星にしたい
新一筆は物心がついた頃から物語を考えるのが好きな少年で、小学校に上がる頃には原稿用紙に物語を書くようになり、夢はアニメ監督になる事だった。よくアニメ化される小説のカバーに記された原作者の経歴には、思い付きで出した作品が一度の応募で入選した……などとあるが、それはやはり本人に才能があるからなんだろう。一筆には文学の才能など無く、安直な民話みたいなファンタジーもどきな作品しか書けない。(また落選だった!)半年前応募した長編ファンタジーは結構自信作だったのだが、この日郵便受けを見てみると応募先の出版社から落選の通知が届いていたのだ。既に一筆は社会人としてサラリーマン業を務めているが、稼ぎが云々ではなく夢のアニメ監督になりたいのだ。監督を目指すなら、まずは作品を応募しないと始まらない。(受賞、デビューして自分の物語をファンタジーの星にしたい)そう思い、数十年。同じ事ばかりを繰り返していて、全く人生が変わらない。加えてもう一つ、一筆にとって生きづらい事が壁となっているのだ。『手書き不可』『手書き不可』『手書き不可』……文学投稿の雑誌にはどの公募にもそのルールが並んでいる。(昭和生まれの僕には、ウェブなんて使いこなせない……)諦めるしかないのか?
「父さん、また落選だって?父さんの小説、スゲー良いのに……みる目無いわ、今どきの編集者は」見た目チャラ男だが、中身誠実のカフェ店員バイトの息子が一筆の作品について語り出した。二人肩を並べ、ラーメン屋のカウンターでチャーシュー麺と餃子を味合う。「でもまあ、話は安直だし先読み出来るものばかりだし……」「いやぁ!時代一周して、新しいって!もしかしてさ、手書きやめてウェブ投稿にした方が良くね?」毛先を赤く染めたチャラ男息子が意見する。「ウェブ……そういうの苦手で……」「簡単に出来るっしょ!教えるから、やってみ!」息子は一筆がスマホを出すよう促し、小説のウェブ投稿の説明を分かりやすくしていく。「まず、小説のサイト開いて幾つか在るから、そっからイケそうな奴選ぶっしょ?そんで、名前、メアドとか登録して……」なんやかんやチャラ男息子から指導を受けて、一筆は今にしてウェブデビューを果たした。あれから二週間、まずまずウェブ投稿をこなせるようになった一筆。だが、新な課題が生まれていた。(簡単に投稿出来るのは良いんだが、秒で他の方の作品が次から次に上げられて僕の作品が埋まっていく……)『父さん、執筆楽しんでる?』チャラ男息子からチャラくないメールが届いた。『思い通り作品は遠い星になっていくよ』(だけど……いつか真の星にさせてみせるよ!)一筆の瞳が星の様にキラリと輝いた。