第16話 外国との接触及び戦争
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男の子たちの基礎訓練が終了した。皆、駆け出しパイロットとして伍長に昇進した。同時にクリスの女の子たちも全員を伍長にした。
さらに私も大尉から大佐に、アイ、マイ、ミィは少佐、ユウ、ユアとエリーは大尉とした。
バウンディ星系の開発は順調に進んでいる。鉱産物、農業生産物とも、余剰生産が増えており、外の世界に輸出していた。
人口も増え、600人以上の住民がこの国に住むようになった。
現在、我が国にとって一番の問題は国土防衛のための軍備が不足していることだ。
大型輸送船のみずほ、旧式の戦艦ヨーデルと、宙族たちが乗っていた輸送船を改造した戦闘艦、名前をあまかぜとした、と少年たちの乗ってきた船を改造した小型駆逐艦マーシャル号、戦闘機はヤマトの戦闘機が2機とコロニーにあった民間の小型船を改造した戦闘機が10機ほど。とりあえずサルガッソーの防壁があるのでこれでも独立を保てるが、正式な戦闘艦はなかなか手に入らない。
とりあえずバウンディ星系は大変豊かで、密貿易により資金的には潤沢であるので、物さえ手に入ればある程度何とかなるのだが。
「旦那はん、いつもごひいきにしてもろうとります」20代後半ぐらいのちゃきちゃきとした女性から声をかけられた。
「こちらこそいつもすまないな」
「いえいえ、わても商売よって、なんでもいうてください」
ここはグンカンコロニーの部品を材料に、新規に生命維持区画を足してサルガッソーの出入り口のほど近くに作ったデジマコロニーだ。
外部の人間をサルガッソーの中に入れるわけにいかないため、外との貿易はすべてデジマコロニーで行っている。
彼女の名はアキ、惑星オオサカからはるばる商機を求めてやってきた冒険商人だ。
彼女たちは商売のために危険な場所や未知の宙域に進出して商売をする。当然命の危険も高い。しかし、当たれば一代で大商人になる道が開ける。
駆け出しの野心がある商人たちは冒険商人として宇宙をまたにかけて商売をしている。
彼女と知り合うまでいちいちミズホに積んで密貿易が可能なコロニーまで運んでいたが、今は彼女を通して商売をしている。
いま、私は武器の購入と少年兵たちの訓練を兼ねてみずほ、ヨーデルの二隻と少年兵10名をつれてデジマに来ている。
今回、私にはミィとエリー、ユウ、ユアが同行している。
ミィは交渉要員、エリーはヨーデルの艦長、ユウとユアは少年兵たちの訓練教導のためである。
「旦那はんの欲しがっている武器なんやけどやっぱ管理がうるそうて、戦闘艦を手に入れるのは無理そうや」
「そうか、何とか努力してくれ」
「うーん、努力してみますけんど、期待せんといてな」
「アキさん、物品の売買について、この値段でよろしいですよね」
「ちょいまち、ミィはんそりゃないで。はるばるここまで運んできたんさかい、もうちょい色付けてーな」
「なにを言っているんですか。これでも相場より相当上乗せしているのですよ。本当はもっと安くしてほしいぐらいです」ミィは端末から市場価格を示した。
「ミィはんにはかなわんなー。しかたない。それで手打ちまひょ」
「ところで旦那はん、このあたりの宙域の領有は宣言されたんかい?」
「ああ、この前アキさんに忠告されて、とりあえず近隣の国家やメディアに通知したのだが、どこからも返信はなかったよ」
「そうでっしゃろ。まあ、まともに取り合わんとはお思っとったけど。でもな、宇宙公法ではな、領有を宣言して一定の間反応がなければそれは領有を認めたことになるさかい、これでこのあたりの宙域は旦那はんの物でっせ」
「コロニー作って商売するならその周辺は支配しとかないと安全が保たれない。それだと商人が集まらないとアキさんがいったからな」
「商人にとって安全に商売できるのは重要なんでっせ。なんせ、戦争に巻き込まれたら全部おしゃかさかいに」
商売の交渉も終わり、さて訓練を行おうかというところで、突然携帯端末に連絡が入った。「近接宙域にて戦闘有。近接宙域にて戦闘有」
「総員戦闘準備、航空兵は戦闘艇に搭乗し待機。アキさんたちも早く逃げる用意して」
「わてらはしばらく様子見しますわ。この辺りはクリスとイムがようドンパチやるさかい、今下手に飛び出すと巻き沿いや」
「了解した。気をつけてください」
「旦那はんもな。上客に死なれたら商売あがったりや」
われわれは戦艦ヨーデルと戦闘艇13隻で戦闘宙域に向かった。私も改造戦闘艇にのって、現地に向かった。
そこではクリスの戦艦1隻がイムの戦艦3隻に追われていた。すでにクリスの戦艦は何発か着弾しており、かなり被害を受けていた。
「九頭総司令、救助の許可を」エリーから連絡があった。
ここでイムと交戦したら完全に敵対行為となる。クリスもどう出るかわからない状態で首を突っ込むのはまずい。戦力上の問題もある。
しかし、通信機に映るエリーの顔は必死だった。
愛する妻の頼みだ、また我が軍のほとんどは元クリス人だ。見殺しするのは下策である。
ちょっとした作戦を立てた。
「現在戦闘行為を行っている艦艇に告げる。当該地域はミズホ王国の領有宙域である。直ちに戦闘行為をやめ、停船せよ。停船しない場合、攻撃を実施する」
イムの戦艦はこちらの通信を無視し、クリスの戦艦に攻撃を続けている。
自身の領土内で他国が戦闘を行っている場合、領域からの撤退を求めることは宇宙航法上、当然の行為であり、これに従わない場合、攻撃をしても問題ないことになっている。
この呼びかけを行うことで、我々は戦闘態勢に入る権利を得たわけである。
私の乗っている戦闘艇に搭載している対艦反応弾を発射、直ちに反転逃走した。
対艦反応弾は当たれば通常戦艦を戦闘不能にできる大型ミサイルである。当然戦闘艇に積み込める代物ではない。
そのため、民間船でもかなり頑丈な船を改造し、一発だけ積めるようにした。
速度も出ないし、まともな武装もほとんど積んでいない1発屋のような戦闘艇である。さらにかなりの操縦レベルがないとまともに発射もできないと、とても実戦には使えない代物だった。
趣味で作って(あとでアイにだいぶ怒られた)、今回練習のつもりで持ってきたのだが、思わぬところで役に立った。
対艦反応弾は油断しているイムの戦艦に命中、戦艦は大破した。
残り二隻がこちらに回頭し、攻撃態勢を整えたところで、もう一隻が後ろからの攻撃を受け大破した。
敵の反対側に回り込み、ステルス状態にいたヨーデルと戦闘艇たちである。
一気に攻撃を仕掛け一隻を破壊した。
残り一隻は艦を停止、降伏する旨通信があった。
クリスの戦艦はしばらく逃走していたが、行動を停止した。
「こちらクリス連邦軍戦艦フランク、艦長のマーガレット・サードナイト大尉である。貴公は何者であるか」
「我々はミズホ王国軍である。戦闘態勢を解除せよ。さもなければ攻撃する」
「了解した。武装を凍結する。名誉ある待遇を要求する」
「了解した。基地に連行する。反抗すれば撃破する」
「了解した」
イムの戦艦とクリスの戦艦をけん引して、デジマに到着、イムの兵士は捕虜として連行した。
戦艦フランクは満身創痍というのが正しい状態で、搭乗員のうち生存者は29名、うち12名が重傷という状態であった。
重傷者は直ちに医療ポットに収容、のこりはほぼ全員が軽傷者であったため、治療施設に収容した。
そのあと戦艦フランクの艦長が合いたいと言ってきた。
ユウとユアに事前に指示し、少年兵とともにこっそり待機させた。
「治療に感謝する。私はマーガレット・サードナイト大尉である」17・8歳ぐらいの金髪碧眼の少女が言った。
「わ、超名門のお嬢様じゃないですか」エリーがこそっと言った。
「私は九頭一史大佐、ミズホ王国総統及び軍総司令を務めている」
「私は九頭エリー大尉、戦艦ヨーデルの艦長をしています」
「君はクリス人か。ヨーデルとはクリスの戦艦の名だったはずだが」
「エリー大尉は私の妻だ。サルガッソーで遭難しているところを助け、わが国の国民となった」
「まわりをみればクリス人が多いな。年齢を見ると訓練兵か。おそらく訓練航海中に遭難したというところか」
「そうですが」エリーはいぶかしげに答えた。
「エリー、クリス軍での階級は何か」
「少尉です」
「ならばエリー少尉に命ずる。直ちに指揮下の兵を集め、我とともにクリスに帰還する。脱走の罪については不問にするよう上層部に上伸してやる」
「何か勘違いをしているようだが」私は遮るように言った。
「貴公は現在ミズホ国に拘禁されている捕虜である。その理由は領宙侵犯及び無許可での武闘行為である」何か言おうとするサードナイト大尉にかぶせていった。
「さらに貴国とわが国では国交もなく、捕虜に対する協定も存在しない。よってすぐの帰国は認められない。しばらくミズホに抑留する」
「なんだと!私を誰だと思っている!」サードナイト大尉は激昂して、つかみかかろうとした。
「逮捕しろ」私が言うとユウとユア、少年兵たちがサードナイト大尉に銃を突きつけた。
「こんなことをしてただで済むと思うのか!」
「ミィとユウ、ユアで身体検査をして、ミズホの監獄に入れておけ」
「くそ!絶対にこのお返しはしてやるからな!」
サードナイト大尉は連行されていった。
イム軍捕虜の苦悩
私、アブラハム・バットゥータ少佐は苦悩していた。偵察任務中、クリスの戦艦と遭遇した。相手が1隻でこちらが3隻、圧倒的に有利と判断し攻撃を仕掛けたら、いきなり第三勢力が出てきて、あっという間に2隻が撃沈された。
もう少し降伏するのが遅かったら間違いなく撃沈されていただろう。
捕虜になった後、部下たちは雑居房に入れられ、私は独房に入れられた。
イム教の教えに基づき4人の妻をめとり、敬虔なイム教徒として、また貴族の一員として生きてきたが、今死ぬのは嫌だった。
愛するわが子達にもう3年も会っていない。なぜなら私は権力闘争に敗れ、辺境に飛ばされたのだ。
ひたすら地道に務め、信用回復につとめた。その甲斐あって、もうすぐ休暇がもらえ、3年ぶりに家族に会いに家に帰れるところだった。
それが、少し欲を出したばかりに捕虜になるなんて。それも聞いたこともない国を名乗る組織につかまることになってしまった。
このままだと良くて奴隷、悪くすれば処刑が待っている。
万が一国に帰れても戦艦を失った罪で処罰は免れない。何とかしなくてはならない、そう考えると胃が痛んだ。
しばらくして青年と、クリス人らしい女性と何人かの少年たちが入ってきた。
みたところクリス人以外は大華人かヤマト人のようだ。
「私はミズホ王国総統及び軍司令を務めている九頭一史大佐だ」
「私はイム帝国アブラハム・バットゥータ少佐です」
「君らは我が国に無許可で侵入し、武力による破壊行為を行った。これは犯罪である」青年は言った。
「失礼だが、ヤマト人ですか?」生き残るためにはまず情報だ。
「元ヤマト人だが、今はミズホという国を作り、そこの国民となっている」
ヤマト人か、それならあの情報が役に立つかもしれない。藁にも縋るつもりで話しかけた。「実はある情報がありまして。ヤマト人の少年たちが我が国に保護されている件です」
「ほう、興味深い話だな」青年は言った。しかし、周りの少年たちは目に見えて動揺している。ここは一気に畳みかけてみよう。言葉を選びながら伝えた。
「我が国に8人のヤマトの少年たちが保護されているのです。どうも地球連合を目指していたようなのですが、誤って我が国の辺境に入り込んでしまったようです」
「わかった。何が言いたい」
「我々とその少年たち、あと必要ならクリス人の捕虜をつけるので我々と捕虜交換をしてほしい」
「クリス人捕虜をつけてもらえるのですか?」
クリス人がいった。
「ええ、大丈夫ですよ」
正直クリス人捕虜は持て余し気味だ。名門出であれば身代金なりイム人捕虜と交換に利用できるが、人工子宮から生まれた連中は一山いくらだ。大昔はイム教に改宗させて、イム人の妻にしたが今の時代、女性は余り気味だ。それにできれば妻にするならイム人がいい。なので、労働力として重労働や危険な作業をさせて使いつぶしている。本当はそれらの仕事も機械やアンドロイドを使ったほうがはるかに効率がいいのだが。
「それでもう一つ相談ですが」これからはイムに帰ってから生き残るための作戦だ。
「貴国はイム帝国と国交を結ぶことはお考えでしょうか」
「それはあなたが仲介してくれるということか?」
「実際はイム帝国のターキッシュ藩国との外交及び通商の条約となりますが、貴国さえよければ仲介いたしますよ」
アブラハム・バットゥータは答えを待った。まるで判決を待つ重罪人のように。
「よろしく頼む」青年は言った。
勝ったと思った。
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