ドラゴン、サロンクオリティを求める
魔法使いは、いたずら妖精ピクシーに騙され迷い込んだ不気味な森の深部でドラゴンに出会った。鱗が重なり合う巨大な体はまるで動く山岳のようで、鋭く光る牙は月の光を妖しくゆらゆらと反射させている。
ドラゴンは自爪を育てているのだという。
ネイルケアである。
狩りや戦闘によって、爪の割れや欠けが酷くて困っているのだ。ネイルオイルで保湿し、爪保護剤でコーティングを施し自爪の補修を促進させている。
「人間の魔法使いよ。生きて帰りたくば、魔術でネイルオイルとネイルハードナーを大量に作っておいていけ。さすれば、無傷のままお前を解放しよう。」とドラゴン。
なるほど、その巨躯では爪も一枚だとて相当な面積だ。市販の既製品ではとても足りまい。
「下手なものを作るでないぞ。サロンクオリティを目指せ。」口から熱気を吐き出しながらそう付け加えた。
ネイルオイル、ネイルハードナーなどというものを作るのは初めてだったが、技術と知識を総動員して2種それぞれ5樽、計10樽分を生成した。素材収集含めおよそ17時間の大仕事だった。
「素晴らしいぞ、人間よ。質の良さが一瞥しただけでわかる。其方は相当に優秀な魔術師のようだな。」
「ありがとうございます。では、私はこれで。」とそそくさと立ち去ろうとすると、引き止められた。
「あ、ちょっと待って。アレルギーのパッチテストするからまだ居て。」
作りきる前に言ってくれよ、横でずっと見てたじゃん!と魔法使いは思った。