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聖女らしきものたちの暗躍  作者: お伝


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閑話:ネリー

所謂「商会」という組織は、それぞれが独自の諜報網を持っているが、ノートン家の諜報員たちはこの国では特殊な存在だ。


その諜報の拠点となっているのは、女優ニーナの経営する洋品店である。

表通りに構えたその華やかな店先には、人気女優ニーナが舞台で身に付けた衣装やアクセサリー、髪飾りなどによく似た既製品が並び、庶民にも手の届く価格設定になっているため連日大賑わいだ。

店の奥にある優雅な扉の向こうは、豪華な作りの広い応接室となっており、そこではニーナの演劇サロンやエレノアの美粧サロンなどが行われている。


その店の裏手は花街に近い路地に面しており、ぽってりした白いウサギを描いた看板を掲げただけの小さな店は、表通りで売る商品を作る時に出た端切れ生地や刺繍糸、ビーズなどこまごましたものを小売りする傍ら、ニーナの店への秘密の通用口となっている。


ここから出入りする者は、エレノアとたまに来る客を除けば全員がノートン家の諜報員だ。先代が東の国から連れて来た特別な諜報員の集団は、独特の訓練で驚異的な身体能力を身に付け、完璧な潜入術で周囲に溶け込み、いざとなれば昼夜を問わず誰にも気づかれずに任務を遂行する。

人気女優は仮の姿、もちろんニーナもその一人だ。


軽業師だったネリーの父が、ノートン家の諜報員だったと知ったのは、彼女が家族を失った後だった。

その日、ネリーと家族はニーナの店の近くにある街の広場で高所綱渡りの大道芸を披露していた。ところがその最中、酔っぱらった質の悪い見物客がふざけて柱によじ登り、綱の結び目に飛びついてぶら下がったのだ。その拍子に無情にも結び目が解け、空中で突然足場を失った父と弟は地面に叩きつけられた。


一瞬の出来事だった。

広場の石畳の上、弟を庇う様に抱きかかえた父の下には、母が横たわっていた。


取り囲む見物客が息を呑んで見つめる中、倒れた3人と呆然と立ち尽くすネリーはあっという間にニーナの店の奥に運び込まれた。

そこで治療の陣頭指揮をとっていたのが、ニーナのサロンに訪れていたエレノアだった。

当時12歳だった自分よりも少し年下に見えるその令嬢は、急いで医師を呼び、怪我の具合を確認させながらタオルや布、湯などの手配をてきぱきと言いつけて処置の準備をしている。医師が到着してからは、ずっとネリーの隣に座り背を擦ってくれていた。


父はそのまま帰らぬ人となり、母と弟は10日ほど懸命に治療を施してもらったものの、相次いでネリーを残して旅立ってしまった。

その間、エレノアは毎日見舞いにやってきて献身的に看病をしてくれた。それだけでもありがたかったが、彼女はネリーの事もとても気遣ってくれたのだ。

さらに驚いたことに、3人はノートン家の墓所に埋葬されるという。

埋葬の時には何とノートン子爵自ら臨席し、そこで父の出自と経歴を聞かされたのだ。


「我が家のために長年働いてくれた君の父と家族は身内も同然だ。残された君の行く末は私が保証しよう」


ネリーはその時に決めたのだ。父と同じくノートン家に仕えようと。何よりも、母と弟を最期まで献身的に看取ってくれた大恩あるエレノアに生涯尽したい。そう伝えると、ノートン子爵はネリーをじっと見て微笑んだ。


「では、ニーナの所で少しの訓練と礼儀作法を学んでも貰おう。それが終ったらエレノアの侍女になってくれるかね?」


それから半年の特訓の後、ネリーはエレノアの侍女として迎え入れられた。

そして、家族を失う原因となった男が、その日のうちに足を滑らせて川に沈んでいるのが見つかったと知ったのだ。酔った挙句の事故だと処理されたという。


大切な仲間を奪った者は決して許さない、それがノートンの流儀なのだと教えられた。



◆◆◆

中央礼拝堂でのやり取りからすぐに、イザベラ部隊からの訓練が始まった。

同じ東国にルーツを持つ諜報集団の中でも、精鋭を集めた部隊なのだと聞かされた。

その訓練は、今までのものとは比べ物にならない過酷なものだった。


「脱落は許されないと覚悟して」


元よりそんなつもりはさらさらない。

それよりも、イザベラ部隊の一人が言った言葉が胸に刺さった。


「エレノア様は、イザベラ様にとって唯一無二の親友なのです。あの方のお陰でイザベラ様がどれだけ救われているか、お二人でいる時の、年相応の少女のような笑顔が見られる事にとても感謝しているのです。私たちもエレノア様をお守りしますが、いざとなればイザベラ様を優先しなければいけません。エレノア様はあなた達にお任せしますから、絶対に守り抜いて下さい」


二人の笑顔を守るために、私たちは邁進する。


東の国の諜報部隊は、忍者がイメージです。

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