第2話 生き残ってしまった男
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独立歴198年 ヤマト連邦軍練習船「ヤタ」
練習船「ヤタ」艦長の桜井良子少佐は船外活動中のロボットたちをモニターで見ていた。
「艦長、命令いただいた宙域に探査ロボットたちを展開させました」副長の安田瑞枝大尉は言った。
「うむ、ご苦労」桜井艦長は満足そうに言った。
「しかし艦長、航路からも外れたこんなところになんでわざわざ来たのですか」安田副長が尋ねた。
「うむ、良い質問だ。理由の一つめは我々は軍隊であるから航路以外の場所も進めるように訓練するためだ」「はい、確かに」安田副長は頷いた。
「二つ目についてだが、もうすぐ独立200年祭が行われる」
「はい」
「その200年祭に合わせて、軍としても多くの展示物が必要となる。しかしながら、主だった物品はすべて国立歴史博物館が所蔵しており、軍が管轄している軍事博物館にはほとんど所蔵品がない」桜井艦長は言葉を続けた。
「よって我々は新規に新たな所蔵品を回収することを軍より命令されている」
「ええ、そのために過去に戦場だったところをあちこち訓練航海で回りましたからね」
「だが我々はめぼしい成果を全く得られていない。サイパン宙域で多少の成果があっただけだ」「遺体の一部と屑鉄ばかりですがね。遺体は展示するわけにはいきませんし」
「よって我々はあまり注目を浴びていない神風特別攻撃隊をターゲットに選ぼうと思う」
「ああ、裏切り者によって全滅した部隊ですよね。でもそれも主だったものは回収済みだったはずですが」
「確かにそうなのだが、妹からこの宙域にもしかしたら何か流れ着いているかもしれないといわれてね。妹は軍事博物館に勤めている歴史学者なのだが、相談したところいろいろ調べてくれたんだ。戦場の状況や当時の恒星風の流れなどからこの辺りには何か流れ着いている可能性が高いそうだ」
「何か見つかるといいですね」
「もう3日も探させているが何もないからな。今日一日探してなければ諦めよう」
「訓練航海に支障が出たら本末転倒ですからね」
「探索ロボットより入電、不明物発見、不明物発見」
「直ちに飛行艇を発進させて不明物を回収して本艦に帰投せよ」「了解」
「なんか見つけたな、副長」
「ただ艦長、不明物と言っているので、単なるスペースデブリかもしれません」
「そうかもしれないな。とりあえず確認してみよう」
探索ロボットが見つけてきたのは全長20メートル近くある長い葉巻上の物体だった。
「整備長、こりゃなんだ」
「艦長、この物体古い船の部品をかき集めて作っているみたいですね」
「整備長、軽微な放射能反応あります。全員防護服を着用してください」
「了解、全員防護服着用!」
「ハッチ開けました。なかに冷凍睡眠装置があります。あ、その中に人がいます」
「直ちに救出し、医療ルームに送れ」
「整備長、ただちに医療ルームへ送ります」
「人が見つかるということは独立戦争の物ではないな」
「ええ、冷凍睡眠装置ではかなり良いものじゃないと200年は難しいですからね」
「とりあえず蘇生させろ。船はそのまま凍結処理。放射線が漏れないようにしろ」
「艦長、了解しました。医療班へ連絡しろ」
「了解しました」
「しかし一体なんなんだ。放射能の反応まであるなんて」
「艦長、おそらく「逃亡者」というやつなのでは」
この時代、自然出生率は大幅に低下しており、そのため、人工子宮によって人間を生産しているが、人工子宮で生産できるのは女性のみとなっていた。
男性を生産しようと人工子宮の改良に努力するもうまくいかず、実験でも卵子が途中でダメになってしまうケースばかりで、コストが大幅にかかるので研究をやめてしまった。
そのため、女性のみを人工子宮で生産しており、社会の大部分は女性の手によって運営されるようになっていた。
数少ない自然出生による男性は大切に育てられ、保護されている。婚約者も用意され、一生働く必要もない。しかし中にはその状態に反発し、家族から逃げ出して、ボート程度の船で宇宙に飛び出し、行方不明になるものもいた。
そういう危険な行為、無謀な行為を好んで行うものを「逃亡者」と呼んでいた。
「逃亡者か。おそらくそうなのだろうな」
「きっと廃棄寸前の船を改造して宇宙に出たのはいいが、道に迷ったか、船が故障したかでどうしようもなくなり冷凍睡眠装置を発動させて漂流していたのでしょう」
「迷惑な話だ。まあ、男だからどこか名家の出身かもしれない。そのまま宇宙に放り出すわけにもいかんしな」
「とりあえず覚醒したら、状況を確認して家に帰す手続きを行います。そのあいだ遊ばしておくわけにはいきませんので、訓練兵と一緒に訓練を受けてもらおうと思います」
「ああ、少し教育をしておいたほうがいいな。二度と逃げ出さないように、厳しくしつけてくれ。働かずに妻たちに可愛がってもらって、いったい何が不満なのだ」
ふと、自分の夫のことを思い出した。彼は妹がしっかり管理しているからこんな無謀なことはしないよな、しばらく会っていないが元気だろうか、帰ったら遊んでやらなくてはいけないな、そう艦長は思った。
船内病室内
ぼんやりとした明かりの中、私はゆっくり目を覚ました。頭がはっきりとしない。ここはどこだ。私は何でここにいるのか。
私ははっと思い出した。母艦が襲撃され、桜花で出撃したが、艦が全く操縦できず自爆装置を使ったことを。なぜ生きているのだ。なぜ死ねなかった。生きている自分にほっとするとともに、家族に迷惑をかけるのではないかと恐怖した。
今の状況は、敵の地球共和国軍の捕虜になったのか、ヤマト独立軍に回収されたかどちらかだろう。そのうちドアが開き白衣を来た女性が入ってきた。
「目をさましましたか?お加減はどうですか?」
「はあ、なんとか」
「それはよかった。もうしばらくしたら本艦の副長が参りますので、それまで休んでいてください。いろいろ確認したいことがあるそうです」
「あのすみません。ここはどこなのでしょうか」
「ここはヤマト連邦軍所属の訓練艦ヤタという船で私は医療班長の大場少尉です。」
この船はヤマトの船らしい。ヤマト連邦と言っているが、おそらく独立に成功したのだろう。喜ばしいことだが、私にとってまずい状態だ。このままでは間違いなく軍法会議にかけられ、抗命罪で重罰になる。私もただでは済まないが、家族に迷惑が掛かってしまう。なんとか逃げ出せないだろうか。といっても冷凍睡眠から起きたばかりで体がうまく動かない。
どうにもこうにもならないな。もうなるようになれと、やけくそな気持ちになった。
「今日はいつだかわかりますか?」大場少尉は言った。
「すみません。分かりません」私は言った。
「今は198年2月26日です。あなたは冷凍睡眠装置で寝たのはいつですか」
宇宙進出暦198年だって!もう100年以上たっているのか。でも、あの冷凍睡眠装置はそうは持たないはずなのだが。
「すみません。自分の名前は憶えていますか。もし覚えていたらなんという名前が教えてください」大場少尉はいった。
えっ、軍服や軍用手帳は見ていないのか。もしかして私が軍人だとはわかっていないのか。いやそんなはずはない。もしかして試しているのか。
「私の名前は九頭一史です」
「なにを言っているのです?そんな裏切り者の名前をかたるなんて」
「裏切り者?」
「ええ、自分たちが生き残るために神風特別攻撃隊の情報を売った裏切り者、牟田練雄、九頭一史は歴史の教科書にも出てくる極悪人です。そんなことも覚えていないのですか」
なんでそんなことになっているのだ。味方の情報を売って生き残ろうとしたなんて。そんなことはしていない。どうしてそうなった。
「九頭一史の家族はどうなったのですか?」
「さあ、わからないです。私歴史には詳しくないので。ところでどうしてそんなに九頭一史にこだわるのですか」
「………」私は何も答えられなかった。
「九頭一史は200年近く前の人ですよ。かわいそうに。冷凍睡眠の機械が古かったせいで、記憶が混乱しているのですね」
200年!100年前じゃないのか!
「宇宙開発暦198年ですよね?」思わず聞いてしまった。
「いいえ、独立暦198年です。そんなことも忘れてしまったのですか」
私はあまりのことに言葉が出なかった。
「本当に何も思い出せないのですか?わかりました。あなたはここでそのまま休んでいてください」大場少尉は急いで部屋から出て行った。
するとまもなく、大場少尉は一人の女性をつれて入ってきた。
「はじめまして、私は当艦で副長を務めている安田大尉だ。大場少尉から重度の記憶障害と聞いたが、本当か」
「はい、どうもそのようです」本当に何が何だかわからない。
「おそらく冷凍睡眠の後遺症によるものでしょう。整備班から聞いたところ、恐ろしく古い船で使用していた装置を使っていると聞きましたから」大場少尉は言った。
「それは困ったな。名前も覚えていないのか。とりあえず特徴から当たって、行方不明者リストに当たってみるか。すぐにでてくればいいが」
「あの、私はどうなるのでしょうか」安田大尉に聞いた。
「とりあえず、本艦は首都星であるシンキョウトに向かう。そこから家族が分かればそこから送り返すことになる。シンキョウトにつくまで君を遊ばしておくわけにはいかないので訓練兵並みとして本艦で働いてもらうことになる」
シンキョウトは私の故郷だし、そこで降ろしてもらえれば御の字だ。
それに兵士として働いていれば、いろいろな情報も手に入るし、今の状況もわかる。
「了解しました。そのようにお願いします」
安田大尉はちょっと驚いて、そのあとにやっと笑って「男なのに兵としての訓練を受けることに抵抗はないのか。とてもきついが耐えられるかな」
言っていることがよくわからない。男だと訓練がきついのか?一体どういう訓練なのだ。
「ええっと、男だと訓練が厳しいのですか?」
「何を言っている。そんなことも忘れたのか。男は数が少なく貴重だからな。兵士になる男は存在しないだろ。それに温室育ちの男に厳しい訓練は耐えられないだろ」
つまり男のほとんどいない時代?
「大場少尉、彼の体の具合はどうか。」
「身体に異常はなく、健康体です。訓練に問題なしと判断します」
「それでは明日から訓練兵として当艦で働いてもらう。大場少尉、彼に軍服の用意を頼む。」
「了解しました。経理部に連絡しておきます。」
「とりあえず名前を仮に付けておくか。今日からヤタと名乗れ」
「了解しました。副長殿」思わず敬礼をして答えた。
「ん?ずいぶん古い言い回しだな。敬礼はすごく様になっているが」
いけない。思わず出てしまった。とりあえず現在の状況と、どうして私が裏切り者扱いされているのか、家族はどうなっているのか、いろいろと情報を集めなくては。
「すみません。なんとなく出てしまって。軍のことはよくわからなくて」
「ああ、ホログラム・ムービーで見たのを体が覚えていたのか」
「そうだと思います」ホログラム・ムービーってなんだ?映画の一種か?
「それでは今日はゆっくり休め。明日からは地獄の始まりだ」
そういって二人は出て行った。
地獄か。航宙士学校に入ってとき以来だな。あの時ほど厳しい訓練なのかな。あの時は訓練、訓練で過ごしたが、今度はどうなのか。とにかく、訓練の合間に情報を収集して、状況把握に努めよう。そして、なぜ私が裏切り者なのか、家族の消息はどうなったのかを調べよう。そう思いながらいつのまにか眠りについた。
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