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聖女らしきものたちの暗躍  作者: お伝


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7/18

ローザリア・リンデル侯爵令嬢 (中)

私と双子の弟のルーファスはリンデル侯爵家と母の生家のセントルー侯爵家両家の祖父母と母の兄であるクラウス小侯爵たちに大切に守られ両方の領地でのびのびと育った。

物心つく頃には、なぜ自分たちに両親が居ないのかは聞いてはいけない事だとうっすらと感じており、祖父母たちもその事には気づいていたようだ。

そして王都の学園に入学する直前の十五歳の誕生日に、両祖父母と伯父が揃って両親の事を話してくれたのだった。


隣り合うリンデル侯爵家とセントルー侯爵家の広大な両領地には、最高品質とされ近隣諸国からも重用される美しい石材を産出する山脈が連なっており、また山脈からの豊富な水源を利用して各地に張り巡らせた運河を共同管理するなど、古くからお互いに協力し合って発展させてきた。

今代は折よく両家に同じ年の男女が生まれたことで早くから婚約が結ばれ、両家はこれからの明るい展望を信じて疑ってはいなかったのだ。


所が、リンデル家の一人息子アスランは王都の学園に入るや否や一人の蠱惑的な男爵令嬢リリア嬢に夢中になり、あっという間に当時の王太子エドワード殿下を始め高位貴族の令息たちと共に、リリア嬢という女王蜂に群がる雄蜂の一人に成り下がってしまったのだった。


リリア嬢に篭絡された令息たちが各々の婚約者から言い逃れのできない証拠を突きつけられて婚約破棄を言い渡されて廃嫡される中、アスランの婚約者であるセントルー侯爵家の長女キャサリンは両家の領民のために貴族令嬢の義務を全うするべく、子を産んだ後は自由になることを条件に婚姻を結んだ。


そして結婚式から一年後、母のキャサリンはローザリアとルーファスを産み落としたその日のうちに姿を消してしまった。

そして父のアスランは廃嫡され、リンデル家から追放されたのだ。

深い後悔を滲ませ、絞り出すように語ってくれた両祖父母の痛ましい姿が今でも脳裏に焼きついて離れない。


その時の話を思い出すに、マノン嬢と母親であるリリア夫人とはよく似た母娘のようだ。


リリア夫人の一番の被害者は、当時の王太子エドワード殿下の婚約者だったファルマ公爵令嬢だ。彼女は王都の中央礼拝堂の聖女像に「イザベラ」とその名を刻まれている。


公式発表では、ファルマ公爵令嬢はリリア夫人の登場によるエドワード殿下の心変わりに心労を募らせ、結婚式を目前に儚くなってしまったという。


そして、その無辜の令嬢の死を哀れと思召された女神様によって大鐘が鳴らされ、聖女に列せられたと言い伝えられている。

その事で、自らの行いを悔い婚約者の死を悼んだエドワード殿下は自ら王太子を辞し王籍を離れ、離宮の塔に自らを封じる道を選んだと発表された。


そしてリリア夫人は自ら修道院に入る事を表明していたが、彼女を深く愛していたアッシュベル伯爵が何度も王家に掛け合った結果、彼女の身柄を引き受ける事を許され、アッシュベル伯爵夫人として迎え入れられた、と。


当事者たちはもとより、当時を知る貴族たちは一様に同じ内容を口にする。

しかし、アッシュベル伯爵夫妻の間に生まれたマノン嬢が、二人の結婚後わずか数か月で誕生している事を指摘する者は誰も居ない。


高貴な帳の向こうにある真実を、我々が垣間見ることは叶わない。



◇◇◇

私とルーファスは半年前、二年生の終わりに全ての単位を取り終わり、片や王太子妃妃教育の為、片や爵位継承の為、それぞれの準備に取り掛かろうとしていた。


その矢先、双方の領地に跨る山で大規模な地崩れが起き、視察のために近くの別荘に滞在していたセントルー侯爵夫妻とリンデル侯爵夫人が別荘の倒壊に巻き込まれて亡くなったと伝令が届いた。知らせを受けてすぐに現地に赴いたリンデル侯爵と伯父のセントルー小侯爵は、懸命に巻き込まれた人々の救出の指示に当たっていたのだが、不意に崩れた瓦礫の下敷きになり、すぐに救出されたものの二人とも意識がなく重篤な状態だった。


ルーファスが駆けつけた時には、幸いにもセントルー小侯爵は何とか持ち直したが、回復までもう暫くかかるようだった。

一方、意識が戻り死期を悟ったリンデル侯爵は、ルーファスの手を握りしめて、今すぐにリンデル侯爵家とセントルー侯爵家の爵位継承の書類を提出し、ルーファス・リンデル新侯爵とクラウス・セントルー新侯爵の貴族院登録を急ぐように告げた。爵位継承には立会人と、未成年の場合は後見人のサインが必要で、その届け出が完了した時点で生きている人間でなければならない。

そして、父アスランが自分の死を知る前にリンデル家のタウンハウスから重要書類は全て持ち出して移動するように指示した。


鬼気迫るその様子をルーファスからの早馬で知らされた私は、即座に領地の災害対策の為と報告して王宮からしばらく休暇を貰い、祖父母たちとの別れを悲しむ間もなく送られて来たリンデル侯爵家とセントルー侯爵家の爵位継承の書類を提出し、貴族院に登録が完了した書類の控えをルーファス宛てに送った。


そして両家のタウンハウスの執務室の金庫から、重要書類を家令と管財人と共に持ち出し、リンデル家の金庫には、タウンハウスの維持管理費として金貨を積み上げ、邸の権利書の他は封をした爵位継承書類の控えだけを残しておいた。

リンデル前侯爵は、全ての処理が終わった報告を受けると安堵の表情を浮かべて、ルーファスに看取られて旅立ったと手紙で知らされた。


ルーファスはまだ起き上がることが出来ない伯父のクラウス・セントルー新侯爵の代理も努めつつ両方の領地を懸命に治め復興に奔走している。混乱を極めている領地に重要書類を送ることは出来ないとの判断から、今は王宮の私室の下着類を納めたキャビネットの裏を隠し金庫に改造して保管している。


父のアスランは祖父の訃報からすぐに侯爵邸に越してきて一番に金庫の確認をしたそうだ。そこで金庫にぎっしりと積み上げられた金貨を見て取ると、金庫内の証書類や爵位継承書類を一通りの確認はしたものの、原本だと疑っていないようだ。

尤も、そう見えるようにと、しっかりと印章で封をするなどの細工をして置いていたのだが。


セントルー侯爵の爵位継承は滞りなく完了している。しかしリンデル侯爵の継承についてはルーファスの名で提出されてはいるが、成人後に立会人のサインと共に再度貴族院への届け出が必要になる。

爵位継承の書類はたとえどんなに巧妙に細工をして提出しても贋物は受理される事はないが、成人後の書類が提出されない限り当主代理が権限を持ち続ける事が出来るのだ。


リンデル侯爵邸にある爵位継承書類が控えだと気づけばアスランは血眼になって原本を探すはずだ。

父アスランでなくともあの混乱の中で書類を隠し、提出が容易い場所となれば私の私室が一番可能性が高いと考えるだろうし、マノン嬢が私の侍女として王宮に居れば書類を持ち出す事は造作もないと考えるだろう。

しかし、マノン嬢が二人に言い含められて書類を持ち出そうとしても、そもそも侍女として機能していない彼女が私の私室に出入りすれば他の侍女たちに必ず見咎められる。

その時はきっとマノン嬢は私に冤罪を掛けてブルーノ殿下に泣き付くはず。そうなればブルーノ殿下はたとえ私の個人資産であっても犯罪の証拠だと言って私室の中に踏み込み、捜索する事を厭わないだろう。


彼らが邸に入って半年、漏れ聞くだけでもかなり派手な散財をしている所を見ると、金庫の中を検めて探るのは時間の問題だろう。


ローザリアは、チェーンに下げて服の下に隠していた指輪を取り出した。



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