエ機関が隠されていたのですな」

 コーリィが偶然見つけたヒャリツの中に隠されていたメグリエ機関は、盗難に遭ったメグリエ機関だった。ヒャリツの冷水に落ち、コーリィが悴む手で書き写したメグリエ機関の製造番号から照合することで判明していた。その後、警察が調べていたようだが、まだここまでの真実に至っていないのだろう。修理屋の近辺での警察の聞き込みは形式的なものだけで引き上げているそうだ。

「次に、イルズ・カーンは紅夜石のついた首輪をワッカに用意し、シャルテに預けた。暴走しそうなマキシカを嗅ぎ分ける訓練という虚偽の話をシャルテにしていたのよ。彼はシャルテに特定のマキシカにワッカと行くよう指示した」

 ワッカはネッツの傍で首をかしげる。ワッカの首輪についた2つの紅い石は飾りではなく、紅夜石だったのだ。ワッカの首輪は外され、今はコーリィが銀色の箱に保管している。

「これにより暴走したのが、酒造マキシカ、テイラーマキシカ、学園のアグリマキシカよ」

 ナガレは感心するように頷く。ネッツが見た暴走したマキシカも含む。

 ネッツは思い出す。アグリマキシカを止めに夕方の学園に行った際に、学内に何か動物を連れていた少女がいたのを見た。それがワッカとシャルテだったのではないだろうか。

「そのあと、シャルテはうっかりワッカを逃してしまう。それにより暴走したのが、重機マキシカと染色マキシカ。両方のマキシカの近くでワッカがいたことがわかっている」

 ネッツはじっとコーリィの話を聞いていた。コーリィが情報を整理しながら、黒板に書いていく事実が筋道の通った物語になりつつあった。鮮やかに彼女は真実を解き明かしていく。

「最近のマキシカに関わる事故や事件はすべて、イルズ・カーンに関係しているようですな」

 コーリィが時系列に暴走したマキシカと、その原因を書いていく。ナガレはその黒板を眺めながら唸った。

「ワッカの首輪、つまりカーンがメグリエ機関を盗み出して手にした紅夜石の二つの欠片は、ここにあるから、もう彼はマキシカを暴走させられないはず」

「よかった!もう暴走しない!」

 ネッツは手を叩いて喜んだ。しかし、コーリィの表情は堅い。

「では、そのあとに暴走したネジッレマキシカはどうして暴走したのでしょう?」

 紅夜石がついた首輪をしたワッカを保護したのは、染色マキシカの現場の帰りだった。ネジッレマキシカの暴走はその数日後に起こっている。つまり、二つの紅夜石の欠片がコーリィの手に渡った後に、暴走したマキシカがあるのだ。

「しばらく点検をされていなかったのでは?」

 ナガレの質問に、ネッツははっとして頷く。ネッツにとっては、古くなったマキシカが自然に暴走することより、故意に暴走させられたマキシカばかりを見ていたため、盲点だった。紅夜石を近づけなくても、マキシカは暴走することがある。点検をして修理をしないのも一つの暴走理由だ。メグリエ機関に供給される熱が多すぎて、過剰な熱量が生産され、マキシカ内部の温度が上がり、その熱がまた熱量に変換され暴走の域に達するという自然暴走や、適切にヒャリツの冷風で冷やさなかったといったマキシカ操作の誤りによる暴走現象が確認されていた。紅夜石によって人為的に起こされたものではなく、ネジッレマキシカは別の理由で暴走した可能性だ。

 コーリィは首を横に振った。

「ラウンおば様によると、一月前に点検して問題なかったそうよ」

 雨季の時期に特別な黄色に色付けた砂糖のかかったネジッレを販売するため、雨季の前に修理屋に預けて点検をしたというのだ。点検ではマキシカの老朽化だけではなく、メグリエ機関の熱量生産効率なども調べる。マキシカは、集熱版の表面を磨いたり、集熱フィラメントの交換など、適切な熱量生産となるよう、点検時に調整される。ネジッレマキシカはそこで問題がないことを確かめていた。点検が適切になされていたとしたら、老朽化による暴走の可能性は低いと考えるのが妥当だ。

 ナガレは頷く。

「つまり、彼がまだ紅夜石を持っている可能性ですか。メグリエ機関を盗まれたことに持ち主が気づいていないマキシカがあるということですかな?」

 雨季に点検したり動かしていないマキシカは都市内にはいくつかある。知らぬ間にメグリエ機関が盗まれてしまったマキシカがあるということだ。稼働しようとして、全く動かないマキシカが見つかって初めて盗難の被害が判明するだろう。

「エレックは二つのメグリエ機関を隠していたけれど、三つ目のメグリエ機関を彼が持っているのかもしれないわ」

 コーリィの言葉を染み入るようにナガレは頷く。

「その紅夜石で、ネジッレマキシカを暴走させたということは、また彼はマキシカを暴走させられる。これは彼を早く捕まえなくてはなりませんね」

 ナガレは膝を打つ。

「彼は、テンヘン先生に顔立ちが似ているそうよ。チェック柄のベストとズボン、茶髪で金縁メガネの背の高い男。甘いものが苦手らしいわ。今までのマキシカの事故と事件から、何か彼につながるヒントがあるといいのだけど」

 ナガレは考え込んだ。そして、ひらめいたように言った。

「そうですな、彼が暴走させたのは、自分には関係がないマキシカということではないでしょうか」

「どういうことだ?スナバラにはマキシカがないと困るだろ?」

 ネッツはマキシカが都市に欠かせないことはわかっていた。

「ネッツ、確かにマキシカは都市になくてはならないものだけれど、ナガレの言う通りだわ。例えば、時計台がなくても時間はわかるでしょう?」

 コーリィは書斎の壁にかけられた振り子時計を示した。複数の時計があれば、止まったとしても時刻を合わせることができる。そもそも時計台は都市中央にあり、ネッツがいた孤児院のような都市の外れでは時計の文字盤は見えないし、鐘の音も聞こえないこともある。メグリエ機関を盗み出しても、カーンは困らないのだ。自身の考えの浅さにネッツは閉口した。コーリィは話を続ける。

「おもちゃ製造のマキシカは無くても、大人はそんなに困らないでしょうね。マキシカを使わずに服を作る店なら、ほかにだってあるから、テイラーマキシカも必要ない。学園のアグリマキシカは保存の意味合いが強い骨董品だし、甘いものが嫌いならネジッレを食べない」

「なるほど」

 ネッツは驚きと感嘆の声をあげる。

「お嬢様が最初に依頼を受けた暴走マキシカは、酒造マキシカでしたな。それも彼の仕業だとすれば、お酒は嗜まない方かもしれません」

 ネッツがコーリィと出会う前にも暴走したマキシカがあり、それは主に微炭酸の酒を製造するマキシカであった。

「我々全員に必要なマキシカもあれば、そうではないマキシカもある。マキシカを嫌う彼なら、服も手作りの店を利用しているのでしょうな」

 ポンプマキシカのような地下水を組み上げるマキシカや発電マキシカは多くの人々が直接、間接的に利用している。一方で、嗜好品などを作るマキシカがなくても、困らない人間もいる。都市にはマキシカが関わらずに作られているものもあり、個人に関わりのないマキシカは存在する。

 カーンが自身に関係のないマキシカを暴走させた。逆に言えば、誰もが利用するポンプマキシカや発電マキシカなどを暴走させることはないと考えられる。それらのマキシカはマキシカ管理局が直接管理しているものだ。狙われるマキシカは、民間のものとなる。三百六十ものマキシカがスナバラにあり、民間のものは三百を超えている。そこから、カーンの生活に直接及び間接的に関わっていないマキシカの中で、エレックが設計図の写しを見られるマキシカのどれかが次の標的になるだろう。シャルテがワッカを逃したため、自身または他人を使って紅夜石をマキシカに近づけて、次の事故を起こすか、こちらの様子を伺っているか。

「あとは彼の動機。マキシカ反対派なのは間違いないわ」

「そして、メグリエ家、そしてマキシカ家のことを恨んでいる可能性もありますな」

 ナガレは頷く。議員の中では、ジンリー・リック議員やロマーク・クラム議員がマキシカ反対派と立場を明らかにしているし、他にもシューコー・テジュネ議員も安全性については疑問だとしている。しかし、彼らは敵ではなく、マキシカの安全性を議論するときの別の視点から意見する重要な議員の立場ということになっている。

「そして、この新聞記事。昨日の今日での対応の早さは準備をしていたとしか考えられないわ」

「つまりは新聞社とも繋がりがあって、掲載する記事に融通を利かせられるほどの権力者か背後にそのような人物がいる、と」

「敵が権力者となると厄介」

 ナガレはうーんと唸った。少しだけ見えてきたが、熱過の媒介者であるカーンが次に暴走させるマキシカを絞り込めないどころか、コーリィたちの動きを妨害してきているのだ。



 翌日朝、速達郵便がコーリィ宛てに届いた。

 配達員から封筒を受け取ったコーリィはメグリエ鉱物研究社の店先の椅子に座った。机の上に白い封筒に入れられた数枚の紙を広げる。小難しい顔をしているコーリィにネッツは声をかけた。

「おはよう、コーリィ。朝飯、食べないのか?」

 あくびをしながらやってきたネッツは、赤毛をふわりふわりと揺らす。コーリィは浮かない顔をしていた。

「それは?」

「カレズ議長から報告が来たの。イルズ・カーンについて調べて欲しいとお願いした結果よ」

 議会に呼ばれたあの晩、コーリィはイルズ・カーンについての情報が欲しいと伝えていた。その調査結果について、カナー・カレズ都市議会議長の秘書が代筆した手紙が届いたのだった。

「どこのどいつかわかったのか!」

 ネッツの期待とは裏腹に、コーリィの表情は固いままだった。

「イルズ・カーンという名は偽名だったそうよ」

「ぎめい?」

「嘘の名前を名乗っていたの。イルズ・カーンは彼の本当の名前じゃない」

 ネッツは金縁眼鏡のあの男を思い出した。ネッツにとっては、イルズ・カーンはあの顔であの姿であの振る舞いの人間だとネッツの中で固定化されていた。カーンに別の名前が、本当の名前があることは受け入れがたい。本当はどんな名前なのだろう。

「戸籍や汽車の乗車記録を調べたそうなの。イルズ・カーンという名前の人物はいないそうよ」

 都市の人間なら戸籍がある。あとは都市外からやってきた人物だが、それはスナウミ鉄道の乗車記録からほとんどを把握できる。汽車以外でスナバラにやってくる方法はないからだ。そのどちらにもイルズ・カーンという名の人物は見当たらなかったという調査結果だった。少し珍しい名前ではあったが、それ故に偽名であることを悟るよりも彼の風貌と合いすぎているとネッツは思う。きっと彼の本当の名を知っても、違和感を覚えるだろう。

「あいつの本当の名前はなんなんだ?」

 ネッツやエレック、シャルテ、そして、ミセス・トッドマリーの前ではあの男はイルズ・カーンと名乗り、それを貫き通していた。それが偽名だったとは、いったい彼は何者だったのか。あの男は悪事が暴かれたときに、逃れられるように偽名で通していたとは、用意周到だ。

「わからないわ」

「それじゃあ、奴がどこにいるどいつかわからないじゃないか!」

「ええ」

 コーリィは悔しそうだった。眉間に皺を寄せ、不機嫌が深まる。このままでは、熱過の媒介者であるカーンを捕まえることができない。

「奴がエレックやシャルテのところに来るのを待つ?」

「いいえ、彼はしばらく隠れて行動を起こさない可能性もある。こちらが動いていることに気づいている今は尚更のこと」

 評議会の誰かがイルズ・カーンを名乗る人物とつながっている。コーリィが彼の尻尾を捕まえようと評議会に協力を求めたことが彼に伝わったのだ。だから、コーリィの動きを鈍らせるため、新聞記事にマキシカ事故で死亡した孤児の遺体を隠したとでっち上げの記事を載せたのではないだろうか。メグリエの家の評判を落とし、市民に疑惑の目を向けさせるためにだ。

「直接手を汚さないばかりか、偽名で通していたなんて。大胆なこともできるわけだわ」



 その日の夕方、メグリエ鉱物硏究社に一人の客が訪れた。その客は擦り切れた黒い布の帽子に、緑色の不自然なほど大きなシャツを羽織っていおり、出迎えたナガレに、まだ声変わりのしていない声で相談があると告げた。怪しまれながらも招き入れられた客は、コーリィとネッツを見て帽子をつばをあげて顔を見せた。

「シャルテ!」

 ネッツはびっくりして声を上げた。やってきたのはネッツの姉のような存在だった三つ年上の少女シャルテ・ポーンだった。

 コーリィとの接触がカーンに見られてはならないと考えた彼女は、ズボンにブラウスを着て、肩までの髪をまとめて帽子に収め、華奢な身体を隠すために、同じ壊し屋で働くゴワの小さくなったというシャツを借りて羽織ってきたという。しかし筋骨隆々のゴワにとって着られないほど小さいシャツと言っても、ナガレでも大きいくらいで、シャルテにはぶかぶかだった。

 シャルテはメグリエ鉱物研究社の応接間に通された。コーリィ、ネッツ、ナガレが見守る中、彼女は緊張した面持ちながらも、どう切り出して良いか自問自答しているようだった。

「シャルテ、どうしてここへ?」

 コーリィには彼女が意を決した表情に見えた。

「これを渡しにきたの」

 シャルテは大事そうに持っていた黄色の巾着から、ボタンを取り出した。

 コーリィはそれを受け取って観察する。見かけは二つ穴の空いた直径6チカほどの灰色のボタンだ。独特の艶と虹色の光沢を持つため、きっと高級なボタンであり、上等な洋服につけるものだろう。

「これは?」

「カーンさんのボタン。何かの手がかりになればと思って」

 シャルテは自信がないようで表情筋を曇らせたままであった。

「あいつのボタンなんてどうやって手に入れたんだ?」

 ネッツは怪訝な顔をしてコーリィの手にあるなんの変哲もないボタンを見つめた。

「前にカーンさんが壊し屋に来た時に、このボタンを落としていったの。きっとベストのボタンよ。いつか返そう、とは思ってたのだけれど・・・」

 シャルテはうまく言えないようだった。彼女にはボタンを拾った後も何度かカーンに返す機会もあったように見えた。彼女は何度かのその機を逃し、返しそびれてしまったのだろう。

「私にも見せてくださいますかな?」

 ナガレはボタンを手に取り、眼鏡を外して眺めたり、ボタンを少し離して見たり、その質感を確かめた。

「これは珍しい、貝のボタンですな」

「カイのボタン?」

 ネッツとシャルテはなんのことかわからなかった。

「はい。海にいる貝という生き物の美しく硬い殻をくり抜いて作られたボタンです。貝は食べられる種類もありますが、美しい殻を持つものは殻を加工するのです」

 スナバラは海から遠くはなれ、水辺もないため、生きている貝を見たことがない人が多いのだ。貝の身は缶詰や乾燥したものはスナバラにも輸入されていたが、殻は取り除かれていた。生きた姿や貝殻を知らないスナバラ市民にとっては、その珍しいボタンだけでは元の貝の姿を想像することが難しい。

 一方でコーリィは閃いたようだ。

「シャルテ、ありがとう。これはきっと役立つわ」

 コーリィは核心のある表情に変わる。

「珍しいものなら、服を仕立てた店を探せるかもしれない」

 シャルテは役立てることに喜びながらも、世話になったカーンを裏切るような気がして、浮かない顔をしていた。

「シャルテ、俺たちが嘘つきのあいつを絶対捕まえる!名前がわからないけど!」

 ネッツは急に強気になった。あの男の尻尾を確実に捕まえられそうな気がしたからだ。

「名前が、わからない?」

 シャルテは眉を動かした。

「実は、イルズ・カーンは偽名ということがわかったの」

 コーリィの言葉に、シャルテは衝撃を受けたようだった。

「嘘・・・カーンさんはカーンさんじゃないの?」

 コーリィは頷いた。シャルテの顔はみるみる暗くなり、やがてため息をついた。

「あたし達、騙されてたんだ・・・」

 彼女はぽつりと呟いた。シャルテの言動から、彼女がカーンを慕っていたことはコーリィにも想像ができただろう。ネッツが知る孤児院にいた時のシャルテは、カーンのことを可愛がってくれる親類のような存在だと思っているようだった。コーリィに手がかりを渡すという自身の裏切りに気持ちの整理をすぐには付けられないだろう。しかし、カーンもまた名前を偽り素性を明かしていないのだ。

「シャルテ!大丈夫!コーリィが絶対あいつを見つけて懲らしめてくれるから!こてんぱんにやっつけてくれるから!」

 ネッツはシャルテを励まそうとした。コーリィならきっとカーンを名乗るあの男を見つけだせるはずだとネッツは信じていた。

「ネッツ、そこまで私にはできないわ。お巡りさんにも協力してもらうつもりよ」

「あいつは悪いやつだから逮捕だな!絶対捕まえてやるぞ!」

 俄然やる気を出すネッツと冷静に状況を整理して解決への糸口を確実に掴もうとするコーリィのやり取りをシャルテは見ていた。

「ーーネッツは、ここに来てよかったみたい」

 シャルテはコーリィにそう言った。唖然とするネッツに、コーリィは頷いた。

「必ずこのボタンの持ち主を見つけて、解決するわ。ご協力感謝します」


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