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聖女らしきものたちの暗躍  作者: お伝


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10/18

未来への希望

ローザリアの誕生日を祝う夜会が、パーティーを装った断罪と婚約破棄を言い渡す場であることはマークスの耳にも入っていた。

既に国王の耳にも入っているはずなのに、何の対策もせずに視察に出ようとしている兄王の真意を質すべく、執務室を訪れた。


「兄上はブルーノの暴挙をどのようにお考えか。このまま断罪と婚約破棄宣言が行われればリンデル家とセントルー家の一門と派閥は黙ってはいないでしょう」


侍従に身支度をさせながら国王は答えた。


「招待客は下位貴族ばかりだ。明日の事は厳重に箝口令を敷くように宰相に指示をしてあるから問題ない」


「公にするかどうかを問うているのではありません。明らかな冤罪と分かっている断罪を行う事に付いて、ましてや婚約破棄宣言を何故止めないのか理由を聞いているのです」


鏡越しにマークスを見て国王は言った。


「ローザリア嬢との婚姻は揺るがないものだ。その事はブルーノにもよく言い聞かせてあるし重々承知しているはずだ。ただ、マノン嬢を傍に置きたいという決意表明のような物だと聞いている。ローザリア嬢は未来の王妃だ、側妃や愛妾のあしらい位出来なくてどうする。今回のことは覚悟と共に良い練習にもなる」


マークスは鏡越しではなく、国王の横顔をまっすぐ見据えた。


「では、ブルーノが婚約破棄宣言をした場合、私がその場でローザリア嬢をもらい受ける」


その言葉に、国王は勢いよく振り返ってマークスを睨み据えた。


「其方は自分が何を言ったのか分かっているのか」


公爵家が途絶えているこの国で、リンデル家とセントルー家の二大侯爵家一門とその派閥は最大勢力だ。加えて実母の莫大な資産と資金力を後ろ盾に、更に王太子妃教育を既に終えているローザリアを手中に収めるという事は、王太子ブルーノを遥かに凌ぐ地盤を持つ事になる。


「もちろん分かっていますよ。ですから、ブルーノが婚約破棄宣言をした場合と申し上げたでしょう。ブルーノに倣ってこれは私の決意表明です」


国王の視線を正面に捕らえ、マークスは宣言した。


「ローザリア嬢との婚姻は王命だ。それに背くような事はあり得ぬ!」


顔を背け、言い捨てるように言葉を発した国王に、マークスは畳みかけた。


「王命に背いてリリア夫人と秘密結婚を企てた兄のエドワードと同じ轍を踏ませるおつもりですか」


国王はその言葉にゆっくり振り返り、マークスを睨んだまま宰相を呼んで書状を作らせた。


「国王が不在の場合、摂政は王太子ブルーノとする。ただし、王太子ブルーノがローザリア嬢に婚約破棄宣言をした場合のみ、この書状を以て王弟マークスにその宣言を取り消す権限を与えるものとする」


国王は宰相が作成した書状にサインをし、玉璽を押して宰相に渡した。


「恐らく使う事などないが念のためだ。この書状を掲げる立会人として宰相を指名する」


国王はマークスに顔を近づけて凄むように呟いた


「良いか、其方とローザリア嬢の婚姻は王命で禁止だ」


そう言い残して国王は視察先へ向かった。



◇◇◇

ローザリアの誕生日を祝う夜会の招待状は、婚約者の誕生日を祝う私的なものと周知され、リンデル家に連なる家門やローザリアに近しい者たちへ送られる事は無かった。

アスラン夫妻は相変わらず下位貴族たちを中心に夜会を開いては精力的にローザリアを貶める噂を流し続けている。


王宮内では、ブルーノと側近たちの態度とマノンの振る舞いを国王が咎めなかった事で、領地を持たない宮廷貴族と使用人を中心に、王太子妃はマノンであるかのような扱いがなされ、ローザリアの侍女たちへもあからさまな嘲笑や嫌がらせを向ける者も出始めた。

ローザリアの私室へは訪れる者も無く、ひっそりと静まり返っている。




夜会当日、ノックの音に扉を開けると、そこに立っていたのはブルーノの側近の一人だった。


「ブルーノ殿下のエスコートと伺っておりましたが違っていたようですね」


扉を閉めようとしたローザリアの侍女に、側近は慌てて言葉を発した。


「お待ちください!ブルーノ殿下は会場の入り口でお待ちです!」


閉じかけた扉の隙間から冷たい視線を向けて侍女が告げた。


「ローザリア様にお一人で会場までの廊下を歩けと?」


「いいえ!会場までは私がご案内いたします!」


顔色を変えて縋るように言い募る側近の目の前で侍女は扉を閉じた。


「ローザリア様!お願い致します!どうか、どうかお出ましを!」


どんどんと扉を叩く音と懇願する声を聞きながら、ローザリアは会場まで同行する既婚の侍女二人を残し、四人の令嬢たちをそれぞれ抱きしめて別の入り口から送り出した。


「沢山苦労を掛けたわね、今まで側にてくれて本当にありがとう。皆のこれからの人生を応援しているわ。新しい婚約者と幸せにね」


侍女たちは感極まったようにローザリアの手を握り、暇乞いをして部屋を出て行った。


そして残った二人に笑顔で伝えた。


「貴方たちも、ご主人と迎えの馬車は既に待機しているわ。会場で事を見届けたらリンデル邸へ向かって報告をお願い。夜明け前にはルーファスが到着するはずだから、後の事は彼の指示に従ってね」


今まで何度も衆目を集めた場所で断罪と婚約破棄を行う事を画策していた事は漏れ聞いている。

部屋に押し入って書類を探していたのだから爵位継承の事情も知っているはずだ。

それなら今日はどんなことをしても私を引っ張り出さなければいけない事は分かっているはずなのに。

マノン嬢を腕にぶら下げて堂々と来ればいいのに。何を今更と内心呆れながら扉の前に立っていた。

来ないなら欠席するまでだ。


すると扉を叩く騒音と叫ぶように『お出ましを』と繰り返す声が止まったかと思うと、聞き覚えのある穏やかな声が聞こえて来た。

マークス殿下だ。


「何の騒ぎだ」


掛けられた声に側近は慌てて礼を執った様だ。


「これは、王弟殿下。実は、ローザリア様の誕生日を祝う夜会の為にお迎えに上がったのですが、お出ましが叶わず…」


「先触れも無い下位の者のエスコートなど受けぬのは当然の事。

王太子の婚約者たる侯爵令嬢の私室の扉を不躾に叩いて騒ぐ狼藉者が居ると知らせを受けて、まさかと思って来てみれば、目にしたからには看過できぬ無礼だ」


そう言って後ろに控えた護衛に目配せをして拘束させると、側近は気色ばんで叫び始めた。


「王太子殿下のご命令なのだ! 私を拘束するなど、王太子殿下がお許しにならないぞ!」


暴れながら叫ぶ側近を睥睨しながら、マークスは聞いた。


「命令書を見せよ」


「は?」


「命令による正式な使者なら命令書があるはず。それを見せよと言っている」


「いえ、…王太子殿下のご招待でございますれば…」


勢いを失って言い淀む側近を見据え、ブルーノ殿下の所へ連れて行けと護衛に指示して連れて行かせた。


騒ぐ側近の声が遠ざかるのを確認したローザリアは、扉を開けてマークスに礼を執った。


「ありがとうございます。お手を煩わせて申し訳ございません」


マークスは柔らかな視線を向けてローザリアに問うた。


「これからどうなさいますか?」


「会場に参ります。恐れながら、エスコートをお願い出来ますでしょうか」


マークスは、ローザリアの決意を込めた眼差しを眩しそうに見つめ、笑みを浮かべて手を差し伸べた。


「喜んでお供いたします」


廊下をゆっくりと進みながら、マークスはローザリアに『軽く相槌だけで結構です』と前置きして密やかに話しかけた。


「本日の夜会の趣旨はご存知ですね? 弟君とセントルー侯爵には既に連絡済です。弟君は既に一番近くの宿場町に待機していると先ほど連絡がありました。冤罪による断罪に付いては、この夜会から漏れない様に国王陛下から箝口令が敷かれておりますので、醜聞が広がる事はありません」


ローザリアはマークスの言葉に微かに頷いて答えた。


「もしも婚約破棄宣言があった場合、私が宣言を取り消す権限を得ておりますので…」


マークスがそこまで言った時、ローザリアは微かに首を横に振った。

驚いたマークスが視線だけをローザリアに向けると、閉じた扇子を口元に沿えて密やかな答えが返って来た。


「間違いなくブルーノ殿下は婚約破棄を宣言します。どうかそれはそのままで。

国王陛下がご不在の今が私にとっても好都合なのです。私は婚約破棄宣言を受けてすぐに会場を後にし、裏門の外で待つエーヴェル王国の元女伯と共にこの国を出ます。ルーファスと伯父様には、私が傷心の為に亡くなったと発表してもらう予定です。醜聞が付き纏い傷物になった私は、もうこの国に居場所は無いのです。どうか身勝手をお許し下さい」


その言葉にマークスの胸が高鳴った。

手が届かない相手だと諦めていた。この女性と沿えないのであれば生涯独身を通すつもりでいたしまたそれが許される立場だった。それでもなお、喉から手が出るほどに焦がれて止まなかった女性が自由になろうとしている。

兄の国王に警戒されながら、これからも息を潜めるように生きて行かなければならない立場なのだ。

それなら、身分を捨ててこの女性と生涯を共に出来たら…。


「ならば私も後を追う事をお許しいただけませんか」


マークスの熱を孕んだ真摯な瞳に射抜かれたローザリアは、思わず頬を染めて微笑んだ。

生涯口にする事は許されない感情だった。何度『この方が婚約者であれば』と思っただろう。

今日、王宮を去ればもう会う事が出来ないと思っていたこの方に、思いがけず最後にこうしてエスコートされたことは生涯の思い出として墓場まで持っていくつもりだった。


口元に笑みを浮かべて微かに頷いたローザリアに、マークスは囁いた。


「必ず貴方の元へ」


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